オーバーロード ~経済戦争ルート~   作:日ノ川

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前回からやや時間が飛んで店舗完成したところから話を始めます
今まで殆ど出番の無かったマーレが出ますが、本格的に話に関わるのはまだ先になる予定です


第14話 店舗完成と最後の仕上げ

 <転移門(ゲート)>を使用し、中に入ると目の前には膝を突きアインズを待っている守護者二人の姿があった。

 

「出迎えご苦労。アウラ、マーレ」

 

「お待ちしておりました! アインズ様」

 

「お、お待ちしておりました。アインズ様」

 全く同じ台詞を言いながらも話し方と声の大きさが全く異なる二人の歓迎を受けながらアインズは大きく頷くと二人に立ち上がるように命令した。

 

「では案内をしてもらおうか。転移が可能なのはこの場所までだったな」

 客が出入りする表口ではなく、行商人や仕入れ業者を出入りさせる為に使われていたらしい裏口──馬車がそのまま入る作りになっているため、表の入り口よりも広い──から入って直ぐの場所に設けられた一室。

 本来であればここで荷の積み卸しや出入りのチェックなど行っていたらしいが、魔導王の宝石箱は基本的に全て自前、ナザリックから直接運ぶため関係者以外が出入りする必要が無く裏口は取り潰し代わりに店内で唯一外からの転移が可能なスペースとして活用している。

 アインズたちは常にここを経由してナザリックから出入りすることになる。

 

「はい。ここより先の部屋は転移阻害を含めまして遠視、盗聴、かなり高位までの魔法を阻害出来るようナザリックよりアイテムを持ち込んでおります。その警備として人間たちに派遣する鉄の動像(アイアンゴーレム)と同じ外見を持つゴーレムを幾つか配置しています」

 ハキハキとアインズの質問に答えるアウラに、アインズは満足げに頷くと二人を連れて歩き出す。

 今回は内装工事完了の知らせを聞いて確認と同時に開店にあたって最後の仕上げを行うための訪問だ。

 アインズも出入りする以上監聴対策は万全を期する必要があると考え、アインズが自ら視察に訪れたのが表向きの理由で、最後の調整と言う名の細かな部分に関して決めねばならないことが増えすぎて、それらを別の者に任せて逃げ出す理由が欲しかったというのが本当のところだ。

 

 扉をくぐり中に入ると店内、ではなく倉庫代わりに使用する予定の広い部屋に到着する。

 確かに部屋の四隅に胸にアインズ・ウール・ゴウンの紋章が刻まれたゴーレムが四体配備されている。

 外見こそ単なる鉄の動像(アイアンゴーレム)だが、中身というか種類そのものが異なりそれなりに高位のゴーレムである。

 店内に並ぶことになる商品は全てここに運ばれるため、一番気をつけている。

 

(マジックアイテムは勿体ないから本当は常時魔法を張っていて貰った方が安上がりなんだけど、誰かに見られたらマズいからなぁ)

 数に限りのあるマジックアイテムを使用するのではなく、例えばアインズが生み出した高位のアンデッドを常に交代で防御魔法を発動させていれば経費節約になる。

 しかし客や商人にこの場所を見られる可能性を考慮し、仕方なくマジックアイテムの使用を許可したのだ。

 現在はまだ商品を入れていないため空の棚が等間隔で並んでいる。

 アウラとマーレ──基本的にはアウラが話し、マーレはそれを補足する形であったが──の説明を聞きながら、各部屋を回る。

 アインズの指示通りナザリックの者だけでなく、例のセバスが面倒を見ている元娼婦達も使用することを考え、むしろ彼女らが使い易い作りとなっていた。

 

 

「最後にここが店内です。と言っても商品はあまり並べられないので、カタログを作り訪れた客に見せて欲しい商品を選ばせることになります。武器や防具の試着や試し切り等は別の部屋を用意させています」

 基本的にサイズの大きい者が多いナザリックの者達が裏で行動しやすいように、店舗の裏側を広く取り、客が出入りする店内は通常の店舗に比べ小さめで商品自体も殆ど並べられていない。

 

「素晴らしい出来だ。魔法対策も完璧だな。良くやった二人とも」

 最後に案内された客が入ることになる店内の内装を見ながらアインズは満足そうに頷いた。

 

「ありがとうございます! アインズ様」

 

