転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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お待たせいたしました。


第63話 絶品キッシュにキドニーパイ! 今度、作り方を教わりに行こう

「こりゃ、うめえっ!」

「うーんっ! これはおいしいのだわ!」

「まあっ! おいしいっ!」

「おいしいいいぃっ! すごぉいいっ!」

「ほわああぁっ!」

「うまあッ!」

 東の森の入り口で、デイキャンプ宜しくタープを張った僕らの野外食堂は、美味を叫ぶ嬌声がこだましていた。

 サヴォワの村の宿屋ファンティーヌの看板料理キッシュと、かつての看板料理キドニーパイを一口食べたウチの肉食系女子たちは、一様に目を丸くして互いに見つめあい、言葉にならない言葉で会話をしている。

 その内容はきっとこんな感じだ。

「うわああああっ! おいしいね!」

「はああっ! おいしい!」

「むはーっ! うま過ぎて言葉が出てこねーっ!」

「流石流石でございます」

「あんな小さな村の宿屋で、こんなにもおいしいものを出しているなんて!」

 ヴァルジャンさんか、おかみさんが作ったベーコンやソーセージがいい具合の燻製の風味で、キッシュの味にアクセントをつけ、また、ほうれん草やアスパラガスなんかの野菜が、しっかりとした野菜の味を出している。きっと、完熟の朝摘みってヤツだな。そして、東の森で採れたキノコ。噛みしめるごとに口の中に香りがたちあがり、鼻へと抜けてゆく。

 これきっと、マツタケより香りがいいぞ。

 いや、マツタケなんて、食ったこと一回ぐらいしかないけど。

「こんなキッシュ食べたことないな」

 コゼットちゃんを無事に助け出せたら、作り方を習いにサヴォワ村に行こう。

「私もです、ハジメさん!」

「わたしも、こんなにおいしいキッシュ食べたことないわ」

「いや、みなさん! キッシュもさることながら、キドニーパイもまた格別でございますよおっ!」

「うん、確かに、キドニーパイもうめえっ! これだったのか、あの若い兵隊が自慢してたのって」

「ああ、南の邪竜討伐のときに、マニーの部下の兵隊が自慢してたやつね。うふふふ、自慢するだけのことはあったのだわ」

 キッシュにキドニーパイ、そしてケバブが次々とみんなの胃袋の中に消えてゆく。

 そして、四半時もたたないうちに、全ての料理がテーブルの上から無くなっていた。

「「「「「「ごちそうさま!」」」」」」

 僕は腰のマジックバッグから、くりぬき瓢箪の水筒を取り出す。

 朝、この瓢箪にお茶を詰めておいたのだった。

 僕のマジックバッグは入れておいた物の時間が経過しないようなので、瓢箪に入れたお茶は実に入れたてのアツアツを保ったままだった。

 それを、果汁を飲み干した後、水でゆすいだみんなのカップに注ぐ。

 テーブルの上は、ヴィオレ様とサラ様、そして、エフィさんが片付けてくれている。

「じゃあ、今日これからの行動を決めましょう」

 片付けてもらったテーブルの上に、マスターシムナからもらった地図を広げ、みんなの顔を見回す。

「みんなが聞いてきた女の子たちが攫われた場所を描きこんでください」

「孤児院と街中の方は、行方不明になった日と、東の森に行ったということしかわからなかったわ」

 リュドミラが答える。

 ヴィオレッタ様が口を真一文字にして、顔を強張らせた。

「では、街の近郊の村からですが、二件は残念ながら同行していた大人も殺されていたため、街と同様、行方不明になった日と東の森ということしかわかりませんでした。後の三件は、同行していた大人が運よく生きていたため証言が取れました。彼女たちが襲われた地点は、こことここ、そして、ここでございます」

 そして、ル-デルと僕の聞き取りの結果をプロットしてゆく。

「ん?」

「あら、これは……」

「まあ……」

「わあ」

「なんという……」

 こういうことってあるのか……。

 女の子たちがゴブリンに襲われた地点は、いずれもが昨日僕たちが潰して回ったゴブリンの拠点の傍だった。

「でも、あのメジャーの穴以外、囚われてた女の子はいなかったよね?」

「……ということは」

「昨日、私たちが潰した拠点は前線基地だったということですね」

 ヴィオレ様がつぶやく。

「女の子たちは、後方の上位個体の拠点に移送された後だったということでございますか」

 え? 後方の上位個体?

