次の日、ルイズとシエスタはオールドオスマンのいる学園長室にいた。ちなみにシエスタは血まみれである。
「・・・で、なぜ殺したのかね?」
「だからさっきから言ってるではございませんか、オールドオスマン。ただの没落貴族もしくは魔法を使える盗賊だと思っていたので殺してしまったんです。もしもミスロングビルだってわかってたら拘束程度にとどめてたと思いますが」
実際これは事実である。もしもルイズがミスロングビル=土くれのフーケだと知っていたら殺すまでには至らなかったのだろう。しかし、その時はそんなこと知らなかったし、これ以上被害を拡大させないためにもぶっ殺した方がいいし、後が楽だと判断したからだ。
「しかしのう・・・ミスロングビルが土くれのフーケじゃったとは…」
「・・・そういえば、なんでミスロングビルを秘書にしたんですか?」
「それはのう・・・」
そしてルイズは『美人だったもので何の疑いもせず秘書に採用してしまった』とか『居酒屋で飲んでるとこにフーケが給仕をしておりそれにセクハラをしても怒られなかった』とか『もしかして惚れてるんじゃないか』とか『あれが罠だったのか』とかもう威厳もくそもない証言がボロボロと出てきて、ルイズはぶちぎれそうになりながらも眉間をもんで必死に抑える。
しかしミスタ・コルベールも同調しているのを見て思わず思ってたことを声に出した。
「死ねばいいのに」
誰もぐうの音さえ出なかった。そんな中、オールドオスマンはゴホンと席をつくと口を開いた。
「しかし、よく『土くれのフーケ』を仕留めてくれた。君には『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。追って報告があるじゃろうな」
「そうですか。確かに爵位が高いと今後の人生に役に立ちますものね」
沈黙がその場をおおう。
ルイズは少し考えるふりをするとスッとシエスタを抱きしめる。するとシエスタはポッと頬を赤くした。
「・・・この子には何もないんですか? フーケを仕留めたのはこの子のおかげのようなものです。私はそれについて行ったにすぎません」
「・・・貴族じゃないから何もできん。すまんのう」
「・・・そうですか。では、失礼しました」
ルイズは明らかに苛立ちながら席を立った。シエスタもそれに続く。そして部屋を出て行った。
「・・・のう、ミスタ・コルベール」
「はい、なんでしょう?」
「ミス・ヴァリエールのことをどう思う?」
「どう思う、とは?」
「言わなくてもわかるじゃろうに」
「・・・はっきり言いましてあの目は危険です。こういう風に話してわかりました。あの子は少なくとも人一人殺したことがあるはずです」
「・・・じゃから殺すことに迷いがなかったのかもしれんな」
「恐ろしいのは、あの使い魔でもないですし、彼女のメイドでもないです。ましてや武器として使っているナイフでもありません。最も恐ろしいのは彼女の明確な殺意です」
そこまで言うとミスタ・コルベールは押し黙った。
その後、自分が血まみれなのを忘れたシエスタが朝食堂に入ってきてその場にいた全員が卒倒したり、ゼロのルイズにまた新たなうわさが追加されたりしたがここでは省略させていただく。
とにかく、彼女が土くれのフーケを仕留めたのは学校中の噂になっていた。もちろん、そこにいちゃもんをつけるやつらもいるわけである。
「おいおい、ゼロのルイズぅ~~? おめぇ調子乗ってんじゃねぇのかぁ~~~?」
「ほんとだぜぇ。マジでやっちまうぞぉ~~~?」
こんな奴等である。対してルイズは涼しい顔で彼ら含む5人の生徒を見ていた。その口元には笑みすら浮かんでいる。ちなみにここはヴェストリ広場である。
「あらあら、調子乗ってるのはあなた方の方ではなくて? こんな半端にもいかない女子生徒に突っかかるなんて」
そう言いながらルイズはケタケタと笑った。隣ではシエスタがニコニコと青筋を立てながら見守っている。よく見ると目が一切笑ってない。
「オイオイオイ、俺たちぁお前を矯正しようとしてんだぜぇ~~~?」
