転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第60話 クエスト開始! そして僕らは走り出した

「なんだかわかんねえけど、人心地ついたみてえだな」

「じゃあ、早速だけれど、今日中に『赤』を半分以上はやってしまおうと思うのだけれど?」

「そ、そうだね! 赤は早急に対処しないとだね!」

「そうです! 赤は撲滅しないといけません!」

「うん! 今日中に赤は全部やっつけちゃおうよ!」

「はい、で、ございますね! 赤は早急に殲滅しなくてはいけません。少しでも残すとそこからあっという間にゴキブリがごとく増殖してしまうのが赤でございますからね!」

 なんか、後半『赤』に分類されたクエスト依頼申込書のことではなく、赤自体に主語が移っていたみたいだけど、細かいことは気にしないでいこう。

「この『赤』分類の申込書を、更に緊急度順に分けられる?」

 僕はルーデルのアーモンド形の少しだけ端が上がった目を見る。

「お安い御用だ」

 そう言うとルーデルは二十件の申込書を並べて鼻を近づける。

 しかし、この、嗅ぎ分け(トリアージ)の仕組みってどんなんだろう? 気にはなるけれどとにかくは魔法ってことで理解しておこう。

「よし、こんなとこだな」

 ルーデルは、クエスト申込書を並べ替える。

「左から順に、二日、二日二日二日二日二日二日二日二日二日三日三日三日三日三日三日三日三日三日四日ってとこだな」

「シムナさん地図ってありますか?」

「ちょっと待って。カトリーヌ、地図持ってきて!」

「あ、はい! シムナさん」

 カトリーヌさんがパタパタと駆け出してゆく。

 僕はずらりと並んだ赤分類の申込書に、番号をふってゆく。

 丁度、二十番を申込書の左上に書き込んだとき、カトリーヌさんがB3(週間漫画雑誌の大きさがB5だからその短い辺の倍の倍だ)くらいの大きさの頑丈そうな巻紙を持って戻って来た。

「お待たせしましたこれが、ヴェルモン周辺の地図です」

 カトリーヌさんが応接テーブルの上に地図を広げる。

「マスターシムナこの地図いくらですか?」

「金貨十枚……ってなにするの?」

「赤分類の申込書の依頼人がいるところを書き込んでいくんです。赤分類が終わったら黄色をやるときにも同じことをします。じゃあ、これ」

 僕は金貨十枚をヴィオレッタ様から受け取って、マスターシムナに渡そうとする。

「いい、地図くらいあげる」

「へえ」

 マスターシムナの一声にルーデルがにやりと笑う。

「な、なによ」

 マスターシムナは顔を紅くしてたじろぐ。

「ルー、シムナなんてからかってないで」

「じゃ、みんな、依頼人がいる村を教えてくれるかな。僕はここいらの地理に明るくない。まずはこれ、ヤンさんのエルベ村」

 すかさずサラ様が地図上の一点を指差す。

「エルベの村はここよハジメ!」

「ありがとうサラ」

「えへへへん!」

 サラ様が、ふんすと薄い胸を反らす。

 これくらいの年頃の女の子が、ゴブリンに攫われて昨日のニーナ姫様のような目にあっているかと思うと背中に嫌な汗が流れる。

「よし! じゃあ、次! テレルさんのバンケル村」

 そうして僕たちは地図上に赤レベルのクエスト依頼申し込み書の依頼主の村をプロットしていった。

 

「今日中に何件まわれそうかな?」

「そうだな、依頼内容の詳細を聞くってだけなら、馬車ぶっ飛ばして昼過ぎまでに全部回れるぜ」

「そうね、そして、今日やってしまわないと危険な三件を夕方までにこなせると思うのだわ」

「あのーぅ、お話を聞くだけでしたら、馬車を借りて三組くらいに分かれてやった方がよくございませんか?」

「それはいい案ですウィルマ」

「さすがウィルマ! だてにルーティエ教団の独立遊撃巡回主教だけのことあるわ」

「にゃははっ! おだてたってなんにも出ませんようサラ。あそうだ、非才特製『プチ女神の聖水』を差し上げましょう」

 エフィさんが頬をうっすらと染める。

「お褒めに預かり、誠に恐縮です、サラ、ヴィオレ」

 いまさらながらだが、エフィさんのルーティエ教団における役職は実に宗教法人の役職っぽくないなあ。

 どっちかっつったら、どっかの秘密捜査機関みたいだ。

 あと、それから、『女神の聖水』ってネーミングもどうかと思う。

「組み分けは、僕と……」

「あたいだ。街から離れているところ十件に、あたいとハジメが行く」

「では、こっちの街の近くの村々の五件は非才と…サラ、お付き合いいただけますか?」

「うん、わかった! いっしょに行こうウィルマ!」

 エフィさんが街のすぐ近くの村々を指差した。

「では、わたしと……」

「私が街の中の五件分の依頼人に当たりますね」

「うん、お願いします。でも、なんで街中の住人がゴブリンに攫われるんだろ?」

 僕は不思議に思った疑問を口にした。

「ハジメさん、依頼主の欄を見てください」

 ヴィオレお嬢様が申し込み書を一枚取り上げて、その依頼者欄を指差した。

 そこには、『ヴェルモンの街孤児院院長マザー・テレセ』と、あった。

「孤児院の子や、貧民街の子供たちはものすごく働き者です。おのおのが、孤児院のために、家のために何とか少しでもお金を稼ごうとしているのです。この、依頼申し込み書の子達もきっと、薬草を摘みに東の森に入ったんでしょうね。朝早く、夜が明ける前に町を出て、森に入って薬草や食べられる草を摘んでいたんでしょうね」

 ヴィオレ様は目を伏せ、肩を震わせる。

 街で仕事があれば、そんな危険なことをしなくたってお金を稼げるのになあ。

「孤児院は、貧民街にあるのだわ。他の四件も概ね貧民街や、あまりお金に余裕がある人の依頼じゃないわ。結構物騒なところに入り込むことになりそうだから、わたしがついて行くのが一番安全だとおもうのだけれど」

「よし、それでいこう。昼過ぎくらいに……」

「東の森の入り口で待ち合わせがいいと思うのだけれど?」

「うん、それで、持ち寄った詳細情報を照らし合わせて、緊急度が高い順番にこなしていこう」

 みんなが頷く。

「じゃあ、みんな今日も一日がんばりましょう!」

「「「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」」」

 マスターシムナの執務室に、僕らのパーティの雄叫びが響いた。

 

 若干、雄叫んでいる人数が多い気がするけれども、それはご愛嬌だ。


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