急募:『世界を救う方法』   作:rikka

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017:次の目的地はアシュフォード

「今までの車両だとどうしても燃料の不安があったから、今回はソーラーパネルを使ったんだ」

 

 作業場にて、どうせすぐに汚れる車を丁寧に磨きながら、フェイは新しい俺の愛車の説明を続けている。

 

「電気か……馬力というかパワーというか、そういうのは大丈夫なのか?」

「一応荷台にタレットや重石をギリギリまで積んでテスト走行は終わらせている。これまで使ってたジープと変わらずに使えると思うよ。武装はアンタのタレット以外に、小さくしたバリスタも積み込んでる」

 

 一応はガソリンでも動くように調整されているのだろう。荷台の中にはそれなりの量のガソリンが積まれている。

 そこに、今回報酬としてもらった食糧や水、それに燃料としてのオイルや布もすでに積み込まれている。

 

「まぁ、当然充電とかで足を止める必要が出てくるけどそれより問題は……あの子、どうするの?」

「……どう、したもんかね」

 

 突然俺に同行したいと言いだしたヴィルマ。

 俺はてっきり母親のヒルデが止めてくれるかと思ったが、そのヒルデが意外にも『出来る事ならば好きにさせて欲しい』と言いだしたのだ。

 

「どこに行っても変わらない。それならってことみたいだけど……」

「……大陸に比べりゃよっぽど安全なのかもな、この島は」

 

 急遽フェイが仕上げたバリスタも、向こう側では結構使われていたようだ。

 正直、考え付きもしなかった。

 ゲームの中では、トラップは銃弾、火炎、電撃の三つで、浴びせる物しかなく、それ以外のトラップは全て木槍を組んだスパイクや鉄条網といった物こそ作ったりしていたが、こういうものは思いつかなかった。

 どうにも、もうこっちで大分過ごすというのに――あるいはこれまでが通用していたからか――意識がβテスト時に引っ張られているようだ。

 創意工夫が生きるための最大の武器と言うのは向こうもこっちも変わらないハズなのだが……。

 

「確かに、ね。それに、今やここはある意味で陸の孤島。頼みの綱はキョウスケと、キョウスケのパイプ頼り。……そうか。そう考えると、確かにキョウスケの傍の方が安全なのかもしれないね」

 

 フェイは自嘲めいた笑みを浮かべて、車を磨く布の動きを止める。

 

「キョウスケ、正直な話……ここ、どうかな?」

「拠点って意味か? ……俺は大丈夫だと考えているけどなぁ」

 

 確かに食糧や水と言った消費物が限られているというのは多大なストレスだろうが。それはある意味でシェルターと変わらない。

 自分の想定を超える物資の数。人員の士気、モラルの高さ。

 なにより、こういう時にリーダーシップを発揮するエレノアとバリーの両名が揃ってここにいる。

 

「俺次第って所だな。どっちかというと」

 

 俺がいかに余所から食糧や水、物資を持ってこれるか。

 そして、ここがその間に交換材料になりそうな物資等を周辺からかき集められるか。

 

(出来る事ならば、まずはここで農作業を可能とする必要があるんだけど……)

 

「とりあえず、オックスフォードの散らばった人員何名か――あぁ、もちろん最小限だ。だが、ここに連れてくる必要があると思っている」

 

 土に関してのノウハウを持っている奴らが少しでもいれば、ここの発展の力になるだろう。

 幸い、一番重要な浄水に関しては既に稼働できるレベルに装置が揃っている。

 

「……ヴィルマは連れて行こうと思う」

「やっぱり?」

 

 正直悩んだがヒルデからも頼まれ、しかも本人が意志を見せている。

 強いて言うならパニックに陥る事が一番怖いが、正直海を渡ってきて、しかも先日のあの襲撃を耐えている。

 ある程度は恐怖への耐性もあると思う。

 

 万が一でも、荷台コンテナの中で耐えてさえくれれば十分だ。

 まぁ、そもそも危険なルートは可能な限り避けるつもりだ。

 そうそうやっかいな事にはならないと思うし、何があってもヴィルマを守るつもりだが……。

 

「外を知る人間が一人でも多くいる事は、ウィットフィールドにとっていい事だと思う」

「ついでに、外で知られている人間がウィットフィールドにいることも?」

「あぁ」

 

 これから先、シェルターとの繋がりは今まで以上に大事になるだろう。

 そのためには、少しでも外との繋がりをもつ人間を増やすべきだろう。

 

「こういっちゃなんだが、ウィットフィールドから人手を減らすわけには行かないしな」

「それで残っている子供を使うって?」

「……ひでぇ事言ってるってのは自覚してるつもりだけどな。利用できるものは利用させてもらうさ」

 

 先ほどから、ここから見える開きっぱなしの扉の影に、見覚えのある髪がチラっと見えている。

 恐らくフェイは気が付いていないだろうが……。

 

(これで俺にビビって「やっぱ止める」とか言ってくれればいいんだが……)

 

 どうにも、あの眼は引っかかる。

 外になにかあるのか、あるいは内になにかあるのか。

 

(……今度の行商、退屈だけはしなさそうだ……悪い意味で)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 作業用も兼ねたナイフ、拳銃、ショットガン、クロスボウ、かつての警察が使っていたのだろうボディアーマー――そして狙撃用のライフル。

