どうでもいいことですが、土曜日誕生日です。祝ってくれたら嬉しかったりします笑笑
「んー……やっぱ無理!」
私は、部屋でひとり大声をあげた。ルームメイトは今出かけているので、気兼ねなく声が出せる。
大声をあげる原因になった、手に握っている携帯に目を落とす。表示されているのはメールの作成画面。
「……譲さん」
宛先の欄を見て、ぽつりと呟く。名前を呟くだけで、なんで胸が熱くなるんだろう。
「んー……うぅー」
今度の夏祭り、一緒に行きませんか? という文面を送る勇気がなく、送信ボタンに指をかけては離し、かけては離しを繰り返し、気づけばかなり時間が経っている。
「だめだぁ……」
仰向けになり、天井に向かって呟く。もちろん天井が解決策を用意してくれるわけもなく、私の呟きは吸い込まれるだけに終わる。
「……やるしかないか!」
震える指を再び送信ボタンに手をかける。
「いけっ! ……あれ、もう返信きた」
送った直後、ケータイが震えた。表示されている通知は、差出人の欄に譲さんと書かれた1通のメール。
開いて読んでみると、そこには今度の夏祭りに一緒に行かない? と書かれていた。
「おんなじこと……ふふっ」
同じことを考えていたんだなぁと思うと、思わず頰がほころんだ。
「大丈夫かなぁ……あれ、もう返信きた」
何十分も悩んだ末に送ったメール。その直後、ケータイがメールの受信を知らせた。差出人は涙子。たった今メールを送ったばかりの相手だ。
「……なぁんだ、おんなじことか」
メールは、今度の夏祭り、一緒に行きませんか? と書かれていた。同じことを考えていたんだなぁと、そんなことを考えると、思わず笑みがこぼれた。
「いたいた……あ、涙子も着物なんだ」
「はい、この日のために買っちゃいました!」
そう言った譲さんも、黒を基調とした落ち着いた色合いの着物を着ていた。私はくるりと一周し着物を見せる。着ているのは、頭につけている髪飾りと同じ柄の着物。可愛いから買ったけど……値段は可愛くなかったなぁ。
「へぇ……かわいいね」
「か……かわっ!?」
「え? ……あ」
頭の中が真っ白になり、顔と胸が熱くなる。やばい、あたりは暗いけど絶対に顔が赤いのバレてる。
「え、えっと……行こっか?」
「は、はい!」
声が裏返りそうになりながら、私は譲さんについていく。
「人、多いね」
「で、ですね」
人混みをかき分けるように先頭を歩く譲さんのすぐ後ろを、はぐれそうになりながらもついていく。まだ、すこし顔が熱い。
「……手、繋ぐ?」
「え? ……えぇ!?」
「あ、えっと、いや……はぐれちゃいそうじゃん」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
真っ白になった頭で、私は勢い任せに譲さんの手を握る。
譲さんの手はすこしゴツゴツしていて、とても大きくて……とてもあたたかい。
……なに考えてるんだ、私。
「えっと、じゃあ……行こっか」
「は、はい」
熱くなり始めた胸が、早鐘を打ち始める。やばい、絶対心臓の音聞こえてる。
「どの屋台に行こっか」
「えーっと……じゃあ射的とチョコバナナとドネルケバブとヨーヨー釣りとフランクフルトと」
「目についたものをかたっぱしから言うんじゃありません」
すこし笑った様子で、譲さんはそう言った。そんな譲さんを見て、私も思わず笑ってしまう。
「んー……あ、金魚すくい行きたいです!」
「あ、いいね……行こっか」
すこし遠くにある金魚すくいに、譲さんに手を引かれて向かう。いつも頼もしいけど、こうして前を歩いている譲さんを見ると、改めて頼もしいと感じる。
「らっしゃい……カップルかい? うらやましいねぇ」
「カ、カップ!?」
「そんなんじゃないですよ……それじゃ、やる?」
「……はい」
譲さんの言葉に、なぜか胸が痛くなる。すこし落ち込んだ気分でポイを受け取り、しゃがみこんで金魚と相対する。
「よしっ、いきます!」
私は
ポイは破けた。
「……あ」
思わず素っ頓狂な声が出る。隣の譲さんを見ると、口元を押さえて斜め下を向いていた。
「むー……もう1回!」
気を取り直して、ポイを受け取って金魚を睨みつける。
「ほいっ! あっ」
狙いを定め、金魚を水面より上にすくうことに成功した。
