この世界には魔法の属性が5つある。
一つは【火】。一つは【水】。一つは【土】。一つは【風】。そして過去に失われたと言われている【虚無】。
その中でも不可視なのは【風】と【虚無】である。
とくに【風】は便利である。まず【見えない】という点が特に強みだと思う。【感じる】ことはできるが【見る】ことはできない。
そして人間は古来から属性の恩恵と被害を受けてきた。
火は温もりと火事。
水は潤いと洪水。
土は創造と土砂崩れ。
風は心地よさと嵐。
そして人間は昔から恩恵を多く、被害を少なくする方法を考えてきた。
火には水を。
水には堤防を。
土には補強を。
しかし風にはいまだに対抗できるものがない。火はあおられたり消されたり、水はただあおられるだけ、土は風化する。
だからこそ、誰かが言うのだ。
【風こそが最強の矛であり盾である】と。
「・・・以上の点により、【風】こそ四大元素の中で最強である。私の知見であるが、如何かな諸君?」
そんな【風】こそが最強と信じて疑わない教師、ミスタ・ギトーが言う。
ルイズは飽き飽きとしながらその授業を受けていた。そして彼女は思う。【虚無】はどうした、【虚無】は。
確かに彼の言うことに一理ある、とルイズは思う。しかしそこで思考停止してしまうのはいかがなものか。そもそも物事には状況に対しての【相性】というものが存在する。
例えば空気がない空間があったとしよう。そしたら【風】は恐るるに足らなくなってしまう。【風】は空気がないと作れないのだ。そんな状況だったら【土】が一番役に立つだろう。【火】は空気がないと作れないし、【水】はそもそも水辺のある所で真価を発揮するからだ。
それに彼はそんな授業の中で過去に【虚無】にも対抗できると豪語していたが・・・
(ないものをどうやって吹き飛ばすのかしら)
ルイズは眉間にしわを寄せながらそんなことを思った。もっとも、彼女のスタンド、ザ・ワールドにかかれば彼の命も風前の灯火ってわけだが。
彼女はこの授業が退屈だった。あまりにも退屈だったので
「ふぁぁ・・・」
なんとあくびをしたのだ。でっかく口を開けての大あくびだ。
そしてそれを見逃すようなミスタ・ギトーではない。
「・・・ミス・ヴァリエール。教師の前で、ましてや人の前で堂々とあくびをするのは貴族としてどうなのかね?」
「・・・あらあら、すいません。ミスタ・ギトー、昨日予習で少し夜更かしをしてしまいまして」
「・・・ほう」
すると彼はニヤリと口元をゆがめた。あ、何かくだらないことを企んでるな。と生徒一同は思った。
「では、その生徒の模範であるミス・ヴァリエールに意見を求めてみようか」
「ん?」
「予習をしたと言うのなら【風】についての考えもあるのだろう? それとも君は、本に書かれた内容だけを享受し、勉強した気になっているのかね?」
これが挑発なのは火を見るより明らかであった。しかし今までさんざん様々な屈辱を受けたルイズにとってはこれくらいカエルの小便にも満たない戯言でしかなかった。
彼女は恐ろしく冷静に機械的にすらすらと話し出す。
「確かに、【風】というのはすべての属性に対応できると思います」
「ほう」
「ですがそれだけです」
「・・・なに?」
「ここでは先住魔法も含めての話をします。まぁ、どちらにしろ【風】は厄介です。しかし、それは応用力や実力の高いメイジだからこそです。ド素人のメイジにそんな防御と攻撃が両立できるでしょうか? 私はできないと思います。それに、我々の場合は杖をへし折ったら、エルフの場合は口を切り裂いたら魔法そのものが使えなくなると思いませんか? 魔法を詠唱する前にやってしまえば【風】も恐れるに足りません」
「・・・ほう、君にはそれができるというのかね」
「やって見せますとも」
ルイズは迷いのないまっすぐな目をして言い切った。
「・・・では実践して証明して見せろ。ミス・ヴァリエール、私に一撃食らわせてみろ」
するとクラスが騒然となる。
「おいおいおい、死んだわあいつ」
「ルイズに勝負を吹っ掛けるなんて、おしまいだぁああ」
「い、今ありのままに起こったことを話すぜ。ルイズとギトーが抗弁しあっていたと思ったら実践になっていた。な、何を言ってるかわからねぇと思うが・・・(以下略」
