騎士と一角獣   作:un

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 前回と同じく、今回も戦闘はありません。

 できれば次回ぐらいには、戦闘シーンを入れたいなと思ってます。


三話 可能性

 エル達を乗せた馬車が城に到着した頃、一人の初老の男性が玉座にて手元の資料をにらんでいた。

 

「幻晶騎士ではない謎の機体か…」

 

男性はアンブロシウスと言い、このフレメヴィーラ王国の国王でありこれまで国を導いてきた大いなる王は今、未知なる存在。ユニコーンガンダムに興味を示していた。

 

「聞けば、その白いのを操りベへモスを討伐したのはラウリの孫と聞くが…さて、どうしたものか…」

 

 アンブロシウスがつぶやくと、玉座の扉が開かれエルとラウリの二人が入り膝をついた。

 

「わざわざすまぬな、してその子供が…」

 

 労いの言葉をかけられエルが自己紹介をし、アンブロシウスはエルの容姿を見て女子だったかと問い、エルは自分を男子であると訂正しそれからエルからの報告に入る。

 

 ユニコーンをどこで手に入れたのか?

 

 報告にあった、光る剣と姿が変わった現象は一体何なのか?

 

 ラウリだけでなく、控えている騎士や貴族たちの視線が集中する中。エルは頭の中に浮かんだビジョンからユニコーンを見つけ乗り戦闘を行った経緯を説明しビームサーベルやNT-Dについてはエルもまだ分からないとだけ答えた。

 

 だが、エルの話を信じていないのか貴族の一人、公爵の地位を持つクヌートの目が厳しくなる。

 

「…と、それが僕がユニコーンを見つけた経緯になります」

 

「ユニコーン? あの白いのには名があるのか?」

 

「はい。正確にはユニコーンガンダムと言う名前らしいのですが」

 

「ユニコーン…ほぉ、一角獣の名を持つか…その機体の調査はすぐに行うとして、もう一つおぬしに話がある」

 

 ユニコーンについての話が終り、今度はエルについての話になる。ベへモスを倒した褒美がまだだと言う事で王直々にエルに願いを聞き始めた。だが、アンブロシウスの表情こそ穏やかだが瞳の奥には何か別の物を感じエルは顔を伏せる。

 

(これは、試されてますね…下手な事を言えば完全に相手のペースですし、さてどうしたものか…)

 

 エルの考えは当たっており、アンブロシウスはまだ幼いエルが強大な力を持つユニコーンを持つのは危険だと感じ、褒美を与えユニコーンから意識をそらす考えを持っていた。

 

(恐らく僕からユニコーンを引き離そうと考えているのでしょうね。ですが、せっかくのチャンスですのでここは…)

 

 王からの褒美と、ユニコーンの二つをどうにか結びつける方法を考え、エルは

 

「陛下にお願いいたします、僕の願いはーー」

 

 

 

 王との謁見が終り、空に夕日が昇る城内にてクヌートは難しい顔をしていた。

 

 原因はエルが王に頼んだ褒美の内容が幻晶騎士の心臓部分である「魔力転換炉」の製造方法とユニコーンの調査に参加する事だった。

  

 実際にエル以外の者が動かそうとしてもユニコーンは反応しなかったためエルを加えるのは仕方ないが、国の宝となる炉となるとこれには流石に王の首が立てに振られなかった。

 

 そこで、炉の知識を手に入れる条件が出された。

 

 一つはエルが知識を求める理由である「一から自分だけの機体」を作ることから

「新たなる機体の製造」とユニコーンの調査報告で大きな成果を出すことの二つだった。

 

 エルは特に気にした様子もなく、その二つの条件を受け入れその後は問題なく終わったがクヌートの表情が晴れない。

 

 アンブロシウスの昔からの遊び心と、巨大な力を秘めるユニコーンに対しての危機の二つのストレスから大きなため息が漏れる。もし、エルがユニコーンを使い反乱を起こしたら止められるのか? あの機体はどこかの国から差し向けられた罠ではないか?

 

 消えない不安を抱えながら、気苦労の多いクヌートは空を仰いだーー

 

 

 

 翌日。王都中がベへモスの討伐を祝いお祭り騒ぎだった。町では飲み屋で人が騒ぎ、多くの学生が出店などで楽しむ中、学園の格納庫にて

 

 「さぁて、忙しくなりましたねぇ!!」

 

 朝日が昇る前から学園にいたエルはユニコーンのコックピットの中で張り切り機器類を操作していた。画面に映る文字は全て英語だが、前世でプログラマーの経験と知識を持つエルにとっては特に問題なく操作していく。

 

(新型機の開発と同時に調査もしなければなりませんし。時間はありません…できればユニコーンの装備とかで何か役に立てればいいのですが…)

 

 高速でキーボードをタイピングしながら、新型機の事を考えていると二つの影がユニコーンに近づいていることにエルは気づいてない。

 

