とある邪なる左側《Fall en Diaboli》   作:まん丸のお肉ん

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1章 未完成と落ちこぼれ
003 初対面


 完全下校時刻が過ぎ、日が沈みかけ茜色に染まった空の下。

 人けのない路地裏を使って叶聖邪は学生寮に向かっていた。

 

(かみじょーわちゃんと学校に行ったかなー)

 

 謎の銀髪シスターと2人きりの密室で一線を越えていないか――などという心配ではない。ただ単に当麻が学校に行かなかった場合、担任から連絡を任された聖邪が後で罰を受ける事になるからだ。

 歩みを止め愛用のスマートフォンを取り出し着信履歴を確認したところ誰からも着信は来ていない。この時間まで連絡がない事からちゃんと学校に行ったと確信し、再び歩き出す。

 近くにあったコンビニに寄り、好物のサンドイッチとイチゴオレを購入した後、購入物の入った袋をブラブラ揺らしながら再び路地裏に入り、最短ルートを使って足早に寮へ向かう。

 

 

 

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 学生寮に到着するのに時間はかからなかった。寮が視界に入ってからは上がった心拍数を落ち着かせる為にダラダラと歩き出す。

 

その時だった。

 

 

 

空から当麻が落ちてきたのだ。

 

 

 

聖邪は落ちてきた当麻に近寄り声をかける。

 

「なーにやってんだー?」

 

「上だ!!上!!」

 

「うえー?」

 

 当麻が指差した先で人間の形をした巨大な炎の塊が学生寮の2階の手すりから身を乗り出して2人の方を見ていた。巨人は当麻を追おうとしている様に見えるが、何故か2階から下がってこない。

 

「なんだあれー、発火能力者(パイロキネシスト)の仕業かー?」

 

「……魔術師」

 

そのワードに聖邪は唾を飲む。

 

「アレはインデッ…今朝の俺の部屋に居たシスターを追ってる魔術師が出したんだ。なぁ叶、俺には魔術の知識なんてない。けどお前なら何か分かるんじゃないのか!?」

 

今朝のシスターの言葉を思い出す。

 

 魔術師と名指しされた聖邪に希望の視線を送る当麻。しかし魔術師と接触するメリットはない。そもそも聖邪にはほとんど魔術の知識などなかった。

 

そこで一つの疑問が浮かんだ。

 

「お前の右手じゃ駄目だったのかー?」

 

「試してはみたけど、直ぐに再生しちまう」

 

 現状、当麻の右手は使えないと判断した聖邪は左目に着けていた眼帯を外し心の中のもう1人に語り掛けた。

 

(なーせんせー、アレわ一体なんなんだー?)

 

 右目とは全く色の違う、金色に輝く左目に炎の塊を映す。

 

("アレは『魔女狩りの王(イノケンティウス)』だな。そこの少年が言った再生するってのは『ルーンの刻印』のせいだろう。アレは『ルーンの刻印』を消さない限り永久に蘇る")

 

 初めて聞く単語が多く処理に少し時間がかかったが、最終的にルーンを消す事にした。

 

「かみじょーわ魔術師の方に行けー。次あのバケモノに右手をお見舞いする時にゃー消えるよーに対処しとくぜー」

 

「ルーンを消すのか?」

 

 聖邪は一瞬耳を疑った。魔術知識のない筈の当麻の発言に。しかし直ぐに悟った。今朝の銀髪シスターから何等かの情報を既に入手しているのだと。

 

「そーだー」と一言、聖邪は告げると走って階段を使って2階に向かう。

対する当麻はエレベーターを使って魔術師の居る7階に向かった。

 

 

 

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2階に到着すると魔女狩りの王はそこに居なかった。

 

(敵視してるのわかみじょーだけのよーだなー)

 

 手に持ったままの眼帯をポケットに突っ込みながら辺りを見回すと、階段の隅や天井に怪しげな記号の書かれたコピー用紙の紙切れがセロテープで貼られていた。

 

(コピー用紙なんかでもいいのかー……)

 

("他の階にも『ルーンの刻印』(これ)を撒いているだろう。私の魔術を使って除去するには時間がかかる")

 

(『ルーンの刻印』は消えれば(、、、、)良いんだよなー?)

 

 その身に宿るもう1人の自分に確認を取り、エレベーター横に設置された火災報知器の目の前に立つ。ビニール袋を適当に放り、右手人差し指を右耳に差し込み左耳は左肩で何とか塞いだ後、空いた左手で赤い円の中心を強く押した。

 

 直後、爆撃の様な轟音が建物を包んだ。耳を塞いでいた聖邪だが、予想以上の音量に身震いする。

 爆音から1秒と経たずに取り付けられたスプリンクラーから大量の水が吹き荒れコピー用紙に猛威を振るう。天井や壁から剥がれ落ち、そこに描かれた『ルーンの刻印』は大量の水によって徐々に薄れ、最終的には殆どのコピー用紙が濡れた紙となった。

 

("粗方片付いた様だが、所々残っている様だぞ?")

