とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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どうも、お久しぶりです。
勉強の合間の息抜きに書きました。

今回はミサカ視点の番外編です。


番外編 ミサカの一日

 ミサカがこの人と出会ったのは、犬が木に登ったのがキッカケでした。

 

 いえ、それは別のミサカでしたから……正確には、あの少年との実験の最中でしたか。

 

「……ふむ」

 

 寝ている少年の頰をつまみ、引っ張ったり人差し指でつついたり。

 

 

 この人はアラームや呼びかけでは起きるのに、こういったことでは起きないので、顔をいじったり寝顔を見たりと、やりたい放題できる。

 

 

 すでに朝食と、この人のお弁当は作り終わったので、あとは起こすだけ。

 でも、まだ少し時間に余裕があるので、あと少し……

 

「んん」

「……そろそろ起こしますか」

 

 そう呟いて、肩を叩くと、眠そうに目をこすりながら上半身を起こした。

 

「おはようございます、とミサカは朝の挨拶をします」

「……おう、今日も近い」

 

 上半身を起こし、手のひらを天井に向け伸びをする少年。あくび混じりのそれの後、少し潤んだ瞳で朝食を見つけると布団から這い出た。

 

「今日もいただきます」

 

 ミサカに軽く会釈をするように、手を合わせてそう言うと、箸をとって食事を始める。それを見てミサカも箸を取り、後に続く。

 

「うん、今日も美味い」

「ミサカが作ったのですから、とミサカは胸を張ります」

 

 ミサカがそう言うと、少年はいつものように笑い「いつもありがとう」と口にした。

 

「なんですか急に、とミサカは鳥肌が立つのを感じながら問いかけます」

「朝弁当つくって、朝食もつくって、俺を起こしてくれて……だいぶ楽させてもらってるからさ」

「そうですね、お礼ならとびっきりの夕食を期待しておきます。とミサカは今日の楽しみができたことを嬉しく思います」

「おう、任せとけ」

 

 そんなことを話しながら朝食を食べ終え、食器を片付け、そして布団をたたみ終えると少年は身支度を始めた。

 

 制服を着て、髪を整え、歯磨きをして、弁当をカバンに入れて身支度は終わった。

 

「それじゃ、行ってきます」

「はい、とミサカは手を振って見送ります」

 

 少年が部屋から出ると、部屋がやけに静かに感じる。

 さっきまでちょっとした雑談や、箸と食器の音ぐらいしかしていなかったはずなのに、ミサカしか世界にいないような、そんな気分になる。

 

 

 

 食器はもう片付いているし、布団も畳まれているので特にやることもない。

 

 なんとなくテレビをつけるものの、平日の朝に興味を引かれるような番組があるわけもなく、どの局もだいたい同じような内容のニュースを放送している。

 

 

 ぼうっとそれを見ていると、隣の部屋がドタバタと騒がしくなってきた。どうやら、今日もツンツン頭の少年は寝坊をして、シスターさんに頭を噛まれているらしい。「不幸だー!」という声が聞こえてきそうだ。

 

「不幸だー!」

 

 ……聞こえた。

 

 

 

 ドタバタが収まった頃、チャイムが鳴った。きっと、朝食を食べられなかったシスターさんが来たのだろう。

 

 そんなことを考えながらドアを開けると、案の定そこにはシスターさんがいた。真夏だというのに、長袖の服に頭の被り物。暑くはないのだろうか。

 

「うう、ごめんなんだよ。今日もとーまが……」

「いえいえ、とミサカは建前を言います」

「た、建前!?」

「冗談です」

 

 このシスターさんは、見かけによらず胃袋が底なしなので、思う存分料理の練習ができる。ミサカは料理の練習ができ、シスターさんはお腹がふくれる。win-winの関係。

 

 

 いつまでも玄関に立たせておくわけにもいかないので、シスターさんをリビングに案内して、食事の準備にとりかかる。

 

 食材、もとい冷蔵庫は現在ミサカの支配下にあるので材料は無限にある、と言っても過言ではない。とりあえず弁当に入りきらなかった余り物や、昨日中途半端に残った食材を使って料理を作り、もっていく。

 

 

 目を輝かせ、「いただきます!」と勢いよく言ったシスターさんは、まるで一週間何も口にしていなかったかのような速度で食事をたいらげた。

 

「ごちそうさま!」

「お粗末さまでした」

「美味しかったんだよ!」

 

