お待たせしました、では投下します
さて、転生してはや5年。明治22年、西暦になおせば1889年の帝都 東京にある真新しい洋館の一室に俺こと
「1889年か……明治維新から凡そ22年、欧米式の近代化が進んだ事によりサムライは消え武士が中心となる時代は終わり平民が力を握る時代が来た」
この時代ではかなり高価であろう透明度の高い窓硝子の奥、外の風景でなくそれに反射して映った自分の姿を見つつ俺は考える。
「日清戦争まで5年か、流石に戦場には直接介入出来ないがせめて後方、補給線の安定と傷病の悪化による死者の減少くらいはやらないと」
日清戦争、1894年7月25日から1895年11月30日に掛けて行われた日本と清国の間に行われた戦役であり日本が大日本帝国として纏まって初めて行われた二国間戦争である。日本側が投入した戦力240,616名、対する清国側が投入した戦力は630,000名であったが結果は日本側が戦死者数13,824名、清側が35,000名の総戦死者数48,824名の屍を積み上げた上で日本の勝利に終わる。日本に対しこの勝利は多大な利益を齎したが、それと同時に日本に齎した損害、補給の脆弱さによる前線での物資不足やそれによって治療が満足に受けられず亡くなった将兵、更に戦後凱旋した将兵から拡大した疫病の蔓延や労働力の不足した貧村での身売りや餓死者の多発とその二次災害は大きくそれは後々への禍根を多く残している。恐らく、それはこの後続けて発生する日露戦争によってより顕著になるだろう。臣民の苦しみを憂い暴走した下士官や共産主義者が増える訳だ、なんせ彼らの多くはそんな災害の影響を受けた貧村出身者なのだから。
「だからと言って一個人で出来る事は少ない……それに全ての人を救うなど不可能だ。個人の力など高が知れている、一企業でもその両の腕の届く限りしか手は届かない、国家でも取り零す、世界ならもっと取り零し見落とすだろう。即ち、全ての人を救う事など事実上の不可能だ」
だがやらねばならない、やらずにはいられない。ただが一国、それくらい救って見せずして世界を、未来を変える事など夢のまた夢だからだ。
「よし、取り敢えず日本で世界初の有人動力飛行機飛ばそう。んでもってその有用性を理解させよう、そしたら史実よりも軍の巨艦巨砲主義への傾倒もマシになるだろう」
思い立ったならすぐ行動、史実でライト兄弟が正式にライトフライヤーを飛ばすのが確か1900年頃の筈だから今からなら11年ある。大人をさり気なく誘導して焚き付けてグライダーを飛ばす位なら5年以内にできる筈、木製の布張りでしかも骨格も肉抜きすればかなり軽くなるし完成形を知っているアドバンテージがこっちにはあるから形だけなら完璧に出来る。エンジンの方は……今の日本じゃ無理だな、最低でも10馬力は欲しいし重量の問題から考えてディーゼルエンジンがドイツで出来るまでは無理だ。よし父上に輸入して貰おう。
最悪家族や親しい人にはやりたくないし暴走の可能性も考えればあんまりやりたくはないがギアスだって使ってやる、背に腹は代えられない。
「と言う事で先ずは父上に
前世を基準にすれば必要以上に甘やかしてくる父親の善意を利用する事に罪悪感も感じるがそうしないと将来自分が苦労すると言うか下手するとあっさり死んでしまうかもしれないので、俺はその罪悪感は今世の両親にこそ前世の両親には十分に出来なかった親孝行をする事を心に決め封じ込める。
そして父親に強請る序でに最近は仕事が減って少し暇しているらしい造船所のチョームッキムキだけどその姿に似合わず無駄に手先が器用な陽気な親父達も巻き込んでみるかと考えつつ俺は休日の父親の居る書斎へと突入した。
「父上ー、ボク空を飛んでみたいです!」
尚、父親と親父達を巻き込んだその結果、3年と言う俺の想定を遥かに上回る速さでグライダーが完成し、1902年にはまさかの有人動力飛行に成功する事となるのは流石に俺でも予想出来なかった。
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朝から暫くして
「御国中将、お加減は如何ですか?」
「ん、悪くはないな。済まないな明石さん」
「あー……中将、御国中将は中将ですから呼び捨てで呼んでいただけた方がその……ですね、しっくりくるというかなんと言うか……そう、畏れ多いんです!」
「いや……だが……」
たかが名前の後に「さん」を付けただけであって俺からすれば普通の事であったのだが、それで彼女から返って来た告白に俺は何とも言えなくなる。
確かにトラック泊地では
