Fate/Rainy Moon   作:ふりかけ@木三中

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2月 4日 夜 特訓、キャスター先生

「それで、目下の問題は学校に描かれたという魔術陣、そして立て続けに発生しているというガス漏れ事件だ。

この時期に起こるってことは聖杯戦争に関係した魔術師かサーヴァントが犯人と見ていいだろう」

 

 他にも強盗や強姦事件も起きているらしい、命まで取られてはいないらしいが早く解決せねばならない。

 

「学校の方は遠坂たちがなんとかするだろう、俺たちは街の見回りをしたいと思う」

 

 セイバーの剣技とキャスターの魔術があればすぐに捕まえられるだろう。

 バーサーカーにこそやられてしまったが、ランサーとアーチャー相手には押していた。

 こそこそと人を襲うことしかできないサーヴァントなんて敵ではないはずだ。

 

「私としても他のサーヴァントを一刻も早く倒したいところですが……」

「私は反対よ、まだランサーに破られた結界の修復もすんでいないもの。第一、坊やを出歩かせるのは危険すぎるわ」

 

 だが、二人の反応はあまり芳しくない、俺が襲われるのを心配しているようだ。

 確かに相手はアサシンクラスの可能性もある、不意打ちをもらう可能性があるか……

 

「キャスターに強化魔術をかけてもらえば大丈夫じゃないか?バーサーカーの攻撃にも耐えたんだぞ」

「あれは、何故あれほどの効果を発揮できたのか分からないから……」

「それに人を襲っているのは何かの儀式の可能性だってある。放っておけば不利になるかもしれないぞ」

 

 なんとか説得する。危険だということは百も承知だ。だが、被害が出ている以上、放っておくわけにはいかない。

 

「……分かりました、ただし条件があります。今日と明日の朝を使って強化魔術をマスターすることです。最低限の自衛ができるように」

 

 根負けしたというようにキャスターが条件を出した。

 

「キャスターに強化してもらったら駄目なのか?」

「はい、咄嗟の状況に対応できない可能性がありますから」

 

 一刻も早く犯人を捕まえたいのだが、キャスターもこれ以上は譲りそうにない、この条件は飲むしかないか。

 

 

 土蔵に移動して修練を開始する。

 別にここじゃなくてもいいのだが集中しやすいのだ。

 今までずっとここで魔術の修練をしてきたからだろう。

 

「といっても……ほとんど成功したことないんだよな」

 

 数年間、何万回と試行してきたが強化魔術が成功したのはほんの数回だけだ。

 前にキャスターに教わるまで魔術回路の正しい使い方も知らなったし、根本的に何か間違っているのかもしれない。

 

「あら?でも、ランサーとの戦いでポスターを強化していたじゃない」

「あれは……キャスターを守らなきゃって思って、そのためには武器が必要だって死に物狂いでやったらできたんだ」

「ふぅん、『武器』ねぇ……とりあえず、いつもやっている様に強化魔術を使ってみて頂戴」

「ああ、いつもはこの鉄パイプとか使ってるな」

 

 そう言って取り出すのは何の変哲もない鉄パイプだ。

 目の前に置き、精神を集中させる。

 

「―――同調開始」

 

 魔術回路を起動する、今まではこれだけで1時間近くかかっていたがキャスターがスイッチを作ってくれたので一瞬だ。

 

「―――基本骨子、解明」

 

 そのまま、鉄パイプの構造を確認する。わずかな隙間をわずかな歪みを一部も残さず調べ上げる。

 

「―――構成材質、補強」

 

 その隙間に魔力を通す。生物には魔力を弾こうとする力があるが無機物にだってそれはある。

 正確に強化しようとすれば隙間に魔力を通さなくてはならない。

 

「ぐっ――」

 

 思わず魔力を入れすぎてしまった。行き場を失った魔力は逆流し、空気中に霧散してしまう。

 

「…………」

「えっと、いつもこんな感じで失敗してるんだけど」

 

 キャスターが無言でこちらを見る、沈黙が痛い。

 こんなマスターで失望しただろうか?

 

「やっぱり――坊やは面白いわね」

 

 クスッと笑みを浮かべるキャスター、そんなにおかしかっただろうか。

 

「ああ、馬鹿にしているわけではないのよ。色々と合点がいったし、効率は悪いけれど効果的なやり方だわ」

 

 効率は悪いが効果的? どういう意味だろうか。

 

「まず一つ勘違いしているようだけれど、一般的な『強化魔術』はそんな工程ではないわ」

 

 やっぱり根本的に間違っていたのか、そうじゃないかとは思っていた。

 

「これが一般的な『強化魔術』よ」

 

 そういってキャスターが鉄パイプを持つ。

 よく見れば、うっすらと紫色の膜が覆っている。

 

「なるほど、魔力の鎧を造ってそれを被せる。こうすれば抵抗もないし、一瞬でできるってわけか」

「ええ、魔力に属性を乗せたりと応用もあるんだけど、基本的にはそうなるわね」

 

 何故こんな簡単な方法を今まで思いつかなかったのか、そりゃあ成功しないわけだ。

 

「でもさ、魔力で鎧を造るってことは魔力量に左右されるってことだろ。俺がやっても効果が薄いんじゃないか」

 

 実際、今のキャスターの強化はほとんど魔力が使われていなかったためにそれほど硬くなっていない。

 魔力の少ない俺がやっても同様だろう。

 

「ええ、アーチャーのマスターあたりならともかく、坊やがやっても気休めにしかならないでしょう。ですから坊やのやり方のほうが効果的だと言ったのです。根本から補強するようなこのやり方は飛躍的なパワーアップが可能ですから」

「けど、それも成功率低いんじゃ意味ないよな。とても実戦で使える代物ではないし……」

 

 思わずため息が出る。今まで何万回とやって数回しか成功しなかったのだ。

 

「いえ、坊やの場合は実戦の方が成功しやすいかもしれないわね」

 

 どういうことだ?

