とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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3話

「へぇー、半年前そんなことがあったんですね」

「そーそー、学園都市を見学しに来たらさ、初春さんが防犯シャッターの閉まった銀行の前にいて……友達を助けてくださいって、それでシャッターこじ開けて中に入ったら中はパチンコ玉まみれでさ」

 

 半年前のことを、佐天さんに話しながら道を歩く。ゲーセンの後の今、いつの間にか仲良くなっていた。

 

「佐天さんって、人懐っこいんだね」

「そーですかね、赤城さんが懐かれやすいんじゃないですか?」

「俺、そんなこと初めて言われた」

 

 そんな話をしながら、2枚目となるクレープのチラシを受け取る。どうも女子4人と歩いているせいか、通行人からの視線がすごい。チラシ配りのお姉さんも、さっき見たような……といった視線を向けている。

 

「あら、お姉さま……クレープ屋さんにご興味が?」

 

 それとも、と白井は続ける。いつの間にか御坂は立ち止まっていて、チラシを熱心に見ていた。

 

「もれなく貰えるプレゼントの方ですの?」

「なっ……」

 

 図星を突かれたからか、真っ赤になる御坂。爬虫類だなんだという言い訳をして、ストラップいらないという話をしていた御坂だったが、カバンについているカエルのストラップを見つけられ、さらに真っ赤になっていた。

 

***

 

「あー……チョコバナナクレープひとつ」

「あはは……了解です」

 

 ふれあい広場に移動して、俺たちはクレープを買っていた。観光客かなんかだろうか、ふれあい広場は人でごった返していた。席取りを白井と初春に任せ、俺と御坂と佐天さんはクレープ調達係に就任する。一応、男のメンツとして全員のお代は俺が持つ。

 店員さんは俺の顔を覚えていたようで、苦笑いを浮かべてクレープを作ってくれた。心なしか、手際が先ほどよりもいい。

 

「はい、これ最後の一個です」

「はい……え」

 

 俺の後ろで、誰かが崩れ去る音がした。

 

「えーっと、御坂さーん、御坂美琴さーん?」

「……なに?」

「これ、あげる」

 

 受け取ったカエルのストラップを、そのまま手渡す。

 

「本当に!?」

「うん、俺持ってるし」

 

 そう言ってポケットからカエルを取り出す。御坂は本気で欲しかったようで、涙を流しそうになっている。

 

「あ、佐天さんいる?」

 

 ポケットから取り出したカエルを、佐天さんに向ける。

 

「あー……遠慮しときます」

「了解」

 

 苦笑いを浮かべて、遠回しにいらないと言った佐天さんに、俺も苦笑いを浮かべ、カエルをしまう。

 

「そういえば」

「んー?」

 

 佐天さんに反応しながら、席取りしてくれていた白井に、納豆トッピングのクレープを渡す。納豆トッピングなんて、クレープにあるんだ。

 

「赤城さん、さっきシャッターこじ開けたって言ってましたけど、どうやってこじ開けたんですか?」

「あー、それは……って、初春さんどうしたの?」

 

 佐天さんの質問に答えようとしたとき、どこかボーッとした様子の初春さんが目に入った。

 

「あ、いえ……あそこの銀行なんですけど」

 

 初春さんの視線を追う。そこには、シャッターの閉まったいそべ銀行があった。

 

「シャッター閉まってるね」

「はい。なんでですかね」

 

 そんな話をした瞬間、激しい音が鳴り響いて、銀行が爆発した。

 

「……まさか」

「いや、あんな乱暴にこじ開けてないからね?」

 

 佐天さんのジト目の視線に、俺は答える。いつの間にか白井は、風紀委員(ジャッジメント)の腕章をつけ、現場へと向かっていた。よくよく見ると、銀行から爆発の元凶と思われる少年3人が飛び出してきたところだった。

 

「さてさてさーて……強盗捕まえる権限もないし、どうすっか」

 

