とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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9話

木山春生(きやまはるみ)、脳学者だ」

「赤城譲、学生です」

 

 とある喫茶店。白井から幻想御手(レベルアッパー)の件について、専門家から話をうかがいますの。というメールが届いたので、俺はいつも通り女に変身して喫茶店へと来ていた。

 

「譲……女の子なのに、男の子みたいな名前をしてるんだな」

「普段は男です」

「なるほど、女装癖というやつか」

「いや、こんな女子の集まりに男ひとりってのは気がひけるんで」

 

 喫茶店の、6人がけのテーブルに座る俺たち。席順はテーブルを上から見て、左から下3人が俺、涙子、木山さん。左から上3人が白井、初春さん、御坂となっている。

 女子4人の時でさえ辛かったのに、4人プラスひとり大人となったら、もう俺は爆発するかもしれない。

 

「あ、脳学者さんなんですよね。もしかして、白井の脳に異常が?」

「それ、さっき佐天さんにも言われましたの」

「くっそ、さすが涙子」

「えへへー」

 

 やはり、涙子は侮れないようだ。俺が必死に考えたギャグを息をするように言いやがる。お笑い強度(レベル)なんてものがあれば、まず間違いなく5だな。

 

「それより、赤城さんも来たことですし、本題に入りますわね」

「幻想御手のことですよね。それなら」

「黒子が言うには、幻想御手の所有者は風紀委員(ジャッジメント)で保護するんだって」

 

 涙子の途中で、御坂が口を挟んだ。音楽プレーヤーを片手に、涙子の動きが止まる。

 

「なんでですか?」

「幻想御手には副作用がある可能性がありますの。それに、使用者は犯罪に手を染める傾向がありまして」

「はぁ……あ、佐天さん、どうかしました?」

「あ、いやぁ……別に」

 

 わたわたと、手を振ってごまかす涙子。テーブルの上の飲み物入りのグラスが揺れる。

 

「涙子、危ない」

「えっ、あぁ……すいません、譲さん」

 

 グラスを抑える。涙子は我を取り戻したようだ。食べかけのプリンを、一口すくう。

 

「ふむ……君たちはあれか、その……なんだったか、こ、こ……あぁ、恋人、とかいうやつか」

「ぶふっ!」

「っなっ……ちっ、違います!」

 

 顔を真っ赤にして立ち上がる涙子。再度グラスが揺れ、今度は中身をぶちまけてテーブルから落ちた。

 

「あぁ! すみません!」

「……いや、気にすることはない。かかったのはストッキングだけだから、脱いでしまえば……」

「ぶっ!」

 

 木山さんの突然の行動に、俺は再度吹き出す。脱ぎ女が存在するということは人伝いに聞いていたが、まさか木山さんだったとは。

 

「だぁから、人前で脱いじゃダメだと言ってますでしょうが! えぇ!?」

「……あ、譲さん何見てるんですか!」

「えっ、あ、ごめん涙子ってイタタタタタ!?」

 

 突然のストリップに呆けていると、涙子は突然の俺の頰を引っ張った。

 

「まったく、しばらく目隠しです。反省してください」

「……ふぁい」

 

 そう言って涙子は俺の視線を左手で遮った。いや、しかし……分かっていたことだが、女の子の手は男よりも柔らかい。

 

「しかし……起伏に乏しい私の体を見て、劣情を催す男性がいるとは……」

「趣味嗜好はそれぞれですの! 第1、そこに殿方もおりますし、殿方でなくてもゆがんだ情欲を抱く同性もいますのよ!」

 

 それはお前のことだろう、と口には出さないがそう呟く。

 ……しかし、目隠し長くないか? もうストリップも終わっているだろうに。

 

「あのー、涙子? そろそろ目隠しを……」

「ダメです」

 

 ツンとして言い返された。いや、そうじゃなくて……こう長い時間涙子に触れてると、変な気分になるというか……

 

「涙子?」

「ダーメーでーす!」

 

 その後の話は、目隠しのせいかストリップのせいか……あまり覚えていない。

 

***

 

「今日はありがとうございました」

「いやいや、教鞭をふるっていたことを思い出したよ」

「教師をなさっていたんですか?」

「あぁ……昔、にな」

 

 そう言って木山さんと別れた。軽く会釈をして、やけに疲れたカラダを伸ばす。

 

「1度支部の方に戻りませんと……あれ、お姉さまは?」

「ん?」

 

 振り返ると、さっきまでいた御坂と涙子の姿がなかった。

 

「……俺、探してくるよ。2人は支部に戻ってて」

「じゃあ……そちらは任せましたの」

 

 そう言って俺たちも別れる。2人は支部へ、俺は2人を探しに向かう。今さっきまでいた喫茶店のエリアを通り抜け、どんどんと町外れの方へと向かう。

 

 探すこと十数分、高架下のような場所に2人はいた。涙子はお守りを持っていて、御坂は何やら相槌を打っている。なにか、真剣な話をしている様子だ。

 とび入るのも悪いし、近くの茂みに腰を下ろす。

 

「期待が、重いこともあるんです。いつまで経っても強度(レベル)が上がらないですし……」

「強度なんて、どうでもいいことじゃない」

 

 聞こえてきたのは、そんな会話。元気に笑ったり、おんぶした時にはしゃいだり、空き缶を踏んづけて転びそうになったり……そんな元気な顔の裏で、そんな悩みを抱えていたのか、と考えると、悩みを話すような相手になれなかった自分が悔しくなる。

 

 しかし、俺や御坂(超能力者)が言うことではないが、確かに強度なんてどうでもいいことだ。俺や御坂がたまたま才能があっただけ、たまたま宝くじに当たったようなものだ。宝くじなんて当たらなくても生きていける。能力も同じだ。あれば便利だが、なきゃないでいい。そんなものだ。

 それに、涙子には広い交友関係がある。超能力者の友人が2人もいる人なんて学園都市中探してもそうはいないだろう。というか、いないんじゃないだろうか。

 

「あれ、あんた何してんの?」

「御坂と涙子を探しにきたんだよ……急にいなくなったからな」

 

 どうやら話は終わったようで、御坂は俺に声をかけた。俺の言葉に納得したようで、相槌を打つ。

 

「さ、帰ろ」

 

 そう言って俺は立ち上がる。御坂を見送った後、俺は涙子の学生寮前までついていった。

 なぜだかその間、涙子と会話はなかった。

 




うーん、やっぱり地の文が少ない。でも多くしたらしたでくどくなりそうだし……うーん。

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