オーバーロード ~経済戦争ルート~   作:日ノ川

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やっと12巻を手に入れ読み終わりました
今回も面白かったー
と言うわけで特に矛盾箇所は無かったと思いますので投稿します



第8話 精査の結果

 アインズの執務室にアルベド、セバス、ソリュシャンの三人が集まっていた。

 

「アインズ様、商品のアイデアの件。精査が完了致しましたのでお持ちしました」

 

「うむ。流石に仕事が早いな」

 メイドたちが全員提出したと考えても五十近い数のアイデアが集まったはずだが、期日後一日を置かずして三人はアインズの元を訪れた。

 正直に言ってこの訪問は歓迎すべきものだった。

 

 ここ数日アインズは、現在使用する者がおらず空になっているセバスたちが借りていた館に籠もり、パンドラズ・アクターにモモンの姿を取らせ、細かな演技指導を行っていた。

 

 実際のところパンドラズ・アクターの演技は完璧であり──少し動きがオーバーなところは気になるが許容範囲内だ──常日頃からモモンと接しているナーベラルを以ってしても完璧と太鼓判を押す出来だった。

 しかし、問題なのは素に戻った時だ。

 

 あの口調と大げさで格好付けた動きは敬礼とドイツ語を封じてなお、アインズの精神に多大な損傷を与えられるだけのものだった。

 

 そんな時にアルベドから<伝言(メッセージ)>にて連絡が入り、渡りに船とばかりにアインズはその場から離脱した。

 

 ナーベラルにはその場に待機し、パンドラズ・アクターと親交を深めるように言っておいたが、去り際の一瞬、ナーベラルがアインズに縋るような目をしていたことが印象深い。

 やはりあいつの性格は同じドッペルゲンガーでもキツいのだなと認識出来た。

 

「いくつか話にもならない愚案がありましたが、それ以外は概ね良いアイデアが多く手直しも少なく済みましたので」

 

「ほう。ちなみにその愚案とやらはどんなアイデアだったのだ?」

 何となくイヤな予感がしてアインズは冷静を装いながら訊ねる。

 アルベドの柳眉が歪み、それに合わせるようにセバスとソリュシャンも苦い顔をした。

 

「とてもアインズ様にお聞かせ出来るものでは。後ほど誰が書いたものか調べ、その者には然るべき処置を行うつもりです」

 

「そ、それには及ばん。それではわざわざ私が無記名と言った意味がない。恐らくその者とて悪気があったわけではないだろう。必死に考えた結果であるならば私は咎めない。さ、そのアイデアを先ずは聞かせてくれ」

 

「……はい。口に出すのもはばかられるのですが、アインズ様が仰るのでしたら。アインズ・ウール・ゴウンの紋章をデザインした服を製作しそれを売るのはどうか。もう一つはアンデッドの顔を忠実に再現しお面として子供向けに売り出すのはどうか。というものです」

 見事に二つともアインズのアイデアであった。

 

 しかし、アインズとしてはどこが悪いのか分からない。

 これら二つに求めているのは要するに親しみやすさだ。

 

 紋章の方は単にデザインとして優れていると思っているし、それを売り出すことでいつかアインズ・ウール・ゴウンが表舞台に出る際に人間たちにとけ込みやすくするためだ。

 仮にプレイヤーに見つかったとしても、単に正当な商売をしているだけなら友好的に話を進められるだろう。

 アンデッドのお面に関しては大してお金が掛からない上、アンデッド=生者を憎む人類の敵という認識を子供のうちから外して貰いたい思いが込められている。

 

「ふむ。確かに愚かしいアイデアではあるが、セバス。お前はどこが問題だと考える?」

 敢えてアルベドではなくセバスに問うことで、お前を試しているんだぞ。というアピールをし、アインズは問いかけた。

 

「紋章の方は言うまでもありません。栄えあるアインズ・ウール・ゴウンの紋章を人間が正しく管理出来るとは思えません。生活の中で汚すことも、洗濯の際に色落ちさせることも、中には破損させる者とているでしょう。我々の管理が出来ないところで、紋章を汚されることなど以ての外と考えます」

 

「うむ。確かにその通りだ。もう一つはどうだ?」

 そこまで神経質になることなの? と言いたい気持ちを抑え、アインズは正解だとばかりに頷き、次のアイデアに移る。

 

「こちらは正直に申しますと、ただただ子供騙しかと」

 

「ぐっ。そ、そうだな。子供騙しだ。しかしそのアイデアはともかくとして子供を相手に商売をするというのはそう悪いことではないと思うぞ」

 

