報告書を書いていて徹夜してしまっていた。まぁいい。とりあえず学校行かなきゃな。しかしなんでまぁ、面倒だ。仕事よりも面倒としか思えない。この年齢なら仕方ないものだが……毎朝憂鬱だが何故か今日は特段憂鬱だった。きっと徹夜のせいだ。溢れる眠気と戦いながら朝のホームルームが始まって、転校生が来たと担任が言い、クラスが盛り上がる。なるほどやっぱそうだよな。俺も転校生としてきた時そうだった。
「三好夏凜です、よろしくお願いします。」
夏凜の自己紹介は簡素なものだった。
担任は夏凜の転入理由とか編入試験の結果がほぼ満点とか、そういう話をしていた。確かに一般生徒にはそれで十分。だが、俺ら……これには語弊があるな。勇者と記録者にはそれだけでは情報が足りない。しかし俺はこうも思った。
「……そう来たか。」
時は流れて部室で風先輩はそう言った。奇しくも俺と一言一句変わらず。実際素性を隠して転入するのは難しくはない。大赦のバックアップがあれば、という縛りはつくが。
「転校生のふりなんてめんどくさいわね……けど、私が来たからには安心しなさい。完全勝利よ!」
「その自信はどこから来るんだ全く……ふぁぁぁ……」
「ちょっと、何眠そうにしてんのよ!勇者でもないあんたが私にケチつけるの!?」
「眠いだけだ……なんせ徹夜で報告書書いてたから……悪いな。」
「だったら仕方ないわね……全く、体調管理気をつけなさいよ。あんたはすぐ倒れてたんだから。」
「いつの時代の話だよ。」
根はいいやつなのは変わってなかったようだ。
だが、俺はいいにしてもこいつらは少し違う。
「どうして最初から来なかったのですか?」
東郷が口火を切って質問した。勇者部質問ラッシュが始まるな、俺はそうだった。俺の場合は先輩に話が通ってたから楽っちゃ楽だったけど、かなりいろいろ聞かれた。
「そりゃ私だって参戦したかったわよ。けど、大赦は二重三重に準備をしていたの。対バーテックスの切り札たる完成型勇者、それが私。私の勇者システムはあんたたちの戦闘データをもとに最新版にアップデートされてるわ。さらに、勇者は戦闘経験値を溜めることで、切り札である《満開》が使えるわ。《満開》はそれだけで通常の数倍以上の戦闘能力を引き出す事が出来、勇者のレベルが上がるの。」
「そういう夏凜もレベル1だろう?」
「そうなの?」
「うっ、そうよ。」
「なんだ、期待して損したわ。」
「んなっ!?」
夏凜の説明をよそに勇者部ははっちゃける。
まぁ、発端は俺だけど……夏凜的には俺の変貌ぶりも含みで酷いものを見ている気分だろうが……さてどう出る。
「あんた達ねぇ……」
「先輩、脱線し過ぎる前に次行きましょう。ここに所属する以上、夏凜も勇者部に所属しているわけですし。」
「ミーティングサボり気味のあんたが言うの!?けどまあそうね。じゃあ樹、頼んだわよ。」
流れるように次の議題へ。え?原作より一日早い?気にするな。それは俺のせいだからな。
「う、うん。こほん、今週の日曜日に近所の児童館でお楽しみ会を開きます。内容は、折り紙を教えたり、一緒に遊んだりします。」
「夏凜は……ドッジボールの的とかだな。」
「ちょっと待ちなさい昇。なんで私も入ってるのよ。」
「予想通りの反応ありがと。先輩、説明よろしくです。」
面倒は丸投げ。面識というものは武器だな。相手が分かれば対応できる。
「ミーティングサボり気味のあんたが言う?まぁいいわ。部活、勇者部に入部申請したでしょ。」
「形式上、仕方なくだろ?」
「言葉を読むな!そうよ、形式上よ!」
「え?じゃあもう来ないの?」
友奈の援護射撃。これは助かる。
「また来るわよ、御役目だからね。」
「うん、じゃあ入部しちゃった方がいいよ!うん!ようこそ勇者部へ、夏凜ちゃん!」
「いきなり下の名前……!?」
「嫌……?」
友奈さんや、今の声のトーンは東郷さん的にポイント高いのでは。結構ズキュンって来るよ、俺にもかなり来た。
「嫌、じゃないわよ。昇だってそう呼んでるし。」
「おうおう、俺を引き合いに出すなー。」
「手のひら返し!?」
「ほうほう、もしやお二人はそういうご関係であらせられるのでしょうか。」
『違う(わよ)!』
先輩がよくわからん発言をしたところで下校を促すチャイムが鳴った。もうそんな時間か。報告書持ってくか。
「じゃあ俺は本庁行きますのでお先します。」
「緋月ー、たまには一緒にうどん屋寄ってもいいんじゃないの?」
「じゃあ俺の代わりに夏凜でも呼べばいいじゃないですかね。」
「行かないわよ。私もやることあるし。」
「ちぇ、つれない奴ら。」
「はいはいわかりました。たまにですよ?今日は無理ですが。じゃ、俺はこれで。」
「またねひーくん!」
友奈に見送られ途中まで夏凜と校舎内を歩くことになった。訓練の時本部を歩くのもこんな感じだったな。
「あんた、しばらく見ない間に変わったわね。」
そうだろうか。俺は変わったとは一切思わないが。けれど、大赦にいた頃と比べると若返ったような気がする。
「若返ったから、かな。」
「は?」
「いいや、忘れてくれ。精神年齢の話だ。」
「全く……つかみどころがないのは変わらずね、ほんと。」
「そっちはいまだに掌握圏内だけどな。」
「うっさい!」
他愛もない話だ。同年代とこういう話はめったにしない。そりゃ今は学生なんだからクラスメートもいる。話しかけてくれるやつもいる。けれど、そいつらとは距離がある。それもそうだろう。そいつらは俺らの知る世界存亡をかけた戦いを知らない。でも、それは知らなくても良いことだ。知らない方がいい。知っている俺らが頑張ればいいだけの話だ。
「じゃあな、俺は本庁に行ってくる。」
「気をつけなさいよ。でも日帰りできる距離じゃないわよね。」
「あぁ、そうだったな。明日は休む事にするよ。」
「あんたねぇ……」
「どうせ上がフォローするっての。夏凜は気にするな。こっちの仕事だし。」
「別に気にしてないわよ!」
へいへい。
俺はそんな返事を飲み込んで大赦本部へ向かう電車が走る駅に向かったのだった。
次回、第9話「勇者部の暖かさ」
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