そんな中、ルイズは耳まで裂けるんじゃないかと思うほど口の端を釣り上げるとギトーに問いかけた。
「【一撃食らわせろ】ということは
「あぁ、そうだな。やってみせろ」
次の瞬間、ギトーの手から杖が落ちた。見ると右腕があり得ない方向に曲がっていたのだ。
「ぐわぁああああああああああ?!!!!!!」
ギトーは叫び声をあげながら思わずうずくまる。そんな彼をルイズは養豚場の豚を見るような目で見下す。
「で、でたぁあああああ!!! ルイズの摩訶不思議な攻撃だぁあああ!!!!」
「り、理解できねぇ…。あれをどうやってしたのか、俺にはさっぱりわからねぇ・・・」
「ナイフが首に突き刺さらなかっただけまだ温情じゃないか?」
ルイズはそんな中彼に声をかけた。
「証明しました」
「ぐっ・・・!!」
そして彼はよろよろと立ち上がると教室から出て行った。
~しばらくして~
ルイズは気分を良くしていた。あのくそったれ教師の鼻っ面をへし折ってやった、と。
対して周りはルイズに対して畏怖の視線を向ける。
彼女は有言実行をしたのだ。彼の右腕を折ることによって。そしてそれがある意味警告に見えたのだ。もちろんルイズはそんなことは一ミリも思ってない。しかし、恐怖に駆られている人間というのは自分にとって悪いことしか頭の中のイメージに浮かばないものである。
するとそこに似合わないかつらをつけたミスタ・コルベールが入ってきた。
全員が不思議そうな顔で彼を見つめる。当然ルイズも例外ではない。
そして何よりあまりにも服装が奇妙だった。
ギーシュの服よりもフリフリの多い、刺繍の入った高級そうな服にこれまた布地が高品質そうなマントを身に纏ったあまりにも体中が痛くなるような恰好だった。
ルイズは顔を思いきりしかめながら体中をカリカリとかきはじめた。なんか体中がかゆくなるような錯覚に陥ったのだ。
「今日の授業は全て中止ッ! 繰り返します! 今日の授業は全て中止です!!」
すると更に全員が目を丸くする。おそらく思考が追い付いてないのだろう。しかし次の言葉で全員その理由を理解することになるのだ。
「我がトリステインがハルケギニアに誇る一輪の花、『アンリエッタ姫殿下』がゲルマニア訪問のお帰りにこの学院へ御行幸されるとの事ですッ!!」
するとクラスが歓声に包まれた。そんな中、ルイズは
「・・・ハァ」
軽いため息をついた、首をポリポリとかきながら。
「・・・ハァ」
馬車の中でその少女はため息をついた。
「・・・24回目のため息ですぞ? 『姫殿下』」
そして隣にいた老人は少女、アンリエッタ姫殿下に声をかけた。
「……そうかしら?」
「そうです。王族たるもの、臣下の前で溜め息とははしたないですぞ」
すると姫殿下は頬をぷくっとさせた。
「・・・そんな顔したって駄目なものはだめですぞ」
「ああ、そう・・・」
すると姫殿下は少し憂鬱そうな顔で彼に問いかけた。
「・・・ねぇ」
「なんでしょう?」
「私、やっぱりゲルマニアに嫁がないとだめなのかしら?」
「まだそんなことを言っているのですか? いい加減現実を見てください。アルビオンは今大変なことになっております。それにゲルマニアならばこの小国にも大きな支えができるというものですぞ」
「・・・はぁ」
姫殿下は25回目のため息をついた。
そんな彼女の心の中にある策略に、その時の彼は気づけもしなかったのだが。
「アンリエッタ姫殿下並びに、マザリーニ枢機卿のおなぁ――りィいいいいいいッ!!」
声と同時にひときわ豪華なユニコーンに引かれた純白の馬車が正門をくぐる。
そしてさらに歓声は高まって行く。
馬車がオールドオスマン含む教師が出迎える玄関前のレッドカーペットの前へピタッとと止める。
そして馬車から二人が出てくると歓声は最高潮に達した。
「「「万歳!! アンリエッタ姫殿下万歳!!!」」」
「「「万歳!! マザリーニ枢機卿万歳!!!」」」
「・・・やっぱりすごいわねぇ」
キュルケが感嘆しながらつぶやく。それに対してタバサはただこくりとうなずいた。
「・・・」
それに対してルイズはあまりにも冷たい目でその光景を遠目で見ていた。
なんでこんなに皆は歓声を上げているのだろうか? 姫殿下のどこがすごいのだろうか?
