勇者部の面々に合流できたのは夕飯時だった。俺だけ1人部屋なのがどうも悲しいが...なんてことを思いながら旅館の浴衣に着替え、大赦の計らいで飯は勇者部の面々と共に食べることはできた。
「戻りました...」
「遅いわよ緋月君。門限10分前です。」
夕食が広げられた机と、こっちを見据える東郷。やれやれ、どこから突っ込むものか...
「お前は俺の親か東郷...ちなみに俺の両親も大赦勤めだから実際は親が門限破ってたね。」
「まぁまぁおまえさん、昇ももう14だぞ。」
「甘やかさないでください。」
次のボケは友奈が振り込む。なにこれ友奈が父親で東郷が母親?冗談キツイぜ...
「おいおい夫婦か...」
さすがに夏凜のツッコミも入る。まぁ、俺は俺でツッコミを入れさせてはもらうんだけど。
「夫婦だな。お前ら早く結婚したらどうだ...」
『えぇっ!?』
「冗談だ。」
友奈と東郷の驚愕を横目に、夏凜の右、東郷の対面に座る。
『いただきます。』
しかしまぁ...豪華絢爛といったところだな...食費の心配をしたくなるレベルだよ...
「これ給料から天引きされるとかないよな...すげー不安になってきた...大丈夫だよな...」
「どんだけ世知辛い考えしてんのよ...」
「学生が本分なのか仕事が本分なのか...俺自身もわかってない。それに学生あってこその仕事で仕事あってこその学生だからなぁ...今でこそ緋月昇は讃州中学勇者部の部員だけど、正式な所属は『大赦書史部記録課勇者様付樹海内状況記録者』だぜ?長いのなんの...」
「オヤジみたいな愚痴ね...緋月何歳よ。」
「さぁ。樹、答えてみてくれ。モールスで。」
箸の開閉で長音と短音の区別をつけるようにとモールスで追加情報をつける。
《13歳ですよね?》
「そりゃそうだ...ちなみに俺の誕生日は3/19な。」
「何がどうして伝わったのかはわかんないけど、ひーくんの誕生日は私の誕生日の2日前なんだ!知らなかったよ...」
教えてないもんな...
「ねぇ、風。昇と樹はどうやってコミュニケーションとってたの?箸の開閉だけだったわよね...」
「モールス信号よ。片手だけで伝えられるから便利って、緋月が。でもなんでよ。紙とペンで十分じゃない。」
「両手が塞がっちゃうじゃないですか...困ったとき、それこそ戦闘中とか意思疎通できないことになるのを避けるためで──」
いや待て、バーテックスは全て殲滅した。両手が塞がること、もとい両手を使わざるを得ない状況なんてものはきっとそんなにないだろうから...あれ、モールス信号、いらなかった?よく考えたらクラスメートとかには通用しないよな。というか、友奈、夏凜、東郷にも通じない...
「──あれ?今ちょっと考えたけど...もしや無用の長物?バーテックス全部倒したもんな...」
「そうでなきゃこんないい旅館で豪勢な食事なんてとれないわよ。」
おもむろに俺は茶碗を置く。腹も膨れたがそれだけが理由じゃない。
「ひーくん...?」
勇者部面々から一歩引いて正座をし、上体を前に倒して額を床につけ、頭の前に手を八の字に添える。
「すいませんでした...」
『えぇ!?』
驚愕の渦にあいつらを巻き込んだが、それはまた別のお話。
───────
流石に夜ともなると勇者五人の女子部屋には入れない。風呂?ぼっちですよ、えぇ。ただのしがない中坊がぼっちで。...悲しくなってきた。
「まぁ、いい湯だったんだけどなぁ...」
数時間前に聞いたあの真実が頭をまだ支配している。もしかしたら顔にでていたのかもしれない。夏凜辺りなら気づきそうだ。
「けど黙ってるしかないんだよな...仮に話すとしても園子様とだけだし...」
包帯の姿。まだあどけなさが残る声。そして何より、動けない身体とその真実について理解している強さ。...果たして園子様はいつからあのような状態なのだろうか。それに...あの決戦の時に感じた違和感の正体も気になる。
「いくら園子様でも何でもは知らない、知ってることだけだろうよ...でも、知ってることを祈るか...」
もう一度、春信さんに連絡をとる。
『明日、もう一度園子様にお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか。』
送信。
さて寝よう。ぼっちで。
園子様もきっと、そうなのだろうから...
───────
結論から言うと、勇者部面々が帰る時間と同時に園子様の所へ向かう大赦の迎えが来た。仕事早いなぁ、春信さん...
「夏凜、荷物頼む。仕事行ってくる。ついでに帰ってきたら飯代わりのサプリくれ。」
「なんで全部私に丸投げなのよ!」
あ、春信さんからの返信が早朝に来ていたけど、そこには『私は行けませんが使いの車を送ります。』とだけあった。いかに春信さんが忙しいかわかる。ほんとすいません...
「なんか、友奈と東郷をラブラブ夫婦と例えるなら、夏凜と緋月は結婚十数年と言ったところかしら。」
「まぁ、てことはちょっと冷めてきたり浮気されていたりするかもしれないわね、夏凜ちゃん。」
「さらっと怖いこと言うな東郷!っていうかなんで私と昇がそんな関係に見えるのよ!」
なんてやり取りを横目に、大橋に向かう車に乗ってまた新たな真実に探りを入れにいくのだった。
───だがそれは、散華の真実よりももっと残酷で、大赦の正気を疑いたくなるものだった。
それにもう一個悪い情報がある。
敵に残党がいた。
次回、第22話「樹海再び」
感想、評価等、お待ちしてます。