緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第5話 バーテックス

翌日、流石に部活をサボるわけにもいかず俺は報告書片手に部活に向かうことにした。一日では報告書は書き終わらない。なんせ書くこと多いから……

 

「さて、昨日の事の説明をするわね。」

「お願いします、風先輩。」

 

先輩は黒板に絵を書いてバーテックスの説明をする。

 

──バーテックス。

確か大赦の文献によると約三百年前に突如として現れた人類の敵。その文献もそこそこ傷んでいて読めない部分多々だったか。

 

「こいつらの目標は、人類の恵みの源である神樹様を破壊すること。そうならないように、私たち勇者がいるというわけよ。」

「参考までに、四国中に勇者候補生は沢山いたっていうことは言っとくよ。」

「そうね……たくさんいるから、選ばれない確率のほうが高いんだけど……」

「選ばれた、選ばれてしまったというこった。」

 

その他にも、バーテックス襲来時に展開される防御結界、樹海の説明や勇者システムの説明も同時にしていた。その説明が終わったのち、東郷から疑問が出る。

 

「先輩も緋月君も、そのことを知ってたんですよね。皆死ぬかもしれなかったのに……」

「東郷の言いたい事はわかる。けど、余計な混乱を避けるためにも守秘義務というか……秘密事項なんだよ。」

「だとしても……そんな大事なこと、どうして黙ってたんですか……」

 

東郷が退室する。俺は初陣の時近くにいたからわかる。東郷は自分自身よりも友奈が傷つくことを恐れている。そんな節がある。

 

「私、行きます!」

 

友奈が東郷を追う。友人として当然の努めといったとこか。

 

「あちゃー、やっちゃったかな……」

「いや、仕方のない事でしょう。東郷美森は、そういう奴ですから。」

「でも緋月先輩、東郷先輩と会ってまだ一ヶ月ちょっとじゃないですか。」

「まぁな。でもあのドンパチを近くでくぐり抜けたらわかる。嫌でもわかってしまうのさ……嫌でも。」

 

だがしかし、仲というか連携が拗れるのは些か面倒だ。さてどうしたものか……というかそんなことより報告書を進めねば。

 

「あぁ、もう!こう言うの苦手なのよね……今のうちに謝るの練習しておこうかしら……」

「謝罪に練習がいるんですか?」

「言ったでしょ苦手って!」

「分かりました分かりました……俺は報告書書きますからやるなら一人でお願いします。」

「じゃあ、私はいかにして東郷先輩とお姉ちゃんが仲直りできるか、占ってみます。」

 

占い、か。信憑性に欠けるけれど樹のは妙に当たるんだよな。だがこれは樹なりの状況解決法なんだろうな……と思い報告書に筆を走らせる。

 

その数分後。樹がタロットを並べ始める。

 

「樹ー、占えた?」

「今、結果出るよ。」

 

六枚のタロットを上から順にめくっていく。俺は占いには疎いからどのカードがどんな意味を持つのかは知らないが、四枚目のカードをめくってテーブルに置くとき、カードが空中で静止した。

 

「まさか……!」

 

鳴り響くアラーム。先輩の精霊がスマホをくわえて画面を見せる。間違えようもない赤い五文字。『樹海化警報』。

 

「まさかの二日連続……!?」

「待て待て、札の補充は四十枚しか出来てないってのによぉ!?」

 

そんな叫びも虚しく、世界は樹海となった。




次回、「第6話 蒼の弾丸」

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