Fate/Rainy Moon   作:ふりかけ@木三中

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2月 3日 夜 VSバーサーカー

「ここが遠坂の言っていた教会か」

 夜の街を歩き、教会に来た。

 前マスターから場所は教わっていたので迷うことはなかった。

 

「はい、聖堂教会は聖杯戦争の監督を行なっているものたちです。魔術による破壊の隠蔽や敗退したマスターの保護を行なっています。審判役というわけですね」

 もちろん、彼らも慈善事業でそんなことをしているわけではない。

 神秘の秘匿や聖杯の技術を盗むという目論見もあるのだろう。

 サーヴァントを2体擁しているということが咎められなければいいが。

 

「教会は中立地帯みたいなものなんだろ、サーヴァントが入るのはマズイよな? 一人で行ってくるから待っててくれ」

 

 そう言って、坊やが教会に入っていく。

 連いていけないのは不安だが仕方ない、それよりもっと建設的なことをすべきだ。

 

「ねぇセイバー、少しお話をしないかしら」

 隣に立つ小柄な少女を見る。

 とても可愛らしい顔立ちと少年のように凛々しい瞳。

 そしてなにより、ランサーとの戦いで見せた戦闘能力、なんとしても欲しい。

 しかし、警戒されていては『破壊すべき全ての符』を使えない。

 せっかくのセイバーと二人っきりという状況、仲を築くに絶好の機会だ。

 戦況がどう動くにせよ信頼関係はあったほうが良いに決まっている。

 

「……特に話すようなことはありません。協力をすることに同意はしたが、あなたに気を許した覚えはない」

 

 しかし、帰って来たのはつっけんどんな返事だった。

 

「もちろん、あなたが警戒するのもわかるわ、私は魔術師なのだから。でも最低限の連携は取れていないと敵と戦う時に困るでしょう」

「私は対魔力のスキルで大抵の魔術は無効化できる。戦闘の際は私ごと撃ってもらって構わない」

 

 目線すら合わすことなく切り捨てられる、もう少し信頼してくれてもいいでしょうに。

 

 いえ……これが普通の反応か。

 

 かつてのアルゴー船でも他の英雄たちに私は腫れ物にでも触るかのように扱われていた。

 彼らは私というものの危険度をよく理解していたからだ。

『裏切りの魔女』

 私は本来、歓迎されるような存在ではないのだ。

 ……坊やと一緒にいて私も知らぬ間に平和ボケをしていたらしい。

 これは欲望のために他者を喰い合う聖杯戦争、そして私は裏切りの魔女。

 信頼関係などという下らないモノを築く必要などない。

 

 密かに決意を固める、私が行うのは他者を利用し蹴落とすだけだ。

 

「終わったぞ、二人とも」

 

 坊やが教会から出てきた。まだ入って数分しか経っていないのに随分と早い。

 

「なんか胡散臭い神父でさ、聖杯戦争の説明はキャスターにしてもらったから。参加表明だけして出てきたよ」

 

そう言って彼は令呪が刻まれた左手をじっと見つめる。

 

「約束する、キャスターの願いは絶対に俺が叶えるから」

 何かを決意したように坊やが宣言する。

 

「な、何よ突然」

 

 予想外の言葉に思わず声が上ずってしまった。

 

「いや、ちゃんと言ってなかったなと思って。最初に会った時からの成り行きだったし。改めてよろしく頼むよキャスター」

 

 そう真摯な瞳を向けてくる。

 その中に嘘は含まれているようには感じなかった。

 

『俺はキャスターを信頼してる。そんな契約をすること自体、キャスターに対する裏切りだ!』

 

 今朝、坊やがアーチャーのマスターに言い放った言葉を思い出す。

 信頼関係など築くつもりは無い、恋愛感情や忠誠心などもってのほかだ。

 だが、彼が私を信用してくれるというのは、まぁ、悪い気分はしない。

 

「坊や……手を出しなさい」

「えっ?こうか?」

 