 

 面倒臭そうに息を深く吐き、脱力した聖邪は階段の壁に残ったコピー用紙に目をやる。やれやれといった様子でコピー用紙を回収しに動いた時だった。

 

 カタッカタッと目の前から足音が聞こえてきた。咄嗟に外していた眼帯を付け直し来る人(?)に備える。

 

「よぉチビ助」

 

上がって来たのは聖邪のよく知る人物だった。

 

「――つちみかどー?」

 

 クラスメイト兼、同じ寮で部屋を借りている土御門元春であった。

彼は口から垂れた赤い液体を拭いながら聖邪に近付き、背後へ回る。

 

「話がある。場所を変えるぞ」

 

 カチャリと、金属音が鳴り背中に何かを突き付けられる。

聖邪はそれが何か直ぐに悟った。普通の学生ならまず手にしないであろう代物。

彼は右手には黒くテカリのない拳銃を握っていた。

 

 コピー用紙を剥がすより面倒な事態になった聖邪は大人しく両手を頭の後ろへやり、階段を下りる。その後ろに寄り添い、周りから拳銃が見えない様に配慮しながら人けのない路地裏へ誘導する。

 

 

 

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 路地裏にも色々な場所がある。

人一人通れる、もしくは猫並みの動物が通れる建物と建物の隙間や、ビルの使用上作られたある程度の空間etc...。今回は後者だった。

 

「お前が窓のないビルに出入りしているのは知っている。魔術を使う事もな」

 

聖邪と少し距離を取り、銃口を後頭部に向けた。

 

("予想より早くの接触だな")

 

(まさかつちみかどが魔術師とわなー)

 

無言で交わされる会話。元春はそんな事などつゆ知らず再び口を開く。

 

「どこに所属している?ローマかロシアか?それとも別の新教か?何が目的でいつから居た?」

 

次々と吐き出される質問に魔術知識が殆どない聖邪は二つの疑問を抱いた。

 

 魔術組織の存在。

魔術師の学園都市への侵入理由。

 

「まさか、あのシスターを追っている訳じゃないよな?」

 

 銃を向けられている限り迂闊に動く事が出来ない聖邪は一か八かの賭けに出る。咥えていたマウスピースを舌を使って外し、吐き出した。直後、ババンッ!!という爆発音が建物に囲まれたスペースに響き渡る。元春は聖邪が吐き出した物の正体を目だけを動かして確認する。

 

(……マウスピース?)

 

 再び聖邪の方を見ると、夏用のワイシャツの右袖から血が流れている事が分かる。引き金を引く直前に的をずらし、右肩に当たるように撃ったのだ。

 

「次変な動きをしたら頭を撃つ……?」

 

 威嚇する元春はカッカッカッというスマホ画面を爪で叩いたような音が微かに聞こえた。音の正体を探る為に視線を周囲に向けるがこの場に2人以外の人はいない。ましてや生物も居なかった。

 そうしていると地面が心なしか熱を発している事に元春は気付く。しかしその熱は直ぐに消え、入れ替わりで深い霧が発生した。この現象は聖邪が起こしていると判断し、咄嗟に引き金を数回引くが既に聖邪は霧の中に身を隠していた。

 

「俺わ質問攻めされて興奮するよーな変態じゃないぜー?」

 

 音は消え、聖邪の声が聞こえた。建物の壁に反響し聖邪の位置を掴めない元春は気配を探る為に目を瞑る。

 

「聞きたい事わ山積みだがお前わ話さないんだろうなー」

 

 直後、シュルシュルッという衣擦れのような音を元春は聞いた。その音に反響はなく、何処から鳴っているのか即座に判断し、銃口を向け引き金を引く。弾が当たったかは分からない。反応もない。しかし確実に視線を感じる。銃を下げず警戒を続けたが、次の瞬間、音もなく首を掴まれ数センチかかとが浮く。徐々に酸素が抜け意識が遠のいて行く。掴む手を引き剥がそうと銃を捨て、両手を首へ持って行くがそこある筈の手はなく、近くにも人の気配はなかった。

 

 酸素が尽き、元春が意識を失った直後、霧が晴れ元春から少し離れた所で聖邪の姿が現れた。

 放った包帯を拾い上げ付着した砂ぼこりをささっと落とし、無駄のない動きで包帯を巻き直した後、眼帯を外し、元春に近付き瞑ったまぶたを開け、顔を覗かせ、呟いた。

 

「――"私の眼を見よ(Reimeto)"」

 

 金色の瞳の奥には魔法陣のような模様が動いていた。魔法陣の映る目と目が合う時、一見変化はみられないが、元春の記憶は確かに一部消された(、、、、、、)

 

 眼帯を着け、魔術師に関する事わ明日確認しよう、と予定を決めながら吐き出したマウスピースを拾いに行く。流石に洗わないと着けれないなー、とため息交じりに呟きながらポケットにしまった後、小さな体で元春を担ぎ、路地裏を後にした。

 




土御門の記憶に関して補足します。

魔術を使う叶の記憶は消えましたが、クラスメイトとしての叶の事は覚えています。
魔術師(叶)を追跡をしていたという記憶も消してます。


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