Fate/Rainy Moon   作:ふりかけ@木三中

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RE2月3日 夜 VSバーサーカー(リベンジマッチ)

 確か、この日は教会にいったあとにバーサーカーに吹っ飛ばされたんだよな。

 あの時のイリヤは未来からきた俺の事なんて知っている素振りはなかった。本気で俺を殺しにかかっていた。だとすればイリヤと話をすべきはその一連のイベントの後だ。

 

「うわー、キレイにふっ飛ばされてるわね……」

 

 遠坂が強化した目で遠くから、この時間の俺とバーサーカーの戦闘を観戦する。

 

「げっ、あれで生きてるの、どんな生命力してんのよ」

 

 なんか酷い言い草だ。

 だが、こうして客観的に見ると強化魔術による防御がどれだけ高性能かが分かる。やはり、ゴルゴーンを倒すには強化魔術を鍛えるのがベストか。

 

「あっ、イリヤが撤退したわ。追うわよ」

 

 近づきすぎるとセイバーに気が付かれる可能性もあるので、少し時間をおいてから走り出す。

元の時間では満足にイリヤと過ごすことはできなかった、この時間では少しでもイリヤと「家族」としての時間を過ごしたいと思う。

 

「シロウさま、気を付けてくださいね。この時間のバーサーカーのマスターは恐らくシロウさまの事を恨んでいます。衛宮切嗣が自分を置いて別の場所に家庭をつくったと勘違いしているのです」

 

 あぁ、だからイリヤは初め俺に関心を示していたのか。

イリヤにとって俺は父親を奪った怨敵という訳だ。だとしたら真実を伝えなければならない。切嗣はイリヤを愛していたという事を、そして俺もイリヤを家族だと思っているという事を。

 

 

「待ってくれ、イリヤ!」

 

 バーサーカーに背負われたイリヤに声をかける。

 イリヤは振り向いてこちらを認識すると驚きに目を丸くする。

 

「あれっ?シロウ?もう動けるの?それにリンまで――」

 

 俺、遠坂、アーチャーと順に目線を向ける、最後にリリィの姿を見ると眉をひそめて不機嫌そうな顔を浮かべる。

 

「ふん、さっきはセイバーとキャスターを連れてると思ったら、今度は遠坂家の娘にそんな小っちゃい女の子まで、ロリコンな上にウワキショウなんてサイテーだね」

「は?いやいや違う。これには理由があるんだ。とりあえず俺の話を聞いてくれないか?」

 

 しかし、イリヤは聞く耳をもたない。

 

「やっぱり男はすぐに浮気するのね、キリツグが私を捨てていったというのもホントなのね、きっと私のことが好きじゃなくなったんだわ。だから私を一人にしたんだわ!やりなさいバーサーカー、あいつらをメチャクチャにして」

 

 突然、癇癪を起したように泣き出すとバーサーカーに指示を出す。

 

「■■■■■■■」

 

 バーサーカーの巨剣を俺達たちに向けられ、遠坂とアーチャーが応戦するような構えを見せる。

 俺はその手を遮ってバーサーカーに対峙する。

 

「待ってくれ、ここは俺に任せてくれないか?」

「は?1人で戦うつもり?」

「戦うといっても倒す訳じゃない、話をするだけだ」

「それでも無茶よ!イリヤは何か怒ってるし、相手はあのバーサーカーなのよ」

 

 ああ、分かっている、バーサーカーの恐ろしさは一度この身で理解している。

 あの時は軽く払う程度の攻撃だったが今回は殺気を全身からにじませている。強化魔術を使ってもガードしきれるか分からない、だが……だからこそやる意味がある。

 

 まずは誤解を一つ解かなくてはならない、俺の事ではなく切嗣についてだ。

 

「イリヤ聞いてくれ、切嗣はイリヤのことが嫌いになったんじゃない。アンリマユってやつに聖杯が侵されていてソレの対策をしていたんだ」

「ふん、どんな理由でもキリツグが私を置いていったことに変わりはないわ」

 

