急募:『世界を救う方法』   作:rikka

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大変遅れて申し訳ございません!


023:オメーラの頭世紀末だから!

 クリーチャーの生態について、分かっている事は少ない。

 例えば、普段食べている物、巣での生活の様子、行動習性などなど。

 

 分かっている事といえば、種類を問わず光る雨に汚染された生物の死体があればそれを喰らう事。

 そして、寝るという行動を知っているかどうかはともかく、巣を持つ個体は夜にはその周辺に集まる事。

 

 かつては海の下を走る列車も止まる、ある意味で大陸と繋がっていたこの駅は今、緑色の皮膚を持つ巨大な犬達の住処となっている。

 ケーシー。

 今のロンドンにおいて、化けウサギ(アルミラージ)と同じく高い頻度で出くわす危険クリーチャーである。

 平均して牛程の大きさにまで肥大した巨体から繰り出される体当たりは、それだけでちょっとした柵程度ならあっさり破壊してしまう程だ。

 しかも、大抵かなりの数で群れているのでなおさら性質が悪い。

 そんな化け物の住処。アシュフォード国際駅のその端にて

 

 

 

 

 

――銃声と轟音がなり響く。

 

 

 

 

 

 

「ひゃっはーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 俺の持ちモノの中でも切り札といっていい武器。フェイが、数少ない手榴弾を有効に活用できるようにと自作してくれたグレネードランチャー。

 

「キョウスケお前このやろー! こんな良い武器あんなら最初っから言えよこのやろーー!!!」

 

 それが今乱射愛好家(ルカ)の手によってある意味有効活用されている。――ある意味。

 

「お前に教えたら準備してる間に強奪して巣を荒らし回るのが目に見えてんだよ馬鹿野郎!」

「ていうかアンタ弾考えて撃ちなさいよ! まだお代わり来るんだから!」

 

 行動を共にしているのはルカとエマの二人だ。

 シーナが逃走に使っていた車の方をこちらに、そしてシーナとスナイパーを主軸とした残る別働隊に俺のジープを使わせ、二手に分かれて活動している。

 なんでジープが向こう側にあるか? フェイとは違う方向に車馬鹿なシーナが、イギリス人らしからぬ土下座をして頼みこんできたからだ。

 

 

――俺が今持ってるガソリン全部お前の好きにしていいから! 一回だけでいいから!

 

 

(……テンション上がり過ぎて特攻とかやらかしてねぇだろうな……?)

 

 ヴィルマやスナイパーが向こうにいて、なお無茶をするようなタイプではない……ないのはよく知っているのだが。

 

「いいよ! このグレランすごくいいよ! 射程も軽さも文句なしだしリボルバーみたいな変わった形状が尚更グッド!! コイツを作った人はサイコーだぁっ!!!」

 

 こちらに向かってくるケーシーの群れ。それに向かって、前回の報酬としてそれなりにもらっていたグレネードを惜しみもなく放ちまくっているルカ。

 高笑いしながら爆音を次々にあげて行く様は、かつて自分が読んでいた漫画の悪役まんまである。

 だが、その狂ったような笑い声がピタリと止まる。

 

「……キョウスケ」

 

 一転して真面目な顔になったルカは、ランチャーに次弾を装填してからまた構え、だがすぐさま発砲せずに俺の方に顔を向け、

 

「どうした? ……まさかもう後続の連中が――」

「飽きた。そっちのバリスタ使わせてくんない?」

 

 お前本気でぶん殴るぞ。

 

 思わずそんな感じの言葉が口から飛び出そうとしたその時には、腰の入ったエマの右フックがルカの頬に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 アシュフォード国際駅の南側。

 倒れた列車の残骸などでちょっとした迷路のようになっているそこは、今はどこもかしこも緑色の犬が所狭しと走り回っている。

 そのうちの一か所にて、先頭を走る一匹が獲物を視界にとらえる。

 大分色あせているスーツを着込んだ男が、無防備な背を向けてゆったりと歩いている。

 

 餌だ。

 

 そう思ったのだろう犬は、群れを引き連れ飛びかかろうとする。

 横倒しになっている列車に体をこすりつけながら、犬は足場の悪さなど気にも留めず猛然と走りつづける。

 後ろに続く群れも同じだ。

 徐々に道が先細くなり、ぎゅうぎゅう詰めになりつつも足を止めようとしない。

 いや、正確にはもう止まれなかった。

 

 後ろから次々と大軍が互いを押し合うように詰め寄り、個体の力ではどうにもならない程の力がそれぞれに加わっていた。

 中には引っかかったのか、すでに足が折れて倒れ込み、他の個体に踏みつぶされるものもいた。

 

 全体的に綺麗な三角形を描きながら、それでも先頭はどうにか男の背へと肉薄する。

 

 男は、やはりゆっくりと薄く笑みを浮かべ、そしてゆっくりと右手をあげる

 