ルイズは少し昔のことを思い出す。彼女は、まぁ、一応の友人だった。まぁ、友人だったのだ。
だがそれがどうした。
彼女とは血縁関係でもないし、血を分け合った姉妹でもない。ただの友人なのだ。しかもその友人を突き詰めていけばただの少し親しい他人なのだ。お互いの気持ちなんて本当に分かり合えるはずがないのだ。家族でさえお互いの気持ちがわからないのにどうして友人だったら通うことができると思えるのか。
それは彼女の恋人?にも同じことが言えるのだ。
今、現在進行形で姫殿下と枢機卿を導いている彼こそが彼女の昔の恋人?であったワルドである。
しかし今考えてみたら違うのだ。よく考えてみたらあの時抱いた気持ちは恋心ではないのだ。じゃあなんなのか。彼女は自分なりに考えた。そしてある日、ふと一つの言葉にたどり着く。
―――【羨望】―――
多分一番その言葉がしっくりくると思う。実際現実としていま彼女は彼に恋心を一切だけないのだ。彼が自分のことを今どう思ってるかは知らないが自分はあの気持ちは過去のものだと思い、切り捨てたのだ。
そして復讐をしてきた彼女にとって今は
ルイズはつまらなさそうにため息をつくと一足先にその場を離れた。
誰も彼女がいなくなったことに気付かなかった。
~その日の夜~
「なんか今日は少し疲れたわね・・・。あなたもそう思うでしょう? シエスタ」
「・・・ええ、そうですね。厨房も忙しくて大変でした」
「姉貴どもよぉ、なんかあったのかい?」
「今日姫殿下がいらしてね・・・それですごくうるさかったわ」
「なんかすげぇ歓声がこっちまで聞こえてくるかと思えばそういうことがあったのかい。俺の時代ではあんなことはなかった気がするなぁ~~」
そう言いながらルイズとシエスタはお冷を飲んでいた。なんとなくワインや紅茶を飲む気になれなかったのだ。
するとザ・ワールドがふとドアの方を向いた。何事かと思いルイズはザ・ワールドと五感をリンクする。すると廊下からこちらに向かって誰かが歩いてくる音が聞こえた。
「・・・ルイズ様」
「えぇ、分かってるわ。こっちに誰かが近づいてきているわね」
二人はスッと構える。ザ・ワールドはすぐに後ろに回り込めるように構える。
そしてコンコンとドアが叩かれる。
「「「・・・」」」
3人は沈黙を押し通す。今からドアが開かれるだろう。シエスタはいつの間にか用意されたロープを握りしめる。
ガチャ
次の瞬間、侵入者は床にねじ伏せられていた。すかさずシエスタがとびかかって縄で縛りあげるとそのまま部屋に引きずり込む。そしてドアを閉めて鍵をかけるとルイズはすかさずナイフを、ザ・ワールドはデルフリンガーを片手に持ち、シエスタは侵入者をそのまま押さえつけた。
「・・・あなた、この私がミス・ヴァリエール家の三女だということを知っての行為かしら? その度胸は認めてあげるわ。だけどね、それとこれとは全く別問題なのよ。ぶっ殺してあげるわ」
そう言いながらルイズはナイフを逆手に構えて突き刺そうとする。するとその侵入者は声を上げた。
「待って、ルイズ! 私よ!」
「・・・知り合いですか?」
「残念ながら狼藉者の知り合いなんて私知らないわ。ところで、言いたいことはそれだけかしら?」
「待って、ルイズ待って! わたしよ! アンリエッタよ!!」
「「・・・はぁ?」」
二人は思わず素っ頓狂な声を上げた。すかさずザ・ワールドがバサッとフードをめくるとそこには確かにアンリエッタ姫殿下がいた。
「・・・どうします?」
「・・・」
