「へぇー、半年前そんなことがあったんですね」
「そーそー、学園都市を見学しに来たらさ、初春さんが防犯シャッターの閉まった銀行の前にいて……友達を助けてくださいって、それでシャッターこじ開けて中に入ったら中はパチンコ玉まみれでさ」
半年前のことを、佐天さんに話しながら道を歩く。ゲーセンの後の今、いつの間にか仲良くなっていた。
「佐天さんって、人懐っこいんだね」
「そーですかね、赤城さんが懐かれやすいんじゃないですか?」
「俺、そんなこと初めて言われた」
そんな話をしながら、2枚目となるクレープのチラシを受け取る。どうも女子4人と歩いているせいか、通行人からの視線がすごい。チラシ配りのお姉さんも、さっき見たような……といった視線を向けている。
「あら、お姉さま……クレープ屋さんにご興味が?」
それとも、と白井は続ける。いつの間にか御坂は立ち止まっていて、チラシを熱心に見ていた。
「もれなく貰えるプレゼントの方ですの?」
「なっ……」
図星を突かれたからか、真っ赤になる御坂。爬虫類だなんだという言い訳をして、ストラップいらないという話をしていた御坂だったが、カバンについているカエルのストラップを見つけられ、さらに真っ赤になっていた。
***
「あー……チョコバナナクレープひとつ」
「あはは……了解です」
ふれあい広場に移動して、俺たちはクレープを買っていた。観光客かなんかだろうか、ふれあい広場は人でごった返していた。席取りを白井と初春に任せ、俺と御坂と佐天さんはクレープ調達係に就任する。一応、男のメンツとして全員のお代は俺が持つ。
店員さんは俺の顔を覚えていたようで、苦笑いを浮かべてクレープを作ってくれた。心なしか、手際が先ほどよりもいい。
「はい、これ最後の一個です」
「はい……え」
俺の後ろで、誰かが崩れ去る音がした。
「えーっと、御坂さーん、御坂美琴さーん?」
「……なに?」
「これ、あげる」
受け取ったカエルのストラップを、そのまま手渡す。
「本当に!?」
「うん、俺持ってるし」
そう言ってポケットからカエルを取り出す。御坂は本気で欲しかったようで、涙を流しそうになっている。
「あ、佐天さんいる?」
ポケットから取り出したカエルを、佐天さんに向ける。
「あー……遠慮しときます」
「了解」
苦笑いを浮かべて、遠回しにいらないと言った佐天さんに、俺も苦笑いを浮かべ、カエルをしまう。
「そういえば」
「んー?」
佐天さんに反応しながら、席取りしてくれていた白井に、納豆トッピングのクレープを渡す。納豆トッピングなんて、クレープにあるんだ。
「赤城さん、さっきシャッターこじ開けたって言ってましたけど、どうやってこじ開けたんですか?」
「あー、それは……って、初春さんどうしたの?」
佐天さんの質問に答えようとしたとき、どこかボーッとした様子の初春さんが目に入った。
「あ、いえ……あそこの銀行なんですけど」
初春さんの視線を追う。そこには、シャッターの閉まったいそべ銀行があった。
「シャッター閉まってるね」
「はい。なんでですかね」
そんな話をした瞬間、激しい音が鳴り響いて、銀行が爆発した。
「……まさか」
「いや、あんな乱暴にこじ開けてないからね?」
佐天さんのジト目の視線に、俺は答える。いつの間にか白井は、
「さてさてさーて……強盗捕まえる権限もないし、どうすっか」
朝は風紀委員が近くに居なそうだったから助けに入った……といっても徒労に終わったけど。今は風紀委員がいるしな。
「ダメですって! 今広場から出たら……」
こっちはこっちで、事件が発生していた。どうやら子供が1人いないようだ。バスガイドさんが、必死の形相で探している。
「じゃあ……御坂と初春さんはあっち、俺はこっちを……」
「私も」
俺の言葉に、佐天さんが食いかかった。
「私も、探します」
「……わかった、なら広場をお願い」
その言葉に頷く佐天さん。ふと銀行の方を見ると、白井が一際体格のでかい少年を投げ飛ばしていた。
「おぉ……うっし、探すか」
佐天さんを広場において、俺たちは子供の捜索を始める。バスの中、茂みの中、縦列駐車されている車の下……全て探したが、子供はいなかった。
「いないな」
「広場の方かな」
「かもなぁ……佐天さーん。佐天さーん……あれ?」
広場担当の佐天さんを探すが、どうも見つからない。目の届かないところでも探しているのかと思ったが、数秒後に聞こえた声で全て理解した。
「きゃあ!」
後ろから聞こえた悲鳴。振り返ると、そこには子供を犯人の少年から取り返そうとして、顔を蹴られた佐天さんの姿があった。
「あのやろっ」
「黒子!」
頭に血が上りかけた一瞬、俺よりも早く激昂した御坂が、白井に呼びかけた。体は青白い電撃に包まれていて、すでに臨戦態勢に入っている。
「大丈夫?」
「あ、はい……それよりこの子が」
「……優しいね」
「へ?」
佐天さんに駆け寄り、怪我の具合を確認する。子供は無傷で、佐天さんは顔に軽度の打撲。とりあえず、打撲は冷やせば治るかと思い、茂みの葉を一枚ちぎり、氷入りの冷えた氷のうに
「はい、とりあえず冷やしといて」
「あ、ありがとう……ございます」
氷のうを受け取った佐天さんは、ハッとした表情を浮かべた。
「あ、でも犯人が……」
「あー大丈夫だと思う」
会話する俺たちの横を、轟音とともに閃光が駆け抜けた。
「……犯人にも氷のう、必要かな」
「……あはは」
駆け抜けた閃光は車を撃ち抜き、撃ち抜かれた車は宙を舞い、放物線を描いて地面に激突した。
***
「さ、佐天さん大丈夫ですか!?」
「あー、うん。へーきへーき」
初春の言葉に、氷のう片手に、なんでもないように手を振る佐天さん。腫れは引いているが、それでも少し腫れている。
「本当にありがとうございます……ほら、お礼言いなさい」
「おねーちゃんありがとー!」
「……うん!」
照れくさいのか、少年のお礼に顔を赤くして答えた。
「今回一番の立役者は佐天さんですわね」
「そーねぇ、かっこよかったわよ佐天さん」
「え、いや、そんな……」
白井と御坂の言葉に、謙遜かどうかはわからないが、全力で手を振る佐天さん。本当にいい子だ。
「あの……」
「ん?」
ワイシャツの裾を軽く引っ張る佐天さん。こちらを見上げる上目遣い。耐性のない俺の顔が、少し熱くなる。
「赤城さんは、どう思いますか?」
「……」
なんて言おうか悩んで、口を開く。
「うん、佐天さんが一番かっこよかったよ」
「そう……ですか」
少し息を吸って、佐天さんは続けた。
「嬉しいです」
少し俯いて、微笑んだ佐天さん。今日初めて会ったし、あまり女子の知り合いもいないが、こんなにいい子はそういないのだろうと、心からそう思った。