「さっき爆破事件が起きたって連絡があったけど、まさか唯一の怪我人が君とはね?」
「いやー、まぁ、そんなこともありますよ」
苦笑いを浮かべ、医者の言葉にそう答える。会うたびに思うことだが、やはりゲコ太に似ている。
あの後、犯人を追った御坂の活躍もあり、爆破事件の犯人はお縄についた。どうやら前々から起きていた事件の犯人だったらしく、風紀委員としてはようやく一息つける、と初春が言っていた。
「最下位の8位といっても、
「了解です、ゲコ太せんせー」
「……最近よく聞くけど、ゲコ太ってのはあれかい? マスコットか何かかい?」
「まぁ、そんなもんです」
それじゃあ失礼しまーす、と軽くお礼を言って診察室を出る。
「譲さん!」
診察室の外の、待合室の椅子に涙子が座っていた。
「おぉ、涙子。そっちは大丈夫だった?」
「はい!」
「そっか……元気そうでよかった」
「私から元気をとったら、何も残りませんよ」
あははー、と軽く笑いながら涙子は言った。そんなことはないと思うが、ひとまず無事だったことにホッと胸をなでおろす。
目立った傷があったのは俺だけだったので、一応まともに巻き込まれた涙子の診察はついでのようなもの、俺の付き添いみたいなものだったのだが。まぁ、怪我がなくて一安心だ。
「じゃあ、帰ろっか」
「はい!」
そう言って勢いよく立った涙子だったが、力が抜けたように、逆再生して再び椅子に腰を下ろした。
「あ、あれ?」
「大丈夫? やっぱり、どっか怪我してるのかな?」
「いえいえ! 腰が抜けただけです……すぐ立ちますから!」
「そんな無理しなくていいよ? なんならおぶるし。あんな事件の後だから、仕方ないよ」
大丈夫です! と、涙子は立ち上がろうとするが、やはり立ち上がれない。
「やっぱり、おぶるよ。ほら」
「え、でも……」
「いいから、はい」
背を向けてしゃがみこむ。涙子は「じゃ、じゃあ」と、少し遠慮気味に言って、俺に体重を預けた。
「えっと、すいません……私があんなこと言わなければ、怪我することもなかったですよね」
歩いて数分、涙子は突然そう言った。
「大丈夫だよ。俺は生きてるし、五体満足。なにより涙子も無事だし、怪我人も俺以外いない。最高の結果」
「で、でも……譲さんが怪我してるじゃないですか!」
「涙子が探しに来てくれなかったら、俺は何も知らないまま爆破事件に巻き込まれてたかもしれない。こうして生きてるのは涙子のおかげ。むしろお礼を言うのは俺の方だし、怪我がないっていっても爆破に巻き込んだんだから謝るのも俺の方。涙子は何も悪くないし、俺は恨んでない。むしろ感謝してる」
そう言うと、涙子は押し黙った。気まずい空気になるのはイヤなので、俺は続けて口を開く。
「俺、あまり人に言ってないけど、
「えっ!?」
「最下位の8位だけどね」
思ったよりもいいリアクションをしてくれた涙子に、苦笑いを浮かべてそう返す。
「最下位とはいえ、超能力者の命を救ったんだ。もっと誇っていいと思うよ」
あ、でも俺が超能力者ってあまり人に言わないでね、と付け足す。
「じゃあ、私と譲さん。2人だけの秘密ですねっ」
「あー、いや」
あのメンバーだと、口止めしてるから言わないだけで上条と御坂は知ってるんだけどな。
「……まぁ、そうだな」
「なんか、嬉しいです。譲さんが心を開いてくれたみたいで」
「えっ、俺涙子に冷たかった!?」
「いや、そういうことじゃなくて! えっと……その、そんな感じです!」
「ぬおっ!?」
言葉が出てこなかった事を誤魔化すように、涙子はさらに体重を預けてきた。背中にふたつ、なにやら柔らかいものが押し当てられる。少しよろめくが、転ぶほどのものではない。
「やっぱり、涙子は人懐っこいよね」
「譲さんが人に好かれやすいだけですって!」
そう言って涙子は右へ左へ重心をいったりきたりした。出会ってまだ日が浅いのに、こんなに仲良くなれたのは涙子の人柄のおかげだろう。
「そんなことしてると、お姫様だっこにするよ?」
「えぇ!? それはそれで……」
「いいんかい」
うっはは、と涙子は笑った。さっきまでネガテイブな発言をしていたので、元気が出てよかった。
「あ、そういえば俺、汗くさくない? 大丈夫?」
「いえいえ全然! むしろいいにおいっていうか……服屋さんのにおい?」
「あー……ボロボロで忘れてたけど、そういえばこの服新品だった」
「……ホントだ、タグ付いてます」
一瞬の間をおいて、俺たちは大爆笑した。
***
「送ってくれてありがとうございます!」
「いやいや、助けてくれてありがとね」
涙子を学生寮の前まで送って、ひとことふたこと言葉を交わして、俺は帰路につく。そういえば家の食材が切れていた事を思い出し、今からスーパーへ行くのも面倒くさいので、コンビニへ弁当を買いにいく。
「らっしゃいやせー」
店員の気の抜ける声をBGMに、買い物カゴを手にとって、弁当と、適当にアイスをカゴに放り込む。
コーヒーでも買おうかと、陳列棚に手を伸ばしたとき、白髪の少年の手に触れてしまった。
「えっ!?」
その手は、まるで静電気に当たった時のように弾かれた。
「……悪りィな。俺の能力なンだ」
「いや、大丈夫」
弾かれたことにも驚いたが、もっと驚いたのは買い物カゴの中身だ。ここまでブラックコーヒーを買う人を、俺は見たことがない。
よくよく見ると、病的なまでに肌が白い。目が赤いところを見るに、アルビノとかいうやつだろうか。青ピが喜びそうだ。
「反射……かな? 面白い能力だね」
「お前、俺のこと知らねェのか?」
「うん。学園都市にきてまだ3ヶ月だしね」
「……そォか」
ま、別にいいやと続けて、少年はレジへと向かった。有名人か何かなのだろうか。それなりにテレビは見るし、業界人にも詳しいと思ってたんだが。
まぁ、確かに目立つ格好はしてるよな。白髪に白い肌、赤い目、悪人面。
「……まぁいっか」
ブラックコーヒーをひとつカゴに入れて、俺もレジへと向かう。次あったら名前でも聞こうと、そんな事を考えた。
うーん、なんか、ただのラブコメになってきてるなぁ。なんて思ったりしてます。
佐天と赤城をくっつけるかが、どうにも悩ましいんですよねぇ。個人的に鈍感系主人公は好きじゃないですし、かといって二次創作で勝手にくっつけていいのかなんて分からないですし。