あぁ、面倒なことになったな、とルイズは思った。
~しばらくして~
「・・・で、なぜ姫殿下がこんなところに?」
「あらあら、そんなにかしこまらなくてもいいじゃない。昔みたいにアンリエッタでいいのよ?」
「結構です。私
ナイフを片手でもてあそびながらルイズはぶっきらぼうに言う。
「それに、質問に答えてくれませんか? 私が質問したんですよ? 姫殿下が答えるのが道理でなくて?」
「そうでしたね。では、話させていただきます」
そして彼女は話し始めた。
彼女の話を要約するとアルビオンは今反乱軍が勢いを増しており、もうすぐ王室が倒れるのだという。そしてそのあとまず狙われるのはここ、トリステインなのだ。それを防ぐためにゲルマニアと政略結婚をすることになったのだ。
しかし本題はここからだった。
アルビオンの連中はあるブツを血眼になって探しているらしいのだ。
何かあるな、とルイズは思った。そして姫殿下はおよよよとなきながらつぶやいた。
「おお、始祖ブリミルよ……この、この不幸な姫をお救い下さい……」
それで救われるんだったら私も救われていいはずなんだよなぁ、とルイズは思った。
シエスタもどうやら同じ考えのようでこめかみを痛そうに抑えていた。
「・・・で?」
「え?」
「何が問題なのです? 何があなたをそんな風に苦しめてるんですか?」
とっととこの部屋から出て行ってほしいルイズにとってはこれ以上話が長引くのは避けたかった。よって自分から切り出すことにした。
「じ、実は…少し前にウェールズ皇太子に向けて送った手紙がありまして…」
「誰ですか? そのウェールズ皇太子というのは」
「アルビオンの皇太子です」
「あ(察し)」
「それがゲルマニアの皇室に渡ればすぐさま結婚は破棄され、トリステインは一国でアルビオンと立ち向かわなければなりません…!!」
それお前の自業自得じゃね?とルイズとシエスタ、そしてデルフリンガーは思った。
話から察するにもうその手紙はウェールズ皇太子の手に渡っているのだろう。
「ああ、でも駄目だわ! 私の友達をそんな骨肉を争うようなところに行かせるなんて!! 私ったら何と恐ろしい事を口にしようとしているの! 戦争真っただ中のアルビオンに赴くなどという危険なことを、大切なお友達に頼めるはずがないというのに!」
今すぐてめぇの首をへし折ってやろうか、とルイズは思った。すでに彼女の額には青筋が浮かんでいる。
ふと彼女はドアの方にナイフを投げつけた。するとナイフは深く突き刺さり、向こう側から何かが倒れる音がした。
「・・・少しずれたわね」
そう言いながらルイズはドアをガチャリと開ける。そこには床に倒れこんでいるギーシュ・ド・グラモンの姿があった。
そしてそれを見ているキュルケとタバサの姿も。
「・・・あなた、ここで盗み聞きとはいい度胸ね? またあの時みたいにしてほしいのかしら?」
「ち、ちちちちちちちちちち違うんだ! 廊下を歩いてたらたまたま聞こえただけなんだ!!」
「というより、ルイズ・・・。そこにいるお方って」
「・・・アンリエッタ姫殿下」
すると3人はルイズの部屋に入ってきた。なに勝手に入ってきてんだこいつら、ぶっ殺してやろうか。とルイズは思った。ついでにナイフは抜いておいた。
「あなた方は・・・」
「僕の名はギーシュ・ド・グラモンと申します。そしてこちらは」
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーです。ゲルマニアからの留学生です」