 彼の瞳をじっと見つめて魔術を使う。

 その赤金色の瞳はどこか鉄を連想させる。

 ろくな力を持っていない坊やだが、盾ぐらいには……いや、剣ぐらいにはなってくれるだろう。

 

 

「とりあえず、家に帰ったら話し合おう。セイバーのことも聞きたいし、学校にあった魔術陣のことも気になるしな」

 

 特に学校にあった魔術陣は問題だ、ガス漏れによる失神事件と同一犯の可能性が高い。

見回りでもして早急に犯人を捜さなくてはならない。セイバーが連いてきてくれるなら襲われても心配はない。

 

「そういえば、セイバーは霊体化できないんだよな?他に異常はないか」

 

 召喚がおかしかったせいだろうか?

 結局、キャスターと描いた魔術陣は使われず。何故か切嗣が残したと思われる魔術陣によって召喚された。

 その影響からか霊体化ができないらしい、ほかにも何か不具合があったら困る。

 

「坊や、セイバーのことをじっと見てみて」

「む?……」

 

クラス セイバー

真名 ■■■■■・■■■■■■

 

筋力 C 耐久 C 俊敏 C

魔力 C 幸運 B 宝具 C

 

急に情報が飛び込んできた。

なるほど、サーヴァントのステータスを見れるのか。

 

「これは……低いよな」

 

 セイバーのクラスは基礎能力が高い英雄が多いと聞いている、にもかかわらずほとんどCだ。

 これはマスターである俺が足を引っ張っているのだろう。

 

「戦場では絶対的に有利なことのほうが少ない、これでもそれなりに戦えるでしょう」

 

セイバーは問題ないと胸を張る。

 

「まあ、私にも少し魔力を回していますから、その分が下がっているのでしょう」

 

 キャスターがフォローしててくれる。

 他のサーヴァントに気づかれないための希薄な契約だが、僅かながら魔力も通っているらしい。

 セイバーを召喚したのだから、ちゃんとした契約を結び直してもいいと思うのだがキャスターは何も言わない。

 何か考えがあるのかもしれないので、こちらからは強要しない。

 

 ……ついでにキャスターのステータスも見ておくか。

 

クラス キャスター

真名 ■■■■■

 

筋力 E  耐久 D 俊敏 C

魔力 A+ 幸運 B 宝具 C

 

「ステータスが低いとは聞いていたが……」

 

 これほどとは、筋力なんてEじゃないか、確かにキャスターの腕は細いし子供に勝てるかも怪しいもんな。

 

「ふっ……ステータスなんて幸運以外は飾りよ。だいたい私は魔術師だもの、足りなければ補うだけよ」

「補うってどうやって?」

「そうね、たとえばさっきあなたに使った魔術は……」

 

 

「―――ねぇ、お話は終わり?」

 

 

 キャスターの言葉を遮るように声が聞こえた。

 この場には場違いな少女の声。

 

「ホントはもっと早く会いたかったんだけど。キャスターの動向がよくわからなかったから。でも、セイバーまで召喚してくれて楽しくなりそう」

 

 少女が楽しげに笑う、だがそれは決して暖かな笑みではない。狩人が獲物を狩る時の笑みだ。

 

 空気が凍る。

 あまりの殺意と威圧感に押しつぶされそうになる。

 それは少女から発せられるものではなく、その後ろにいる―――

 

「ヘラクレス……」

 

キャスターが呆然と呟く。

『ヘラクレス』

 その名を知らぬ者はいないだろう。

 ギリシアの大英雄、半神半人。

 

 聖杯戦争である以上、そういう存在と戦うことになるかもしれないと理解はしていた。

 

 だが――実際に目にすると分かる。

 こいつは俺なんかがどんな手を使っても届かない、遥か上位の存在だと。

 

「キャスター、マスターの保護を!」

 セイバーの叫び声で我に帰る。

 すでにセイバーは黄金の剣を手に取り、キャスターは陣を組んでいた。

 

「ふふ、無駄よ、2対1であってもワタシのバーサーカーにはぜぇったいに敵わないわ」

 セイバーの黄金の剣が岩のような巨剣によって防がれる。

 キャスターの放つ光弾が右肩を直撃するが分厚い肉の壁に阻まれる。

 ダメージはない、キャスターの方には視線すら向けない。

 