「後輩の教育って大事だろぉ? そういうのはきっちりしねぇとなぁ~~~」
「今更先輩面ですか? フフッ、おかしいですね」
するとぴきっと音がした。
「・・・おい、ゼロのルイズ」
「なんでしょう?」
「なめるのも大概にしろよ」
「そっくりそのままにお返ししますわ」
次の瞬間、ルイズは空中に吹っ飛んだ。エア・ハンマーで攻撃されたのだ。そしてゴロゴロと地面を転がると何事もなかったかのようにムクリと起き上がった。
「・・・そうするということは、
「ヘヘッ、どういうことだぁ?」
「こういうことですよ」
次の瞬間、5人全員の首に杖が突き刺さっていた。その杖は自分たちが今持っていた杖だった。
「・・・」
倒れこんだ5人をルイズは養豚場の豚を見るような目で一瞥するとシエスタに声をかけた。
「そこのゴミは掃除しなくていいわ。退くわよ」
「はい、かしこまりました」
そして二人は去っていった。
この後、さらに生徒の中で暗黙のルールが追加された。もう追加されていた気もするが。
ゼロのルイズに喧嘩を売ってはいけない。殺される
それでもルイズはふつうだった。皆に怖がられてもいつも通り。朝食を摂り、授業を受け、昼食を摂って、また再び授業を受ける。そして夕食を摂ると部屋に戻って寝るのだ。その『普通通り』に皆はある違和感を感じたが気のせいにした。気のせいにしないとやってられなかったのだ。ついでに喧嘩を売った5人は(一応)命に別状はなかった。
そして数日後、舞踏会および品評会が開かれた。
ルイズは気持ちホントはどうでもよかった。しかしここで参加しないと面白くない。皆がどんな顔で舞踏会をするのか興味があったのだ。
そして今、ルイズの周りには空間が空いている。皆彼女を怖がっているのだ。これじゃあダンスもろくに踊ってくれないだろう。何と根性なしなんだろう。ルイズはため息をつく。それでも食事に手を伸ばすことはやめないが。
するとだれかと手が触れた。見るとタバサではないか。全員がしまったみたいな表情で見ている。おおむね、殺されると思ってるのだろう。馬鹿ね、とルイズは思った。これくらいで殺すわけないじゃない、労力の無駄だわ。
「・・・」
「・・・」
くすくすとルイズは笑う。するとタバサはぽつりとつぶやいた。
「・・・(周りの皆に)手は出さないで」
「【それ】を決めるのは私の意思よ。あなたが言っても意味ないわぁ」
そう言うとルイズは外のバルコニーに足を運んだ。
そこにはデルフリンガーが立てかけられていた。
「おいおい、俺にかまってていいのかよ? 俺はただのしゃべれる剣だぜ?」
「あなた、6000年生きてるって自分で言ってたじゃない。つまり始祖ブリミルのころから生きてるってことでいいのよね?」
「ん、まぁ、そうなるな」
「なにか覚えてたりしない?」
「・・・すまねぇ、全然覚えてない」
「あらそうなの・・・? 案外ボケはじめでもきてるんじゃないかしら?」
「いや、こう、なんていうんだかな、のどから出かかってるんだよ。あと一息なんだ。でもその『あと一息』が出ねぇんだよぉ」
「言いたいことは分かるわ。思い出したら言ってほしい」
「あぁ、できるだけ早く思い出せるよう善処するぜ」
「そうして頂戴」
そう言いながらルイズはザ・ワールドを出現させる。
「私と踊ってくださらない?」
「・・・」コクッ
ザ・ワールドは頷くとルイズの手を取った。二人は二つの月の下でワルツを踊った。
そして品評会もあったが優勝したのはルイズであった。タバサはぎりぎりで負けたということをここでは記しておく。
続く
・私の使い魔は『スタンド』という幽霊のような種族(?)らしい。
・様々な能力を有している。ただその能力は個々によって違うらしい。
・姿かたちは様々。
・ギーシュ・ド・グラモンとの交戦で判明したがスタンドは一方的にものに触れることが可能。ただしこちらからは基本的に触ることができないようだ。
※ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの手記より抜粋