 ほとんどが弾切れになってしまったためにただの荷物になってしまったそれを、未使用の作業テーブルの上で女は整備していた。

 その様をずっと眺めていると、女はため息を吐いて、

 

「やれやれ、他にすることはないのかい? パパ」

「誰がパパだクラァ。そもそも、まだお前の名前思いついていないんだぞ」

「おや、考えてくれていたのかい?」

「呼び名がないとやりづらいだろ?」

 

 肩をすくめて俺がそう言うと、女も真似たように肩をすくめる。

 ちくしょうやっぱコイツとはケリをつけなければ。

 

「ここらの掃除をしていた時に、弾の類はかなり使いきってしまってね。クロスボウの矢はある程度回収できたんだが……せめて、使える物は万全にしておかなければね」

「……そっか」

 

 確かに、ポーツマスにいた頃はかなり武装をしていたと聞いていた。

 ポーツマスからこちらに来るまで、そしてあの夜の戦闘で大部分を消耗しきってしまったのだろう。

 

「一応、お前には礼を言っておこうと思ってな」

 

 持ってきていたティーポッドから、カップに中身を注いで女に差しだす。

 中身は今では酒以上に珍しい紅茶だ。

 

「礼?」

 

 カップを受け取りながら、女は首をかしげる。

 

「お前が隠れ住んでいたシェルターの機材を全部こっちに提供してくれたことだ」

 

 今頃自警団が、コイツが今まで隠れていた小さい家庭用シェルターから浄水装置から発電機、それから家具に至るまで運び出している頃だろう。

 

「あぁ、気にしなくていいさ。私も正式にここの一員になったんだ。私物以外で使える物を共有するのは当然だろう?」

 

 女は何を当たり前の事をと言ってのけるが、それが出来ないのが人間だ。

 それが本当に皆普通に出来ていたのならば、大陸だってもっと安全だっただろう。

 

「それで、これからの予定は決まったかい?」

「とりあえず、アシュフォード方面に向かおうと思う」

「……市長の娘さんを口説いた?」

「うん、娘さんを口説いた」

「自殺なら一人でやってくれ」

「いやいやいや、そういう訳じゃなくてだな」

 

 湯気が立つ紅茶のカップに口を付けてそういう女の言葉を、俺は手を振って否定する。

 

「以前その話をした時は、パス1を使ったと思うんだが?」

「あくまでアシュフォード方面って話だ。で、まぁ様子をみて……出来る事ならばお前さんが連中との交渉をやってくれないかとね」

「……出来なくはないが……」

「ぶっちゃけ顔合わせだけでいい。ウィットフィールドの存在を知る人間が増えればそれでいい」

「なるほど」

 

 女は整備を終えたクロスボウを折り畳んで布でくるむと脇へとどけて、テーブルの上にイギリスの白地図を広げて、インクと木片を削ったペンを取り出す。

 

「私達の拠点がここで……アシュフォードはここ、と」

 

 ここ、ウィットフィールドの大体の地点に印を付ける。アシュフォードの位置は既に書きこまれていた。

 ここから場所で言えば真西に位置する場所だ。

 

「一直線とは行かないか。この場所からならば……一度ドーバーまで戻って道沿いに行けば結構安全に行けるハズだ」

「あぁ、私も以前にあの近くをの地形を調べてみたが、ガレキ等は少なく、土砂や倒木で塞がれているという事もなかった。問題があるとすればクリーチャーだが……」

「車があるなら大丈夫だろう。それに、ここらは以前に俺たち(商人)が作った避難所もいくつかある。行商人がアシュフォードに行く以上、一定レベルには保たれているはずだ」

 

 なるだけ頑丈な建物等に、雨対策の防水シートや屋根の補強、それに周辺を鉄条網などで固く囲った簡易拠点。

 基本的に対処できない数のクリーチャーに追われた場合はここに逃げ込んで迎撃するか、中に置いてある発煙筒などで近くのシェルターに救援を求めるかのどちらかだ。

 

「例のヴィルマという子も連れていくのだろう? 彼女もアシュフォードシェルターの人間と会わせるのかい?」

「さて……どうしようかねぇ」

 

 他の人間に会わせておくのも悪くはない。

 アシュフォードはいざこざがあったとはいえ、善良な人間の多いシェルターだった。

 だが、仮にも交渉に子供を連れていくのが吉と出るか凶と出るか……。

 

「とりあえずは、作業を覚えさせようと思っている。あそこには一か所ドデカイ病院があってね。実は、ここと同じような拠点を作るならいいと思ってた場所なんだ」

「ほう? その病院、放置したままかい?」

「いや、一応避難所として機能しているはず。いくつかに別れている建物棟の一部はかなり強化されているし、多分アシュフォードの自警団が強化しているだろう」

 

 女が、興味深いと言わんばかりに息を漏らすと、ペンにインクを付けて白地図に『避難所アリ』と書きこむ。

 

「つまり、そこの防備の補修や強化作業を手伝わせると?」

「そのつもりだ。意外と避難所は商人が使うし、顔見知りと出会う可能性もある」

「なるほど……」

 

 女は紅茶を飲み干し、満足げに小さく息を吐く。

 

「ちなみに、その病院は具体的にどこに?」

「アシュフォードシェルターのある中心部から南東にある奴さ。多分、近くまで行ったのならば見た事あるはずさ。名前は――えぇと……」

 

 

 

 

 

「――ウィリアム=ハーベイ病院……だったかな」

 

 

 

 

 


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