敵には残党がいた。
その事実は多少なりとも勇者部を震撼させうるもので、心配する者、気合を入れ直す者、そしてそれらを包み込む者がいた。
「さぁ来なさいバーテックス!勇者5人がお相手だぁー!」
...と、夕焼けの太陽に吠える先輩の姿は果たして何日前だったか。いや、メールに書いてたよね、『次の新月より40日』って。...つまりは今日なのだが、新学期始まってもう3週間。なんかもうそんなことは二の次な雰囲気がどこかしら彼女達には見える。
俺は定期的に園子様と雑談しに行ってたというのもあり、色々知ることは出来た。残酷な事実をたくさん知った。かいつまんで言うと、叢雲は本当は■■■■■■■からの護身用装備だということ、勇者には■■がいて、その起源は300年前にまで遡るらしいということ。後に大赦の文献を見ると、痛みは酷かった上にほぼ検閲済みという全く読めないものだった。辛うじて分かったのはかつて使われた精霊と、勇者の人数。精霊は7体で勇者は4人だった。判読出来たのはそこまでだ。
だがもちろんそんな話だけではなく好きなこととかそういうどうでもいい会話もちゃんとした。どうでもいいのにちゃんとしているのはいささか不可解なのだけどね。
で、だ。
俺はサラッと襲撃の日が今日であることを覚えている。それ相応の準備もしてきた。札を200枚補充しただけなんだけどね。後は何時に来るのかというのが問題なわけだ。もう放課後なんだよね。
「緋月ー。ひーづーきー。ちょっとー、聞こえてるー?返事しなさーい。」
「なんですか先輩...寝てたかどうかの確認なら起きてますよ...少なくとも意識があるか、という意味ではですが。」
「はぁ...相変わらずよくわからない返しするわね...通訳して夏凜。」
「丸投げするな。部長ならちゃんと人心掌握しなさい。」
「じゃあ無理ね。掌握してるのは夏凜の方だし。あたしの出る幕じゃないわ。」
「ちょっと風どーいう意味よ!」
...和気あいあいというか、賑やかに今日も勇者部は活動している。その賑やかさは多分いつもより増しているんだと思う。
「...そういえば、友奈。お前新しい精霊が来たんだって?」
「あ、うん。ってわぁ!?牛鬼も火車も飛び出てきたぁ!?牛鬼、他の精霊食べちゃだめだよ!?」
「えぇー...」
友奈を皮切りに先輩、樹、東郷、夏凜と、全員の精霊が飛び出てくる。その数なんと11体。サッカーチームが組めるしなんならバスケは普通に試合できる頭数だ。
《すごい量の精霊達ですね。》
「本当に賑やかだ〜、もう文化祭これでよかったりしないかなぁ?」
『ダメよ!』
東郷と先輩のダブル静止がかかってようやく精霊達はスマホに帰る。牛鬼は最後まで義輝を食べてたが...
「やっと落ち着いたわね...大赦が派遣した新たな精霊はいいけど、奔放な連中ね...」
「それになんで私にだけ新しい精霊が───」
サイレンが鳴り響いた。
危機感を煽るその音と赤く明滅する『樹海化警報』の文字。止まる時間と光る空。
「おいでなすったか...」
「そうね...上等よ、殲滅してやるわ!」
再び樹海を見ることになろうとは。
だがやることはいつだって同じ。
「仕事の時間か...記録者、緋月昇。樹海内戦闘状況を記録する。勇者五名、敵バーテックスを視認。形状は...双子型。倒したはずだが双子の名を冠するならば元々二体いた可能性が存在する。目標の速度は変わらず。神樹様への到達予想時刻は...12分後。速やかな殲滅を第一とせよ。」
──記録者として、記録するだけ。
次回、第23話 「邂逅がもたらす■■」
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