「あ、ありがとうございます」

 二人の姉弟の頭を同時に撫でてやると、二人は嬉しそうに目を瞑り、それを享受する。

 そうやって頭を撫でながらアインズは改めて周囲の内装を観察する。

 内装の装飾品や壁面の色や材質には一般メイド達も係わっていた。

 常日頃アインズの服装を選ぶセンスを見ると少し不安だったのだが、この内装はそれなりに素晴らしいものに見えた。

 店内の内装は基本的にはナザリック内の装飾品や物質は使わず全て現地にあるものを選んで飾り付けている。

 なんとかナザリックに似せようとして努力した結果、この世界の水準としては十分な出来となったようだ。

 

「アウラ、マーレ。お前達から見て、この内装はどうだ?」

「……えーっと」

 言葉に困ったようなマーレとは対照的に、アウラは唇を尖らせて不満そうな顔をしながら言った。

 

「正直言ってナザリックとは比べものになりませんよ。アインズ様、装飾品はやっぱりナザリックから持って来た方が良かったんじゃないでしょうか」

 

「お、お姉ちゃん。それじゃあ、ナザリックのことがここの人に知られるかもしれないから駄目ってアインズ様が仰っていたよ」

 

「そうだけど。ここはアインズ様が滞在される場所なのよ! もっと豪華で、美しくて、格好いい場所じゃないと」

 以前のログハウスの時もそうだが、アウラは内装や飾りに妙に拘るところがある。

 少年のような格好をしてはいるが、やはり女の子ということなのだろう。

 

「前にも言っただろう。お前達が作り、メイド達が飾り付けたこの場所は私にとってはナザリックにも匹敵する」

 

「それは──わかりました」

 やはり納得はしていないようだが、これ以上アインズが言えることはない。

 この気まずい空気を何とかしようと考えを巡らせていると不意にマーレが口を開いた。

 

「あ、あの。アインズ様一つお聞きしたいことがあるのですが」

 

「ん。なんだ?」

 渡りに船、とばかりにアインズはマーレに目を向け話に乗る。

 

「お、お姉ちゃんから聞いたのですが、既にゴーレムを人間に売った、とのことでしたが」

 

(バルドのことか。そう言えば商談後出てきたアウラとシャルティアが妙に元気が無かったが何かあったのだろうか)

「うむ。いくつか狙いがあってな。店舗開店前にしておく必要があったのだよ」

 

「は、はい。理由はセバスさんから聞きました。で、ですがその、人間の商人がどうして直ぐに商談を決めたのかがよく解らなくて……お、教えていただけませんか」

 

「なによ、マーレ。妙にやる気あるじゃない……あ! アンタもしかして、抜け駆けする気!? シャルティアみたいにアインズ様に付いていこうって言うんでしょ!」

 

「ち、違うよ。勉強してもっとアインズ様のお役に立ちたいだけだよ。それは、そうなったら嬉しいけど」

 もじもじとスカートの裾を掴みながら身を捩らせているマーレとそのマーレを睨みつけながら顔を近づけているアウラ。

 

「やっぱり! アインズ様、あたし、あたしにも教えてください。あの時見ていたんですがよく解らなくて」

 

「う、うむ。二人とも落ち着くが良い。教えるのは構わんが、今回の人員は既に決まっているシャルティア、セバス、ソリュシャンの三名だけだ。これ以上増やすのは得策ではない」

 

「そ、そうですよね。申し訳ございません」

 シュンと花が萎れるように目に見えて落ち込んでしまったマーレにアインズは慌てた。

 と言ってもその慌ては直ぐに鎮静化したが、それでも残った気まずさを誤魔化すように顔を持ち上げると天井を見上げた。

 

「しかし、それはこの国での話だ。この国に絶大な影響力を手にした後は別の国にも出向くことになるだろう。その際は二人を供とすることも一考しよう」

 

「ほ──」

 

「本当ですか! ありがとうございます!」

 マーレが口を開く前にアウラが全開の笑顔をアインズに向けて言う。

 出遅れたマーレは一瞬責めるように姉を見たがアウラはそれには気づかず、にこにこと嬉しそうにしている。

 マーレもまた直ぐに気を取り直したようで、はにかむように笑い喜びを隠せずにいた。

 

