IS 彼の日記帳   作:カーテンコール

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 ◎月□日 曇って曇ってさあ大変

 

 

 『螺旋軌道瞬時加速(スパイラル・イグニッション・ブースト)』というものを覚えた。

 本来直進以外は肉体に多大な負荷をかける瞬時加速(イグニッション・ブースト)だが、正確な螺旋軌道においてはその負荷が分散されるらしい。

 だがオート制御ではできない動きのうえ、フルマニュアル制御で1センチ単位の正確な軌道維持が肝要な難易度の高い技術……とは、会長さんの受け売り。

 まあ、そもそも瞬時加速だって決して簡単な技術じゃないし。

 俺は初めてやったらすぐにできたけど。

 

 とにかくこの戦闘動作(バトル・スタンス)をモノにすれば、相手方の射撃をかわしつつ一気に間合いが詰められる。

 更にそれだけではなく、螺旋軌道で接近されるというのは見ている側の距離感を狂わせる効果があるとのこと。

 織斑は確か、機体のフェーズが上がって射撃兵装が追加されていた筈。

 これで遠距離対策はバッチリだー、と思いたい。

 荷電粒子砲喰らうなんて真っ平御免だ、以前更識の専用機に搭載予定の奴を見せて貰ったから知ってるんだぞ。

 アレは喰らいたくない。だってビームだし。

 

 そして武器の扱いだが、7:3で近接武器の方が『まだ』見込みがあるらしい。

 なので今日は、第2世代用の近接武器を片っ端から試すことにした。

 

 剣。前からそれなりに使っているが、どうもしっくり来ない。

 槍。取り回しがし難い、長尺な武器は向いてないようだ。

 槌。装甲を爆散させる威力のハンマーを借りたが、鈍い。俺の技術では重い武器を当てられない。

 爪。つまりクロー系の武器だが、威力不足。扱いは今迄で1番マシだったけど、考えてみれば同系統の武器を織斑も積んでいた。

 鞭……鞭!? なんでこんなもんがIS兵装に含まれてるの? 炭素単結晶繊維で構成された恐ろしい威力の品だったが、操りきれずに自分が喰らったので却下。

 

 その他一通り試すも、どれもこれもピンと来ない。

 ただの武器では駄目なのだ。織斑の専用機である『白式』は近接攻撃特化のIS、近接戦を挑むのなら相応の武器が要る。

 俺でも扱えて、高威力。そんなもんどこに――あ。

 あった。そう言えばひとつだけ。

 アレ(・・)ならいけるかも知れない。会長さんに聞いてみたところ、学園内に在庫もあった。

 

 活路が見えてきたような気がする。や、まだ俺が断然不利なんだけど。

 方針が決まってより一層スパルタとなった会長さんのしごきに耐えつつ、今日も今日とて流したくもない汗を流すのである。

 

 

 

 

 

 ◎月凸日 今日は曇り、明日もきっと曇り

 

 

 ラファール・リヴァイブのセッティングは、機動系に特化した俺に合わせエネルギーシールド密度を下げてその分の空き容量をスラスターに――

 間違えた。こっちは日記だった、最近スマホでセッティング表も作っているからたまに間違える。

 機体の仕上がりは、まあまあ順調。俺の訓練データを更識に見て貰い、借りたラファールを整備室に運んであーでもないこーでもないと論議したりして。

 学園の訓練機だからオスカルのカスタム機みたく派手な改造はできないが、内部を少しくらい弄っても大丈夫だろう。そうでもして機体との相性を良くしないと、俺の適性値じゃ精々稼働率60%までしか出せない。

 IS適性とは、要するに人間がISにどれだけ適応できるかの目安。適性値が低い場合、機体毎にいちいち面倒な調整作業をしなければならないし、形態変化(フォーム・シフト)に至るまでの時間も変わってくる。

 だからこそ、こうして緻密なセッティングを行っている訳だが。

 

 見られている。

 断言しよう、見られている。

 更識は全く気付いていないが、ドアの隙間から会長さんが俺達の様子をじーっと見ている。

 すっげー羨ましそうに見られているのだが、俺にどうしろと言うのだろうか。

 俺としては、会長さんや更識の姉妹関係に深くつっこむ気はないのだ。確かに更識は友達だが、だからってなんにでも首を突っ込むのはどうかと思う。

 多分俺が織斑に対し『合わない』と感じるのは、この辺の考え方が大きく異なるからだろう。

 

 そして、八つ当たりだろうか。

 今日の訓練は、いつにも増してスパルタだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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