緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第18話 見える異常、見えぬ異常

讃州中学勇者部部室に1人で戻ってきたとき、先輩と樹は不思議そうに俺を見ていた。そして尋ねてきた。友奈と夏凜はどこか、と。

 

「さぁ、ただ少し様子は変でしたね。」

「変?夏凜はともかく、友奈も?」

「えぇ。夏凜のことが好きだって言ったら何故か二人揃って取り乱し始めて...何か変なことでも言いましたかね...」

 

途端に先輩と樹の様子もおかしくなる。...そして。

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

先輩の叫びが校内全域に響き渡ったのであった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

さてと、どこから弁明するべきなのだろうか。

まず俺は一般常識として女子のグループと共に行動しているのを見られるのはよろしくないということは理解している。カラオケに同伴しなかったのはそれが理由であり、もし同伴して誰かに見られなかったとしても嘘をつけない友奈はきっと言いふらすだろう。だからだ。他にも不用意な女子との接触は避けるように。とも言われた。そこら辺は大赦は厳しい。

 

「ぬわぁぁぁ!?部内恋愛だとぉぉ!?完全に女子力案件じゃない!どういうことよ緋月!あんたたちいつからできてたのよ!」

《好きだって言ったのはさっきじゃないかなぁ...》

「その通りだよ樹...てか、どうして怒鳴られないといけないんですか...」

「どうもこうも......ははーん、緋月、さてはそういうことね?」

「どういうことですか...」

 

先輩は何かを納得したような顔で何回か頷いている。全く、一体なんなのさ...

 

「結城友奈、戻りましたー。」

《おかえりなさい、友奈さん。かりんさんも。》

「友奈がどうしてもって言うからよ...」

 

友奈と夏凜が戻ってきた。よかった。先輩のよくわからん行動に振り回されずに済む。

 

「おう、おかえり。」

「っ...!?///」

 

どうも夏凜の反応も少しおかしい。

 

「あ、そうだ、風先輩がお腹空かせてるんじゃないか、って思ってお菓子買って来ました!」

《これ、駅前の有名なお店のやつですよね!?》

「樹ちゃん大正解!」

 

美味しそうなシュークリームだ。うん、見てる俺も腹減ってきたよ。

 

「でも、友奈は味がわからないんじゃ...」

「え...?友奈、そうだったのか...?」

 

知らなかった。いや、友奈ならきっと心配させまいとして、何も言わなかったのだろう。友奈はそういう奴だ。他人が傷つくことで自分も傷つく、優しくて危ない奴だ。

 

「あれ、風先輩知ってたんですか?」

「東郷から聞かされたわ...ほんとにごめんね友奈、樹も。」

「...シュークリームに手を伸ばしているせいか、誠心誠意に見えないわよ。」

「ぎく...それは...その...」

 

先輩がフリーズする。さっきの変な納得顔よりかは幾分よい顔をしている。

 

「静まれ、私の右手...!私の中の(女子力)が暴れだしている...!」

「制御きかないんですか...やれやれ...あぁ、いただくよ、友奈。」

 

シュークリームを一口頬張る。

うん。しっとりとした生地と濃厚なカスタードクリームの調和。原点にして頂点だと思うよ。

 

「あ、東郷さんからだ。」

 

携帯に通知が来た。シュークリームを味わっていたら気づかなかった。おのれ友奈。...気づいていたとしても右腕動かないからスマホ見れないが。

 

「東郷さん退院明日だって。やった♪」

 

それはよかった。だが...なぜ東郷だけ長かったのだろうか。それに、友奈、先輩、樹に起きた体の異常...これも気になる。勇者システムの連続利用ならもしかしたら...

 

「夏凜、お前も体に異常はないか?」

「無いわよ...風にも同じことを聞かれたわ。」

「聞かれてたのかよ...」

 

夏凜に異常がない...本人が言うからきっと間違いはない。とすると...共通点は...満開。

 

「いよいよあの人に聞かないといけない案件かもな...アポ取れるかねぇ...」

「大赦の上層部?おいそれと会えるものじゃないでしょうに...」

「それに治るって言ってるんだし、そんな疑わなくてもいいんじゃないかな。」

 

果たしてそうなのだろうか。

見ること、観察することに特化した俺は、必然的に情報量が多くなる。それをいろんな角度から精査していくと、浮き彫りになってきたことがある。それは、満開には■■がつく、ということだ。あくまでも俺自身の予想に過ぎないけれど、もし、それが正しかったら、その真意を問わねばなるまい。職を失わないようにしないといけないという制約はつくが。ま、ともあれダメ元であの人にアポをとるか...

 

「またあんたは考えてるわね...ほれ、話してみなさい。聞いてあげるから。」

 

先輩にまた指摘された。どうも俺はどっぷりと考え込んでしまうたちらしい。だが、今考えていたことを話すべきなのだろうか。話したとして...もし、敵の残党とかがいたとしたら、戦えなくなるんじゃないのか。だったらだめだ。話せない。話したくても話せない。

 

「いくら先輩でも話せないことはありますよ...な、夏凜。」

「な、じゃないわよ...」

「ははーん、さてはそういうこと...やっぱり緋月の言ってた通りなのね〜か・り・ん〜」

「ななななな何言ってるのよ風!なんのことよ!?」

「照れなくてもいいのよ〜緋月にコクられたんでしょ〜」

「んあぁぁぁ...///」

 

どうもこの反応は本意ではないが...まぁいい。先輩の追及を免れることはできた。

 

「あ、もう下校時間だ、帰らないと...」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

翌日。東郷が退院。

さらっと個人的に満開後の異常を問うたが、東郷は左耳らしい。東郷もまた、入院中ずっと満開後の異常を謎に思っていたようだ。

 

「ようやく全員揃ったわね...」

 

なーんて重い話は胸の内にしまうとして、勇者部一同は何故か讃州中学の屋上にいる。樹海から帰ってきたわけでもないのに。

 

「なんでわざわざ屋上なんですか...」

「気分よ、気分。それに、街と夕焼けが綺麗でしょ。」

「はい。私たちが、守った街...」

《でも、誰もそれを知らないんですよね。》

「あぁ、だから俺がいる。ちゃんと語り継がれるように、ちゃんと、知られるように...お前たちは人に褒められて当然のことをしたんだ。誰も聞かなくても伝えてやるさ。勇者部の戦いを。」

「そうね...ねぇ、そろそろ夏休みだけど、どこか行きませんか?」

 

俺の素朴な問いから何故か夏休みの予定になってるが...まぁいいかな。

 

「海に、行きたい...」

「え?なんだって?」

「それ、聞こえてるやつですな。」

「山もいいわね。」

「全部行こうよ、全部やろう!」

 

欲張りだなぁ...そう思ったとき、携帯に通知が入る。

どうやら先輩と夏凜にも通知が来たようだ。

 

「アポ取れたか...」

 

よかった。とりあえず相談できそうだ。

 

「ひーくんと夏凜ちゃん、嬉しそう。」

「だな。俺は嬉しい。」

「私は別に...そんなこと無いわよ!」

「えー、気になるよー...」

 

あの人のアポが取れたのに舞い上がっていたからか、先輩が少し重そうな表情をしてることに、俺は気づかなかった。

 

 




次回、第19話「海に来ました。」

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