「さ、さて。バルド……商談相手が何故我々との取引を即座に受け入れたか、だったな。二人はどう思う?」

 実のところアインズも当初はその理由は良く解らなかったのだが、あの後実際に値段を確認し取引に関する書類を纏め終えゴーレムを渡す時に向こうから嬉しそうに理由を語ってきていたので、その理由を知ることが出来た。

 しかし直ぐに教えたのでは、二人の成長に繋がらないだろうとこうして聞いてみることにしたのだ。

 二人はうーん。と口に出しながらしばらく考えていたが、やがて先ずマーレが自信なさそうに言う。

 

「な、ナザリックの商品が素晴らしいから、ですか?」

 

「うむ、それもある。が、それは一面でしかない」

 

「じゃあアインズ様の御威光に感銘を受けてアインズ様の下僕になりたいから、とかでしょうか!」

 

「いや、それは。んん、近いとも言えるが重要なのはこの国で一番先に我々と取引をしたということなのだよ」

 説明を始めながら不意にバルドの顔が過ぎる。

 あの商談を経てバルドはアインズのことをどう思っただろうか。

 アインズとしては世俗に疎い魔法詠唱者(マジック・キャスター)のため、セバスに商談を丸投げし、今後取り引きする時にもセバスを窓口にした方が良いとバルドに思わせるようにしたかったのだが、セバスがいちいち主は自分など足下にも及ばない知恵者だという態度を取り続けていたので、世間知らずなのは擬態と思われたかもしれない。

 そうなると今後もアインズに近づいてくる可能性があり、色々と面倒になりそうなのだが、今は考えないでおこう。

 

「アインズ様?」

 つい思考に耽ってしまったアインズを不思議に思ったのだろう。アウラが首を傾げこちらを見ていた。

 誤魔化すために一つ咳払いをしてからアインズは子供にも解るようにと丁寧に説明を始める。

 

「我々のゴーレムによって、今後王国の働き方が変わるとバルドは睨んだのだよ」

 

「働き方、ですか?」

 ピンと来ていない様子のアウラにアインズはうむ。と頷いてから続ける。

 

「今後王国では各地の村で私たちのゴーレムを活用するようになるだろう。するとどうなる?」

 

「人間達が楽を出来るようになる、ですか?」

 

「その通り。とはいえしばらくは苦しい生活をしているのが、マシになる程度だろうがな。元々ゴーレムを使用して一番楽になるのは開墾や建築、道路の整備などだ」

 

「はい。ログハウスを造るときもそうしたところに使いました」

 

「ゴーレムをその様に使用する者が少なければ、その者達が得をするだけだが、我々は安価で大量にゴーレムを量産出来る。その噂が広まれば村人だけでなく、やがては皆こぞってゴーレムを借りに来るだろう。つまりゴーレムを使った働き方が当たり前になるということだ」

 金を儲けるだけならば、ゴーレムは我々で独占した方が良い。しかし国力の低下した王国では優先すべきは低下した国力をナザリックの力で戻すこと。

 そのためにゴーレムを誰でも借りられるような値段設定にしたのだ。

 

「そうなると、ど、どうなるのでしょう」

 

「値下げが始まるということだ。誰でも出来るのだから、今までと同額の人件費を請求されたら、依頼した者は別のゴーレムを使っている者に仕事を頼む。それは困るので人件費を下げて安い金額で仕事を請け負う。後は持っているゴーレムの数でどの程度まで価格を下げられるかが決まり、やがて全体的な相場が決まり出すだろう」

 結果としてこれまで人力でその手の仕事をしていた者達は職を失うことになりかねないがそんなことはアインズの知ったことではない。

 

「よく解りませんが……それはナザリックにとって良いことなんですか?」

 アウラの疑問にアインズは頷く。

 

「ナザリックにとっては問題はない。何しろ我々はゴーレムを貸すだけで金が入ってくるのだ、価格競争をするのは借りた人間達だ。我々には関係ない、もっともやりすぎては逆に国力の低下を招きかねないのでゴーレムの数はこちらで計算しながら放出する事になるがな」

(計算するのはアルベドとデミウルゴスだけどな!)

