とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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字数は、話ごとに極端に違う場合もあるかもしれません


2話

 ナンパ撃退の日から約1ヶ月が経ち、7月の半ばになった。空に浮かぶ飛行船には、身体検査(システムスキャン)の実施校の名前が書かれており、その中には我が校の名前も入っていた。

 

「ん?」

 

 視界の端でちらりと見えた、常盤台中学の制服が路地裏に消える場面。その後ろから、何人かの不良。

 またナンパか、とため息を吐く。知り合いでもなければ助ける義理もないので、無視して前に向き直る。そこには赤色の信号。

 

「……信号待ちのついでだ、ついで」

 

 誰にするわけでもない言い訳をつぶやいて、俺は路地裏へと向かう。

 

「っぎゃああ!」

 

 しかし、路地裏に入った瞬間に、俺の心配は無駄だったとわかった。

 どこからか聞こえる、聞き慣れた電撃の音。焦げ付いた不良、叫び声。

 

「あ、うわぁ!」

「はいはい、邪魔」

 

 そして、裏路地の出口であるここに向かって走りこんで来た1人の不良。もちろん、ぶん殴って気絶してもらった。

 

「っとと……こりゃひどいわ」

 

 倒れている不良を踏まないように、慎重に裏路地を進む。

 

「ん、まだ残ってたの……って、あんたか。なに?」

「いや……なんか事件のにおいしたから来たけど、無駄だったみたいだね」

 

 焦げ付いた不良を哀れみの目で見ながら、そう言う。

 

「あぁ、そういや常盤台にレベル5の電撃使いがいるって聞いたけど……もしかして?」

 

 口を開き、答えようとした少女。その時、こちらに近づいて来る小刻みな駆け足の音が耳に届いた。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの。通報を受けて参りました。どうぞ大人しくお縄に……って」

 

 現れたツインテールの少女は、茶髪少女を見て驚いた様子を浮かべた。

 

「お姉さま!?」

「あぁ、黒子」

 

 どうやら、ツインテールの方はクロコというらしい。

 

「あ、貴方は……」

「あれ、久しぶり」

「知り合いだったの?」

 

 クロコは俺の姿を見ると、驚いたような表情を浮かべた。俺も初めて見る顔ではなかったので、適当に挨拶を返す。

 

「半年ほど前にすこし……あの時のこと、感謝してますわ」

「んーにゃ、俺は何もしてないよ」

 

 ひらひらと手を横に振って答える。半年前、学園都市を見学に来たときにたまたま巻き込まれた銀行強盗が脳裏によぎる。

 

「花飾りの子はいないの?」

「あぁ、初春は……今日の放課後、時間ありまして?」

「暇だけど」

「でしたら放課後、レストランのjoseph’sにいらしてくださいな」

 

 その言葉に頷いて、俺たちは路地裏を出る。2人とメールアドレスを交換したのち、2人は常盤台へ、俺は学校へと、それぞれ向かう。めんどくさい身体検査を憂鬱に思いながら、俺は重い足取りで歩き始めた。

 

***

 

『変換速度0.72457秒。変換誤差0.0000023%』

「ふぅー」

 

 いつも通りの総合評価を聞き終え、俺は部屋を出る。少々特殊な俺の身体検査は、保健室にて行われる。

 

「しっかし、俺の顔ってこんなんだったかな……後で上条に触ってもらうか」

 

 自身の能力、物質変換(トランスフォーム)を多用しすぎたせいか、自分の顔がわからなくなってきた。子猫からドラゴン、女の子から老人に変身、ひいては四葉のクローバーを重戦車に変換できる便利な能力だが、自分の顔がわからないというのは、少々不便だ。まぁ、整形不要という便利な点もあるが、そこまで自分がブサイクとは思わない。思いたくない。ブサイク……じゃ、ないよな?

