緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第17話 役目の後には

バーテックス全12体の殲滅。

それはすなわち勇者と記録者の御役目の終了を意味する。俺はきっと大赦に戻るだろう。

 

なんだろう、少し寂しい。

 

まだ勇者部の面々と出会ってから約3ヶ月しか経っていない。だがそれでも、大赦で訓練していた時期とは比べ物にならないくらいの思い出がある。だからだろうか。利き腕が折れているのも相まって、報告書はいっこうに進まなかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「結城友奈、入りまーす。」

「元気だねぇ...全く...」

 

放課後になって、勇者部に顔を出す。

サボり気味だった初期とは違う。今の俺は、ここが好きだ。出来るならずっと、ここにいたいと思える程に。

 

「ウィーッス。」

「すっかりそのキャラ定着しましたねー。あれ?風先輩その眼帯...」

「あぁこれ?どう?似合ってる?」

「チョーカッコイイです!」

 

...って、しみじみ思ってても通じるわけないか...

 

《かりんさん、今日来てないですね。》

 

樹がそばにあったスケッチブックに文字を書く。

なるほどこれなら意思疎通できる。だが...物足りない。

 

「そうだな樹...多分用事があったんだろうな。」

「スケッチブックに書いてるんですね、なるほどー。」

「そそ、私の提案。治るまではしばらくこれね。」

 

片手で連絡出来ればもう少し楽だろうに...

...他に...他の方法は...

 

「モールス信号とか覚えたらどうだ?」

『へ?』

 

素っ頓狂な反応をされた。思えば考えてた事を口走っただけだから当然といえば当然だろうな。だが俺は話続ける。

 

「先輩のアイデアはいいけど、これじゃ両手が塞がっちまう。だから、懐中電灯1個でできるモールス信号だ。」

「でも、誰もわかんないわよ...」

「だったら覚えればいいだけですよ。とりあえずモールス信号の本借りて来ます。」

 

とは言ったが、図書館でそれを探すのに時間がかかったのは別の話。

...しっかし...どうも今日は何か足りない...

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

本を借りてから一週間後。

 

一度も夏凜が来ることなく、友奈以外はモールス信号を覚えることになった。友奈にはもう少し時間が欲しいか...

 

「むむむ...覚えられないよー...」

「そうかい...じゃあ諦めよう。」

「えぇ!?」

 

友奈はほんとに反応がいい。いじりがいがある。

...ただし東郷がいない時に限るが。

 

「はいはい、その程度にしておきなさい。」

《一週間経ちますけど、夏凜さん来ませんね...》

 

樹は夏凜が気がかりなようだ。

 

「そんなに夏凜が心配か...」

「だったら私、夏凜ちゃんを探してきます!」

「待て友奈...あてはあるのか?」

「ないよ?」

 

勇者部一同総ズッコケ。そりゃないぜ友奈...

仕方ない、俺の出番のようだ。

 

「じゃあ探す時間は無駄だから、俺が連れてってやるよ。夏凜のいそうな場所なんか、2箇所しかないからな。」

「ほんと!?じゃあ行こう!」

 

俺の動く左腕を引っ張って友奈は進む。ちょ、ここ校内。クラスメートにすれ違ったら俺が色々危うい!東郷に話されたりするともっと危うい!

 

...と、思っていたが誰にすれ違うことも無く、友奈に引っ張られ続けている。あれ?でもあてがあるのは俺だよな...

 

「ねーねーひーくん。」

「なんだ、友奈。」

「飛び出してきちゃったけど、結局夏凜ちゃんのいる場所ってどこ!?」

「やっぱりかい!あてがあるのかって思ったりしてたけどやっぱりわかんなかったのかい!」

「うぅ...返す言葉もございません...」

 

辺りを見回す。実はあと一本曲がれば着く場所だった。

うん、これを利用しない手はないな。

 

「はぁ...ここ曲がると着くぞ。砂浜だ。」

「え?じゃあだいたい合ってたの!?」

「恐ろしい勘だな...ほら行くぞ。学校が閉まっちまう。」

 

角を曲がって砂浜へ向かう。夏凜がいるという確証はないが、そこに俺の中にある空白を埋めそうなものがあるという確証はあった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