 尊敬の眼差しでこちらを見つめる二人にアインズは気まずくなって再度天井を仰いだ後、話を続ける。

 

「さて。ではバルドはどうやって儲けようとしているのか。これは一番先というところが関係している。正確にはゴーレム普及前ということだな」

 

「あ、なるほど。そういうことですか!」

 ポンと手を叩きアウラが表情を輝かせる。

 

「お、お姉ちゃん解ったの?」

 

「ほう。ではアウラ、説明してみよ」

 アウラはあまり頭脳労働に向いていないと思っていたが、よく考えてみればゴーレムの案もシャルティアはアウラのアドバイスで閃いたと言っていた。

 やはり思いこみは危険だな。とアインズはアウラにも別種の仕事を与えるべきか検討しながら話を聞く。

 

「はい! つまりそのバルド? でしたか、その人間は価格競争が起こって値段が下がる前にゴーレムを使って多数の仕事を請け負うことで儲けようとしているのです」

 

「な、なるほどー。で、でもお姉ちゃん値段が下がった後はどうするの? ゴーレムが無駄になっちゃうんじゃ」

 

「あ、いや、それは……アインズ様!」

 

「うむ。惜しいところまで行ったが、そもそもこれはバルドの情報を知らねば解らないことだから仕方ないな。良くやったアウラ」

 再度アウラの頭を撫でる。

 アウラはえへへと嬉しそうに笑いながら目を瞑りそれを受け止める。

 

「むぅ」

 小さな不満の声が聞こえたが、これは一応褒美という形なので無条件にマーレにも行うわけにも行かない。

 聞こえない振りをして話を続ける。

 

「バルドは先ず我々から借り受けたゴーレムを使用しての例えば倉庫の建築やエ・ランテル城壁の補修などの工事を請け負うのだろう。もちろん自分達が直接ではなく別の建築を専門で行っている商会にゴーレムを貸すという方法を取るのかもしれんが」

 基本的に商会はそれぞれ自分達の商っているものごとに違う組合に属している。

 マジックアイテムやゴーレム、巻物(スクロール)などは魔術師組合、水薬(ポーション)や薬草などは薬師組合といった形だ。

 別の組合が管理している仕事を大々的に奪うような真似をすればバルドの立場が悪くなる。

 しかし建築を管理している組合に人足代わりにゴーレムを貸し出すと言えば皆食いついてくるはずだ。

 

「バルドはそうして短期間のうちに大儲けをするつもりなのだろう。元々村人でも借りられる安い価格設定のため、バルドが我々に払った金額は直ぐに取り戻すことが出来、その後ゴーレムは自分が契約している村々に規定の金額で貸し出せばその後も儲けが入ってくる。なおかつゴーレムの出所を知っているのはバルドだけ。エ・ランテルで新たにゴーレムを借りたい者は全てバルドを通さねばならず、奴はあの都市で更に強い権力を持つことになる。とまあ、奴が考えているのはこんなところだろう」

 途中からは自分の推論も混ざり、段々と得意になってしまい長々と説明をしていたアインズだが、不意に我に返り二人がついてこれているか心配になって二人を見やった。

 二人とも眉を寄せむむむ。と唸っていた。

 

(しまった。ベラベラと語りすぎた。デミウルゴスとかには探り探り話す必要があるせいでこんなに自分の考えを語れるのは久しぶりだったからな)

 

「あの、アインズ様」

 

「んん。なんだアウラ、難しかったか? ならばもう少し砕いて」

 

「いえ! なんとか理解は出来ました。ですがそれですと、その人間ばっかりが得をしてナザリックの利益は少ないように思うのですが……」

 

「ぼ、僕もそう思います。なんかその人間がアインズ様をその、利用しているような感じがして」

 二人の台詞にアインズは驚く。

 二人がアインズの拙く長い説明を一度聞いただけで内容を理解したこと。加えてその問題点まで見つけだしたことにだ。

 NPC達の成長を願い促したのはアインズだがそれにしても早すぎる。ついこの間まではアインズの──正確にはアインズが話を振って説明させたデミウルゴスの──作戦を聞いても内容は理解出来ず、アインズに任せておけば大丈夫。というような態度を取っていたこの双子がしっかりと自分で考え、理解し疑問を口にする。

 その成長は目覚ましく、同時にアインズは少しばかり怖くなる。

 今に二人とも完全にアインズを追い抜かしてしまうのではないかと。

 それはアインズが願ったことではあるが、ある種癒しになっていたこの双子相手でも会話に気が抜けなくなる日が直ぐ近くまで迫っているようだ。

 