「確かに。ですがこれを商品として出してはナザリックの品位に関わりましょう」

 

「その通りだセバス。それにしてもどちらも着眼点は悪くないが今一歩詰めが甘いと言ったところだな」

 自分を慰めるために口にした言葉だったが、アルベドが直ぐにそれを切り飛ばす。

 

「アインズ様。この様な愚劣な発想に情けをかける必要などないかと。恐れながら、それではアイデアを提案した者の成長には繋がらないのではと愚考いたします」

 

「私もそれに賛成です。誰のアイデアであるか調べない代わりに、ナザリック全体に配布することで二度とこのような下等な発想に至らぬように発奮させるべきかと」

 アルベドに賛同を示したソリュシャンの提案にアインズは心中であわあわしながらも表面を取り繕い首を振る。

 

「その必要はあるまい。こうした成長は自分で気づくことが大切だ。アイデアが採用されなかった時点で察する事が出来ず再び同じような失態を犯したときに考えるとしよう。さて、この件は終わりだ。お前たちが精査したアイデアを聞こう」

 パチンと指を鳴らし、話を切り替える。

 三人同時に頭を下げ同意した。

 

「今回特に守護者の面々から良いアイデアが出ました。これもすべて彼らの成長を促したアインズ様の手腕によるものかと」

 

「私は何もしていない。成長したのは本人の資質と努力だ。ぶ……配下の手柄を奪うつもりはない」

 部下と言いかけて慌てて言い直す。

 

 しかし守護者の面々から良いアイデアが出たと聞くと喜ばしい。

 今回はアルベドを初め、デミウルゴス、そしてガルガンチュアとヴィクティムも除外している。

 となると残る守護者はシャルティア、コキュートス、アウラにマーレ。

 

 皆頭脳労働には向かない者たちだ。

 その彼らから良いアイデアが出たというのだから立派に成長していると見るべきだろう。

 

「では始めてくれ。順番は任せよう、今回は無記名だ。誰のアイデアからでもかまわん」

 本当なら守護者たちだけでもどんなアイデアを出したか知りたいところだが、それで先ほどのアインズのアイデアも調べるべきなどと言われては堪らない。

 推理しながら聞くことにしよう。

 

「では。先ずはこちらから」

 差し出された書類に目を通す。

 

「ふむ。なるほど本か、図書館の小説を複製し売りに出す。量産体制はアンデッドを使用する」

 なるほど。ともう一度口の中で呟き、アインズは思考する。

 本を売るというアイデアはアインズの中には無かった。モモンとして生活している中で、この世界の本を見聞きしているが十三英雄などを初めとしたこの世界を元とした英雄譚が多く見受けられたが図書館にあるような著作権の切れた古典小説の類は存在しなかった。

 

 かつていたらしいプレイヤーたちはそれらは伝えなかったのか、長い時の中で失われたのか、それは定かではないが、もともとリアルで広く受け入れられていた物語ならばこちらの世界でも売れるだろう。

 何より元手が殆ど掛からないのが素晴らしい。

 そう言おうとして、先にアルベドが口を開いた。

 

「ですがこちらのアイデアにはいくつか問題点があるかと」

 

「……確かに。私もそう思う」

 どこが? と聞きたい気持ちを抑えアインズは指先でテーブルを鳴らし思案しているようなポーズを作る。

 

「打開策は考えてあるのだろう?」

 アルベドが自らアイデアに訂正を加えても良いかと聞いてきたことを思い出して聞く。

 彼女は一礼した後、少しだけ困ったような顔をした。

 

「ですがそれには商会を運営していくに当たっての根幹をどちらにするか定める必要があるかと。それによりいくつかの方法があります」

 

「根幹か。ふむ、アルベドはどちらが良いかと思う?」

 話は分かっていますよ。という体でアインズがアルベドに問う。

 実際のところ彼女の言う根幹の意味がアインズには理解出来ていないため、話を進めながら考えていくしかない。

 

「どちらにもメリット、デメリットがございます。アインズ様のお好みに合わせて決定されるのが良いかと」

 

「う、うむ。では同じく商会を運営していくことになるセバス、ソリュシャンにも聞いておこう。どちらが良いと思うか? それを聞いた後私が決定を下そう」

 アルベドからの思いも寄らぬ返答にアインズは慌ててセバスとソリュシャンに問いかける。

 

