転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第54話 いつの間にか調理の役割分担ができてしまっていた件について

 ヴィオレッタお嬢様たちに野菜の買い物を頼んで、僕は、別行動で昨日フォークを受け取りに来たフゴル親方の野鍛冶工房に来ていた。

「親方! 昨日の今日で申し訳ないんだけど!」

 僕はここで、あるものを分けてもらえないものかと相談しに来たのだった。

「おう、あんちゃん。昨日の今日でなんでえ?」

「いや、急にね薄い鉄板が必要になって……あったら分けてほしいんだけど?」

「おう、いいぜ大きさは?」

「これくらいかな」

 僕は両手の親指と人差し指で四角を作る。

「ちょっと待ってな、切り出してやる」

 金鋏を携えた親方が、何を作るんだと聞いてきたので僕は、頭の中にあるイメージを伝えた。

「ふむ、それなら、お前さんが作るより俺が今ここで作った方が早いな」

 そういって、親方は鉄板を切り出すが早いか槌音を響かせ始めた。

 そして、あっという間に僕が伝えたイメージ通りのものを作ってしまってのだった。

「なんに使うんだこんなもん?」

 フゴル親方が、二足歩行する猫でも見るような目つきで、たった今自分が作ったものをしげしげと眺めている。

 発注してから僅か二十分位の早業だ。鍛冶職人レベル99は伊達じゃない。

「ふッふッふッふ……。それは、いわば革命です!」

 僕は、自分の言葉に酔い痴れる詐欺師のように言った。

「おいおい、物騒だな。だが、こんなもんじゃ国王軍どころか、この街の下っ端衛士でさえ倒せないだろうぜ」

 フゴル親方の呆れ顔に僕は眼前で手を振る。

「ああ、いえ、そのままの意味じゃなくて、食事……料理の革命なんです」

「ふん、食事の革命なぁ……。そういや、こないだ作ったふぉーくの使い心地はどうだ? あんちゃんにもらったやつ、使ってみてるんだが、家族におかしな目で見られちまって、肩身が狭いぜ。まあ、喰いもんの汁で手が汚れねえだろってごまかしちゃいるがね。いや、実を言うと、俺の仕事ってのは、見ての通り、手が汚れるんでな、メシの前に洗っちゃいるんだが、長年の仕事で染み付いちまった金屑汚れってのは落ちなくてよ。その手で飯を食うのがちょっと気が引けてたんだ」

 ちゃんと使ってくれてるんだ。律儀な人だな。

「バッチリです。手に持ったときのバランスといい、収まりのよさといい、理想的です。親方も、使ってくれてありがとうございます」

 親父さんは仕上がりを確認するために眺めていた僕の注文品を手渡してくる。

「ほいよ、こんな感じでどうだ? 代金はいらねえよ。なぁに、俺みたいな街の職人には一生縁がない祝福なんてもんをあんちゃんのおかげで受けられたんだ。これくらいじゃお礼にもならねえよ」

「はい、イメージどおりのできです。ありがとう。急なことなのに応えてくれて感謝です。これで、今晩の食事がおいしくなります」

 僕はできたての新兵器を眺めうっとりとする。

「いいってことよ。いつか、お前さんが作ったメシ食わせてくれよ」

「もちろんです。ああ、親方にあげたフォークだけど、もう、しばらく使ってみてください。それで、お腹をこわす回数が減ったらご家族にも勧めてくださいね」

「そうだな、そんときゃ作らせてもらうよ。もちろんお前さんには、アイディア料を払うぜ」

「それは、ありがたい。じゃあ、ついでと言っちゃなんだけど、フォークの追加製作もお願いできますか?」

 僕はフォークの追加生産生産を依頼する。

「おお、うれしいね。それなら、前と同じ数なら金貨三枚だ。こないだは初めて作るもんで手探りだったからあの手間賃をもらったが、今回は、それでいい。納期は、そうだな三日後でどうだ?」

「ずいぶん早いですね。それに大分お安い。それでお願いしたいけどいいんですか?」

 僕は、財布からお金を出そうとする。ちゃんと、ヴィオレッタお嬢様からもらってきている。

「ああ、言ったろ、祝福のお礼さ。それから代金なら納品のときでいい。二回も仕事をくれたお前さんはもうお得意さんだし、使徒様のお知り合いが踏み倒しなんてするわけねえだろ」

 鍛冶屋の親父さんは白い歯を見せて破顔したのだった。

 イフェ様とルーティエ様に感謝だ。

 

「おそーい! ハジメぇ、腹へったぁ!」

「ハジメ! 今日のごはんはなぁに? わたし、お腹と背中がくっつきそうよ」

 待ち合わせの場所にすでに到着していたお嬢様方は、ご機嫌が傾き始めていた。

「ハジメさん、今日のスープも昨日と同じでいいですか?」

 ヴィオレッタお嬢様は、すっかりスープ係を自任しているようだ。

「ごめん! みんな。ほんとうは自分で作るつもりだったんだけど、鍛冶屋の親父さんが作ってくれるっていうんで、お言葉に甘えてたら遅くなっちゃいました」

「さあ、乗った乗った! 買い忘れはないよな」

「キャルク人の屋台、買占めしちゃったし!」

「今日もお野菜たっぷりのスープつくりますよ!」

「え? 屋台の肉買い占めて来ちゃったんですか?」

 たはははは……。どんだけ食べるんだろこのお嬢さんたちは。

 まあ、でも、今日のみんなの活躍具合を思い出すと……、うん、莫大なカロリー消費をしているような気がする。

 おいしいものをいっぱい食べて、エネルギー補給してもらわなきゃ。

 馬車の荷台から、後ろに流れてゆく街並みを眺めながら、僕はそう思ったのだった。

 

