とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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なんていうか、地の文が少ないんですよねー。
息抜きのはずが、逆に自分の弱点を見つけて萎えるっていう。


6話

「あー……もうこんな時間か」

 

 少し物思いに更けていたら、いつの間にか十数分が経過していた。さすがにこれ以上上条を待たせるわけにもいかないので、手を洗ってトイレを出る。

 

「んー……あれ?」

 

 混んでいる、というわけではなかったが、そこそこ人のいたセブンスミストの店内は、不気味なほど静かで、人の気配がなかった。

 

「……こんな静かだっけ」

 

 一抹の疑問を抱きながら、上条を探すついでにぶらつく。する音といえば、俺の買った服の入っている紙袋が揺れる音のみ。

 

 少しぶらついたが、やはり、人影がひとつもない。何か事件でもあったのかなーと考えるが、特に放送も入ってなかったため、たまたまこのフロアに人がいないだけかな、とかなり確率の低い考えが浮かぶ。

 

「……あ、そういえば」

 

 そういえば……考え事をしていたからか、今の今まで思い出せなかったが、電気系統が故障したとかなんとか言っていた気がする。

 たしか、店を出ろ的なことを言っていたな。

 

「譲さん!」

「あれ、涙子。なんで?」

「譲さんがいないから探しにきたんです! 早く行きましょう!」

 

 そう言って涙子は俺の手を掴んだ。

 

「え、電気の故障でしょ? そんなに焦る?」

「えっと……その……爆弾が仕掛けられてるんです」

「あぁ、なるほど、爆弾か……爆弾!?」

 

 爆弾って、あの爆弾? ドカンと爆発する、あの爆弾!?

 

「上条たちは!?」

「あの……女の子を探しにさっき店の中に」

「くっそ、ウニやろう……あれほど見とけって言ったのに」

 

 まぁ、はぐれてしまったものは仕方ない、探しに行くしかないだろう。

 

「探しに来てくれてありがとう。でも、涙子は避難しといて。俺は探しに行くから」

「私もいきます!」

「……銀行強盗の時とは、ワケが違うぞ?」

「分かってます」

「……分かった。説得しても無駄なんだろうな。けど、俺のそばをなるべく離れないように」

 

 俺の言葉にコクリと頷いた涙子。まぁ、俺とあとひとり分くらいなら身の安全は確保できる。ギリギリ……だろうけど。

 

「とりあえず、行こう。時間もないだろうし」

「はい!」

 

 今の時点であの少女が見つかっていて、すでに避難していればいいが……そしたら、俺の心配も杞憂で終わる。

 

「上条たちがどこ行ったかわかる?」

「多分、上の階です。途中まで一緒に来たので」

「分かった。急ごう」

 

 どのくらい上の階かは分からないが、とりあえず階段を駆け上って、少しでも物音のする階にいるだろう。どうやら避難は完了しているようだし、俺たち以外に人がいるとは考え辛い。

 

 階段を駆け上り、2フロアくらい上にきただろうか。初春さんの悲痛な声が聞こえた。

 

「この階です!」

 

 涙子の声に軽く頷いて、声のした方へと向かう。店内通路の、T字路のようになっているところに声の主、初春さんはいた。俺たちから見て、T字路の横棒の向かい側に初春さんは丸まっていて、よくよく見るとあの少女を抱きかかえているようだ。その奥には、御坂と上条がいる。

 

「譲!」

「このウニ! なに目ぇ離してんだ!」

「逃げろ! その人形が爆弾だ!」

「……あぁ?」

 

 足元に転がる、いびつな形に歪んでいくゲコ太に似ても似つかない人形。全身から嫌な汗が吹き出しすが、恐怖からか、一瞬にしてそれらは吹き飛んだ。

 

「涙子!」

「譲さーー」

 

 とっさに涙子を抱きかかえ、衝撃からかばう。轟音と、爆風が俺たちを襲う。俺は涙子を抱きかかえたまま吹き飛ばされ、派手にバウンドしながら店内通路を転げ回った。

 

「っがぁ……いってぇ」

「ーーーー!」

 

 涙子が何か叫んでいるが、爆音のせいか、耳をやられて何を言っているのか、全く分からない。かろうじて物質変換で体を硬質化できたが、さすがに威力を全て相殺とはいかなかったようだ。

 

「涙子、無事か?」

 

 背中が燃えるように熱い……というか、実際燃えたのだろう。新品のジャケットが、とりあえずボロボロになったことはわかった。涙子の方も、制服が少しボロボロになり、焼けている部分もある。

 

「大ーーです。譲ーー?」

「大丈夫だ。問題ない」

 

 どこかで聞いたようなセリフを言って、俺は立ち上がる。いまいち耳は効かないが、五体はとりあえず無事なようだ。

 反対側はどうなったのかと、初春さんたちの方を見る。

 

「さっすが、上条」

 

 右手を盾にした上条のおかげで、あっちは全員無傷なようだ。人名救助ついでに、床も綺麗な状態で助かっている。

 

「譲! 大丈夫か!?」

「よゆーよゆー。俺のこと誰だと思ってんだよ」

 

 上条の声に答える。耳もだいぶ回復したようだ。

 とか言いつつ、死ぬほど痛いんだけどな……俺の能力で怪我とかは理論上治せるけど、医学の知識がない俺がいじるのは怖いからな。あとで病院に行こう。

 

「あ、あの……譲さん」

「ん?」

「……私のワガママのせいで……すいません」

 

 泣きそうな顔で、というか涙を浮かべて、涙子はそう言った。ひとつ息を吐き、俺は涙子の頭に手を置く。

 

「大丈夫だよ。こんなの、怪我のうちにも入んないからさ」

 

 そう言って、軽く頭を撫でる。一応慰めたつもりなのだが、涙子は大粒の涙を流した。

 

「あ、ごめん! あの子の頭撫でてたから、つい流れで……嫌だったよね」

「いえ……本当にすいません、譲さん」

「……大丈夫だよ、涙子」

 

 ふぅ、と安堵の息を吐く。その安堵は、涙子が無事だったからか、それとも涙子に嫌われなかったことからか、どちらが原因で出たのかは、俺には分からない。

 


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