しかし、ポイは破けた。
「ぷふっ」
「むむぅ……譲さん、なに笑ってるんですか」
「ごめんごめん……おじさん、俺もやります」
「あいよ」
そう言って譲さんもしゃがみこんで、金魚救いを始めた。
「ほっ」
「……え?」
気の抜ける声と裏腹に、譲さんは金魚を3匹すくい上げた。しかし金魚をいれるボウルのようなものに入れず、リリースした。
「うっそ」
「兄ちゃんうまいねぇ」
「どーも……分かった?」
「え?」
あっけにとられる私の手を、譲さんは握った。
「ポイに負担がかかんないように、水面に入れる時と出す時は斜めに、あとはポイの表裏に注意してね」
そう言って、私の手を握ったまま動かし、金魚をすくった。ポイの上には、1匹の金魚がピチピチと跳ねている。
「あ、え……えっと」
「ん? ……あ」
バッ! と音がなりそうなほどの勢いで譲さんは離れた。
「えっと……ごめん」
「い、いえいえ! 大丈夫ですから!」
両手を合わせて謝る譲さん。むしろ、もっと……
……いや、だからなに考えてるんだ、私。
「……あ」
「え? あ」
長い間のせすぎたのか、ポイは破け、金魚は落ちた。
「あー、お嬢ちゃん。この金魚オマケであげるよ。大切にしてな」
そう言っておじさんはビニール袋に入った金魚を1匹差しだした。
「えっ、いいんですか!?」
「おう。兄ちゃんも、大切にしなよ?」
「……分かってます」
困ったような笑いを浮かべた譲さん。譲さんも金魚もらうのかな?
「それじゃ、3回で900円だ」
「はい、じゃあぴったりで」
「毎度」
金魚すくいを後にして、私たちはいろんな屋台を回った。
「あ、そろそろ花火始まるね」
「ですね!」
この夏祭りのメインイベントである花火開始の時刻にさしかかってきた。祭りの客も花火が見えるスポットに移動を始めたようだ。
「じゃあ私たちも行きましょうか。私、穴場知ってるんですよ」
「おっ、さすが」
譲さんの手を引いて、案内しようと足を踏み出した時、下駄の鼻緒が音を立てて切れた。
「あっ」
「おっと」
バランスを崩し、転びかけた私。譲さんは私の手を引いて体制を立て直させてくれた。
「え、えっと?」
「あ……」
そのおかげ、というのもなんだけど、私は譲さんに抱きつくような姿勢になった。耳が胸板にくっついて、譲さんの心音が聞こえる。
「ご、ごめん」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
心なしか、少し早くなった心音を聞き届けて、胸板から頭を離す。
「えっと……どうしましょうか、これ」
「んー……そうだなぁ」
少し悩んだ後、譲さんは口を開いた。
「おんぶ……する?」
「……へ?」
そう言ってかがんだ譲さん。思わず頭が真っ白になる。
「え、えっと」
顔と、胸が熱くなる。そのせいか、頭がクラクラして……あれ?
***
「ん……あれ、夢?」
目を覚ますと、そこは自室だった。見知った天井が見下ろしている。
「……あ、時間!」
手元の携帯で時間を確認すると、時刻はすでに夕方にさしかかっていた。
慌てて、初春に時間に遅れるとのメールを送る。今日は譲さん、初春、御坂さん、白井さんと夏祭りに行く日だ。ちょっとした昼寝が、長い時間眠ってしまったようだ。
軽くシャワーを浴びて、髪をセットし着物に着替える。私の髪飾りと同じ模様の着物。少し高かった。
部屋を出る直前、初春から返信が来た。どうやら譲さんも少し遅れるらしい。
「……あ、急がないと!」
初めての下駄を履いて、早足で待ち合わせ場所へと向かう。慣れない下駄は少し動きづらい。
「あ、涙子……あれ?」
歩いて数分。見知った声が私を呼んだ。
「譲さん……あれ?」
そこにいた譲さんは、黒を基調とした落ち着いた色合いの着物を着ていた。
「涙子、それ……」
「え、譲さん……?」
お互い首をかしげ、少し足が止まる。
「……時間!」
「あっ」
思い出したように言った譲さんの言葉に、私はピクリと反応して、再び歩みを再開する。
譲さんの着物姿、なぜか見るのは初めてじゃないような気がしたのは、気のせいだろうか。
そろそろ新作載せようかなぁなんて思ったりしてます。
でも、載せたら絶対更新ペース落ちるんですよね。どうしよっかなぁ。