Fate/Rainy Moon   作:ふりかけ@木三中

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RE2月4日 朝 イリヤとデート

「シロウさま、イリヤさんと一緒にお出かけになられてはいかがでしょうか?」

 

 朝になるとリリィがそう提案してきた。ちなみに今は遠坂の家にイリヤたちと一緒に泊めさせてもらっている

 

「えっ、でも強化魔術の特訓をするつもりだしなぁ」

「一日中、特訓をするという訳にもいかないでしょう。サーヴァントの体では魔力が尽きれば消滅してしまいますよ」

「むしろ生身だった時よりは魔力は増えてると思う、聖杯から魔力が提供されてるからかな?」

 

 現在、俺にはマスターがいない。これは俺が自由に動けるようにキャスターが小聖杯の力を使ってそう召喚したかららしい。

 世界からの修正を受けず、サーヴァントとして聖杯から魔力を付与されている俺はそれなりの魔力がある。

 丸一日は流石にキツイが長時間の魔術使用にも耐えられるはずだ。

 

「……とにかく、シロウさまはイリヤさんと出かけるべきです!」

 

だが、リリィは意見を曲げない。どうしても行くべきだと握った拳をブンブンと振って主張してくる。

 

「そもそも、外に出るのは危険だろ。何かの弾みでこの世界がパラレルワールドに分岐しちまったらキャスター達を救えなくなる」

「この時間のシロウさまの視点で齟齬が生じなければいいのです。この時間の私たちは家にいるはずですし午前中ならばシロウさまの知り合いは学校に行っているでしょう、サーヴァントだって昼間からは襲ってきませんよ」

 

 うーん、だけどなぁ。と悩む俺の手をギュと握って、リリィが真摯な瞳を向ける。

 

「シロウさま、私は自らの弟を殺めました。だからこそシロウさまとイリヤさんには幸せになって欲しいのです」

 

 僅かに涙ぐみながらも発せられたその言葉には、乞うような響きが込められていた。

 そうだな……元の時間でイリヤと遊ぶ機会があれば遊ぶと約束したしな。

 

「分かった、ありがとうリリィ。今日はイリヤと一緒に街を巡ってみるよ」

 

 そうなれば行く場所も考えないとな。女の子と遊ぶなんて初めてだ。うまくエスコートできるだろうか。

 

 

 その日は色々な場所をイリヤと回った。

 服屋で色んな服を着たり、公園で鬼ごっこをしたり、喫茶店で美味しいものを食べたりと目一杯に楽しんだ。今まで家族として過ごせなかった時間を取り戻すように。

 

「今日は楽しかったな」

「うん、シロウと色んなところに行けたし満足したわ」

 

 手を繋いで道を歩く、温かいその手はどこか懐かしい感じがした。

 

「そろそろ……帰る時間だな。最後にどっか行きたいとことかあるか?」

「うーん、シロウの家は行ってみたいけどそういう訳にはいかないし…そうねぇ」

 

 イリヤは難しい顔をして考え込む。

 

「あっ、キリツグのお墓ってあるの?一度行っておきたいな」

 

 墓か……、切嗣はアインツベルン家では聖杯を破壊した裏切り者という扱いらしい、墓なんて造られていないのだろう。

 

「そうだな、こうして家族が再会できたと知ったら切嗣もきっと喜ぶよ」

 

 

 切嗣の墓の前に立つ、藤ねえが定期的に来てくれているので手入れはなされていた。

 

「ふぅん、ここにキリツグが眠ってるんだ」

 

 イリヤがポツリと呟く、虚空を見つめるような表情からは感情を読み取ることができない。しばし、沈黙が流れる。

 

「……実は俺もここに来るには今日が初めてなんだ」

「えっ、そうなの?」

「あぁ、切嗣から託された夢を形にするまでは来ないようにしててさ、願掛けってわけでもないんだけど」

 

 月光の下、切嗣と話した時のことがフラッシュバックする。

 『正義の味方』その夢は俺が引き継ぐと宣言した時のことを。

 

「シロウはキリツグに憧れて正義の味方を目指したのよね?」

「あぁ、そうだ」

 

 大火災の中、助け出された俺の瞳に映った切嗣の顔。

 まるで何かに救われたというようなその顔に俺は憧れたのだ。

 

「……シロウは運命ってどんなものだと思う?」

「ん、運命か……難しい質問だな」

 

 急に哲学的な話をぶつけられた。

 

「私はね、運命というのは『出会い』だと思うの。人は出会いを通じてその存在を変えていく、その積み重ねこそが運命だと思うの」

 

 イリヤの言っていることはなんとなく分かる。

 何かに出会った時に人は必ず影響を受ける、俺が切嗣との出会いで『正義の味方』を目指すようになった。

 もし俺が別の人と出会って、別の運命を歩んでいれば、今の『衛宮士郎』とは違う存在が形成されていたはずだ。

 

 出会いを通じて存在を変えるとはそういう意味なのだろう、それこそが運命だとイリヤは言っているのだろう。

 

「もちろん、その運命が良いこととは限らないけどね」

 

 ライダーがそうだ、彼女は悪いマスターと出会ってしまったせいで化物へとその存在を変えてしまった。彼女にとってその出会いは不幸なものだっただろう。

 

「アンリマユだってそうね、アイツに出会ったせいで無色な存在の聖杯が黒く変化してしまったわ」

 

 何かと何かが出会えば必ずその存在を変えることになる、それが……良いことか悪いことかは分からないけれど。

 

「人の出会いに意味はある、強烈な出会いはそれだけで存在を変えることになる――シロウの今までの出会いも必ず意味のあることのはずよ。シロウの中で何かが確実に変わっているはずよ」

 

 それこそがシロウの運命だということを忘れないで、そんな言葉をイリヤが告げる。

運命……か、ここしばらくで俺にはたくさんの出会いがあった。

 多くのサーヴァントやマスターはそうだし、セイバーとの出会いやイリヤとの出会いは一生忘れることのないモノだろう。

 だが、衛宮士郎という存在を大きく変えたのはやはり、あの雨の日のキャスターとの出会いだろう。

 




この作品の一番のテーマは『出会い』です

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