転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第56話 地震かなぁ……

「みんな! 手は洗いましてね。では、いただきましょう」

「「「「「「いただきま~す!」」」」」」

「麺は、これ使ってくださいね! 昨日配ったこれ、持ってますよね! キャルク人の肉料理もパンに挟まないなら使ってください!」

 フォークを掲げ、僕はみんなに注意する。

 ちなみに僕が使っているフォークは、夕べ女神様方が使ったうちの一本だ。

 女神様方が使ったカトラリーは、僕が今使っているフォーク以外、大切に僕のマジックバッグに保管してある。

 マスターシムナが使ったフォークは、彼女が持って帰ってしまっていた。

「ええ! これで麺を食べるの? どうやって? めんどくさいわハジメ!」

 ああ、サラ様の反応……予想通りだ。

「ふふふ、実はですね、今日は、フォークでの麺の食べ方も教習しようと思って、このメニューにしたのです」

 僕は左手に匙、右手にフォークを持って構える。

「麺はこうやって食べます」

 フォークを麺に差し込んでくるりと一~二回まわして巻きつけて匙に載せ、凹みを使ってくるくると一口分の大きさに巻き上げる。

「そして、こう食べます」

 僕はソースと具をほどよく混ぜ込んで、フォークに巻きついたスパゲティカルボナーラをぱくりと口に放り込んだ。

「わあッ! 手品みたい!」

「なんと器用な……さすがは台下!」

「まあッ!」

「うへえ! めんどくさ」

「ふう、こればかりはルーの言う通りなのだわ」

 うんうん、みんなの反応はもっともだ。

 手掴みなんかで食べるより、はるかに面倒くさいだろう。

「でも、これなら、温かいままに手を汚さずに食べられますよ」

「あ、そうか!」

「指で摘めるくらいに冷めるまで待たなくていいんですね!」

「なるほど! 口に入れるときに少し冷ますだけで、熱めのものでもいけるということでございますね」

 そう、昨日のメニューは、スープ以外は手掴みでも食べられるくらいに温度が低い物ばかりだったから実感できなかったろうが、今日のは結構温かい。

「そうか、そういうことなら!」

「試してみる価値はあるとおもうのだけれど」

 カルボナーラを、指で摘めるまで待ってたら、手持ち無沙汰になり、結果、冷めるころにはケバブばかりが無くなっているなんてことななりかねない。

 それに、冷めたカルボもうまいことはうまいけれど、あったかいのには適わない。

「熱かったり温かかったりする方がおいしいお料理だってあるんです。僕は、ことごとくそれをみんなに食べてもらいたいんです」

「わかったわハジメ! 挑戦してみる! もう一度教えて! ハジメ」

 サラ様が匙とフォークを取る。

 それを合図にみんなが匙とフォークを構える。

「こうやって、こうです」

 僕はもう一度、お手本を見せる。

「んむむむ……」

「うう……ッ」

「はッ、ほッ、やッ!」

「うぬぬッ……ぬ…おぉッ」

「………………ッ!」

 みんな四苦八苦してフォークでスパゲティを巻いている。

 たしかに慣れないとフォークを回すのって難しい。

 僕も子供のころはうまく巻き取れずに、焼きそばを食べるときみたいにすすって食べてたっけ。

 僕は決して器用な方じゃない。どちらかといえば不器用な方だ。

 でも、不器用な僕でも、スパゲティをフォークで巻いて食べられるようになった。要するに練習だ。

「はあぁッ!」

「ふう……」

「ほああッ!」

「……っく、はッ、ほッ」

「…………ッ!」

 何度かフォークを取り落としながらも、彼女たちはなんとかパスタを一口大に巻いた。

「そしたらこう、ふーふーってして……」

 パクッ!

 みんなほぼ同時に、スパゲティが巻きついたフォークを口の中に入れ、思い思いに咀嚼する。

 その数瞬後……。

 テーブルがカタカタと揺れ始める。

「え? 地震? めずらしいな」

 実際、僕がこっちの世界に転生してきて地震は初めてのことだった。

 次第にその揺れが、地響きのような音を伴い、大きく激しくなってくる。

「こりゃやばい! みんな! テーブルの下に!」

 僕は身を隠そうとテーブルの下に身を屈ませる。

「なッ…………ッ!!」

 激しい揺れと、地鳴りの原因は地震じゃなかった。

 僕以外のみんなが、腰掛けたままその場で激しく足踏みをしていたのだった。

「むふううううう!」

「ふ、ふむうううう!」

「ッ…………ふんッ!」

「ふむむむうッ! むふうう!」

「……………………ッ!」

 意味をなさないことを叫びを上げながら、テーブルがひっくり返るんじゃないかと思うくらいに、みんなが激しく足踏みをしていた。

「「「「「むッふぉおおおおおおおお!」」」」」 

 まん丸に目を剥いて、メタルバンドのライブでのヘッドバンキングのように頷き合い、両手を打ち振っている。

 そして……。

「なんじゃこりゃあッ! うまあああああああああああああああああああぁッ!」

 ゲストと一緒に料理の素材の収穫をして、日本の農漁業のすごさを伝える旅番組のMCのように大声を食堂に響かせたルーデルの雄たけびが皮切りだった。

「んはああぁ……ッ!」

「おほおおおッ! こ、これは、これはあッ!」

「まああッ!」

「わあああッ! おいしいッ!」

 あるいは体全体を震わせて。

 あるいは瞑目して。

 あるいは背筋を仰け反らせ。

 またあるいは、自分を抱きしめて。

 そしてあるいは、にっこりと破顔して。

 食堂に響き渡る歓喜の声に、僕はしてやったりとにんまりしたのだった。




御愛読ありがとうございます。

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