 バーサーカーの攻撃を避けながらも叫ぶ、確かに置いていかれたイリヤにとっては切嗣の事情なんて関係ないのかもしれない。

 

「それでもこれだけは分かってほしい、切嗣はイリヤのことを愛していた!」

 

 バーサーカーの攻撃が腕をかすめる、強化魔術を使用しているにもかかわらず嫌な音を立てて骨が軋む。激痛が襲うが目線はイリヤから逸らさない。

 

「フン……何でそんなことが分かるのよ、キリツグから直接聞いたの?」

「いや、聞くまでもない。家族を愛さない人間なんていない、キリツグは絶対にイリヤのことを愛していた!」

 

 それだけは断言できる、理屈なんて関係ない。

 

「そんなの、口先ではなんとも言えるわ。私を懐柔しようたってそうはいかないんだから。もっと暴れなさいバーサーカー!」

 

 イリヤが叫び、バーサーカーの攻撃がさらに苛烈さを増す。

 

「衛宮君!」

 

 見かねた遠坂が加勢しようとするが、リリィがそれを制する。

 アーチャーはただ俺のことを静かに見つめていた。

 

「あぁ、口先だけじゃ伝わらないってのは分かってる。だから……今から証明して見せる」

 

 バーサーカーの巨剣が俺に迫る、その一撃は山河すらも打ち壊すだろう。

どれだけ『硬さ』や『しなやかさ』などの小手先を強化したところで受け止めきれない。

 

ならば――

 

「強化開始」

 

 自らの脚を造りかえる、ライダー戦ではイメージが不足していたため体を鉄塊に変えてしまったが今回は違う。

 

 想起するのは黄金の剣を持った剣士の姿。

 

 二回目のランサー戦においてセイバーは、剣から魔力を放出することで推進力を得るという技を見せていた。それを再現できるように俺の脚を組み替える。

 

 今の俺の技量では彼女の宝具を完全に模倣することはできない、だから『切れ味』や『頑強性』は考慮しない、ただ『魔力放出』という一点だけ、それだけに重点を絞り自らの体を糧として再現する。

 俺の脚が『歩く』機能や『跳ぶ』機能を失って、魔力を『収束』し『加速』させる装置へと変化する。

 

「ハアアアアッ!」

 

 もちろん、『魔力放出』を使ったところで、俺とセイバーではそもそもの魔力量が違う。セイバーが音速を超えるロケットだとすれば俺のは自転車レベルの速さだ。

 それでも理性のないバーサーカーには、突然加速した相手をとらえきれなかった。

巨剣が空を切る、俺はその懐を通り抜けてイリヤに向けて突撃する。そしてそのまま――

 

「イリヤ!」

 

イリヤを抱きしめて、手のひらに確かな温かさを感じながらも呟く。

 

「強化――開始」

 

 この強化魔術は自分の体に掛けたものじゃない、イリヤに対して使用したものだ。

俺という存在がイリヤに流れ込んでいく。

 

「これは―――」

 

 イリヤは驚愕の言葉をあげつつも、心地よさそうに目を閉じる。

 

「……他者への強化魔術はお互いに思い合っていないと成功しない魔術だ。俺がイリヤを大切に思っているように、イリヤも俺のことを受け入れてくれてるんだ」

 

 リリィの話によれば、この時間のイリヤは切嗣を俺に取られたと思って憎んでいるらしい。

だが、イリヤが俺に向ける感情が憎しみだけでないというのは俺が一番よく知っていた。

 なにせ未来でイリヤの口から直接聞いたのだ。

 

『家族としてシロウとの時間を過ごしたかった。一緒に遊んでみたかった』

 

 イリヤはそう言っていた、俺もそれに応えたいと思っている。

 

「ほとんど話したことのない俺たちでさえ、こうして家族として思い合っているんだ。切嗣だってイリヤのことを愛していたさ」

 