 

「今朝も言ったけれど坊やの起源は『剣』よ。剣に関する強化なら成功率が上がるはず」

 

 確かにランサーとの戦いで武器が欲しいと俺は思った。

 その時、無意識に思い浮かべたのは『剣』だった。

 そのために強化が成功したということか。

 

「私の強化魔術が異様に効果があったのも、その辺りが理由でしょうね。坊やは私を、私の強化魔術を受け入れようとした。それでも普通はある程度を弾いてしまうものなのだけれど、無意識のうちに自分の体……剣の僅かな隙間へと浸透させていたのでしょう」

 

 つまりは自分の体や剣に関することなら強化が成功しやすいということか。

 

「さあ、それも踏まえてもう一度、強化魔術を使ってみましょう」

 

 

「―――基本骨子、解明」

 

 再び鉄パイプを睨み、構造を読み取る。頭の中で設計図を描けるほどに焼き付ける。

 

「―――基本骨子、補強」

 

 隙間に魔力を通していく、ゆっくりゆっくりと魔力が浸透していく。。

 

「くっ―――」

 

 だが、やはり魔力をうまく制御できない。荒れ狂う魔力が空中に逃げ出そうと暴れまわる。

 

「魔力を操るという考え方はしないで、固有結界……自分の存在で対象を塗りつぶすイメージを持って」

 

『自分の存在で塗りつぶす』

 

 そんなキャスターのアドバイスが胸にストンと落ちる。

 炉に鉄を流し込むように、『衛宮士郎』という存在を鉄パイプに流し込んでいく。

 

「はぁはぁ…………できた」

 

 握りしめた鉄パイプ掲げる。剣のように硬くなったそれを見て、キャスターがパチパチと拍手してくれる。

 

「上手いわ坊や、これほどの強化は一流の魔術師でもそうできないわよ」

 

 キャスターが褒めてくれる。お世辞だろうがなかなかに嬉しい。

 

「自分の存在で塗りつぶす……か、コツをつかめた気がするよ。そういえば『固有結界』って呟いてたけど何のことだ?」

「え?ああ、知らなくていいわ。坊やの場合、変に意識するとダメになりそうだし」

 

 何だよ気になるな……

 そんなことを話していると鉄パイプの強化が解けた。

 

「ありゃ」

「やはり、問題も多いようね……持久力と強化までのスピード、これはどうにか考えないと」

 

 キャスターがニヤリと笑う

 

「ふふ、まあ、これは中々教えがいがあるわ。喜びなさい坊や、あなたが私の弟子、第1号よ」

 

 キャスターは神代の魔術師らしいのに弟子を取ったことがなかったのか、楽しそうに笑う。

 キャスターなら上手く教えてくれるだろう。

 

「何にせよまずは慣れよ。構造解析と強化をそれぞれ100回ずつなさい、今夜は徹夜で特訓よ」

 

 ……神代の魔術師はなかなかにスパルタ主義のようだ。

 

 

 間桐邸 地下

 蟲達が蠢くその場所で老人が呟く。

 

「ふむ……キャスターとセイバーが手を組んだか。ちと、まずいことになったな」

 

 彼の名は間桐臓硯、冬木の聖杯の製作者の一人である。

 

「もはやライダーを遊ばせておく余裕はない。慎二よ、ライダーの所有権を、偽臣の書を儂に渡せ」

 

 そもそも彼は今回の聖杯戦争に本気で挑んではいなかった。

 故に孫達のわがままに付き合っていたのだが……

 

「えぇ、なんだよそれライダーを好きに使っていいって話だったじゃんか」

「状況が変わった……それも最悪の方向にな。よもや、あの2騎のサーヴァントを手にするマスターがいるとは思わなんだ」

 

 最優のサーヴァントであるセイバー

 神世の魔術を自在に操るキャスター

 そして聖杯と因縁を持つマスター

 

 これらが一つの陣営に会するというのは予想外であった。

 野放しにしておけば聖杯のシステムが根幹から破壊される可能性がある。

 

 魔術の才がない慎二には、もはや任せておけない。

 試しにとライダーを貸してやったのに、行なったのは無闇に人を襲い、学校に魔法陣を仕掛けて悪目立ちすることだけだった。

 

 桜の方は潜在能力はある。

 任せてみれば面白い結果にはなるかもしれない、だが衛宮の倅に絆され可能性もこの状況では看過できない。

 

 やはり老体に鞭を打ってでも自身の手で始末をつけるしかない。

 

「じゃが……敵マスターが未熟とはいえ、ライダーでは力不足じゃな」

 

 セイバーだけならマスターを狙えばよかった。

 キャスターだけなら正面から撃破も可能だった。

 しかし協力されたとあってはライダーでは敵わないだろう。

 

「もう一手……打つ必要があるか」

 

 特に警戒すべきはキャスターだ、聖杯を解体できるとすれば彼女だけだろう。

 ライダーを伴って老人の姿が闇に消える。

 聖杯の完成を、悲願の達成を成し遂げるために。




補足
 生物に強化魔術を掛ける場合は無意識に異物として弾いてしまうので効果が落ちます。
その比率は互いの信頼度に依存します
 しかし、士郎は異様なまでに自己制御が上手いのでキャスターの強化魔術の恩恵を100%受けることができました。

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