息抜きのはずが、逆に自分の弱点を見つけて萎えるっていう。
「あー……もうこんな時間か」
少し物思いに更けていたら、いつの間にか十数分が経過していた。さすがにこれ以上上条を待たせるわけにもいかないので、手を洗ってトイレを出る。
「んー……あれ?」
混んでいる、というわけではなかったが、そこそこ人のいたセブンスミストの店内は、不気味なほど静かで、人の気配がなかった。
「……こんな静かだっけ」
一抹の疑問を抱きながら、上条を探すついでにぶらつく。する音といえば、俺の買った服の入っている紙袋が揺れる音のみ。
少しぶらついたが、やはり、人影がひとつもない。何か事件でもあったのかなーと考えるが、特に放送も入ってなかったため、たまたまこのフロアに人がいないだけかな、とかなり確率の低い考えが浮かぶ。
「……あ、そういえば」
そういえば……考え事をしていたからか、今の今まで思い出せなかったが、電気系統が故障したとかなんとか言っていた気がする。
たしか、店を出ろ的なことを言っていたな。
「譲さん!」
「あれ、涙子。なんで?」
「譲さんがいないから探しにきたんです! 早く行きましょう!」
そう言って涙子は俺の手を掴んだ。
「え、電気の故障でしょ? そんなに焦る?」
「えっと……その……爆弾が仕掛けられてるんです」
「あぁ、なるほど、爆弾か……爆弾!?」
爆弾って、あの爆弾? ドカンと爆発する、あの爆弾!?
「上条たちは!?」
「あの……女の子を探しにさっき店の中に」
「くっそ、ウニやろう……あれほど見とけって言ったのに」
まぁ、はぐれてしまったものは仕方ない、探しに行くしかないだろう。
「探しに来てくれてありがとう。でも、涙子は避難しといて。俺は探しに行くから」
「私もいきます!」
「……銀行強盗の時とは、ワケが違うぞ?」
「分かってます」
「……分かった。説得しても無駄なんだろうな。けど、俺のそばをなるべく離れないように」
俺の言葉にコクリと頷いた涙子。まぁ、俺とあとひとり分くらいなら身の安全は確保できる。ギリギリ……だろうけど。
「とりあえず、行こう。時間もないだろうし」
「はい!」
今の時点であの少女が見つかっていて、すでに避難していればいいが……そしたら、俺の心配も杞憂で終わる。
「上条たちがどこ行ったかわかる?」
「多分、上の階です。途中まで一緒に来たので」
「分かった。急ごう」
どのくらい上の階かは分からないが、とりあえず階段を駆け上って、少しでも物音のする階にいるだろう。どうやら避難は完了しているようだし、俺たち以外に人がいるとは考え辛い。
階段を駆け上り、2フロアくらい上にきただろうか。初春さんの悲痛な声が聞こえた。
「この階です!」
涙子の声に軽く頷いて、声のした方へと向かう。店内通路の、T字路のようになっているところに声の主、初春さんはいた。俺たちから見て、T字路の横棒の向かい側に初春さんは丸まっていて、よくよく見るとあの少女を抱きかかえているようだ。その奥には、御坂と上条がいる。
「譲!」
「このウニ! なに目ぇ離してんだ!」
「逃げろ! その人形が爆弾だ!」
「……あぁ?」
足元に転がる、いびつな形に歪んでいくゲコ太に似ても似つかない人形。全身から嫌な汗が吹き出しすが、恐怖からか、一瞬にしてそれらは吹き飛んだ。
「涙子!」
「譲さーー」
とっさに涙子を抱きかかえ、衝撃からかばう。轟音と、爆風が俺たちを襲う。俺は涙子を抱きかかえたまま吹き飛ばされ、派手にバウンドしながら店内通路を転げ回った。
「っがぁ……いってぇ」
「ーーーー!」
涙子が何か叫んでいるが、爆音のせいか、耳をやられて何を言っているのか、全く分からない。かろうじて物質変換で体を硬質化できたが、さすがに威力を全て相殺とはいかなかったようだ。
「涙子、無事か?」
背中が燃えるように熱い……というか、実際燃えたのだろう。新品のジャケットが、とりあえずボロボロになったことはわかった。涙子の方も、制服が少しボロボロになり、焼けている部分もある。
「大ーーです。譲ーー?」
「大丈夫だ。問題ない」
どこかで聞いたようなセリフを言って、俺は立ち上がる。いまいち耳は効かないが、五体はとりあえず無事なようだ。
反対側はどうなったのかと、初春さんたちの方を見る。
「さっすが、上条」
右手を盾にした上条のおかげで、あっちは全員無傷なようだ。人名救助ついでに、床も綺麗な状態で助かっている。
「譲! 大丈夫か!?」
「よゆーよゆー。俺のこと誰だと思ってんだよ」
上条の声に答える。耳もだいぶ回復したようだ。
とか言いつつ、死ぬほど痛いんだけどな……俺の能力で怪我とかは理論上治せるけど、医学の知識がない俺がいじるのは怖いからな。あとで病院に行こう。
「あ、あの……譲さん」
「ん?」
「……私のワガママのせいで……すいません」
泣きそうな顔で、というか涙を浮かべて、涙子はそう言った。ひとつ息を吐き、俺は涙子の頭に手を置く。
「大丈夫だよ。こんなの、怪我のうちにも入んないからさ」
そう言って、軽く頭を撫でる。一応慰めたつもりなのだが、涙子は大粒の涙を流した。
「あ、ごめん! あの子の頭撫でてたから、つい流れで……嫌だったよね」
「いえ……本当にすいません、譲さん」
「……大丈夫だよ、涙子」
ふぅ、と安堵の息を吐く。その安堵は、涙子が無事だったからか、それとも涙子に嫌われなかったことからか、どちらが原因で出たのかは、俺には分からない。