 それを合図に、破砕音の連打が辺りを空気を振るわせる。

 

 銃弾によって割れたガラスの破片が散らばり、光るシャワーがクリーチャー達の頭上に降り注ぐ。

 破片の大小に関わらず、鋭い刃となったそれらは次々にケーシー達の皮膚を斬り裂く。

 そして地面に散らばったそれらは、更に彼らの脚に傷を負わせていく。

 

 脚を痛め、体勢を崩した個体が倒れ込む。それに気付かない――あるいは気に留めない後続はそれらを踏みつけ、乗り越えようとする。

 だが、足元はしっかりとした地面ではなく、血で濡れて滑りやすく、しかもガラスの刃がそこかしこに散らばっている。

 当然脚を取られて、同じように倒れ込む。少し前に倒れ込んだ連中の肉と血の中に。

 それをさらに乗り越えようとして、また脚を取られ――

 

 ただですら体の大きいクリーチャーなのだ、踏みつぶされて立ち上がれない程の傷を負ったり、あるいはそのまま肉の塊となった連中が徐々に山となっていく。

 

 その山は、徐々に設けられていた柵やバリケードに徐々に近づき、そして――ついに乗り越える者が出ていく。

 

 

――ぐぅ……うぅぅぅぅぅぅっ……

 

 

 正確には、押し出されたと言うべきだろうか。

 ガラスの刃で体のあちことに傷を作り、後ろ脚も怪我をしているのか片方を引き摺りながら、その個体は真っ直ぐ男を見据える。

 辺りに充満する血の臭いに()てられたのか、あるいはガラスや仲間の爪等で傷つけられた怒りか。

 囲いを突破したケーシーは、背を向けたままの男に向けてうなり声を上げる。

 

 対して男――オットーは、ニヤリと笑みを浮かべ――

 

 

「シーナ君! シィィィィィナくぅぅぅぅん!! お助けぇぇぇぇぇっ!!!」

「アホかぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 そのままものすごい勢いでダッシュした。

 全力でダッシュしながら全力でシーナの名前を叫びながら全力で泣いていた。

 

「だっからお前後方で俺らと一緒に待機してろって言ったじゃん! 餌は他に用意するって言ったじゃん!」

「うるへー! いいかぁ、お前!? 目の前に落とし穴を用意して、しかも引っかかりそうな奴らがわんさかいるとするだろ!?」

 

 キョウスケがここまで使って来たジープを運転し、泣きながら全力疾走するオットーの横を並走させる。

 後ろから、先ほどの個体と同じように()り出されたケーシーが、よろめきながらも十分なスピードで迫ってきている。

 それに対して牽制をしているのが、荷台に乗っているスナイパーとヴィルマの二人だ。

 銃弾は温存しておくべきだと考えたのか、ヴィルマは小型のバリスタで、スナイパーは即席のアーチェリーで次々のケーシーを倒していく。

 

「そんなん落ちる所みたいじゃん! 無様な顔して穴の中へとフェードアウトする瞬間を目と脳に焼き付けたいじゃん! つまりそういうことなんだよ!」

「ヴィルマちゃんちょっと目ぇ閉じてくれ! 横でちょろちょろしてる奴これからミンチにすっから!」

 

 割と本気でオットーを轢き殺そうとハンドルをきるシーナだが、当のオットーは「いやぁぁぁぁぁっ!」と泣き叫びながらもちゃっかり車の扉を開けて助手席へと移り込んだ。

 そして車のバックミラーで背後を確認し、

 

「いい感じに皆同じルート通ってんな。元々の列車がいい感じに倒れていたから思いついた策だけど」

「お前罠担当ならもっと仕掛けてこいよ。囮として歩いている間にも色々できただろうが」

「無茶言うなよ。資材も時間もそんなにない時にそんなチマチマした作業ができるかってんだ。そもそも最悪四方八方囲まれることも覚悟してたって言うのにさ」

 

 スナイパーが放つ矢が的確にケーシーの眉間に突き刺さっていくのに対して、ヴィルマのバリスタはおおよその所を狙って放っている。

 命中しない所で、それなりに巨大な矢が、凄まじい勢いで発射されるのだ。

 敵に命中すれば貫いた体が浮き上がり進軍を妨害し、外れて地面に当たってもガレキや小石が弾け飛び、妨害の要となる。

 元々は対大型クリーチャーとの戦闘のための急造兵器。それのダウンサイズ版であるコレは、ないよりマシだろうという考えで設置されたのだが、予想以上の働きを見せている。

 

「さて、問題はこの騒ぎでシェルターの上でお休み中の奴らが起きてくれるかどうかだが……」

「その前に俺たちが持つかどうかだがな!!」

 

 スナイパーの呟きに、速度を上げ始めたシーナが怒鳴り返す。

 まだ、戦闘は始まったばかりだ。


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