Fate/Rainy Moon   作:ふりかけ@木三中

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2月 1日 朝 キャスターの思惑2

 朝、ご飯を食べながらニュースを見る。

 キャスターは俺特製のパンケーキを気に入ったようで上品に咀嚼している。

 

「このガス漏れ事故というのは他にも何件か起きているようですね」

 

 キャスターが話すのは、最近頻発しているガス漏れによる失神事件だ。

 工事会社の欠陥工事とかいろんな説があり、調査が続いているが未だに原因は判明していない。

 

「ああ、それがどうかしたのか?……まさか、これって」

「えぇ。これだけ調査しても原因が分からないということは、他のサーヴァントによる可能性があるでしょうね。他にも強盗事件なんかも起きているようですし、それも同一犯かもしれません」

 

 魔力は他者の生命力を喰らうことでも手に入る。

 だが、まさか一般人を襲う奴がいるなんて。

 

「とはいえ、こんな少人数を襲ったところで得られる魔力はたかが知れています。魔力を得て強くなるどころか悪目立ちして不利になるだけ。ただの事故の可能性も十分にあるでしょうけどね」

 

 そうなのか……だが、聖杯戦争絡みの可能性が消えたわけではない。そうなれば無視するわけにはいかないだろう。

 

「そもそも、キャスターのクラスじゃなくても魔力を奪い去るなんてことできるのか?」

 

 他者の命を魔力に変換し自らの力とする、理屈は簡単だが高度な魔術のイメージだ。

 

「サーヴァントは本来、マスターの魔力を受け取り自らの血肉と変えます。どのサーヴァントでもやろうと思えば可能でしょうね」

 

 それもそうか、キャスターは俺でなく地脈の魔力を使う変則的な契約となっているが、本来はそういうものなのだ。

 

「もっとも、専用のスキルや宝具を所持していなければ効率は格段に落ちるでしょうけど」

 

 キャスターが付け加えるように言う。

 宝具とは、その英雄を象徴する伝説の再現。

 つまり相手は人を襲った逸話でもあるのかもしれない。

 

「そういえば、キャスターの宝具ってどんなのなんだ?」

 

 ふと、気になって問いかける。

 真名バレにつながるから教えてもらえないかとも思ったがキャスターは少し考えた後、まあいいでしょうと言ってローブの下からナニカを取り出した。

 

「これは?」

 

 差し出されたのは羊の毛皮だった。

 

 もちろんただの毛皮ではなく黄金にきらめき神秘的な光沢を放っている、まさしく昔話のアイテムといった感じだ。

 

 見た目の通り『金羊の皮』という宝具名らしい。

 

「触ってもいいか?」

 

 許可を得て毛皮に触れる、とても滑らかな触り心地だ。

手で押すとフワリと反発しながらも受け入れるようにやさしく包み込んでくれる。

 しっとりとした柔らかさと心地よい温かみが何とも言えず心地よい。

 撫でているだけで心が癒されていくようだ。

 

しばらくモフモフと毛皮を撫でる。

 

「それで、この宝具はどんな能力があるんだ?武器として使えるって感じじゃないよな」

「はい。それには戦闘用の能力は、そもそも能力といえるようなものはありません」

 

 なんでも、この毛皮はキャスターの家に代々伝わるものらしい。

 国を護る加護はあるが現在は発動しておらず、ただの手触りのいい毛皮でしかないそうだ。

 

 宝具とは伝説の再現、必ずしも戦闘に使えるものとは限らないということか。

 そもそも、キャスター自身も戦士って訳では無いのだろう。腕は細いし、人と戦えるほど勇敢にも見えない。

 どっかのお姫様とかなのかもしれないな。

 

「宝具がそれってことは、キャスターは武器を持ってないってことなのか?いや、魔術師なんだから武器なんて必要ないのか」

「いえ、確かに魔術を使って戦いますが。武器を持っていないわけではありません」

 

 取り出したのは1mほどの長さの杖だ。金色の杖の先には複雑な文様が彫られている。

 

「なるほど、魔術師に杖は付き物だよな。それから強力な魔術を発射したりするわけか」

「は?いえ。魔術など一言で発動できるので、この杖に魔術礼装としての意味はありません。気分が出るだけです」

「なんだよそれ、意味ないのかよ!!」

「ええ、でもこの杖のデザイン可愛いでしょう。この月を象った意匠。魔術の師匠からもらったものをアレンジしたものなのよ」

 

 そう上機嫌に笑う。

 キャスターは過去の話をする際、嬉しそうな時と悲しそうな時がある。

 

「他には武器は無いのか?」

「そうですね……武器という訳ではありませんが私が纏っているローブなんかは強力な魔術礼装ですよ」

 

 キャスターが身に着けている濃緑のローブ、そんなにすごい代物なのか。

 

「まずは防御機能、さすがにサーヴァントの攻撃は防げないけれど大抵の魔力や呪いは無効化できるわ。それに飛行能力、魔力を通すだけで飛ぶことが可能よ」

 

 なるほど、それは確かにすごい。

 防御魔術なんかではとっさに使えない場合もあるからな、飛行もノーアクションでできるらしい。

 

「さらに殺菌機能!!自動で雑菌や汚れを消毒してくれるわ」

 

 ん?

 

「飛行しているときは綺麗に光ったりもするのよ。ほら虹色の蝶みたいで綺麗でしょう」

 

 どう?とローブを広げてくるくると回る。

 なぜそんな無駄機能が……

 

「無駄とはなんですか!魔術において万能とは優秀の証。多機能のほうがいいに決まっています」

 

 それはそうだが……なににせよキャスター一人じゃ他のサーヴァントに勝てそうにないというのはよく分かった。

 ガス漏れ事件の真相も気になる、早くサーヴァントを召喚したいな。

 

 

「ふう、なんとか誤魔化せたわね」

 

 朝食の片づけをしている坊やに聞こえないように呟く。

 

 宝具について尋ねられた時はすこし焦った。

 あの宝具を知られてしまえば警戒されてしまうからだ。真名バレにつながるからと黙っておく手もあったが、木を隠すなら森の中という言葉もある。

 信頼を得るためにも真実に嘘を混ぜて話した。

 

 この金羊の皮が私の宝具というのは嘘ではない。私の伝説に関連した代物だし、現在ではただのモフモフした毛皮でしかないというのも本当だ。

 

 私が嘘をついたのは1点だけ、私のもうひとつの宝具についてだ。

 

『破壊すべき全ての符』

 

 私の象徴というなら、こちらの宝具の方がふさわしい。

 

 私の一生を具現化させた『裏切りの短剣』

 あらゆる契約を断つ私の『武器』

 

 短剣の形をしているのはきっと、私が弟を八つ裂きにしたときの逸話に由来しているのだろう。

 

 私の裏切りの起源、魔女としての最初の凶行、慕ってくれた弟の殺害。

 弟がその時どんな顔をしていたのかを私は覚えていない。

 

 彼はどんな気持ちだったのだろうか?

 愛に狂った姉に殺される気分は。

 

 ……坊やはどう思うだろうか、この歪な宝具を見れば。

 軽蔑するだろうか?嫌悪するだろうか?正義感の強い彼のことだから怒りに燃えるかもしれない。

 

「ふっ……やはり、見せるわけにはいかないわね」

 

 この宝具を見せて私を受け入れられるわけがないのだ。

 

 だから、『破壊すべき全ての符』を見せるとすれば一度だけ、坊やとの契約を破壊するときだけだ。

 


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