「・・・タバサ。ガリアから来ました」
「あぁ、頼もしい友人たちですのね」
こいつらが友人?冗談もほどほどにしてくれ。こっちから願い下げだ。もし本当に友人だったら舌噛み切って自害するわ、とルイズは思った。タバサも同じことを考えたのか少し嫌そうな顔をした。
「姫殿下がお困りのようでしたので、我々が参上した次第でございます!」
ギーシュが張り切って言う。
なんでお前そんなに張り切ってんの?死ぬの?とルイズは思った。
「姫様とトリステインの危機を、この軍人の家系であるグラモン家のギーシュ・ド・グラモンが見過ごすわけには参りません。是非、このわたくしめにこの一件をお任せくださいますよう」
彼がそう言うと姫殿下は感極まったように泣き出した。するとキュルケやタバサがハンカチを取り出して彼女の涙を拭き始める。
・・・なんだこれ、とルイズは思った。いや、そこまでしてゲルマニアの人間と結婚するのが嫌なのか?
実を言うと彼女自身はゲルマニアのことがあまり嫌いではない。むしろいっぱいちゅき♡の部類に当たると思う。確かに昔はツェルプストー家のせいで嫌なイメージがあったがゲルマニアを調べていくうちに好きになったのだ。
とくに彼女の心を躍らせたのは
【実力があれば平民でも貴族になれる】
これである。この考えと制度が当時の彼女の心を高揚させた。
なんと合理的なのだろうか、なんと現実的なのだろうか、こんな昔の制度にとらわれているような国よりもゲルマニアの方がよっぽど国が栄えているし治安がいいではないか。蛮族の国とよく周りが評するがむしろ彼女にとってはトリステインの方が昔の考えに固執している蛮族の国ではないかと思った。よくこの学院に入る前はもし自分がゲルマニア出身だったらどんなに良かっただろうかと一人で想像したりもした。それぐらい彼女はゲルマニアという国が好きだった。大人になったら一人でひっそりと山奥で暮らすのも悪くないとさえ思っていた。というか今でも思っている。もしもの亡命先もゲルマニアにすると決めている。
だからこそ、ゲルマニアを蛮族の国とさも当然のように考えもせず評価したアンリエッタが許せなかったのだ。ま、それ以外にも許せないところがあるのだが。
「ルイズ!」
するとそんな彼女に姫殿下は声をかけた。
「・・・?」
「あなたのご友人と一緒に戦ってくれますよね?」
「は?」
思わず声を上げた。何を言っているんだこいつ、と思った。
「嫌ですよ」
そう言いながらルイズは差し伸べてきた姫殿下の手を払いのける。
「「「「・・・え?」」」」
その場にいた全員(シエスタ除く)が信じられないような目を向ける。
「そもそも」
ルイズはピンと指を立てながら口を再び開く。
「なんで私が行くこと前提なんですか? まずそこが理解できません。そもそも私は一切『行く』とは言っていません」
「き、君、姫殿下に何を言ってるんだい?!」
「負け犬は黙ってなさい」
「しかし…!」
「聞こえなかったのかしら?ギーシュ・ド・グラモン。同じことを二回も言わせないで頂戴。それとも」
そう言いながら彼女はナイフをちらつかせる。
「またああいう風になりたいのかしら?」
「・・・ッ!」
彼が黙るのを確認するとルイズは再び話し始めた。もちろんナイフはちらつかせたまま。
「あなたは私のことを友人と思っているようですが・・・、私はあなたのことをどう思ってるかなんて一切考えてないですよね? いや、それ抜きにしても私はあなたに賛同していこうとは思いませんが…。そもそもこんなことになったのは
