緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第6話 蒼の弾丸

讃州中学勇者部は昨日の初陣の勝利の余韻に浸ることもできず、まさかの二日連続での敵襲に対応せざるを得なくなっていた。しかも敵の数は三体。端末を確認すると、それは射手型、蠍型、蟹型だった。

 

「三体同時……!?」

 

先輩は驚愕しているが無理もない。ただでさえ単体でも大変だったのに、それが三体。けど、だからといって何もしなければ世界が滅ぶ。

 

「変身!勇者になーる!」

 

友奈が先を切って変身する。追って二人も変身する。東郷は……また今日も記録しながら行動を共にしなきゃならなそうだ。

 

「友奈ちゃん……」

「待っててね、東郷さん。倒してくる。」

「待って友奈ちゃん、私も……っ!?」

 

私も行く、そう言いたかったんだろう。だけど、やはり踏ん切りがつかないようだった。

 

「……ひーくん、東郷さんをお願い。」

「あぁ。さ、仕事の時間だ……っ!?」

 

一体だけ遠くにいる射手型から爪楊枝というか、槍のようなものが射出され、それが先輩を吹っ飛ばす。幸い大剣で防いだ先輩は無事だが、射手型から今度は爪楊枝のシャワーが放たれた。

 

「いっぱいきたー!?」

「二人とも、避けるわよ!」

 

姉妹は揃ってシャワーから逃げる。その間に友奈は射手型に接近する。そしてそれと同時に蟹型の周囲の棒らしきものが変質。浮遊する盾になって爪楊枝シャワーを反射する。反射した先には跳躍を繰り返し射手型に接近する友奈の背中があった。

 

「友奈ちゃん!」

 

東郷が叫ぶ。距離的には聞こえるはずもないが、まるでそれに反応したかのように友奈は振り返って爪楊枝を弾く。が、そのせいで友奈は跳躍分のエネルギーを使いはて、着地する。例え勇者といえど落下中もとい着地した瞬間は確実に無防備になる。その瞬間に、地中から蠍型の尻尾が友奈に攻撃、直撃したのであった。打ち上げられた友奈はさらに尻尾によってこっち側に飛ばされる。

 

「きゃあぁぁぁ!?」

 

先輩と樹が射手型と蟹型に手こずってると思うと、ここは友奈が自力で倒すか、東郷が戦うか、それとも四十枚だけしかない霊札でなんとかするか……実際問題俺が悩んでいる間にも友奈は尻尾からの攻撃を受け、それを精霊の牛鬼がガードしている。そんな状況だ。

 

「やめろ……」

 

どうにかしなきゃなと霊札ケースに腕をかけた時には俺は気づかなかったが、この瞬間に東郷はやめろと言った。近くにいても気づかなかったのはきっと言葉に込められた怒気のせいでいつもの東郷とはかけ離れた低い声が出たからだろう。

 

「友奈ちゃんを……」

「東郷?」

 

蠍型が友奈への攻撃の手……というか尾を止めた。東郷から湧き出る怒りに反応するように。

 

「友奈ちゃんを……いじめるなぁぁぁぁ!!!!」

 

瞬間だった。我ながらよく反応できたと思う。

蠍型は東郷に向けて尻尾を繰り出し、俺は盾になるように霊札を重ね、機動力がない東郷を守る。が、いかに神樹様の加護を授かる霊札と言えど、バーテックスの攻撃にいつまでも耐えられるものではない。それでも乙女型の爆弾は三枚で防げた。今回は十枚重ねたが、結論から言うと防げなかった。蠍という生物は尻尾に猛毒がある。バーテックスもまたその例に漏れず、というかバーテックスという英語の意味は頂点という。天頂。とどのつまり、奴の猛毒で霊札の盾はボロボロに朽ち果て、尻尾は東郷に向かっていって、止まった。

 

「これは……!?」

 

尻尾の先、閃光の中心。卵のような形をした精霊。ということはこれは精霊のバリア。

 

「私……いつも友奈ちゃんに守られてた。だから今度は私が勇者になって、友奈ちゃんを守る!」

 

いやいや、守るべき第一目標は神樹様なんだけどと喉まで出かかったがやめた。勇者に変身できたのなら理由はなんだっていい。それはさておくとして、蠍型は再び友奈に攻撃しようとするも東郷の銃撃が尻尾の先の針を破壊する。

 

「もう友奈ちゃんには手出しさせない!」

 

なんだろうこの認識のズレは。いいとは言ったけれども。ともあれ東郷は蠍型を退却させていた。凄いな……

 

「すごい、これなら……」

「行ける……友奈!そいつを赤いのにぶつけてやれ!」

「オッケー!おぉぉぉりゃぁぁっ!」

 