砂浜を進む。その先にはストイックに木刀を振るう夏凜がいる。ちゃんといてくれたか。...俺も腕が折れていなければ付き合ったのだが...だが今は訓練の相手をしに来たわけじゃない。

 

「夏凜ちゃーん!」

 

友奈が駆け出す。俺は歩く。夏凜は木刀を振るう。

三者三様だ。夕陽と海を眺めながら、昔はこんな綺麗な景色を見る間もなく訓練していたんだな、としみじみ思う。だからかな...感情の振れ幅が他の勇者部員よりも俺は小さいと思う。そんな感想すら昔の自分は持たなかったと思うと、やっぱり、俺のこの3ヶ月は俺を変えたんだな。

 

「へぶっ...」

「友奈!?」

 

なーんてまた思索を巡らせてると友奈がこけてた。

何やってんだ全く...

 

「夏凜ちゃーん、そこは飛び込んで受け止めてよぉ~」

「無茶言うな...昇も来てたのね...なんで来たのよ。」

「誰かさんが部活をさぼりまくっているからな。」

 

うっ...と言わんばかりの表情が夏凜から引き出される。

根っこには罪悪感でもあったのだろうか。

 

「夏凜ちゃんは風先輩に腕立て1000回とスクワット3000回と腹筋10000回やらされることになるんだけど...」

『桁がおかしい!!』

 

見事に突っ込みがはもったが、友奈は気にせず続ける。

 

「でも、今日夏凜ちゃんが部活に来ると全部ちゃらになりまーす!さぁ、部活に来たくなったでしょ?」

「行かないわよ。」

「えぇ!?」

 

...予想より頑なだった。罪悪感じゃないな。だったらなんだ...?

 

「なんでだ?夏凜。」

「昇...あんたには関係ない。」

「じゃあ私には?」

「...関係ないわ。」

 

だったら聞かない。勝手にしろ。昔の俺なら確実にそう言ってる。でも今は違う。聞かなきゃいけないと、そう思ってる。だから、なんとしてでも聞かなければ、夏凜の胸の内を。

 

「だとするなら、自分自身の問題か。」

「そうよ...だからあんた達には関係ない。ほっといて。」

「ほっとけない!」

 

友奈が反論する。友奈もまた、夏凜の口から思いの丈を聞きたいのだろう。

 

「なんでよ...勇者のお役目はもう終わったの...勇者になることが目標だった私は、もう!何を目標にすればいいのよ!ねぇ友奈、勇者部は風が勇者になる子たちを集めて作った部活なんでしょ...?だったら、バーテックスを全部殲滅した瞬間、存在する意味がなくなっちゃうじゃない!...もう、私の居場所はないのよ...」

 

しばらく黙るしかなかった。けど、絶対に夏凜の言ってることは違う。夏凜の居場所は、ある。

 

「違うよ、夏凜ちゃん。勇者部は、風先輩がいて、樹ちゃんがいて、ひーくんがいて、東郷さんがいて、私もいて、そこに夏凜ちゃんもいるんだよ。もう、勇者部は夏凜ちゃんなしじゃいられないんだよ。」

 

そうだ。その通りだ。勇者部は夏凜なしじゃだめだ。この一週間、退屈ではなかったが何か足りなかった。だが、今その理由がわかった気がする。

 

「っ!?なんでよ...なんでそこまで言い切れるのよ!!」

「だって私、夏凜ちゃんのこと好きだもん。」

 

「んなぁ!?///」

 

夏凜、撃沈。真っ赤になった。

正直写真を撮りたかったがそれどころじゃないな。

 

「そうだな。俺も好きだ。」

「だって、夏凜ちゃん。ひーくんも夏凜ちゃんのこと...え?」

 

 

『えぇぇぇぇぇ!?』

 

「...別に驚くことでもないだろ...」

「驚くわよ!すすすすすs好きって!?どういうことよ昇!」

「どうもこうも文字通りの意味だよ...」

「んあぁぁぁぁ...///」

 

 

刺激が強すぎたのか?事実を告げただけだが。

 

「ひーくんって、結構大胆なんだね...」

「...そんなに驚くことか?誰を好きになろうが俺の勝手だ。...先戻るぞ。」

 

 

...好き、か...

大赦にずっといたら、そんな感情死んでからも知らないままだったんだろうな。

 

 




次回、第18話「見える異常、見えぬ異常」

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