「■■■■■■■」

 バーサーカーが巨剣をメチャクチャに振り回す、技術も理性もない獣のような動き。

 軌道こそデタラメだが一撃一撃が致死のモノ、衝撃だけで地面が割れ空気を震わす。

 セイバーは避けるだけで精一杯だ。

 

「Atlās」

 キャスターがスペルを唱え指先に光が灯る。

 何の魔術かは分からないが僅かにバーサーカーの動きが鈍くなる。

 ダメージは与えられないが影響がない訳ではないらしい。

 

「ハァッ――」

 その隙を狙ってセイバーの剣がバーサーカーの巨躰を切り裂く。

 イケる、キャスターの魔術とセイバーの剣技があればバーサーカーにも十分勝てる。

 

「ふぅん、セイバーの方は予想通りだけどキャスターの方も中々やるわね。面倒だからそっちから……やっちゃえバーサーカー!」

 バーサーカーが標的を変え、射貫くような視線がキャスターを捉える。

 

「■■■■■■■■」

 重機のような唸り声をあげて岩のような巨剣が、鉛のような巨躰がキャスターを殺さんと動く。

 セイバーが何度か切りつけるがその歩みは緩まない。

 

「Nērēïs」

 

 キャスターの前に薄紫の膜が現れる、恐らく魔力障壁か何かだ。

 だけどダメだ、そんなのあの巨人を相手に意味はない。

 巨剣が紙を切り裂くように障壁を破り、その切っ先がキャスターの腕をえぐる。

 

「ツ―――」

 声にならない声をあげてキャスターがよろめく。

 もうキャスターに打てる手はないのだろう恐怖に目を見開き、倒れ込んだまま動かない。

 くそっ、どうすればいい、このままだとキャスターが死ぬ。

 

 俺に何かできることは――

 

「マスター、そこを動かないで!」

 

 セイバーが威圧するように叫ぶ。

 分かっている、俺が動いたところで事態が好転するわけではない。

 それどころか前に出た瞬間に俺は死ぬことになるだろう。

 それでも――目の前で消えそうな命を見捨てるくらいなら死んだ方が何億倍もマシだ。

 

「こ―――のぉおお……!」

 

 がむしゃらに突っ込む、武器も策もない。

 バーサーカーの瞳が僅かに動く。

 

 次の瞬間には視界が黒色に染まっていた。

 

 なにが起きた?

 何で俺は地面に突っ伏しているんだ?

「ガッ………グッ」

 

 声が出ない、視界が安定しない

 

「ちょっと、簡単に殺すなって言ったでしょ!」

 

 少女がなにか叫んでいる。それを聞き取る余裕はない。

 なんとか体を動かす、キャスター……キャスターは無事なのか?

 

「坊……や?」

 

 視界の端にキャスターをとらえる。

 呆然とした表情でこちらを見ていた。

 

「え……?生き、てる……?吹き飛ばされたのに、まだ生きてる、の……?」

 

 ズリズリと芋虫のように這いずる俺を見て、少女が驚きの声を上げる。

 息を整のえる。わき腹から血がにじみでているが動けないほどの傷ではない。

 

 まだ――戦える。

 

「この魔術は……ふぅん、サーヴァントをかばったり、変わってるんだね、お兄ちゃん」

 

 なんとか構える俺に対して、少女の敵意がスッと消えていく。

 

「……うん、今日はもういいかな。ちょっと様子を見たくなっちゃった」

 

 圧倒的に有利な状況にもかかわらず。少女がバーサーカーを退かせる。

 

「あっ、そうそう。自己紹介をしてなかった。わたしはイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。よろしくね、お兄ちゃん」

 

 そう少女が、イリヤが微笑む。

 そしてクルリと踵を返すとそのまま夜の闇に消えてしまった。

 




 セイバーの態度が悪いかなとも思ったのですが、見知らぬサーヴァントをいきなり信用するのもおかしいのでこうしました

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