そう言いながらルイズはドアの方を指さす。
「しかし、部屋の隅で震えてたらトリステインは危機に陥るんだよ?!」
「命の方が大事よ。その時は亡命してるわ」
「君そんなこと言って恥ずかしくないのかい?!」
「? 命を惜しむことになんで恥じらいを持たないといけないのかしら?」
「「「・・・」」」
「・・・なんでそんなに卑怯者を見るような目で私を見るのかしら? あなたたちだって命は惜しいでしょう? それとも・・・」
そう言いながら彼女はナイフをスッと構える。
「今ここで死んでもいいという『覚悟』を持ってるのかしら? それだったら大したものね」
するとキュルケはさっと顔を青くした。姫殿下はあわあわとし、ギーシュの膝は震えている。タバサが全員の前に立って杖を構えた。
「フフフフフフフフフ・・・・・」
ルイズはそれを見ると面白そうに目を細めた。
「あら・・・この中で『覚悟』を持ってるのはこの子だけかしら・・・」
そう言いながらルイズはくつくつと笑う。そして姫殿下の方に顔を向けた。
「私はいきませんよ?」
「でも・・・ルイズに行ってほしいの・・・」
「あなた、一国民を殺す気ですか? でも、そうですねぇ~~~」
そう言いながらルイズは何か思いついたような顔をした。
「あ、そうだ。報酬をはずんでくれれば行きそうなんですよねぇ~~~~?」(チラッ)
「い、いくら出せば行ってくれるの?! いくらでも出すわ!!」
「1万」
「え?」
「1万。私とシエスタで
すると部屋が騒然となる。
「ルイズ、あなた正気?!」
「いかれている・・・」
「1万?! 一万か?! 今君はそう言ったのか・・・?!」
「あら、別におかしい額じゃないわよ? 私は今から戦争に行くのよ? それくらいはずんでくれないと困るわ」
「もう少し少なくできませんか…?」
「・・・チッ、どれくらい?」
「2000ぐらい・・・」
「じゃあ間をとって私は8000、シエスタが9000でどうかしら?」
するとシエスタが少し動揺した様子でルイズに話しかける。
「え・・・? なぜ私の方が多いのですか…?」
「上に立つ人というのは部下を大切にしなくちゃいけないの。後ろから撃たれたくなければ、ね」
「じゃあ・・・ルイズには7500、そこのメイドさんには8000でどうかしら・・・?」
「・・・ふむ、じゃあシエスタの報酬は8600にしてくれないかしら?」
「・・・わかりました」
「じゃあ今から契約書を書きますので。3枚」
「なんで3枚も・・・?」
「あなたが破り捨ててもこちらに証拠が残るようにですよ。あとこちらが紛失した時のための保険です」
そう言いながらルイズはさらさらと3枚の紙に契約書を書きつけると姫殿下の前に差し出した。
「今すぐここにサインを」
「・・・わかりました」
そう言いながら姫殿下はサインを書きつけた。ルイズはそれを確認すると一枚を姫殿下に渡して二枚は自分の手元に手繰り寄せた。
「これで契約完了ってわけね。これを書いた以上私もこの腰をあげなくちゃいけなくなるわ。というわけで私たちは準備するからあなたたちこっから出て行って」
すると全員が渋々と部屋を出て行った。そしてシエスタがドアを閉めてドアの前で待機したのを確認すると彼女は引き出しの中に1枚契約書を忍ばせ、もう1枚を折りたたんで懐の中に入れた。
続く
アンリエッタ様って結構自分勝手だと個人的に思います。というよりお嬢様としての自覚はあるのでしょうか?