 イリヤの頬に一筋の涙が流れる、俺はただ黙ってイリヤの頭を撫でる。

 そうして、しばらくの間そうしていたのだが、不意にイリヤが顔を上げる。

 

「ん?この感覚……エーテル体?えっ、サーヴァント、なんで?あっ、これってキャスターの幻覚?」

 

 ようやく俺が、さっき出会った衛宮士郎とは別存在だと気が付いたようだ。

 

「いや、幻覚ではないよ。俺は正真正銘の衛宮士郎だ。イリヤの弟の……な」

 

 

場所は遠坂邸、テーブルを囲んでイリヤにこれまでのことを話す。

 

「ふーん、アヴェンジャーのサーヴァント……そうだったのね。それにそっちの小っちゃい娘がキャスターだなんて……」

 

 小さいといってもイリヤと同じくらいだけどな。

 

「さっきはいきなり襲い掛かっちゃってごめんなさい。……だってキャスターのことを身を挺して守ったからその勇気に免じて見逃してあげたのに、すぐに他の女の子を連れて現れたんだもん」

 

 イリヤ視点ではそうなるのか、あの時はセイバーも負傷していたはずだし、それを放ってきたと勘違いしたのなら仲間を見捨てる最低野郎と思われても仕方ない。

 

「まぁ、そのことはもう良いよ。今はこれからのことについて話そう。とりあえず、すぐにしなければことはもう無いよな」

 

 遠坂とイリヤに事情を説明して同盟を組んだ、この時間の俺視点では二人にはしばらく会わなかったはず、矛盾しているような箇所はない。

 

「さっきも言った通り、俺の最終目標は2月13日の夜より後にゴルゴーンを倒してキャスターとイリヤを助けることだ。そのための策を考えたいと思う」

「ゴルゴーン……ギリシャ神話に登場する怪物ね、しかも存在の変換を行うことでサーヴァントの枠組みを超えて顕現しておりバーサーカーを上回る怪力を持っている……か、確かに強敵ね」

 

遠坂が唸る、やはりアイツを倒せるような名案なんてすぐには出てこないか。

 

「ソイツは人間やサーヴァントを溶かす結界が使えるんでしょ、なんでシロウや私は溶けなかったの?」

 

そういえば、サーヴァントであるキャスターやバーサーカーでさえ消えかかるような空間だ。魔力が豊富なイリヤはともかく、俺なんて一瞬で溶けそうなものなのに。

 

「それはゴルゴーンの『強制封印・万魔神殿』が対人間用の宝具だからだと思います、小聖杯であるイリヤさんや自らの体を剣に変えていたシロウさまには効き目が薄かったのでしょう」

 

 そうだったのか、強化魔術には思わぬ効果もあったものだ。

 

「そういえば衛宮君。さっき使ってた魔術は何?脚がなんかスゴイことになってたけど」

「あぁ、あれは強化魔術で脚を使ってセイバーの剣を再現しただけだ」

 

 ちなみに今の俺の脚は元通りに戻っている。イメージをしっかりと保っていれば戻せるようだ。

 

「うそっ、あんなの強化魔術の範疇じゃないでしょ。第一、さっき見たこの時間の衛宮君は魔術素人って感じだったのに」

「まぁ、あれからそれなりの修羅場はくぐったし、それにキャスターの教え方がよかったからな」

 

 実際、キャスターから教えられた強化魔術には何度も命を助けられた。

 

「ならやっぱり、強化魔術をこのまま鍛える方向性でいいんじゃない?しっかりと鍛えれば結界にも耐えられるようになるだろうし、応用性も高いから極めていけばゴルゴーンを倒す方法も思い浮かぶかもよ」

 

 

 イリヤが言う、確かにいまさら他の魔術に手を出したところでどうにかなるとも思えない、いままで使ってきた強化魔術でこれからも戦い続けるべきだろう。

 


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