「アインズ様?」

 

「ん。いや何でもない。二人の疑問はもっともだが今回に関してはその心配は不要だ。ようはこう考えれば良い。バルドは我々の下請けとして働き、我々の名声を広めるために活動してくれるのだと。奴の権力とコネを使えば我々の名は直ぐに広まる。私たちは今後王都近郊に名を広めるために活動するからエ・ランテルまでは手が回らんからな」

 

「なるほどー。流石はアインズ様です、ではその人間はアインズ様を利用しているつもりで実際はアインズ様に利用されて働かされている。と」

 正確には利用するしないではなく、あくまでどちらにも利益がある対等な取引のはずだが、それを口にしてもアウラは納得しないだろう。

 他のNPCたち同様、ナザリックこそ至高であるという考え方なのだ。

 

(やはり交渉の際には基本的にセバスかあの人間達を連れていった方が良さそうだ)

 NPC達では自分達が下手に出ることも出来ないだろうが、それ以上にアインズが下手に出て話をする光景を見せるのも危険な気がする。

 それで相手が調子に乗ってアインズに何かしようものならその場で殺しにかかりそうだ。

 もっともアインズとてこの名を背負っている以上は必要以上に下手に出てやるつもりはないのだが。

 

「そういうことだ。では確認はこれで完了だな。アウラ、<伝言(メッセージ)>をシャルティアに繋げよ。変更は無し、予定通りにことを進めよ。と」

 

「はい! わかりました」

 元気の良い返事の後<伝言(メッセージ)>を発動させるアウラ、その横でマーレは相変わらずオドオドとしたままアインズを見上げている。

 

「ん? どうかしたかマーレ」

 

「あ、あの。もう一つお聞きしたいのですが」

 

「む?」

 続きを促すとマーレはコクリと小さく頷いた後口を開く。

 

「本日は王都で最後の仕上げを行うと聞いていますが、ぐ、具体的にはなにをするんですか?」

 シャルティアと会話をしながらアウラもまた、ぶんぶんと大きく首を縦に振っていた。

 そう言えば今回の作戦は運営チームの会議で決定したものであるため、その枠から外れている二人には知らせていなかった。

 

「なに単純な話だ。この店に荷物を運ぶため、私が一度外に出て荷とともに王都に入り口から入り直す。ただそれだけだ」

 

「そ、それが仕上げ、なんですか?」

 

「うむ。要するにデモンストレーションだ。セバスがこの都市で知り合った商人達や組合連中に開店する旨を伝えてはいるが、極一部だけだ。故に人が多く存在する時間を狙い我々の商品を見せながらこの場所に向かう。それだけで十分な宣伝となるだろう?」

 つらつらと今後の予定と狙いについて話をする。

 これも考えたのはアインズではなくソリュシャンなのだが。

 

「な、なるほど。人間達にナザリックの威光を見せつけるのですね」

 

「そう言うことだ。出来れば一般人だけではなくお偉方、貴族や王族まで話がいけば申し分ないが、そればかりはやってみないとな」

 

「流石ですアインズ様!」

 いつの間にか<伝言(メッセージ)>が終わったらしいアウラも一緒になってアインズを褒め称えるがやはり自分が発案したものでないので少々心苦しい。

 

「うむ。それでアウラ、シャルティアの準備は万全だな?」

 

「はい。問題なくいつでも<転移門(ゲート)>を繋げられるとのことです。セバスも所定の場所に待機済みで後はアインズ様のご命令一つで行動を開始出来るとのことでした」

 

「よし。では早速取りかかるか、マーレは済まないがここで待っていてくれ。不測の事態に備えてアウラは私とともに。ギガント・バジリスクの登録も同時にすることになるからな」

 ユグドラシル金貨を使用して召喚した傭兵モンスターが勝手に暴れることなどあり得ないが、何事も不測の事態は存在する。

 なにより貴重なユグドラシル金貨を使用したのだ。召喚したモンスターは死亡したらそれまでなので、そんな事態になって欲しくはない。ビーストテイマーとして優秀なアウラが側にいれば何かあっても対応出来るだろう。

 

「畏まりました!」

「畏まりました……」

 はっきりと明暗の分かれた返答を前にアインズは暗の側、マーレに対し少々申し訳ない気持ちになる。

 トブの大森林内に避難所の作成やこの店舗の建設など、アウラには色々と仕事を頼んでいるが、マーレにはナザリックの隠匿後はアウラの手伝いをさせるくらいでこれといった仕事を与えていない。

