IS 彼の日記帳   作:カーテンコール

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 $月<日 ソビエトの空は灰色だった

 

 

 いざ、やってきましたロシア。

 いやー、懐かしいなー。初めて来たけどな!

 

 しっかし仰々しい移動だったよ。学園の私有ジェット機に打鉄2機が警護についてた。

 帰りはもう専用機があるから、普通に民間の飛行機で戻るけど。

 

 はてさて、空港(ここ)からは車での移動になる。

 迎えを寄越してあるとのことだが、どこにいるんだ?

 

 それとどうでもいいが、空港についてから凄い注目度だ。

 ……あ゛。あそこに貼ってあるのは俺のポスター。

 やめて皆さん交互に俺と見比べないでお願い。

 

 目立ってしょうがないので、せめてもの対抗策に最近外出時に使ってるキャスケット帽と、パープルの色眼鏡で容姿を誤魔化すことに。

 そしてどこだ迎えは。甘ボイスの担当官は、見れば分かると言っていたが。

 

 …………居た。

 世紀末的に似合わないサングラスをかけた見知っている男が、居た。

 近くの女性に声をかけまくっている奴が、居た。

 

 取り敢えず、兄貴(・・)に回し蹴りをお見舞いしておく。

 何でてめーがここに居るんだ。

 

 藤堂元春(とうどうもとはる)

 どこに出しても恥ずかしい俺の兄は、あろうことか俺の専用機を製作しているアミエーラ社で最近になってアルバイトをしているらしい。

 どーせあそこの社長令嬢あたりが目当てなんだろう。以前俺の専用機製作を受けた件で、わざわざ社長自ら挨拶に出向いて頂いた際に、一緒に来日していて1度だけ会ったことがあるが、かなりの美少女だったし。

 名前なんつったっけ……アリサ・イリーニチナ・アミエーラ? 学園の出落ち連中といい、最近どうもどっかで見たような連中とよく会うのは気のせいだろうか。気のせいだと思いたい。

 

 しかし兄貴よ、俺を迎えに来たのはいいが車の免許持ってたか? ギリ18じゃねえか。

 持ってた。ドヤ顔された、うざい。

 外に停めてあった車に乗り込み、アミエーラ社所有の試験用アリーナのある本社まで向かう。

 ……これジルじゃねえか……事故るなよ、馬鹿兄貴……。

 

 事故りやがった。

 何が「高級車は肌に合わんな……」だ。免許とりたての癖しやがって。

 曇りなのにサングラスなんかかけてるからだ。ぜんぜん似合ってねーんだよ。

 

 社の方から迎え出して貰った。

 兄貴のバイト代は向こう3ヶ月は飛ぶことだろう。

 

 

 

 

 

 $月!日 いつから曇りではないと錯覚していた?

 

 

 昨日のことは記憶の彼方へと忘れ、稼動試験に移るとしよう。

 朝飯はアミエーラ氏と会食だった。テーブルマナー覚えといてよかった、ありがとう会長さん。

 何故か俺、この人に異様に気に入られてるんだよな……。

 

 稼動試験はまず起動テストから最適化(フィッテイング)を済ませ、機体を一次移行(ファースト・シフト)させたら機動テスト。ややこしいが間違えないように。

 そして武装テスト。ノーヴァの武装はひとつ(・・・)だけだが、特殊兵装に分類されるためここはみっちり行われる。

 メインはその3つで、後はちょいちょい細かいのをやったら受領完了。家族の方に顔出しして、帰る予定である。

 

 図面とCGで完成図は知っていたが、実物を見るとまたアレだ。

 ……かっけー。

 機動性を追い求めたシャープで鋭角的なフォルム。総じて大型な第3世代機の中じゃ少し小柄で華奢だが、これがイカス。

 カラーリングは黒に近いダークブルー、これまたかっけー。

 つーかスラスターまじパねえ。織斑の専用機にも引けをとらない大型のが4機と、主に制動補助で使う中型2機の計6機、ウイングスラスターが備わってる。

 すっげー機動力ありそう。絶対暴れ馬だなコイツ。

 

 乗った。フィッティングして、一次移行完了。

 なんだこれ。機体調整を操縦者に100%合わせると、こんなに違うもんなのか。

 織斑が初戦でお蝶夫人相手に善戦できたわけだ。ただ立っているだけなのに、動きの切れが根本的に違うと身体の芯から理解できる。

 

 これが専用機。これが第3世代機。

 スペックの何もかもが、ラファールとは比べ物にならん。あれだって本来は第3世代初期と同等の基礎性能は持っているが、訓練機はデチューンしてあったし。

 試しに浮いてみた。10センチほど上昇する筈が、反応が鋭すぎて50センチ上がってしまう。

 ……面白い!

 

 即座に、ラファールから打鉄へ、またはその逆へ乗り換えて、機体毎に異なる反応へと自分が合わせる訓練をした時の感覚を思い出す。

 アレと同じ。コイツに俺が合わせればいい。

 

 加速する。初速でトップスピードのヴェイロンも軽くちぎれる速度に達する。

 音速越えをした辺りで急停止。停止時間は0.08秒。

 遅い。こいつならもうコンマ03秒早く止まれる筈。

 

 俺の持つ機動技術を、片っ端から試してみた。

 はっはっは。甘い、甘い、俺の制御が甘い!

 ラファールで鍛え抜いた俺の機動技術でも操りきれん! まだノーヴァに慣れていないことを加味しても、話にならん!

 最高だ。乗りこなし甲斐がある。

 

 技術者様方に頼み込み、数日ほど時間を貰う。

 その間にこのじゃじゃ馬を、なんとしてモノにしてやろうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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