「はっ! シグマ商会を単なるこの世界の商会とするか、それとも我々ナザリックと関係があることを示唆するのかという点でございますね」

 きっちり説明してくれたセバスによくやった。と内心で誉めたたえながらアインズは大きく頷く。

 

「そうだ。どちらにもメリットデメリットはあるが……因みにどのようなことが考えられる?」

 

「関係ないとした場合のメリットはこの世界にいると思われるプレイヤーから疑われる危険性が少ないこと。デメリットは完全にこの世界のものしか使用出来ないため、商品の幅が狭く、国の経済を握るまでに時間が掛かることでしょうか?」

 

「では関係があるとした場合は? ソリュシャン、答えよ」

 

「はい。その場合のメリットは様々なアイデアが使え、素早く国の経済を掌握出来ること。デメリットはプレイヤーに感づかれる可能性があることと、ナザリックの技術が僅かとはいえ人間たちに流出する危険性があることです」

 正解だと言うように頷きながらアインズはそこまで思い至らなかったことにショックを受けた。

 

 やはり商会運営という思いつきのアイデアではダメだったのではないか、しかしもはや止まるわけにはいかない。

 準備は進んでいる。

 止まることは出来ない以上、どちらかの答えを出すしかない。

 

「私としましては、将来的にアインズ様がこの世界に君臨することも踏まえまして極一部、つまりは大々的に関係を示唆するのではなく、王国内部の一部にだけ知らせておくのが良いかと」

 

(君臨って何だよ! いや、確かにいつまでも隠れてこそこそ生活するわけにはいかないし、いずれはアインズ・ウール・ゴウンの名を轟かせる必要はある。その為には今セバスが言ったように極一部に知らせておくアイデアは悪くないのでは?)

 

「失礼ながら、私は少なくともシャルティア様に害を成したという者を排除するまではこの世界の者として活動するべきかと。現在の王国では内密とはいかないでしょう。必ず裏切り外に情報を持ち出して利を得ようとする者が出てくる筈です」 

 ソリュシャンの言葉にも納得できる。

 未だシャルティアを洗脳した敵は姿を見せていない。ワールドアイテムを所持しているところを見るに相手はプレイヤーだろう。

 ただし、あれはもはや敵である。

 

 アインズは基本的にプレイヤーとは友好的な関係を築きたいと考えていた。

 そのために第六層で楽園計画というこの世界の者たちとも友好的に接していることを示す計画も発動させている。

 

 だが、シャルティアを。

 友が残した一人娘ともいえるシャルティアを操り、よりにもよってアインズに殺させた時点でもはや敵対は避けられない。

 

「いや。これ以上後手に回るのは避けたい。セバス、お前の意見に私は賛同しよう。つまりナザリックとの繋がりをはっきり見せるのではなく、商品から僅かに気配を感じ取れる程度に示す。シャルティアを狙った者たちは王国内を調べているはずだ。そうなれば網に引っかかるだろう。そこを狙う」

 

「畏まりました。では本のアイデアに関しては、現在の内から量産体制だけ確立させ、問題がないと確証が得られた後に販売するということでは如何でしょう?」

 

「そうだな。それまではこの世界の既製本を販売することにしよう。人件費が掛からない分利幅は良いだろう」

 この世界では著作権の問題はどうなっているのかも調べないといけないな。

 と考えながら次の書類を受け取る。

 アルベドたちに丸投げしつつも、それをバレないようにいくつかのアイデア精査が完了する。

 

 

「メイド達はやや似通った意見が多いようですね」

 

「種族が同じだから思考形態もそれなりに似てくるのかもしれんな。しかしだとしてもそれぞれに個性が感じられるのは嬉しいことだ。やはりと言うべきかメイドの技術を使用した商品が多いな。石鹸や洗剤を初めとした掃除用具に掃除や立ち居振る舞いの指南書、後は料理か」

 ホムンクルスである一般メイド達は種族ペナルティで食事量が増大している。

 そのためか食事に対しそれなりの思い入れがあるようだ。

 

「食材自体は外のものと大差ありませんが、それらを組み合わせて調味料や料理として売り出す。という意見ですね。これはソリュシャン、貴女としてはどうなの? 調査中に食べたものと比べて」

 

「はい。エ・ランテル、王都。どちらの料理もナザリックと比べて味は格段に落ちます。食材の差もあるでしょうが料理人の腕や、技術的な差があるのかと。特に調味料に関しては酷いものです」

 