「よおし、始めましょう!」

「「「「おおおおおッ!」」」

 厨房には、ヴィオレッタお嬢様、サラお嬢様、そして、エフィさんがいる。

 リュドミラとルーデルは、一足先に応接間で干し肉をアテにエールを飲み始めている。

「では、ヴィオレッタお嬢様は昨日と同じスープを作ってください」

「はいッ! ハジメさん!」

 返事が早いかヴィオレッタお嬢様は調理台に飛びついて猛然と野菜を切り始める。

「ヴィオレ、スープ鍋にお水張っておきましたよ」

 一足先に帰宅していたエフィさんは、すでにスープ鍋に水を入れてくれていたようで、野菜を刻んでいるヴィオレッタお嬢様の傍にある魔石利用コンロにのせる。

 これは、炎魔法に設定した魔石を利用した調理器具で、魔力の放出量によって火力の調節ができるという便利な道具だ。

 僕が元いた世界で言うところのIHクッキングヒーターってところだ。竈みたいに場所を選ばないから、重宝されている魔道具だ。

「エフィ、ソーセージをお願いできます?」

 野菜を刻んだ端から鍋に放り込みながら、ヴィオレッタお嬢様がエフィさんにウィンクする。

「了解ッ! 縦四つ切りでいいですか?」

「そうですね、お願いします」

「了解ですッ!」

 軽い敬礼をして、エフィさんがウォークイン冷蔵食品庫に入ってゆく。

 うん、これでスープは大丈夫だな。

「ハジメ! わたしは? わたしは?」

 サラお嬢様も、昨日のアイスクリンの成功で気をよくしているらしい。俄然張り切っている。

「サラお嬢様、今日はゴブリン討伐でたくさん働いていただいたので、食事ができるまでくつろがれていた方がいいのでは……」

 とたんにサラお嬢様の頬がハリセンボンのように膨らむ。

「あ、あ、あ、あ、いや、お願いしたいことはあるんですよ。サラお嬢様がきっと一番上手にできることです。お嬢様方が買い占めてきたお肉、これを暖めてほしいんです」

「うん、どうすればいいの?」

 僕は、鉄製の鍋を調理台に置いた魔石利用コンロにおいて、お嬢様方が買い占めてきた大量のケバブの肉をぶちまける。

「このコンロの魔石に淹れたての熱いお茶くらいに温まる魔法を設定してほしいんです。それで、この鉄鍋を暖めてほしいんです。この料理も温かいほうがよりおいしいですからね」

 僕がほしい温度は、魔石コンロにデフォルト設定されている炎魔法では強力すぎるのだった。

 バイキングとかで、料理が暖かいまま並べてあるアレが欲しかったのだった。

「うーん、炎魔法じゃ強すぎるなあ……。あ、そうか! できるよハジメ!」

 そういって、にっこりと笑ったサラお嬢様はコンロの魔石に指を置いて、なにやらつぶやく。

「ヴァリューシュ!」

 そう小さく叫んだサラお嬢様はにこりと笑う。

「これで、このコンロの炎魔法は解除したわ、今度は、私の魔法を設定するね」

 そう言ってサラお嬢様は歌うように呪文を唱えながら魔法コンロの上に魔法陣を描き始める。

「この魔石に宿れ! 小さな太陽プチソレイユ!」

 鉄鍋をのせたコンロの魔石が夕日のような色に輝き始める。

「今、一番弱くしてあるから、温度確かめてみてハジメ!」

 鉄鍋をどけて手をかざしてみる。使い捨てカイロくらいの温かさが伝わってくる。

「流石ですサラお嬢様! 今日はほんっとに大活躍ですね」

 サラお嬢様の頭を撫でる。

「むふふふッ! この魔法、冬のお布団の中でよく使うの」

 サラお嬢様はフンスと胸を張り、アゴを上げて、喉を撫でられている猫のように目を細める。

「暖を取るための中級生活魔法なんですよハジメさん。でもほとんどの人は生活魔法なんて初級でやめちゃう人がほとんどなの。中級生活魔法なんてほとんど必要とされませんから」

 ヴィオレッタお嬢様が、サラお嬢様の習得している魔法のすごさを教えてくれる。

「ほんとうにすごい方なんですねサラお嬢様は」

 僕は素直にサラお嬢様に賛辞を贈る。

 サラお嬢様のアゴがさらに上がる。このままではふんぞり返りすぎてロールパンになっちゃいますよ!

「ふう!」

 僕は軽くため息をつく。今日もおいしいスープと、おいしいお肉料理は確保できたようだ。

 では、僕も今日のメインに取り掛かるとするか!




毎度御愛読、誠にありがとうございます。

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