緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第15話ㅤ決戦(後編)

結果から言うと俺は生きています。光弾の爆発の爆風に吹っ飛ばされて神樹様の近くに落っこちて右腕を折ったという点以外では無傷です。

 

「いやいや、無傷なわけねぇよ...しかもこれじゃ仕事が出来ねぇじゃねぇか...バーテックスが見えないんじゃ...って、見えるし。どこまで巨大なんだよ...ってか、近づいている...?」

 

だとしたらまずい。スマホを顕現しようとするが、いつもの癖で右腕を動かそうとして激痛が走る。

 

「うがっ...くそ...これじゃ記録が遅くなるじゃねぇか...」

 

左手に顕現し直して連絡を取ろうとする。が、誰も繋がらない。つまり、大ピンチなのであった。当然、記録するのが仕事の俺は何もしようがなく、ただ勇者部メンバーがもう1度立ち上がることを祈るだけであった。

 

そしてその祈りが届いたのだろうか。三箇所で同時に、強い輝きと共に、気高き花が咲いた。

 

「あの輝きは...満開...」

 

遠目だが、色は黄色、緑、青。先輩と樹と東郷だろう。

戦闘の様子は見えないが、スマホのマップと照らし合わせると間違いない。先輩はあの合体したバーテックスを相手取り、東郷は魚型を撃破、そして...こっちに急速接近するバーテックスがいた。

 

「んなっ...ちくしょう、右腕使えねぇ上に基本非戦闘員なのによぉ!」

 

残念なことにそのバーテックス、双子型に最も近いのは俺だった。仕方がない、やるしかない。腹をくくってスマホに代わるように叢雲を顕現する。有視界内に敵影を捕捉した。速い。多分すれ違いざまに一撃しか入れられないだろう。でも、

 

「何もしないで通すわけには行かねぇよ!」

 

一閃。叢雲を振り抜いた。が、その時に妙な感覚があった。金属で金属をこするような違和感、というよりかは磁石の斥力みたいなものだろうか。まるで叢雲とこのバーテックスが()()であるかのように、互いが互いを反発させて俺も双子型も距離を開けた。一瞬の出来事だった。けど、左手に残ったこの違和感はきっと一生物だろう。どうしてこんな現象が起こった...?相手は天の神の使いだとあの女性神官は言った。神樹様はそれに対抗する地の神の集合体であることも伝えられた。そして大赦はその神樹様を奉る機関...その大赦が俺に与えた()()()の剣、叢雲は、不可思議な現象を生み出した。

 

 

ーーこれは...何なんだ...?

 

 

その思索の先は訪れなかった。双子型の周りが爆発し、双子型はまた走り出して俺の横を駆け抜けた。さらにその後に緑のワイヤーが双子型を追いかけるように走っていき、捕縛された双子型が神樹様から離されていった。

 

「双子型も撃破...あ、そうだ。」

 

叢雲をしまい、スマホを顕現して樹に連絡する。

 

『緋月先輩、大丈夫ですか!?』

「あー、大丈夫。一応。でさ、忙しそうなとこ悪いけどそのワイヤーで俺をそっちまで運んでくれないかな。腕折れた上にちょっと戦っちまったからもう動けないんだよ。激痛で。」

『わ、わかりました!』

 

粗雑な頼みだったが割と二つ返事で了承してくれた。少し経った後、たくさんのワイヤーが俺を優しすぎるほど優しく包み込み、俺は移送されていくのだが、その途中で超巨大火球、いわゆる■■■のような火球を身を張って防御し始める風先輩を見た。

 

「勇者部一同!封印開始!」

『了解!』

「私にもいいとこ残しておきなさいよ!」

 

樹による移送が終わったあと、勇者部は今日最後の封印の儀に入る。俺も札を展開してその補佐をする。合体したバーテックスは、その御霊をあらわにした。それは宇宙にまで及ぶ大きさだった。

 

「規格外にも程があるだろ...どうやって壊すんだよ...」

 

封印できる時間は約3分。時間がない。

 

「いつも通りやればいいんだよ。御霊なんだから、壊せばいいんだよね。勇者部五箇条、なるべく諦めない!近づければ壊せる!」

「行こう友奈ちゃん、私なら友奈ちゃんをそばまで運べるわ!」

 

友奈の声と東郷の提案。東郷の満開時の装備は戦艦ともとれるものだった。

 

「じゃあ行ってこい!」

「友奈さん、東郷先輩、お願いします!」

「早く殲滅してきなさいよ!」

 

友奈と東郷が宇宙に向けて飛び立つ。後ろで爆発が起こる。風先輩の限界が来たんだろう。

 

「お姉ちゃん!?」

「そいつを倒せぇぇぇぇ!!!!」

 

先輩が心配だが問題はこっちだ。封印出来る時間はもうあと2分しかない。

 

「う...うん!」

 

樹も腹を決めた。けど、俺たちにできるのはやはり祈ることだけ。だから、首が痛くなるほど空を見上げ、御霊が破壊されていく様を見届けるだけであった。

 

「無事、全部殲滅、か...痛てぇ...」

「まだよ昇。まだ、友奈と東郷をちゃんと迎えてあげないと...!」

「だったら、私が...!」

 

樹がワイヤーを縦横無尽に張り巡らせ、東郷が作ったのだろうか。大気圏突入ポッドの役を担った花を受け止める。その衝撃はとてつもないもの、としか表現出来なかった。が、樹は意地で、根性でそれを受け止めきった。

 

 

つまり、讃州中学勇者部の勇者は皆、無事であった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

樹海化が解ける。

立っているのは俺と夏凜だけ。それが物語るのは、やはり激戦だったということだった。

 

「もしもし、三好夏凜です。勇者4名及び記録者が負傷、至急、霊的医療班の手配をお願いします。なお、残存するバーテックス7体全てを殲滅しました。私たち、讃州中学勇者部が!」

 

嬉しそうな夏凜を見たのは久々だった。それを見届けて、俺も気絶したのだった。

 

 

 




次回、第16話「世界のズレ」

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