「ではその調味料自体を売り出すこととしよう。料理をそのまま売るというのは難しいからな」

 <保存(プリザベイション)>の魔法はあるが、それでも長期間持つわけではないし、それをするならレストランを開いた方が良いだろう。今回はそこまで考えていないので、調味料や香辛料の組み合わせたものを売りに出すことで決定した。

 

「次はこちらです。ドラゴンや魔獣を使用した輸送便を出してはどうか。というものです」

 

「ほう」

 続けざまに出される意見に少々疲れていたのだが、その内容を聞きアインズは興味を示した。

 

 そしてそれが誰の発案であるかも直ぐに理解する。

 ビーストテイマーであるアウラだろう。

 

「なるほど、冒険者にも荷物運搬の護衛を依頼されることがある。強力な魔獣を運搬に使用するというのは信頼性も高くなるだろう」

 ハムスケ程度の魔獣ですら伝説の魔獣として畏れられるのならば、アウラがペットとして飼っている魔獣を使用すればこの世界では絶対的な安心感を得られるはず。

 高級な荷物の運搬などには喜ばれるだろう。

 

「しかし、ドラゴンは少し難しいか」

 こちらの世界でも伝説となっているドラゴンを輸送便にするとなればその宣伝効果は絶大だろうがこちらの世界のドラゴンについてはまだわかっていないことが多い。

 

 ユグドラシルでも強力な敵であったドラゴンは警戒に値する相手であり、仮にこの世界のドラゴンがとてつもなく強力でかつ仲間意識が高いなどということがあれば、仲間であるドラゴンを輸送便にしているということで敵対行動を取られるかも知れない。

 

 そのあたりまで考えて、先ずはドラゴン以外の魔獣を使用した輸送便を行うことで話は進む。

 

 他にもいくつかアイデアが出たが、中でもアインズがもっとも興味を引かれたのは、ドワーフの国と協定を結び、ドワーフ製の武器を販売するというものだった。

 

 アルベドは当然口にしないが、そのアイデアを出したのは間違いなくコキュートスだろう。

 

 何しろドワーフとのパイプ役はコキュートスが支配下に置いている蜥蜴人(リザードマン)の一人であり、かつてドワーフの国で世話になったことがあるのだという。

 加えてドワーフ製の武器はかなり貴重だが、帝国に少量ではあるが販売されていることから、完全に諸国と断交している訳ではない点。

 場合によってはドワーフ国から人を招きこちらで生産してもらう案まで記されていた。

 

 これをコキュートス一人で纏めたというのならば素晴らしいことであり驚異的な成長スピードであると言えるだろう。

 

「素晴らしい。このアイデアに関しては問題が無いな。直ぐに実行に移せるように人員を整えよ」

 

「畏まりました。本人も喜ぶでしょう」

 

「ああ、しかしこれは目玉になりうる商品ではあるが時間がかかる可能性が高いな。長期的に見てもナザリックの利になることは間違いない。急ぎ過ぎず確実に事を進めるように留意せよ」

 アルベドか恭しく頭を下げた後、僅かな間が空いた。

 次のアイデアが出てこない。

 

「これで全てか?」

 メイド達が重複していることもあり、実際に出てきたアイデアは二十そこそこといったところであり、アインズのものを除きほぼ全てが採用、あるいは保留扱いとなったが直ぐに売り出すことのできる目玉商品と呼べるものは無かった。

 

「いえ、最後に一つ。こちらです」

 差し出された書類に目を通し、アインズは極自然と感嘆の息を漏らしていた。

 

「ゴーレムの販売、貸し出しか」

 

「はい。セバスたちの調査でも判明したとおりゴーレムは人間たちにとって相当な高級品。一流に近い冒険者たちでさえ容易く購入する事は難しいと聞いています」

 

「うむ。確かに個人でゴーレムを所有しているという話は殆ど聞かない、よほどの豪商か大貴族くらいなものだ。それも大抵は門番扱いでしかない。もし仮にそれらが安価で提供した場合、労働力として使用されるだろう。現在国力が著しく落ちている王国にとっては喉から手が出るほど欲しい商品のはずだ」

 アインズも一度はアンデッドの労働力販売というアイデアを思いついたのだが、人間のアンデッドに対する嫌悪感を考えるととてもではないが受け入れられないだろうと却下した。

 そのため先ずは苦手意識を解いて貰おうと思ってのアイデアがあのお面だったのだが。

 

 しかしゴーレムならば問題ない。

 そもそもゴーレムは既にカルネ村に貸し出している。

 

 アンデッドと異なり細かな作業が苦手という点は問題だが、どの村や町でも欲しい存在に違いない。

 