そう思った俺だったが泊地にいた頃、明石にただでさえクソ忙しいところに照明弾の改良のお願いをして無理して改良して貰ったり、第4艦隊の旗艦として泊地にいた夕張の小規模改装をお願いしたり、ちょっち哨戒任務に出た先で鹵獲した米巡洋艦や駆逐艦、潜水艦を曳航して調べといてと押し付けた事を思い浮かべ「それか」と今更ながらその理由に気付く。
……いや、悪いとは思ったんだよ?でも照明弾の不調も偶々俺が乗り込む時に限って夕張に
がしかしその照明弾を開発したのも。夕張の建造に関わったのも、米軍が自身を目の敵にして猛追してくる理由を作ったのも自分であるので一概には運が悪かったとも自分は悪くないとも言い切れないのが辛いところである………自業自得と言って仕舞えばそれまでではあるが。
「……じゃあ『明石』、これで良いな?」
「は、はい。是非ともそれでお願いします」
「だがその代わり俺の事を
「えっ……ええ……な、何とお呼びすれば……?」
「七海中佐と同じ『夏海さん』とでも呼べば良いだろう。但し『なっちゃん』とか『オレンジ』とかは辞めてくれ、前者はともかく後者は俺の台詞だから」
「?……台詞?ええと……では『夏海閣下』では?」
「いやいやいや何でそうなった⁉︎取り敢えずその発想からは離れようか明石」
一先ず明石の事を呼び捨てで呼ぶ事した俺だったが明石がいつまでも俺の事を階級で呼んでいるとこうやってわざわざ秘匿している意味が薄れて、最悪何かの拍子に外部に漏れる可能性も高いので訂正させようと彼女自身にそのアイディアを聞いてみると何と帰って来たのはさっきまでの階級呼びとまるで大差が無い呼び方の発想であった為に俺は間髪入れずそれにツッコむ。
「だ、駄目でしょうか?」
「いや、どう考えても駄目だろう。そもそも面識が無い筈の別世界人相手にそう言う呼び方は不味いに決まっている、寧ろ違和感しか感じさせないだろう」
「うっ」
俺の正論に声を詰まらせる明石に若干の呆れの混じった溜息を吐く、正直「なんでさっ⁈」と思いっきりツッコんでやりたいところではあるがそうしても埓が明かないので俺はこれからは「夏海さん」と呼びなさいと
「…………」
「…………」
……が、いざ解決してみると互いに会話をするキッカケを失ってしまい何と話せば良いのかがさっぱり分からなくなってしまった。
………………
静寂が医務室の中で流れる、唯一音を立てて居るのは今時珍しい揺れる振り子とゼンマイにより時を刻む大時計が一定に刻む音色だけであった。
バァーンっ
が、それも長くは続かなかった。唐突に、そして全くの前兆もなくいきなりこの医務室の扉が大きくしかも盛大に開かれたからである。
「ヘーイ!新しく来たビジターとは貴方の事デ……ス……カ…………」
「お、お姉さま⁉︎だから駄目ですってさっき提督が安静中だから立ち入り禁止だって言っ……て……た…………」
「比叡お姉さまそう言いながらも入っては意味が…………え゛っ」
「……もうどうとでもなれ……あと、それなら榛名お姉さまも入るの駄目なのでは?とっ失礼し……ま………す…………」
この部屋の扉が勢いよく開け放たれ突入して来たのは4人、まず1人目は頭の両サイドにフレンチクルーラーの様な巻き髪を作りその頂点には1本の
そしてそんな4人組であったが突入した順、つまり今ベッドに横たわっている俺こと御国夏海を見た途端に言葉を失って固まってしまった。
「あちゃー……まさかこんな堂々と特に理由も無く乗り込んで来る娘がいるなんて想定外です」
頭が痛そうにその両手で頭を抱える明石の傍ら、ついその状況にいつかのデジャヴを感じてしまいただただ、苦笑いを零す事しか俺は出来なかった。
特徴的なのですぐわかると思いますが一応上から順に金剛、比叡、榛名、霧島です。
No.182/187
▪︎明石型工作艦1番艦 明石
起工 1937年1月18日
進水 1938年6月29日
竣工 1939年7月31日
建造所 佐世保海軍工廠
全長 160.0m
全幅 155.0m
深さ 14.4m
喫水 7.2m
基準排水量 12.000t
主機 御国37式ガスタービン複合機関×4基 4軸推進
最大速力 20.5ノット
乗員 775名(内、工作部 450名)
兵装 対空電探連動式20㎜機関砲
対空電探連動式40㎜連装機銃
搭載艇 12m内火艇×2隻
12m内火ランチ×3隻
9mカッター×2隻
30t係船桟橋×2隻
搭載機材 ドイツ製最新鋭工作機材
御国工機製最新鋭工作機材
レーダー 試作対空・対水上電探
ソナー 艦首バウ93式水中聴音探信儀
連合艦隊に僅か3隻しかいない明石型工作艦そのネームシップたる1番艦の明石です。
三姉妹の長女である私は次女の三原と共にトラック泊地に進出、途中あの娘は戦線の悪化から内地に引き揚げる中私は前線で損傷した艦艇の修理を担当し続けたわ。そう……トラック泊地が壊滅するその日まで、前線の艦隊を陰で支えたのよ。
よろしくね?