 あの人もミサカの料理を美味しいと、笑顔で言ってくれるが、シスターさんのように満面の笑みではない。

 

 ……もう少し、腕を上げる必要がありそうですね。

 

「とうまもクールビューティーを見習って、もっと早起きして欲しいんだよ」

「……そうですね」

 

 少し考えて、ミサカは言葉を続ける。

 

「いっそ、シスターさんが朝食を作ってみればどうでしょうか、とミサカは提案します」

「私が?」

「そうすれば、自分の好きな量の食事を作れて、あの少年が寝坊をしても食べ損ねることはありません。とミサカはメリットをお話しします」

「で、でも、私料理できないし……」

「料理は練習すれば、誰でもできます。とミサカは勇気づけます」

 

 ミサカがそう言うと、シスターさんは頷いた。

 

「じゃあ、クールビューティーに手伝って欲しいんだよ」

「ミサカに……ですか?」

「とうまより料理上手だし、それに昼間はとうま出かけちゃうから……」

「……なるほど、それでミサカに、と」

 

 ふむ……

 

 

「いいですよ、とミサカは答えます」

「ホント!?」

「はい、ミサカもあの人が出かけている間は暇なので、とミサカは理由を述べます」

 

 そう言うと同時に本棚に向かい、初心者向けの料理本を取り出す。

 

「とりあえず、簡単なものから挑戦してみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「お邪魔しまーす」

「お帰りなさい、とミサカは2人に挨拶を返します」

「とうま、おかえり!」

「おう……悪いな御坂妹、インデックスの面倒見てもらっちゃって」

「いえ、おかげで楽しく過ごさせてもらいました、とミサカはお礼を言います」

 

 シスターさんの練習の成果を見せようと、今日の夕飯はツンツン頭の少年と一緒に食べることにした。

 

 最初こそ、電子レンジの使い方も分からなかったシスターさんだったが、物覚えが良いのか一度使い方を覚えるとメキメキと料理の腕が上がっていった。

 

「おっ、美味そう」

 

 カバンを置いて、机の上に並んだ食事を見ると、一言そういった。

 

「ひ、久しぶりにもやし以外を……」

「……上条、お前苦労してんだな」

 

 よだれを垂らしそうなこの人とは対照的に、この少年は涙を流しそうになっていた。

 

「ふふん、これ全部私が作ったんだよ」

「え、インデックス料理できたっけ?」

「ミサカが教えました、とミサカは出来のいい弟子を誇ります」

「よかったな上条、これからは朝飯作れなくても噛みつかれないぞ?」

 

 笑いながら言ったその言葉に、少年は「ありがたやー」と跪き言った。

 

 

 

 そんなコントも終え、食事を食べ終えると少年とシスターさんは隣へと帰っていった。

 

「さて」

 

 2人を見送ると、この人は立ち上がった。どうやら外出するらしく、玄関へと向かっている。

 

「どこへいくのですか? とミサカは問いかけます」

「ほら、朝に俺の作った夕食食べたいって言ってたじゃん。でも夕食作れなかったから、コンビニでなんかデザートでも買おうかなって思って」

「……それでしたら」

「おう、何買ってきて欲しい?」

 

 その言葉に、ミサカは立ち上がり少年の後を追う。

 

「ミサカも行きます」

「買ってきてやるけど?」

「いえ、一緒に行きたいので」

「……」

 

 少し顔を赤く染め、頬をかく少年。

 

「……よし、んじゃ行くか」

「はい」

 

 徒歩で2分のコンビニでアイスを買い、家に戻ってそれを食べ、ベッドに入る。

 

「それでは、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 

 明日のお弁当は何を作りましょうか。

 ハンバーグ……生姜焼き、唐揚げもいいかもしれませんね。

 

 ……閉じていた目を開け、目を閉じている少年に目を落とす。

 今、ミサカが生きているのは、この少年のおかげ。

 こうして、明日のお弁当を考えることができているのも、この少年のおかげだ。

 

「ありがとうございます。赤城さん」

 

 ……そういえば、名前を呼んだのは初めてかもしれない。

 明日はどんな日になるのか、そんなことを考えながらミサカは眠りについた。




勉強の息抜きにたまに書いて、それで完成したら今回みたいにのっけるかもです。
まあ、本編ではなく1話完結の番外編だけになると思いますが。

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