「ですので村の人間たちでも借りられる程度の安い金額、あるいはゴーレムの働きによって出た余剰の作物などと引き替えにゴーレムを貸し出すというものです。加えて人間たちは楽な方向に流される傾向にあります。初めはゴーレムから貸し出し、やがてもっと細かな作業をさせるためにアンデッドが必要だと知れば、アンデッドも商品として並べることが可能になるかと。そのころには我々を信用し、アンデッドに対する嫌悪感も薄れているでしょう。そうなればもはや人間どもはナザリックに、いいえ。アインズ様に依存しなくては生きていけなくなる」

 

「素晴らしい。それこそ私の望む展開だ。良いアイデアを出してくれたものだ」

 アインズが一度無理だと思ったアンデッド貸し出しのアイデアにも活かせると聞き、アインズは一度手を叩き喜びを露わにする。

 アルベドが笑顔のままほんの僅かに目を細めているが気にせずにアインズは続ける。

 

「本来は無記名のため、発案者を問うつもりはなかったが、信賞必罰は世の常、このアイデアを出した者に褒美を出そうと思うが……誰のアイデアだ?」

 アインズの問いかけに、アルベドは直ぐには答えず間を空けた。

 不思議に思い改めて目を向けると、代わりにということなのかセバスが動いた。

 確かにアルベド本人に聞いたわけではないので問題はないのだが珍しい。

 

 と思っているとセバスの答えでその理由が判明する。

「シャルティアでございます」

 

「シャルティアが?」

 アルベドとシャルティアはそれぞれ何かにつけて言い合いをしている。

 本気で仲が悪いわけでは無さそうなので放って置いているが──喧嘩の内容もアインズを巡ってということもあり口が出しにくい──アインズが手放しでシャルティアのアイデアを褒めたことが気に入らないのかも知れない。

 

 アルベドは仕事に際し公私混同はしない気がしていたがよく考えてみると、シャルティアが出立前の挨拶に訪れた際も不自然に追い出そうとしていたし、割合子供っぽいところもあるのだろうか。

 

「そうか。ではセバス、この会議が終了後シャルティアをここに呼んでおけ」

 

「畏まりました」

 

「では次に行こう」

 話を切り上げる。

 

 決してこれ以上この話を広げることでアルベドの機嫌をこれ以上悪くするのを恐れたからではなく、あくまでまだ決めなくてはならないことが多数あるからだ。

 商会を開く場所、アインズが演じることになったシグマ商会のトップというアンダーカバーの設定内容、商品の量産体制の確立、売り子として配置予定の──

 

「そう言えばセバス、例の娼館の女たちはどうなった? 傷は癒えたのだろう?」

 

「はっ! 体の方は問題なく。ですが未だ精神が安定せず、現在はまだ普通に生活するには遠いかと。今のところ先に回復していたツアレ、最初に助け出した者ですが。彼女が皆を纏めているようです」

 

「ああ、例の女か。そう言えば私はまだ会っていないな。そのうち時間を作り顔を見ておくか。アレが纏め役になるというのなら話をしておく必要がある」

 どうもメイド達に話を聞くとその女はセバスに恋愛感情を抱いており、セバスの方も満更でもないとのこと。

 

 ただの人間であればどうなっても良いが、セバスの恋人ならば人間であってもある程度の便宜を図る必要がある。

 顔も知らないとそれが出来ないため、一度面通しをしておくべきだ。

 

「ですがそのツアレもまた、完調とは言い難くアインズ様に対し粗相をしないとは限りません」

 

「よい。ある程度の無礼は許そう。なにより私も見てみたい。お前が助けたいと思った人間を」

 お前の恋人を。と続けたいところだがアルベドが居る場所で恋愛話をするのは少々危険だ。

 

「畏まりました。いつでも良いように言い含めておきます」

 

「うむ。では改めて次の話をしよう。アルベド、進めてくれ」

 

「はい。アインズ様。では商品はこれで一通り決まったと考え、次は……」

 短い時間でいつもの自分を取り戻したアルベドにアインズは気づかれないようにほっと胸をなで下ろした。




前回の話で出たアイデアの改良と詳しい説明で終わってしまった
12巻購入までは話を進めて矛盾があると不味いと思ったからですが、もうちょっとテンポ良くしても良かったかな
本当はこの後シャルティアの褒美に関する話まで入れるつもりだったのですが長くなったのでここで切ります
とりあえず今まで書き進めていたのでこの続きもほぼ出来上がっています
今週末あたりにはもう1話投稿出来そうです

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