△月■日 曇り以外認めない
厄日だ。
ああ、そうだとも。今日が厄日でなかったら、いつが厄日だと言えるだろうか。
骨にひびが入って無茶のできなかった利き腕が、先日ようやく完治して。
寧ろ前より頑丈になったような気がすると、上機嫌でいたのも束の間。
朝のSHRで、またも転校生が来た。それも2人。
分散させろよとか色々思ったりしたが、そんなのよりも重要なことは。
転校生の1人が、『男』だってことだった。
名前……名前はなんだったか。確か神聖ブリタニア帝国第98代皇帝と、同じ名前だった気がする。でもその皇帝の名さえ思い出せない、本末転倒だ。
まあとにかく、例によってテキトーに渾名を……オスカルでいいや、うん。男に対して男装の麗人の名前付けるのもアレかと思ったが、何故かぴったりな気がする。
教室内は最早音響兵器の実験場と化していたが、いざという時の為耳栓持参な俺には関係なし。その辺要領の悪い織斑は、もろに食らってたけど。
……いや、オスカルのことなんてどーでもいいのだ。オスカルって呼んだら青い顔してたけど、とにかくどーでもいいのだ。
あんちくしょうめ。あの世紀末的に俺の恨みを買った超弩級ミニ子より更にミニマムなあんの腐れ銀髪年齢詐称疑惑満載な外見小学生め!
そうだ奴だ! ラウラ・ボーデヴィッヒ! 下手すれば友達の名前さえ覚えない俺――更識って下の名前なんだっけ?――だが、憎き奴の名前だけは絶対に、そうさ絶対に忘れん!!
あんにゃろう、自己紹介を終えたと思えば俺の前までやってきて、いきなり張り手……ならまだ許せたが、途中でスクリューブローに切り替えて思いっ切り人のことをぶん殴りやがった。
それもよりによって、虫歯の治療中だった右頬の方を! 虫歯が折れて地獄の苦しみだったぞマジ。
しかも殴った理由が『人違い』だ! 俺のことを織斑だと勘違いしたらしく、なんぞ訳の分からんことを喋ってた。奥歯の痛みでロクに聞いてなかったけど。
そして山田先生に、「あの……人違いですよ?」と教えられて謝るかと思いきや、まさかのなかったことにして織斑のとこまで行って、テイク2始めやがったのさ! マジ許せん、せめてごめんの一言でもあれば歯医者の治療代で水に流したと言うのに!
もう怒った。少なくとも2ヶ月は恨んでやる。
その旨を更識に話したら、あのミニマムシルバーがやった暴挙より、俺が怒ってることの方に驚いていたが。
……まあ、普段からスマホカチカチ弄くってるだけで他に興味ないよーみたいなキャラだし、そう思うのも自然だけど。
折れた奥歯の治療費は、かなり高くついた。
絶対ボーデヴィッヒに請求してやる。
△月♪日 煮え滾る曇り
折れた歯の影響で、かなり頬の晴れが酷い。
しかしながら、純粋に心配してくれたのなど更識に織斑、あと転校生のオスカルくらいなもんだった。
ミニ子の奴なんか爆笑してた。他人の不幸を笑いやがって。
こいつめ、いっそISの訓練中に撃墜してしまえ。
何かは知らないが、休み時間に廊下で織斑先生とボーデヴィッヒが言い争いしていた。
会話の内容はよく聞こえなかったが、結局はあのちんまいのが先生を怒らせて睨まれてたが。
いいぞもっとやれ。いっそ織斑先生の出席簿攻撃16連射を喰らって沈むがいい。
歯が痛くて眠れない。
医務室で痛み止めを処方して貰おう。
△月×日 曇りだが俺の所為ではない
お蝶夫人とミニ子が、ISでミニマムシルバーと喧嘩した挙句に機体をぶっ壊して、医務室で包帯ぐるぐる巻きになっていた。
もしかして俺の所為か? 訓練中に撃墜されてしまえとか呪詛を放った俺の所為か?
や、んな訳ない。
しかしあのミニマムは一体どこを目指しているのか。学年の実力者倒してスケ番でも狙っているのか?
ともあれ、あの2人は今度の学年別トーナメントに出られなくなってしまった。
優勝候補の一角だったと言うのに、勿体無い話だ。
それと、トーナメントが急遽タッグ制になったとのことで、織斑とオスカルが女子に詰め寄られていた。
俺の方も何人か来たが、何せ専用機を持っている訳でも何でもないので小数だったけど。
なんとなく怖かったので、いっそトーナメント当日の抽選でパートナーを決めることにした。
付け焼刃の連携とかする位なら、もうぶっつけとかでいいと思う。
ようやく腫れが収まった。これで夜もしっかり寝られる。