放り投げられた蠍型は見事に蟹型に直撃し、そのお陰でようやく爪楊枝シャワーが止まる。

 

「風先輩!そのエビ運んできましたー!」

「蠍でしょ!」

「どっちでもいいから!」

 

友奈と東郷が先輩達に合流する。追って俺も。

 

「東郷……戦ってくれるの?」

 

東郷はうなずいただけだった。

けど、その目を見れば覚悟は見て取れた。

 

「ならまずは蟹と蠍の二体を封印の儀ののち殲滅する。東郷、射手型は任せた。」

「ちょっと緋月!」

「不意の攻撃には気をつけて!」

『はい!』

「ちょ、私部長よ!?」

「こだわってないで先輩も行ってください!」

「あーもうわかったわ!手前の二体、封印するわよ!」

 

先輩の掛け声で一気に二体を封印し始める。蟹型からは赤い御霊、蠍型からは黄色の御霊が出現する。

 

「私、行きます!」

 

前回同様友奈がパンチを繰り出す。直撃すると思われた瞬間、御霊がパンチを回避した。まぐれだろうと思って何回か同じように繰り出すもやはり回避される。

 

「うー……この御霊、絶妙に避けてくるよ……」

 

まぐれではなかったようだ。どうも御霊というものは最後にささやかで面倒な抵抗をする。

 

「避けて友奈!」

「はい!」

 

友奈と入れ替わりで先輩が大剣で攻撃する。当然御霊は避けるが、先輩に秘策ありだった。

 

「点の攻撃をひらりとかわすならぁ!」

 

大剣を約四倍くらいの大きさ巨大化させる。あれ重くないのかな……?

 

「面の攻撃でぇぇ!押し潰す!」

 

巨大化させた大剣の面と地面に挟み撃ちさせるように御霊を誘導することで御霊を押し潰し破壊する。なるほど友奈を巻き込みかねん。無事一体撃破だがさて、蠍の方はどうするか。黄色の御霊は分身、というか分裂していた。多分、やみくもに壊していってもらちが明かなそうだ。

 

「数が多いなら、まとめてぇぇ!えぇい!」

 

樹がワイヤーを展開することで分裂した全ての御霊を一網打尽にし、一気に破壊する。どう考えても十分エグい武器だよね、これ。

 

「ナイス樹!あと一体!」

 

残った射手型は東郷と狙撃戦を繰り広げていた。恐ろしや、東郷。

 

「風先輩、緋月君、部室では言い過ぎました、ごめんなさい。」

 

東郷から回線、もとい電話が来る。俺は気にしてなかったけど、本人は気にしてたんだな。

 

「いいよ東郷、俺は気にしてないからさ。」

「東郷……」

「精一杯援護します!」

「えぇ、心強いわ東郷。私の方こそ──」

 

先輩が謝ろうとした瞬間に射手型に集中放火が浴びせられる。

 

「えっと、ほんとごめんなさい。」

「弱い!先輩の威厳ゼロ!」

「ともあれ今は封印だよ!」

「封印、開始します!」

 

射手型からは青い御霊が出てきた。さて、どんな抵抗を……!?

 

「んなっ……!?」

「この御霊、速い!」

 

目で追えない速度で御霊が射手型の周りを周回する。高さもそれなりにあり、樹のワイヤーで絡めとるにも速さがありすぎる。樹海の侵食のことを考えるともう時間がない。だが、そこに蒼の弾丸が撃ち込まれた。

 

「撃ち抜いた!?」

「この距離この速度でか……すげぇ……」

 

射手型が砂となり散っていく。かくして讃州中学勇者部の第二戦が終わったのだった。

 

 


 

 

「東郷さんカッコよかったーなー、ドキッとしちゃったよ。」

「友奈ちゃんこそ、けがはない?」

 

屋上に戻されてから数刻。あの二人はいつも通りの百合ギリギリを突っ走っている。

 

「ふぅ、なんとかなったわね……助かったわ東郷。それで……」

「覚悟は出来ました。私も勇者として戦います。」

「そう……ありがとう東郷。一緒に国防に励もう。」

「国防……はい!」

 

国防という言葉に強く反応したな。まぁそれはいいとして。

 

「まだ書き終えてないってのにまたさらに三枚の報告書を書かんといかんのか……」

「あぁ!課題忘れてた!」

 

奇しくも友奈と同じようなことを口走る。

二人して顔を見合わせ、『はぁ……』とため息をつく。

 

ともあれ、世界の平和は守られたのだった。

──少なくとも現段階では。




次回、「第7話 赤い勇者」

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