「魔力も集まったので、街に使い魔を放とうと思います」
朝になると開口一番にキャスターがそう言った。
あんな事件が起きた以上、こちらも出し惜しみはしていられない。
なんとしてでも例のサーヴァントを見つけ出さなければならない。
「遠坂は事情を知っているし、街に使い魔を放っても敵視されないだろう」
本来の聖杯戦争で無節操に使い魔をばらまいたりすれば他陣営に危険視されるが、今回は事情が事情なので遠慮なくやれる。
「それでは始めましょう」
キャスターが使い魔の原材料となる牙のようなモノを取り出す。
自らの逸話に関したもののため、武装扱いで召喚された時から所持していたらしい。
「セイバーを召喚した時は事故みたいなものだったし、使い魔のちゃんとした儀式をみるのはこれが初めてだな」
そう、セイバーを召喚した時はせっかく魔方陣を描き、召喚の詠唱も覚えたのに、それを使う機会がなかった。
なので、使い魔という奴には結構、興味があったりする。
「低級の使い魔と英霊たるサーヴァントではシステムが全く違いますけどね、そもそも召喚ではなく作成ですし」
バラバラと牙が無造作に撒かれると、そこからニョキニョキと体が生える。
そうして目の前に立つ使い魔は奇妙な形をした骸骨だった。
シルエットは人に近いが、頭蓋は獣のそれに近い。
「竜牙兵という使い魔です。肋骨がワキャワキャしていてあまり好きではないのだけれど……」
確かに、結構グロテスクな見た目をしている。
可愛らしいものが好きなキャスターには辛いだろう。
そんなことを喋っている間にも竜牙兵はポコポコと増えていく、その数は既に40体近い。
「使い魔ってこんな簡単にできるんだな」
「素材がそれなりのモノですからね、魔力さえあれば簡単に作成できます。他のタイプも作っておきましょうか」
キャスターが自身の青色の髪を数本クルクルと指で絡めとると、それが蝶の姿へと変わる。
紫色の羽を広げてヒラヒラと蝶が舞っている、その鱗粉からまた新しい蝶が生まれる。
竜牙兵の群れとは違い、幻想的な光景だ。
「空からの偵察用か、どの程度の精度で探れるんだ」
「今回は、『指定された場所で昨日と同質の魔力を感知すれば報告しろ』とプログラムしてあります。かなりの数を放つつもりなので昨夜のサーヴァントが動けばすぐに見つかるでしょう」
今度は使い魔達に透明化の魔術をかけていく。
竜牙兵が百体ほど、蝶タイプが二百匹ほどだ。
「戦闘タイプのは作らないのか?」
神話に出てくるようなゴーレムとか作れないのだろうか?
「サーヴァントに勝てる使い魔なんて、創るのにも動かすのにも膨大な魔力が必要になりますからね。竜牙兵でも足止め程度にはなりますし十分です」
さすがにサーヴァントに勝てるほどの使い魔はキャスターでも簡単には創れないか、そう思った時キャスターが何かを思い出したように声を出した。
「そういえば……これなら……」
キャスターが『金羊の皮』を取り出す。
「それってキャスターの宝具だよな、何の能力もないんじゃないのか?」
「えぇ、だけどもしかしたら……」
そう言って金羊の皮を地面に放り投げる。
しばらく待つが特に何も起こらない。
「これでも使い魔が創れるのか?」
「昔、この『金羊の皮』を使えばコレと縁のある者を召喚できるって聞いたのだけど……やはり駄目ね」
神寄りの存在や竜種を呼ぶ場合は特殊なスキルが必要になるらしい。
それをキャスターが所持していないか、あるいは金羊の皮に召喚能力なんて備わっていないのか。
「……何か、召喚に条件が必要って可能性はないのか?」
召喚魔術を詳しくは知らないが、生贄を捧げたり特定の場面でしか召喚できなかったりと『条件』が必要となってくる場合がある。
これもそういう類なのかもしれない。
「さて……そういう話は聞かなかったけれど、そもそも召喚においては縁や呼ぼうとする意思が重要となってきますから、そこまで必要としていない今の状態で呼べないのは道理なのかもしれないわね」
俺がセイバーを詠唱なしで召喚できたのは、やられてたまるかという俺の意思に共鳴したかららしい。
この毛皮も本当に追い詰められた時に使えば、その真価を発揮するのかもしれない。
心に留めておくとしよう。
「まぁ、なんにせよこれだけの数の使い魔を放てば例のサーヴァントはすぐに見つかるでしょう。今夜あたりに決戦になる可能性も高い、覚悟を決めておいてください」
使い魔達が街に放たれてゆく。
思えば今までのサーヴァントとの戦いは突発的なもので、こちらから攻め入るというのは初めてだ。
2人の足を引っ張らないようにしっかりとしないとな。