「サイコミュ? 聞いたことのない言葉ですね、これが機体の中にあるということは何か重要な役割が? それに、ベへモスと戦った時に出たNT―Dとは一体…」

 

「エル君、こんなところにいたの?」

 

「ダメですね、どこを操作してもNT-Dの起動コードはありませんし。何か特別な状況でないとダメなのでしょうか…」

 

「おーい、エル?」

 

「やはり、一度動かしてみない事には…ん? これは、MS? あぁ!! なんてことでしょう!! こ、これは夢で見たロボットたちのデーターでは「「エル君!! エル!!」」 「は、はいっ?」

 

 二人分の大声でやっと気づいたエルはコックピットから出て、頬を膨らませ不機嫌なアディと、ため息をついたキッドがいた。

 

「もう!! さっき家に行ったらもういなかったから、もしかしてと思ってきたら…」

 

「家の人達、心配してたぞ?」

 

「あぁ、すみません…ユニコーンの事が気になってつい眠れなかったもので…」

 

 エルはすぐに謝り、三人は一度格納庫から離れ外に出ると学園の中でも周りから祭りの声や音が聞こえていた。

 

「なぁ、エル。あの白い奴について何かわかったのか?」

 

「まだ少しだけですが、先ほど面白い物を見つけました」

 

「面白い物?」

 

「それはまた今度教えますので…ふぁ…」

 

「大丈夫かよ…」

 

 一睡もせず作業をしていたせいか大きなあくびをして目をこするエルを見てアディは、近くのベンチを見て「あっちで少し休もうか?」とエルを連れベンチに座るが、アディは自分の膝にエルの頭を乗せ当たり前のように膝枕をした。

 

 眠たかったエルは特に何も言わず、アディの膝に頭を乗せすぐに夢の中に落ちるのであったーー

 

 

 

「これが、ラプラスの箱…」

 

 二人の少年と少女が、老人の前に立ち一つの石碑を見ていた。エルは三人の話から、この石碑を「ラプラスの箱」と言い、宇宙世紀憲章のオリジナルだと分かった。

 

 この石碑には、未来に向けての祈りでありメッセージが込められていたのだが、いつしか人々の間で強大な力を持つ禁忌とされてしまった。しかし、この日一人の少女が箱の存在を世界に広めた。

 

 彼女もまた、己の生まれと宿命に苦悩する者だったがユニコーンに乗る少年達と共に歩み続けたことで、答えを得て地上や宇宙に住む人々に告げた。

 

「ニュータイプに全ての救いを求めるのではなく。自分達の中にある可能性と言う名の内なる神を信じて欲しい」

 

 多くの犠牲を出してしまった一つの戦いは終わり、それでも人類の戦いの歴史は終わらない。だが、少年と少女は人々の中にわずかな希望が生まれたのを感じ二人には負の感情はなかった。

 

「なるほど、ラプラスの箱と言う物を探して戦ってきたのですね…」

 

 エルが三人から離れた場所から、石碑を見ていると。一人の赤いパイロットスーツを着た男が姿を現した。仮面を被った彼はラプラスの箱を奪うつもりだったが、防衛システムが働き逃げていく。

 

 そして、戦いが起き深紅の巨大なロボが姿を現し次々と敵を倒していきユニコーンと、ユニコーンに似た黒い機体が対峙した所でーー

 

「エル君、エル君!!」

 

 アディに起こされ、エルが目を覚ました。傍にいたキッドが格納庫の方を見て「何かあったみたいだ」と言い、三人が格納庫に入ると

 

「くっ!! 何故動かない!!」

 

 コックピットのシートにディーが座り、動かないユニコーンに対して叫んでいた。いつの間にか倉庫にはドワーフ達も集まり、その中でエル達は知り合いを見つけ声をかけた。

 

「バトソン、どうしたんですか?」

 

「あ、エル!! ちょうどよかった!! 今、騎士の人が勝手にアレに乗って…」

 

「事情は分かりました、要するに誰かがユニコーンを動かそうとしているのですね?」

 

 エルは慌てる事なく言い、バトソンは頷く。ユニコーンには登録された人間以外には操作できないようになっており、勝手に動かすことはできないので問題はない。

 

「おらっ!! どこのどいつだ!? 調査中の機体を勝手にいじりやがって!!」

 

 エルやバトソンよりも体格がしっかりしたドワーフの一人。周りから「親方」の通称で呼ばれている彼が、ユニコーンのコックピットに手を伸ばし、中にいたディーを掴んで放り投げ床に叩きつけられた。

 

「ぐっ!! 」

 

「たく、壊しちまったらどうすんだ…ん?」

 

 親方は、エルの姿を見つけるや声を上げてエルに近づいた。

 

「坊主、こんなところで何してんだ!?」

 

「何って、機体の調査をしてましたけど?」

 

 エルは当たり前にように告げると

 

「だったら、さっさと分かった事を報告しろ!! こっちは国から直々に命令受けてんだ!! それに、他の機体の修理やらなんやらでこっちは忙しいんだよ!!」

 

