転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第86話 近隣の村々からものすごい量の特産品が届けられた件

 いつの間にか増えていた人の正体は、ヴェルモンの街の冒険者ギルドマスター『白い死神』ことシムナさんと、ギルド職員のカトリーヌさん、そして、オドノ古物商会のフレキさんだった。

 フレキさんはみかん箱大の大きさの木箱を何個もくくりつけた背負子を背負っている。

 それはまるで、エベレスト登山で活躍しているシェルパ族のポーターのようだ。

 うん、冒険者パーティー『ゼーゼマンキャラバン』(僕が勝手にそう呼んでいる)のポーターとして、シェルパ族のタイガーと呼ばれる屈強なポーターは目標の一つでもある。

 たしか、僕の冒険者の職種はポーターだったはずだ。

 壁役をやらされることもあるけれどな。

 んで、シムナさんたちは一体ナニを持って来たんだ?

 

「ちょっと、ちょっと、ハジメくん! 珍しいお酒があるならちゃんとあたしに教えてくれなきゃだめじゃない」

「そうですよハジメさん! おつまみの選定に困ってしまうじゃないですか! 今日はマスターにエールとワインにミードくらいだろうって言われたので、豚の腸詰と塩漬け肉の燻製、それから、刻みキャベツの塩漬けを用意してきました」

 

 なんか言ってることがよくわからないんですけど? シムナさんカトリーヌさん。

 まあ、それでも、僕が入手した『珍しい酒』に興味津々なのは伝わってきた。

 それに、ソーセージやベーコン、刻みキャベツの塩漬けはいくらあっても困らない。

 加工肉はふつうに焼いたり茹でたりしたり、スープやパスタの具材としても優秀だし、刻みキャベツの塩漬けは付け合せにするだけでなく、加工肉や厚切りの肉と一緒に蒸焼きにしても旨い。

 ちなみに、刻みキャベツの塩漬けというのは、元の世界で言うところのザワークラウトにそっくりなキャベツの漬物のことだ。

 

「ああ、そうだ! これをことづかってきたんだった。サヴォワ村のヴァルジャンさんにエルベ村のヤンさんとか。あとは、バンケル村のテレルさんに……。後は見てもらったほうが早いか。フレキくん!」

 

 そう言って、フレキさんを手招きする。

 

「はあぃ、シムナさん。っと、よっこらしょ!」

 

 フレキさんが背負子をおろして、荷を解き始める。

 ホントすごい荷物だ、何を持ってきたのやら……。ってか、ことづかってきたって言ったよねシムナさん。

 ってことは、それ、僕らへのお届けモノ?

 

「ヴェルモン領の東の森近辺の村々からのお礼の品々ですね。エールにミードワインに……うわ、これはすごいです! オルビエート村特産の白ブドウの生命の水(蒸留酒)です! これは、国に納める税金代わりになるくらい高価なお酒なんですよ! あとは、豚丸々一頭分の肉とか野菜に腸詰、クケートに……」

 

「おおう! キッシュにキドニーパイだ!」

 

 サヴォワ村のヴァルジャンさんの宿屋の名物料理キッシュとキドニーパイがみかん箱大の木箱のひとつにいくつも……ほぼ満杯に入っている。

 

「生ものや料理はカトリーヌが『状態保存』かけてくれてたから悪くなってはいないと思う。今朝、ギルドに、サヴォワ村のヴァルジャンたちが持って来たらしいんだ」

 

「はい、冒険者だったころから状態保存の魔法だけには自信がありましたから」

 

 マスターシムナがキドニーパイを持ち上げ懐かしそうに眺める横で、カトリーヌさんがガッツポーズを作った。

 

「ねえ、リューダ。サヴォワ村の宿屋の名物料理ってキドニーパイだって言ってたわよね」

 

 マスターシムナがキドニーパイを指差した。

 

「ええ、確かそうだったと思うのだけれど。ディアブロ・ルージュ(領主)の部下の若い兵士がたしか、その宿屋の息子だったと思うのだけれど」

 

「お前ら、アレから何年経ってると思ってんだよ。代替わりしてんだよその宿屋は。キドニーパイは二代前の女将の得意料理だぜ。今の名物はキッシュの方なのさ。昨日も弁当代わりに作ってもらったんだ。うまかったぜえ」

 

 ルーデルが昨日の昼に仕入れたばかりの情報を、十年前から知っていたことのように話す。

 うん、キドニーパイの方は所謂復刻ってヤツだな。昨日のキッシュとキドニーパイは実にうまかった。こんど作り方を習いに行こうかと思っているくらいだ。

 

「ほう、それは近くの村の宿屋の名物なんだね。ハジメくんが旨いというのであれば、ぜひ我もご相伴させていただきたいものだ」

 

「ええ、ほんとうに。きっと、ハジメさんがお持ちのお酒にも合うことでしょう。あとそちらのお酒は……、はい、生命の水とおっしゃるのですね。これは、生命の女神の使徒としてぜひともお味を確かめなければなりませんね」

 

「あいすくりん」

 

 自称使徒様方が興味津々に、シムナさんやカトリーヌさんが木箱から取り出す村々からのお礼の品々をのぞき込む。

 若干お一人様はマイペースでご自分の興味が赴くもののみを求めておいでになっておられるが……。

 はい、今日もちゃんと用意してありますよ、アイスクリン。

 

「ん? ……って、は? めがっ! んむぐぐっ」

 

「え? あひッ! めがっ! もがっ!」

 

 ようやくというか、やっとというか、シムナさんとカトリーヌさんが自称使徒様方に気がついた。

 女神様と言いかけて、リュドミラとルーデルに口を塞がれる。

 どうやら、人間の神職並に出力を落とすことが容易になったいるらしい。

 

「な、なん……なんで『使徒様』方がここにまた?」

 

 三使徒の再来のわけをシムナさんが誰とはなしに尋ねた。

 

「お三方が冥界でお茶をしてたら、丁度いいタイミングで祠の扉から向こう側にバーベキューの匂いと賑やかな声が流れってって、それにつられてやってきたんだと」

 まるでどこかの岩戸隠れの神話のような情景描写で、シムナさんの疑問にルーデルが答える。

 

「失礼ですね、『黄金を抱くものよ』! 私は、女神イフェの名代として、ハジメさんの冒険者としての初の功績を称えにやってきたのです」

 

「我は、その介添えだ」

 

「あいすくりん」

 

 自称生命の女神イフェの使徒様が、フグみたいに頬を膨らませてもっともらしいご降臨の理由をおっしゃったのだった。


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