転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第79話 約三十人が一緒に食べられる料理は?

「こちらにいるお姉さまがたは、僧侶様以外、皆、冒険者様の奴隷だと聞きました」

 

 誰だ? どこのどいつだ? そんな出鱈目を吹き込んだのは?

 

「あらぁ、事実無根じゃないと思うのだけれど?」

 

 リュドミラ! 君か?

 

「たしかに、あたいたちはハジメ様の奴隷だっ」

 

『た』と、こっそりとルーデルが付け足す。いや、そんな小声で言ったって誰にも聞こえてないから!

 

「あ、あの、なんで奴隷なのかな」

「あ、あたしたち、冒険者様の戦利品ですから」

 

 狼娘さんの一人が答える。怯えたような瞳でかすかに震えている。

 なんだそりゃ? 戦利品?

 訳わかんねえぞ。この世界の社会システム! ゴブリンの巣から助け出した女の子が戦利品?

 

「そうね、この子達はゴブリンプリンスたちからの戦利品、奴隷に売ろうが、自分の奴隷にしようがハジメ様の好きになさればいいのだわ」

「モンスター討伐の際、モンスターが所持していたものは討伐したものが略奪できる。冒険者が手っ取り早く稼げる理由だ」

 

 だからって、獣人とはいえ攫われてた女の子をモノみたいに……。

 いや……、モノなのか?

 

「っと、ハジメ様、ニンレーの奴隷商会につきましたぜぇ」

 

 ルーデルが振り返り凶悪な微笑を浮かべる。

 

「うふふん、この子達なら一昨昨日市場で見た獣人の娘よりいい値がつきそうだと思うのだけれど?」

 

 獣娘さんたちの顔が凍りつく。

 何の冗談だルーデル! 城門からゼーゼマンさんのお屋敷に帰るのに、何でそんなところを通る! 回り道じゃないか!

 

「冒険者様!」

「助けて!」

「わああああああああっ!」

「う、う、売らないからね! みんなのこと奴隷なんかにしないから!」

 

 慌てて僕は獣娘さんたちをなだめる。

 

「あはははははっ! 冗談だよニンレーのとこになんか向かってもいいないよ!」

「ふふふっ、ハジメ様のうろたえ方が愉快で、からかっただけよ」

「ルーデル! リューダ! いい加減いしないと!」

 

 僕がそう怒鳴りかけたとき。

 

『だがな、ハジメ……、こいつらの身の振り方をきちんと考えないとな』

 

 風魔法囁き(ウィスパー)でルーデルたちが語りかけてきた。

 

『そうね、じゃないと本当に奴隷落ちさせることになると思うのだけれど』

『こいつらと、後ろの馬車の娘たちは、はっきりいって行く所が無いからな』

 

 この馬車に乗っている子達と、オドノ社長の馬車に乗っている子達合わせて十八人の親兄弟親類縁者は、おそらくいないだろう。

 ギルドに捜索依頼が申し込まれていない時点で、たとえ、親兄弟が生きていても口減らしの対象ってことだ。

 いずれにしてもお先真っ暗だ。

 

「君たちを奴隷としてどこかに売ったりしないことは約束する! 絶対だ!」

 

 僕は、獣娘さんたち一人ひとりの目を見て約束する。

 じゃあ、どうするかだけど……。

 

 女の子たちの身の振り方を考え始めたとき、明るい舌足らずの声が僕の思考を妨害する。

 

「ハジメさまの奴隷をしていると、昨日の夜のシチューみたいにおいしいものが毎日食べられるのよ」

 

 ちょ、ちょっと、サラお嬢様、ナニを言い始めるんですか! あなた、もう奴隷じゃないでしょ! 一昨昨日路上で解放ライブしましたよね!

 

「非才は奴隷契約は結んでおりませんが、台下とは信仰の上で主従関係にございますゆえ、事実上の奴隷でございます」

 

 エフィさん、あなたまで!

 

「「「「「「毎日!?」」」」」」

 

 獣娘さんたちの顔がパッと明るくなる。

 

「おいしかったぁ、ゆうべのシチューぅ」

「あんなの、村じゃ、お祭りのときでも食べたことないよ」

「あたしは、また、きのうのパンが食べたいなあフカフカで甘いのぉ」

「オークの肉ってあんなにおいしいんだねぇ」

「熊みたいに大きくて怖い魔物だから、村一番の狩人でもとって来たことないよ」

「わたしはシチューに入ってた森のお野菜がよかったよ、村でもよく食べてたのばっかりだったけど、村で食べてたのは苦いばっかりだったもの」

 

 獣娘さんたちはうっとりとゆうべの夜食を思い出している。

 口の端から垂らしちゃってる子もいる。

 森のお野菜は、ちゃんとアク抜きすればおいしいからね!

 

「「「「「「また、食べたいなあ」」」」」」

「あらあらみなさん、夕べのシチューみたいなものはもちろんですけど、私はあいすくりんがおすすめです!」

 

 ああ、ヴィオレッタ様まで……。

 

「「「「「あいすくりん? なにそれ?」」」」」」

「雪みたいに冷たくてふわふわで、とっても甘いお菓子よ」

 

 サラお嬢様が追い討ちをかける。

 獣娘さんたちの瞳がいっそう輝く。

 

 ぐぎゅっぐぎゅるるるるるるるるるるるううううううぅっ!

 馬車の中に腹の虫の大合唱が鳴り響く。

 

「ああん、お腹空いたぁ! ね、みんな!」

 

 サラお嬢様が破顔する。

 

「サラ、いいところに気がついたわ! 実は私もぺこぺこなの」

「ははっ! 奇遇でございますな。非才もでございますよ」

「あたいもだ!」

「わたしもだわ」

 

 サラお嬢様にみんなが追従する。

 ふむ、助け出した女の子十九人と僕たち六人ゲリさんとオドノ社長、フレキさんとマスターシムナが来るかもしれないことを考えて合計二十九人。

 

「約三十人か……」

 

 お屋敷の食堂はそんな大人数を収容できない。

 いっぺんにこの大人数で食事をする方法は……と。

 

「うん! あれにしよう!」

 

「ルー! 市場に行こう。まだ、野菜売りの農家は村に帰ってないよね」

「ああ、まだいるはずだ! はいっ、グラーニ!」

 

 ルーデルが一鞭入れ、市場に向けて馬車が速度を上げる。

 

「みんな牛豚は食べられる? 食べ物に禁忌は無い?」

「「「「「「はいっ!」」」」」

 

 僕は今日、これから作るものの材料を考え始める。

 

「サラ、ヴィオレ、ウィルマ、後で魔法の力を貸してくださいね」

「「「了解!」」」

「リューダ! こないだどこで薪を買ったっけ?」

「肉屋の傍よ」

「うん、好都合だ」

 

 ぐぎゅるるるるるるるっ!

 ふたたび腹の虫が大合唱をする。

 

 わかったわかった! もうすぐおいしいものたんと食べさせてあげるから!


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