ブラック鎮守府提督のthe unsung war   作:spring snow

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お待たせいたしました。


第七話

 ついに作戦が始まった。

 

 叢雲は麾下数隻の駆逐艦と共に敵の攻撃から空母を中心とする部隊を援護する任務に就いていた。

 

「叢雲さん、よろしくお願いします」

 

「ええ、よろしく」

 

 そう答える彼女の表情はあまり明るいモノではない。

 実際そうであろう。この作戦は日本の命運をかけたモノでアリ、決して負けられない戦いである上、相当な犠牲が出ることは見えているのだから。

 

(でも私は一つの装備分けがあれで埋められている。そんな状況で戦えるのかしら……)

 

 叢雲は不安を抱きながら考えた。

 以前、伊藤から言われて装備してる妖精を今回は連れ来ている。正直、その状況で自分の身を守ることすら精一杯なのに護衛なんぞがつとまるとは思えない。

 

「叢雲さん、何か不安があるの?」

 

 赤城がその表情から何かを察して聞いていた。

 

「いえ、大丈夫です」

 

 表情を大急ぎで取り繕いながら答える。

 

「それにしても他の鎮守府の子たちはすごく今回の作戦に対して余裕な表情を浮かべながら参加しているわね。やっぱり、内の鎮守府とは違ってホワイトだからなのかしら」

 

 赤城はそんな言葉を言って顔に手を当てる。

 「ホワイト」というのはかなり前からささやかれている舞鶴鎮守府での噂だ。以前から述べているが舞鶴鎮守府では他の鎮守府とはだいぶ勝手が違う。提督との距離、作戦や演習での勝率。どれもが各艦娘への評価の基準になり敗北した際には厳しい訓練が待っている。しかも投入される兵力は必ずしも十分なモノではなく、時には圧倒的に劣勢な状況のことも少なくはなかった。あまりにも理不尽な訓練は鎮守府の艦娘からも避難が聞こえ始めていた。無論、他の鎮守府ではそういった点はほとんどなく、万が一敗北しても艦娘のせいではないとされ、重要視されないらしい。

 さらには徹底的な資材の削減が行われており、どう考えても補給される資材に対して消費される資材の量が少ないにもかかわらず、節制が叫ばれ、演習や作戦でも十分な戦力が投入されないことも少なくない。こうした圧倒的に厳しい環境下にあるこの鎮守府はいつの間にか「ブラック鎮守府」とまで噂されるようになっていた。

 一説ではこの浮いた資材で提督が私腹を肥やしているや艦娘をさらい、表にできないことをやっているとまで言われるようになっていた。

 

 

「そうですかね……」

 

 叢雲ははっきりと声を大にして違うとは言いたかったが、それはできなかった。以前大規模作戦で多くの艦娘を失った際にはあれほど自分を責めて伊藤がそんなことをやるはずがない。

 そう確信があったが、それを言ってしまえば彼がひた隠しにしていることをばらしてしまうことにもなる。そんなことをするわけにはいかなかった。

 

「まあ、良いわ。今は作戦に専念しましょう」

 

 そう言いつつ、彼女は甲板上で暖気運動を終えていた彩雲がするすると発艦していく。偵察を行うためだ。

 

「赤城さん、そんなに他の娘たちと近づいていると艦隊運動に支障が出るわ。各艦の距離を空けましょう」

 

「分かったわ。各艦に告ぐ。これより無線封鎖を敢行し、艦隊連絡は発光信号もしくは気流信号で行われたし」

 

 赤城は首についた艦隊連絡用の探照灯で各艦に伝えた。

 すぐに艦隊内の艦娘たちはお互いに距離を取り始め、みるみるうちに艦影が遠のいていく。叢雲も僚艦と離れ、輪形陣の最先端を担う艦になった。

 

「おそらく接敵するとすれば私が一番最初。気が抜けないわね」

 

 彼女はそう気持ちを引き締めた。まだ作戦は始まったばかりである。

 

 

 

 

 しばらくの間は敵の艦影は見つからず、平和な時間が流れていたが静寂の時は唐突に破られた。

 

 時刻は正午を回った1400時。

 加賀から放たれた彩雲のうちの一機が敵影を捕らえたのだ。

 

「敵影見ゆ。方位九十、八十海里」

 

 間違いない敵艦隊だ。しかも射程圏内に入っている。

 各空母では先手必勝とばかりに艦載機を打ち出していく。このとき、練度が一番高かったのは舞鶴鎮守府の艦隊だ。すぐに攻撃準備に移行し、敵艦隊発見の報からわずか30分足らずで第一次攻撃隊を完全に発艦させたのだ。

 

「おそらくはこちらにも攻撃隊を放ってきている可能性は高い。敵の偵察機が見えていないからと言って油断せず、各艦は対空警戒厳となせ」

 

 旗艦赤城から各艦に向け発光信号で連絡を行った。

 その直後、叢雲の対空電探にぽつぽつと何個かの光点が現れた。それは二つほどの機影で他には何もない。味方の艦載機にしては数が少ない上、帰ってくるには早すぎる。

 

「敵偵察機を確認!」

 

 すぐに旗艦赤城に発光信号で送るが、その間にも不明機はぐんぐんと近づいてくる。

 

「まずい! 見つかる!」

 

 そう叢雲が言った直後であった。

 不明機から敵の暗号らしき電波が発信されるのが確認される。

 

「敵に発見された!」

 

 赤城はすぐに気づき、もう意味がないと無線で艦隊全艦に連絡を送る。

 

「敵艦隊に発見された。これ以上は意味がないため無線封止を解除する。各艦、敵機を発見次第連絡せよ!」

 

 ついに深海棲艦と艦娘との間で熾烈な機動部隊同士のぶつかり合いが始まったのだ。




 この物語も終盤に近づいて参りました。後、三話ほどで終了する予定です。
 ここまでお付き合いいただいた読者の皆様、どうぞ最後までごゆっくりお楽しみください。

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