とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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無事、年をひとつ重ねました。
なんとか2日更新をキープ……結構ギリギリです。間に合わない日もあるかもしれません


18話

「ふんふん……こっちかな?」

「……涙子、女の子としてそのカッコはどうなの?」

 

 よつんばいでマネーカードを探す涙子。お金に対しての嗅覚が優れているのか、すでに涙子は数枚のマネーカード入りの茶封筒を見つけ出している。

 

「お金のためなら女なんて捨てますよ」

「……ダメだ、涙子が暴走してる」

 

 こんなやりとりの間にも、涙子はもう1枚マネーカードを見つけた。

 こんなことをしているのは、涙子から呼び出されたからだ。先日俺がマネーカードを見つけてから、そのことについて調べたようで、どうも裏路地などにマネーカードが捨ててある、というか置いてあるということはこの数日間多々あったらしい。

 

 しかし、マネーカードを捨てる意味がわからない。今まで見つけた数枚、全てにご丁寧に茶封筒に入れてあるってことは、偶然落としたにしては数が多すぎる。確実にわざとやっていることだ。

 

「何やってんの、ふたりとも」

「おお御坂。マネーカード探し」

「あぁ……なるほどね」

 

 マネーカードを探しているところに、御坂が合流した。

 

「目立ってるけど……いいの?」

 

 そう言って御坂は辺りを見回す。ここは大通り……とはいかないまでも、そこそこ人通りの多い通りだ。

 

「涙子、次行こう」

「そうですね……あ、御坂さん!」

「気づいてなかったのね……」

 

 マネーカード探しに夢中になりすぎたのか、涙子はそう言った。

 

「うーん、この辺にはもうなさそうですね」

「なんでわかるのよ……」

「鼻が利くらしいよ。金目のものに対して」

「鼻が利くって……」

 

 俺の補足に、御坂は苦笑いを浮かべる。

 

「御坂さんもカード探しですか?」

「いや、黒子が用事できたからふらついてただけ」

「じゃ、一緒に探しましょ!」

 

 そう言って涙子は御坂の手首を掴み、歩き始めた。

 

「え? 強制!?」

「諦めろ」

 

 手を引かれながら言った御坂にそう言うと、力なくうなだれた。そんな御坂の後ろを数歩後からついていく。

 

「ささ、行きましょー!」

 

 元気な涙子の声の源は、おそらくマネーカードなのだろうな。まぁ、元気があるのはいいことだ。

 

***

 

「結局、1日潰しちゃった……」

「まさかここまでやるとはなぁ」

 

 すでに日は暮れ、ただでさえ薄暗い路地裏は、すっぽりと闇の中だ。

 今日の戦果は合計12枚。平均して10000円ほどだったので、ひとりあたり約4万円の取り分になる。

 

「今日はこんぐらいにしときますか」

「だってさ」

「……じゃあ、解散?」

「解散です!」

 

 御坂は疲れた様子で俺たちとは逆方向に進んで行った。姿が見えなくなるまで見送った後、俺たちはそれぞれ部屋へと向かう。

 もちろん、俺は涙子を送った後だが。

 

「いやー……集まりましたね」

「ほとんど涙子が見つけたけどな」

「まぁ、鼻が利くんで」

 

 ふんす、と涙子は胸を張った。いや、張るとこではないが。

 

「そういえば、譲さんの能力でカード作れないんですか?」

「作れるけど……俺が学園都市に入ってからセキュリティが厳しくなってさ、AIM拡散力場の出てるものが使えなくなったらしいんだよね」

「はぁ……さすがにそううまい話はないですよね」

 

 どんだけ金に飢えてんだ、と内心ツッコミを入れる。しかし、俺が言うことではないとは思うが、超能力者(レベル5)無能力者(レベル0)の奨学金の差はもっと縮めるべきだと思う。上条の生活とか見る限り、必要最低限どころか足りない程度の金しか支給されてないっぽいし。

 

 ……そういや、あいつと連絡取れないんだよな。携帯壊したのかな?

 

「あ……着いちゃいましたね」

「……だな」

 

 考え事をしているうちに、涙子の寮前に着いていた。

 

「それじゃ、また今度遊びましょ!」

「だな……また今度」

 

 軽く手を振り、俺は家路につく。

 手に入った4万円。俺は奨学金が余ってるからいらないし……上条にでもあげようかな。青ピとか土御門はロクな使い方しないだろうし。

 

「……ん?」

 

 帰り道の、とりわけ取り上げる特徴のない街路樹の下で、見覚えのある人物を発見した。

 

「御坂、なにやってんの?」

「……ワン」

 

 ……ワン? え?

 

「と鳴く四足動物がピンチです」

 

 そう言って御坂は木の上を指差した。たしかに、そこには茶色の毛を生やした犬がいた。

 

「へー……犬も木を登れるんだ。猫だけかと思ってた」

「近づいたところ、なにやら怯えてしまって木の上に登りました、とミサカは説明します」

「……ん?」

 

 何か違和感を感じ、俺は首をかしげる。

 

「御坂、なんか変わった?」

「あなたの言っているミサカが御坂美琴のことなら、私は別人です。とミサカは否定しつつ首をかしげてみます」

 

 鏡合わせのように首をかしげてそう言った。

 

「……えっと、どういうこと? 双子?」

「妹のようなものです、とミサカは親切に教えてあげます」

 

 妹か……一卵性双生児なのかな。うりふたつってどころじゃないけど。

 

「そんなことより、助けたいのですが、とミサカは話を戻します」

「あぁ……任せといて」

 

 そう言って俺は手を伸ばし、犬を掴んで地面に下ろす。こんな時、俺の能力は便利だ。

 

「はい」

「……ありがとうございます、とミサカは気持ち悪いという言葉を飲み込みつつ感謝の意を述べます」

「飲み込めてないよ?」

 

 まぁ、腕だけ伸びたら気持ち悪いよな。全身が伸び縮みするとかならまだしも。

 

「……やはり怯えてるようですね」

「なんでだろうな」

 

 地面に下ろした犬は少し震えていて、何かに怯えているようだった。

 

「目的は達成したので、私はもう行きます。とミサカは用事があることを示唆します」

「おぉ、じゃあな」

 

 軽く手を振って、御坂妹を見送る。

 

 御坂に妹なんていたかな……今度会ったら聞いてみるか、と俺は考えた。

 

 ……口調、うつったかな。


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