 

 学園都市にきて3ヶ月、この世に生を受けていくばくかの歳月が経ったが、女性と交際関係に至ったのは数えるほど。顔のせいではないと思いたい。性格なら性格でいやだが。

 

「おっす赤やん。終わったのかにゃー?」

「おう、そっちもか?」

 

 声をかけてきた金髪の友人、土御門に返事をする。どうやら向こうも終わったらしいので、一緒に教室へと向かう。

 

「そういや、上条見なかったか?」

「カミやんなら多分先に終わってるぜい。また顔がわかんなくなったかにゃー?」

「正解。どうせならもっと違う能力がよかった」

「よく言うぜい。その能力なら、顔なんてあってもないようなもんじゃねぇかい」

「それが嫌なんだよ。なんか、能力頼りの顔とか言われそうでさ」

 

 俺にはわかんないにゃーと、土御門。そういやこいつは妹バカだったなと、遠回しに相談したことをバカらしく思う。

 

「今日はファミレスでも行くかにゃー?」

「あー、俺パス。先約あるわ」

「……デートやな?」

「ぬおっ!?」

 

 背後から突如現れた青い髪に、心臓が飛び跳ねる。

 

「えっと、誰だっけ?」

「忘れたんか!?」

「ウソウソ、名前以外は覚えてるよ」

 

 俺の言葉に、名前を耳元で念仏のように唱えるが無視をする。そんな雑談に花を咲かせていると、いつの間にか教室についていた。

 

「あ、上条右手頼む」

「はいはい」

 

 上条に触ってもらって、体操着から制服に着替える。他の生徒と違う、伸縮性の高い特注体操着を丁寧にしまって、俺は教室のドアに手をかける。

 

「おっ先」

「赤やん、恨むからな」

 

 マジ口調の土御門に寒気を感じながら、俺は教室を出た。

 

***

 

 学校を出てからメールボックスを確認すると、白井黒子からメールが来ていた。ファミレスの場所はここから近そうなので、どうも、時間に余裕がありそうだ。

 

「よろしくお願いしまーす」

 

 可愛い笑顔のお姉さんに、鼻の下が伸びるのを感じながらチラシを受け取る。

 

「……へー、クレープか」

 

 ちょうど小腹も空いてきたので、クレープもいいかもしれないと思い、地図に従ってクレープ屋へと向かう。店が出来たばかりだからか、客はあまりいない。

 

「チョコバナナクレープひとつ」

 

 店員にそう告げて、待つこと数十秒。甘い匂いのクレープが出来上がった。

 

「はい、ゲコ太」

「あ、ども」

 

 どうやら、ストラップの配布を行っているらしく、カエルの形のストラップを受け取った。

 

「……どこにつけようか」

 

 もらったストラップを眺めながら、ベンチに座る。俺のケータイにはストラップをつける場所がない。カバンにつけようにも、さすがにそんな勇気はない。

 とりあえず、クレープを食べようと思いゲコ太ストラップをポケットに突っ込む。

 

「……スマホカバーでも買うか」

 

 ストラップをつけられるカバーの購入を決心し、クレープを食べ進める。丁度いい時間になったので、俺はファミレスへと向かう。

 

 ファミレスに着くと、ガラス越しに何かを見ている少女2人がいた。

 

「……あー」

 

 2人の少女の視線先を見ると、そこには茶髪の少女と、少女に抱きつく白井黒子。茶髪の方は店員に注意されながらも、こちらに気がついたようで、顔を赤らめながら白井黒子にゲンコツを食らわせた。

 

 

 

「とりあえずご紹介しますわ……こちら、柵川中学1年、初春飾利さんですの」

「はっ、初めまして! 初春飾利……です」

 

 最後は消え入りそうな声で、初春飾利は自己紹介を終えた。と、いうか……この子、花飾りの子じゃん。

 

「それから……」

「どもー、初春のクラスメイトの佐天涙子でーす。なんだか知らないけどついてきちゃいましたー。ちなみに能力値はレベル0でーす」

 

 うわぁ……嫌味ったらしい言い方。隣の初春さんが慌ててるよ。

 そんなことを考えているうちに、俺の順番になっていたようだ。視線が俺に集まっている。そういえば、朝の時に白井黒子に名乗ってなかったな。

 

「赤城譲です。白井黒子に呼び出されてきましたー」

「ちなみに初春。この方が半年前の……」

「へ? ……あぁ! あの時は大変お世話になりました!」

「いや、俺なんもしてないって」

 

 白井の時と同じ、手を横に振って答える。話もそこそこ、茶髪の少女が口を開いた。

 

「初春さんに佐天さん……それと……」

 

 キッと鋭い視線を向ける少女。思わずたじろぐ。

 

「私は御坂美琴。よろしく」

 

「……よろしく」

「お願いします」

 

 やはり、茶髪は常盤台のエースだったようだ。学園都市にきて日が浅い俺でも、御坂美琴の名前は知ってる。お嬢様校の常盤台に通う、超能力者(レベル5)の第3位。

 

「それじゃあとりあえず……ゲーセン行こっか」

 

 意外にもお嬢様は庶民的なようだ。


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