「昨日のゴブリンメジャーは上位個体だったんだろ?」

 僕は尋ねる。

「まあ、そうね。五百匹から六百匹を支配する上位個体であることは違いないわ」

「その戦力の大半はあの穴の中だったわけだ」

「ハジメさん、私たちは、あのメジャーの拠点洞窟以外にもいくつかルテナンが率いる拠点を潰しましたよね」

 ヴィオレ様は、僕に何を語ろうとしているんだろう?

 確かに、昨日、僕らは、いくつものゴブリンの拠点を潰していた。

「うん、そうだね。ゴブリンメジャーの穴は、当初聞いていたことよりもずいぶん大きかったけど……」

「ゴブリンの群は、人間でいう軍隊に組織が似ています。最下級のゴブリン十匹を指揮するサージェン、サージェンが指揮する群三~四個、三十匹~四十匹を束ねるのがルテナン……」

 あ、なんか見えてきたぞ。ルテナンの群三~四個を支配するのがキャプテンで、そのまた上がメジャーってことか。

「じゃあ、メジャーの群三~四個を支配するのもいるってこと?」

「はい、それが、ゴブリンカーネルです。カーネルが支配するゴブリンの総数はざっとですが千から二千といわれています」

「その上もいるぜ」

 ルーデルの横合いにヴィオレ様が頷いて続ける。

「ゴブリンジェネラル。ジェネラルが指揮する群は、これはもう群というには巨大です。若いジェネラルで三千前後、歳を経たジェネラルは一万を超える群を率いると言われてています」

 万? 万を超える群だって?

 ……っと、待て待て。ゴブリンメジャーより上の指揮個体のことはとりあえず置いておこう。

「ゴブリンメジャーが、もう一体もしくは、複数発生してるってこと?」

「はい、そうです。ハジメさん」

「それ以上の可能性もあると思うのだけれど」

「そして……だ!」

 ルーデルが豊かな双丘を揺らし、ふんすと鼻息荒く胸を反らす。

「ここに、あたいがゆうべ入手した、ゴブリンどもの拠点の場所を印した地図がある」

 胸元から畳んだ紙を出して、ルーデルは地図の上に広げる。

 それは、東の森の略地図で、あちらこちらに×印がつけてあった。

「あらあら、ゆうべ夜遅くにどこかへ行ってたと思ったらそんなことしてたの」

 リュドミラも小さく畳んだ紙を腰の雑嚢から出して、さらにその上に広げる。

「なーんでぇ、お前もかよ」

 ルーデルが頬を膨らませる。

「うわぁ! ありがとう二人とも! 情報は接点のない複数からの入手だと精度が高くなるから、助かるよ」

 引きこもり始めてから始めた投資で、僕は情報収集の大切さを学んだ。

 いつかどこかで誰が何か革新的な発明をした、発見をした。

 どこそこの国が公定歩合を上げるだの下げるだの。

 噂話程度のことでも、市場は敏感に反応する。

 誰よりも精度の高い情報を、いち早く得ることが儲けるためには必要だった。

「そ、そおか? へへへ」

 ルーデルは犬歯が目立つ歯を見せて笑う。

「ふふっ、今日の情報は、さすがにシムナは関与していないと思うのだけれど」

 リュドミラは目を伏せて微笑んだ。

「さて、と……」

 僕は三枚の地図を見比べる。

 ルーデルが持ってきた情報にもリュドミラが持ってきた情報にも共通して描いてあることがあった。

「ゴブリンプリンス……?」

「なんですって?」

「うわあっ!」

「ほわあああっ!」

 プリンスってことは、王子様ってことだよな。

「……てことは」

「結構な数のゴブリンがいるってことだ」

 いや、それはそうだけど。

「運がよかったわ。大量発生が本格化する前で」

 いや、そうじゃなくて!

 ぐにゃりと世界が歪んでみえる。

 ああ、これって、眩暈って言うんだっけ。

 なんで眩暈がしたかって?

 だって、そうだろ。

 冒険者になって、たった二日しかたっていない僕が、いきなり中ボスに挑まなくちゃならなくなったってことじゃないか。




いつも御愛読、誠にありがとうございます。

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