と言うことで、そのままユニコーンの調査を再開する事になった。先ほどディーが乗って何も起きなかったコックピットは、エルが乗ると電源が入り周りの者たちが声をあげて驚く中、エルは現状で分かっているユニコーンの情報を伝え、騎士やドワーフ達が必死にメモを取る。

 

「こいつは、もはや幻晶騎士じゃねぇな…どう報告すればいいんだが…」

 

「まぁ、そこは僕もお手伝いしますので…それと、親方」

 

「ん? なんだ?」

 

 エルはユニコーンのコックピットから降り、親方含め周りの者に声をかける。

 

「機体の調査も重要ですが、それと同じく今改修中の機体を強化していきましょう」

 

「強化だと?」

 

「はい、まずは…」

 

 エルがまず行ったのは今改修中の機体の内部構造の強化からだった。結晶筋肉と呼ばれる部分を改良・増加し耐久を上げる事から背部に装備を増やす背面装備など、これまでにないシステムを伝えると、

 

「おめぇは、一体なんなんだ?」

 

 見たことも聞いたこともない改造に親方だけでなく、アディやキッド。さらに、先ほど親方に投げ飛ばされたディーもエルに注目し

 

「僕ですか、僕はただ趣味で「創り」たいのと…」

 

言葉を一度切り、エルは口を開く。

 

「自分の中にある可能性を信じてみたい。それだけですね」

 

 エルの言葉を聞き、親方が納得したように笑い。双子や何人かが頭の上に ? を浮かべる中一人、ディーは「自分の中にある可能、性…」とつぶやいた。

 

 それから、改修作業が始まりエルや親方の指示の元、格納庫にあった機体が改修され以前よりも確実に強化された。さらに、作業の効率とさらなる開発のため幻晶騎士をより小型にした幻晶甲冑(シルエット・ギア)が開発され関わった者たちの中には不満を口にする者はおらず、エルが言った「可能性」の灯が宿っていた。

 

「ふむ、この幻晶甲冑も少しは慣れてきたか…」

 

 特に、可能性の灯が大きく宿ったのはディーらしく。エルの可能性の話を聞いてから毎日、格納庫に来てはエル達の手伝いを真面目にしており、そんな彼を見て

 

「ディーの奴、変わったな…」

 

「えぇ、そうね」

 

 遠くから見つめるエドガーとヘルヴィーの二人が頷いた。二人もエルの言う「可能性」の話を聞いており、たった一言で不真面目だった仲間の性格が変わったのには大きく驚いていた。

 

「そういえば、あの子が乗ってた白い機体。ユニコーンって名前だって?」

 

「あぁ、確かユニコーン、ガンダム? と言ったな…ん?」

 

 エドガーが視線をそらすと、格納庫からユニコーンが起動し外に出ていた。

 

「さて、今日は各種装備の調査からしましょうか。」

 

 エルがペダルを踏むと背中のバーニアに火が入りユニコーンが飛び、近くで観察していたアデイたちが衝撃で転びそうになるがなんとか踏みとどまり、空を飛ぶユニコーンを見る。

 

「うわぁ、本当に飛ぶんだ…」

 

 アディがつぶやきユニコーンは格納庫の周りを一周して飛び、エルも少しづつであるが操縦のコツをつかみ着地は転ぶことなくうまくできた。

 

「空中には長くいられませんか、では次は武器の方を」

 

 ユニコーンは背部にあるサーベルの柄を取り出すとベへモスの強固な皮膚を切り裂いたピンク色の刃が出る。試しに、用意していた幻晶騎士の盾や剣に試し切りをして問題なく切断した。

 

「す、すげぇ…あの剣一体どんな仕組みなんだよ…?」

 

「確かに武器は強力だが…あの時の姿にはなれないのか?」

 

 バドソンがビームサーベルの威力に驚く中、エドガーがつぶやいた。ユニコーンのもう一つの姿とその力を目の当たりした者たちにとってはそっちの方に興味があるのだが、何かしらの条件でないと姿が変わらないらしいとエルから聞かされ少し残念でもあった。

 

「さて、今度は射撃武器の方を使いますか…」

 

 エルは傍に置いてあったビームマグナムをユニコーンに装備し、銃口を上空に向けた。

 

「さぁ、始めてのビーム兵器の威力!! 僕に見せてください!!」

 

 エルが満面の笑みを浮かべ引き金を引くと。銃口から赤と紫が混じった強力なビームを発射し、一筋のビームが上空の雲を消し去りながら遥かかなたへと飛んでいき、地上では強力な熱と衝撃で建物が大きく揺れた。

 

「エル君…」

 

「エル…」

 

「…エルネスティ…」

 

 ビームマグナムの衝撃の被害を受け体中、砂と土まみれになった幼馴染と先輩騎士たちがエルの名をつぶやく中、突如空に出現した謎の光を見て国中で大騒ぎになってしまったのであったーー

 

 


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