「2人ともまだか……」
セイバーとキャスターが突入してから既に5分ほど経った。
結界にこれといった変化はなく、戦闘しているようには見えない。
敵サーヴァントをまだ見つけられていないのか?
どうするべきかとキョロキョロとしている俺の視界にわずかに人影が見えた。
白い少女の姿。
なぜ、こんなところに?
思考する俺をよそに、そのまま結界に入ってしまう。
「あっ……おい!」
どうする、追いかたほうがいいのか、だが……
「ここから動くわけにはいかないよな」
キャスターにここから動くなと厳命されている。
結界の中がどうなっているのか分からない以上、下手に動くのは得策ではないだろう。
俺が死んでしまえばキャスターたちの動きにも支障が出るのだから。
◇
あれから暫くたったが未だに動きはない。
もしかして中でなにか起こっているのか、だとしたら令呪で呼び戻したほうがいいのか……
「ふん、面倒なことになったな」
突然、声が響く。
振り返ると、そこにはアーチャーがいた。
「アーチャー!もしかして結界に気づいて来てくれたのか?キャスターとセイバーが既に入ったんだけどまだ出てきてないんだ。とりあえず遠坂と話がしたいんだが一体どこに……」
状況を説明しようとして気づく、アーチャーがこちらに剣を向けていることを。
「は?おいおいおい」
繰り出された剣を転がるようにしてなんとか避ける。
「おい、何のつもりだ。今は小競り合いをしてる場合じゃないだろ!」
「貴様は選択を誤った、既存の道とは外れてしまった。これ以上は誤差を広げるわけにはいかない。今ここでお前を殺す」
怒鳴る俺に、うんざりとしたような口調でアーチャーが返す。
意味が分からないが向けられた殺意は本物だ。
黒い曲剣がゆっくりと振るわれる、殺らねば殺られる。
「強化――開始」
服に魔力を通し、鉄のように強化する。
だが、その程度では防ぎきれずに裂かれた腕から血が噴き出す。
「その強化魔術……キャスターから教わったのか?この短期間で形にするとはさすが神代の魔術師。だが……やはり違うな」
アーチャーはフッと嘲るような笑みを浮かべる。
俺が馬鹿にされるのはいいがキャスターを馬鹿にされるのは腹が立つ。
「強化――開始」
拳を強化する、あらゆるものを貫けるほどに鋭く――
キャスターから肉体の強化をするなと言われていたが、それで勝てるような相手ではない。
「……やはり違うな。『硬く』や『鋭く』なんて一々、イメージする必要はないのだよ。衛宮士郎が考えるのは『剣であれ』それだけでいいのだ。ただ自らの存在を対象に流し込み、より高みへと押し上げるだけで……こんな風にな」
アーチャーは俺の強化を見てくだらないとでも言うように笑うと、自らの持つ白黒の双剣に強化魔術を使用した。
「創造理念・強化開始」
剣がより剣としてあるべき姿に近づいていく。
双剣がアーチャーという存在を燃料として、一から炉にくべられる。
奇跡の結晶であるはずの宝具にさらに奇跡が混ざり合う。
それは切れ味や強固さといった表面的な強化ではない。
宝具としての存在が、位階が、ランクが昇華されている。
「さらばだ衛宮士郎、これで誤差を気にする必要はなくなった。ライダーは私が倒し、すぐにこの戦争は終結するだろう」
そう言って振るわれた剣は、強化したはずの俺の体をバターのようにあっさりと切り裂いた。
「ガッ―――」
肺を割かれ声を上げることもできない、血が地面に広がり鉄臭い匂いがあたりに漂う。
「すでにランサーとバーサーカーは傍観している。お前が死ねばキャスターとセイバーも無力化されるだろう。残りはアヴェンジャーだが……それも問題ない」
アーチャーの言葉も、もはや耳に入らない。
闇に堕ちていく意識の中でいくつもの後悔が走馬灯のように駆け巡る。
キャスターの願いを叶えてやることができなかった。
セイバーは願いを聞いてやることさえできなかった。
イリヤは無事なのだろうか?
虐殺事件の犯人はどうなったのか?
やりきれなかったこと、気になることが無数に思い浮かぶ。
だが、そんな中で最後に思い浮かんだのは結界の中へ消えていった少女のことだった。
俺が追うことを選択しなかった白い少女。
あの青い髪と白い服の少女は誰だったのだろうか?
BAD END