 精神的に完成した大人として作成された者たちならばそうした扱いにも感情を抑えることが出来る──一部出来ない者もいるが──が、マーレはまだ子供、寂しさを感じているのだろう。

 只でさえ下がった耳が更に落ち、何故か──現在はなにも嵌められていない──左手の薬指をさすっている。

 

(何か言ってやりたいが、それをすると今度はアウラの方が落ち込みかねないしなぁ。やはり次の店舗ではマーレを優先して連れていくことを考えておくか)

 結局アインズはこれといった気の利いたセリフを思いつけず、気まずい雰囲気のまま、アウラを連れて待ち合わせ場所として決められていた場所に転移した。

 

 

「お待ちしておりました。アインズ様」

 相変わらず手本のような見事なお辞儀で、セバスがアインズを出迎えた。

 その横には先に移動していたシャルティアも同様にお辞儀して待機していた。

 

「二人とも出迎えご苦労。面を上げよ」

 

「はっ!」

 二人の背後にはそれなりに豪華な作りの荷台を繋いだギガント・バジリスクが一体、そしてその背後にずらりとゴーレムが立ち並び、その全員がアインズに向かって礼をとっていた。

 アインズを出迎えるためにわざわざ並べなおしたのかと思うと、少々無駄なことをしていると思ってしまうが、これも彼らの忠誠心によるものだ。

 余計なことは言うまい。とアインズは周囲を見回した。

 周辺からは人の気配もモンスターの鳴き声も聞こえない。当然だ、中世に近いこの世界はまだまだ発展が不十分で、都市部よりも森の方が遙かに多い。そして森の中には基本的には誰も立ち入らない。

 薬草の採取などの理由があれば別だが、そうでなければ冒険者とてわざわざ危険を冒して森の中に入る連中はいない。

 当然この場所もそうした深い森の中に作られた場所であり、王都に出入りする際の中継地点としてアウラが作り上げた場所だ。

 

「作戦は頭に入っているな? セバス、本来ならば執事のお前に御者の真似事をさせるのは心苦しいが頼むぞ」

 そもそもアインズは執事の仕事がどんなものなのか物語の中でしか知らないが、馬──今回の場合モンスターだが──を操る御者という職業がある以上、それを執事にさせるのは良くないのではと思ったのだが、他に任せられる者がいなかったのだ。

 もっともソリュシャンと王都で情報収集に向かわせたときも途中から御者はセバスが務めたらしいので今更ではあるのだが。

 

「なにを仰います。アインズ様のお側に控えご命令に従うことこそ私の本懐、お任せください」

 

「よし。魔獣もゴーレムもこの世界においては強大な力だ。入るための審査には時間がかかるだろう。その間王都の者共に舐められないためにはお前が威厳を見せることが必要だ」

 

「畏まりました。アインズ様に恥をかかせるようなことは決していたしません」

 

「うむ。ではシャルティア、そしてアウラ。お前たちは私とともに馬車に乗り込め」

 

「畏まりました」

「承知しんした」

 いつもと変わりないセバスとは対照的に、シャルティアは少々緊張しているように見える。

 なんだかんだで一時的な外出はこなしているが、きちんとした仕事として外に出るのは初めて──以前の記憶を失っているため──なのだから仕方ない。

 

「後ほど透明化の魔法をかける。場合によっては兵士によって中を覗かれるだろうがその際は二人とも声を上げないように。アウラは魔獣に何かあれば対応せよ」

 

「わかりました! アインズ様」

 全員の役割を確認した後、アインズは満足げに頷くと、事前に登録していた服装に交換する。

 いつもよりは目立たないがそれなりに高級感のある黒いローブに加え、嫉妬マスクとガントレットとローブ以外はカルネ村に現れた時と同じ格好だ。

 

「よし。行くぞ、我々……魔導王の宝石箱の威を示す!」

 ローブを大げさにはためかせて歩き出すアインズの背に三人の揃った返事が響いた。 




この後一二個片付けなくてはならないので問題をクリアしたら、ようやく開店です
今年中に開店まで行ければいいんですが、どうなるかはまだ分かりません、気長にお待ちください

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