緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第4話 封印

友奈が破裂させた腹部らしき部分を乙女型は再生させつつある。その間に勇者三名は合流した。

 

「やはり、か。いかに努力を積み重ねようと人間は奴らには勝てない。だがそれも二年前までの話……今は違う。先輩!」

 

スマホを手元に顕し、先輩に通話を入れる。

 

「緋月!?東郷は大丈夫!?」

「少しは俺も心配してください。こっちは札切れですが大丈夫です。そっちの殲滅は頼みます。帰れないのは嫌なんで。」

「わかったわ。樹!友奈!さっき説明した通りに!」

 

どうやら再生中にバーテックスの倒し方、封印の儀について説明していたようだ。だが乙女型バーテックスは今となっては元通り。無傷である。

 

「はい!」

「うん!」

 

二人の返事が電話口から聞こえる。さて、封印の儀の呪文は……毎回これ唱えるわけにもいかないな、隔世大神とか……初回だから友奈達は唱えてるけど……

 

「大人しくしろ!」

『えぇ!?それでいいの(かよ)!?』

「要は魂込めれば言葉は問わないのよ。緋月も知らなかったの?」

「知るよしもないですよ、俺は記録担当なんですから……」

 

まさか初回で省略するなんてな。それより……乙女型のバーテックスがなんか解体されていく。そして、四角錐形の何か、御霊と呼ばれる部分が現れる。

 

「なんかべろんと出たー!」

「それが御霊だ!そいつを壊せばバーテックスを倒せる!」

「それじゃあ、私が!」

 

友奈が御霊に攻撃する。

が、御霊も最後の抵抗といったところか。友奈が御霊の上で悶絶する。

 

「かったーい!この御霊硬すぎるよー!」

 

どうやら硬度がえげつなかったようだ。徒手空拳の友奈には分が悪かろう。

 

「お姉ちゃん、この数字何?なんか減ってるんだけど……」

「あぁそれ?私達のパワー残量。それが零になったら封印できなくなるの!」

「それはつまり勇者の敗北、世界の崩壊の享受となる。」

 

初戦殉職は嫌だったが、報告書を提出せずに世界が終わるのも勘弁願いたい。まぁ、もう俺には祈ることしか出来ないのだが。

 

「いきなりまずいわね……だったら、この私の女子力を込めた渾身の一撃をぉぉッ!」

 

先輩が大剣を無茶苦茶に振るって女子力という恐らく遠心力も含めた物理のエネルギーを御霊にぶつけ、御霊にひびを入れる。その傷を狙わないという選択肢はない。

 

「うおおりゃぁぁ!」

 

友奈がそのひび目掛けこれまた渾身の拳を叩き込み、御霊を破壊する。破壊された御霊は光となり空に虹の光を伸ばし、解体されていた乙女型は砂となり崩れた。

 

「どうだっ!」

 

着地した友奈は得意げだった。

 

 


 

 

いつまでも通話状態にするわけにもいかないので俺は通話を切り、メモに今回の戦闘の様子を簡易的に記録する。

 

「緋月君、それは……?」

「仕事さ。大赦の記録者としての、な。」

 

そう、俺の仕事はここからなのだ。

大赦規定の報告書は三枚。その全てを不備なく書くことは出来るが、提出するのがいかんせん面倒なのだ。わざわざ本庁に行かなければならない。報告したら多分上司共々と飲み会だろう。なんせこの世代初の実戦報告書だ。まぁ明日も授業あるし、報告は二日後の土曜日とするか。とまぁ、そんなことを思っていたら屋上に転送されていた。

 

「ふぅ……」

「あれ?戻ってる……」

「神樹様が戻してくださったのよ。因みに世界の時間は止まったままよ。」

「つまり、友奈は説教受けてる途中に消滅した、と言うことか。」

「えぇぇ!?」

「それ、大丈夫なんですか!?」

 

あからさまに狼狽する友奈と東郷と樹。

 

「フォロー入れてくれって上司に頼んどいたから平気だよ。多分な。」

「さすが早いわね、直属は違うわ。」

「それでも末端ですよ。さて、俺は報告書書きます……」

「ひーくーん、授業はー?」

「……忘れてた。」

 

時間が止まってたから……ある種の時差ボケが起きたな、うん。

 

 

 




次回、第5話 「バーテックス」

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