とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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先ほどの話を投稿してから書き始めたのですが……書き終わったので投稿します。
昼寝しちゃったから、眠くないんですよね。起きてる人いるのかな?


20話

「何言ってんだ……?」

 

 再び痛み始めた頭を抑え、上条を正面に見据える。どうも、上条は勘違い進行形のようだ。

 

「なんでここにいんのか知らないし、知る気もないけど……なにか勘違い」

「グチャグチャ言ってねえで離れろっつってんだろ!」

「……おぅ」

 

 記憶喪失でもしてんのか……上条ならありえるな。

 しかもまぁ、見事に頭に血が上っちゃって……これはあれか、落ち着かせるには倒さなきゃいけないってゲームではよくあるあるのあの展開か。

 

「この体で上条の相手は……あ、あいつボロボロだ」

 

 よく目を凝らすと、上条はボロボロの姿だった。対して俺は外傷なし。頭痛はするが、有利なのは俺か。

 

 ……上条と喧嘩、か。ちょっとした小競り合いとかでやったことはあるけど、マジではないな。上条喧嘩強いらしいしな。たしか、2対1なら勝てるんだったか……マジにやばいかも。

 

 頬を伝う冷や汗を感じながら、考えを張り巡らせる。しかし頭痛のせいか、妙案は思い浮かばない。

 

「おォォオオオ!」

「え、うっそ!?」

 

 雄叫びをあげながら拳を振りかぶる上条。繰り出された右拳を避け、俺は距離をとる。

 

「っち……やるしかないか!」

 

 拳を握り、臨戦態勢をとる。

 

「おらっ!」

 

 繰り出された右拳を避け、腹にカウンターを叩き込む。

 上条は喧嘩の時、相手が能力者であることを考慮して右手しか使わないので、対処は楽だ。

 

「ぐっ……っ!」

「うおっ!?」

 

 うずくまる上条。苦し紛れの右裏拳が頬をかすめる。

 

「っち……頭いてぇ」

 

 距離を取り、激しくなってきた頭の痛みを抑えようと頭を抑える。どうやら、タイムリミットが近づいているようだ。

 

「早めに片付けて……御坂妹を病院に連れて行かないとな」

 

 早くしないと、タイムリミットもくるし御坂妹が出血多量で死ぬかもしれない。

 

 ……それにしても、上条タフだな。俺ならそのケガ確実に倒れてる。

 

「演算能力と……体術だな、しばらくの課題だ」

 

 先ほどのコーヒー少年の言っていたことを思い出し、目の前の上条を見て呟く。

 

 自分の演算能力が高ければ……原石ってことに甘えずに、頭を鍛えていれば頭痛は起きなかったかもしれない。頭痛がきても、上条を瞬殺できるほどの体術があればこんな危機には陥っていない。

 

「……やるしかない、か」

 

 自身を変換(トランスフォーム)し、身長2メートル越えの戦闘用の肉体に変身する。今日は制服ではないので、上半身の服は弾け飛び、下半身は太ももの太さに耐え切れなかったか、縫い目が弾けチャイナドレスのようになった。

 

「悪りぃな上条、起きたら事情を話す」

「っ!」

 

 右手を上条へと振り下ろす。上条はそれを右手で受け止め、俺の体は元に戻る。

 

「ほぅるぁ!」

 

 その隙をついて、上条の顎を狙いすまし、左手を使って殴りぬける。

 

「がっ……」

 

 カクン、と糸の切れた人形のように上条は倒れ伏した。

 

 しかし、上条はどうしたのだろうか。本当に記憶喪失かなにかか。

 

 そんなことを考えながら、頭を抑え寝っ転がる。どうも、動けそうにない。限界だ。

 

「あんた……なにしてんの?」

「ん? ……御坂」

 

 常盤台の制服、きつい目つき、お嬢様とは思えない言葉遣い、スカートの中の鉄壁、短パン。どうやら御坂のようだ。

 

「いや、頭痛いから寝てる」

「そうじゃなくて……なんでこの馬鹿と一方通行(アクセラレータ)と……え、一方通行?」

「あぁ、うん。御坂の妹が襲われてたから倒しといたけど……マズかった?」

「マズくないけど……倒した? あんたが?」

「うん」

 

 まずい、頭痛い。そろそろ気絶するかも……

 

「がっ……あァ……愉快に素敵にキマっちまった……」

「……」

 

 薄れゆく意識の中、最後に見たのはコーヒー少年が意識を取り戻して立ち上がる姿だった。

 

***

 

 目を覚ますと、そこは知らない天井だった。

 今回で2度目となる全身を襲う痛みに耐え、上半身を起こす。どうやら、ここは病院のようだ。

 

「……なにをしてんですか」

「なに、と言われましても……私はあなたのモノですので、とミサカは答えます」

 

 俺のベッドに腰掛ける包帯だらけの御坂に問いかける。返答を聞くに、どうやらこの御坂は御坂妹のようだ。

 

 ……そういや、そんな恥ずかしいことも言ったような……

 あれ、俺ってもしかして金で少女を買おうとしてた?

 

「……犯罪?」

 

 頭によぎった2文字を呟く。御坂妹は首をかしげた。

 

「なぁ、あの後ってどうなったんだ?」

「あの後は……」

 

 俺が気を失ってから、事の顛末(てんまつ)までを御坂妹に問いかける。

 

 どうやら、あの後は上条が一方通行と戦い、勝利を収めたらしい。プラズマだとか……なんか色々とピンチだったらしいが、なんとかなったようだ。

 

「しかし、本当に締まらない人ですね。気を失うなんて」

「うっ」

「大事なところを人に丸投げして」

「うぐっ」

「挙げ句の果てにミサカを俺のモノなどと」

「ううっ……もうやめてぇ……」

「でも」

 

 ベッドから腰を上げた御坂妹は、頭を下げた。

 

「ありがとうございます。おかげでミサカの命は救われました」

「……どういたしまして。それより、頭なんて下げなくていいから顔を上げて」

 

 なんか……下げてから上げられると、なんかいいな。天井知らずの幸福感に包まれるというか……心地がいい。

 

「気にしなくていいよ。助けられたのはたまたまだし、むしろボロボロになったんだから文句のひとつやふたつ垂れてもいいのに」

「……あいにく、命の恩人に対する文句は持ち合わせておりません。とミサカはお見舞い用に買ったフルーツバスケットを見せびらかし言います」

「え、まじ? そこまでしてくれなくていいのに……」

「ならこれは持ち帰りますね。とミサカは」

「だーっ! 食べる! 食べます!」

 

 フルーツバスケットをしまいかけた御坂妹を慌てて引き止める。

 

「あぁ、文句を持ち合わせていないついでに、住むところも持ち合わせていません。とミサカは暗に家に住まわせろと迫りつつ住む場所を要求します」

「……はぁっ!?」

 

 俺の叫び声が病室中に響き渡った。


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