 朝は風紀委員が近くに居なそうだったから助けに入った……といっても徒労に終わったけど。今は風紀委員がいるしな。

 

「ダメですって! 今広場から出たら……」

 

 こっちはこっちで、事件が発生していた。どうやら子供が1人いないようだ。バスガイドさんが、必死の形相で探している。

 

「じゃあ……御坂と初春さんはあっち、俺はこっちを……」

「私も」

 

 俺の言葉に、佐天さんが食いかかった。

 

「私も、探します」

「……わかった、なら広場をお願い」

 

 その言葉に頷く佐天さん。ふと銀行の方を見ると、白井が一際体格のでかい少年を投げ飛ばしていた。

 

「おぉ……うっし、探すか」

 

 佐天さんを広場において、俺たちは子供の捜索を始める。バスの中、茂みの中、縦列駐車されている車の下……全て探したが、子供はいなかった。

 

「いないな」

「広場の方かな」

「かもなぁ……佐天さーん。佐天さーん……あれ?」

 

 広場担当の佐天さんを探すが、どうも見つからない。目の届かないところでも探しているのかと思ったが、数秒後に聞こえた声で全て理解した。

 

「きゃあ!」

 

 後ろから聞こえた悲鳴。振り返ると、そこには子供を犯人の少年から取り返そうとして、顔を蹴られた佐天さんの姿があった。

 

「あのやろっ」

「黒子!」

 

 頭に血が上りかけた一瞬、俺よりも早く激昂した御坂が、白井に呼びかけた。体は青白い電撃に包まれていて、すでに臨戦態勢に入っている。

 

「大丈夫?」

「あ、はい……それよりこの子が」

「……優しいね」

「へ?」

 

 佐天さんに駆け寄り、怪我の具合を確認する。子供は無傷で、佐天さんは顔に軽度の打撲。とりあえず、打撲は冷やせば治るかと思い、茂みの葉を一枚ちぎり、氷入りの冷えた氷のうに変換(トランスフォーム)する。

 

「はい、とりあえず冷やしといて」

「あ、ありがとう……ございます」

 

 氷のうを受け取った佐天さんは、ハッとした表情を浮かべた。

 

「あ、でも犯人が……」

「あー大丈夫だと思う」

 

 会話する俺たちの横を、轟音とともに閃光が駆け抜けた。

 

「……犯人にも氷のう、必要かな」

「……あはは」

 

 駆け抜けた閃光は車を撃ち抜き、撃ち抜かれた車は宙を舞い、放物線を描いて地面に激突した。

 

***

 

「さ、佐天さん大丈夫ですか!?」

「あー、うん。へーきへーき」

 

 初春の言葉に、氷のう片手に、なんでもないように手を振る佐天さん。腫れは引いているが、それでも少し腫れている。

 

「本当にありがとうございます……ほら、お礼言いなさい」

「おねーちゃんありがとー!」

「……うん!」

 

 照れくさいのか、少年のお礼に顔を赤くして答えた。

 

「今回一番の立役者は佐天さんですわね」

「そーねぇ、かっこよかったわよ佐天さん」

「え、いや、そんな……」

 

 白井と御坂の言葉に、謙遜かどうかはわからないが、全力で手を振る佐天さん。本当にいい子だ。

 

「あの……」

「ん?」

 

 ワイシャツの裾を軽く引っ張る佐天さん。こちらを見上げる上目遣い。耐性のない俺の顔が、少し熱くなる。

 

「赤城さんは、どう思いますか?」

「……」

 

 なんて言おうか悩んで、口を開く。

 

「うん、佐天さんが一番かっこよかったよ」

「そう……ですか」

 

 少し息を吸って、佐天さんは続けた。

 

「嬉しいです」

 

 少し俯いて、微笑んだ佐天さん。今日初めて会ったし、あまり女子の知り合いもいないが、こんなにいい子はそういないのだろうと、心からそう思った。


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