水着回なんてやるんじゃなかったなんて後悔してます。なにを書けばいいのかわからない……
「くらえいっ!」
「うおっ!?」
顔いっぱいに広がる海水。学園都市の最新技術とやらで映し出されたセットのようなものらしいが、感触は本物となんら変わりはない。
「ふ、ふふふ……胸の恨み」
「……涙子ぉ?」
「きゃあー!」
逃げる涙子を追いかけ、俺は浜辺を駆ける。
「……まるで子供ですわね」
「うっさいわ!」
白井のツッコミにすかさずそう言って、追いかけっこは一瞬で終了する。
しかし、カメラマンが視界に入らないで自動撮影って……学園都市すげぇな。外じゃ考えられない。
「てか、ホントに遊んでるだけでいいのかな」
「モデルっぽいこと、1回もしてませんよね」
各々好きなことをやっている様子を見て、そう呟くと初春さんが答えた。
ちなみに、初春さんは涙子がつくった砂の日本城の天守閣としてそびえている。
「……出そうか?」
「お願いします」
「えー、ダメですよ譲さん。初春は天守閣として一生を終えるんですから」
「ひどいです!」
涙子と初春さんのやりとりに思わず吹き出して、初春城の石垣を崩しにかかる。
「初春が倒れたら負けですね」
「私で山崩ししないでください!」
そう言って、初春さんは城から飛びだした。石垣を少し崩したのが突破口になったらしい。
「あー、初春の負けかな」
「なんでそうなるんですか!?」
微笑ましいやりとりの後ろで、御坂が白井にブレーンバスターを決めた。サンオイルの塗り合いをするしないという、ふたりのちょっとした小競り合いがいつの間にかプロレスに変わっていたようだ。
「なに見てるんですか譲さん……あぁ、御坂さんたちまだやってたんですね」
「なんだかんだで仲いいよな、あのふたり」
御坂が3カウントをとって勝利したところを見届け、そんなことを言っていると景色が変わった。
「次は……プールかな?」
砂浜はタイルのようなものに変わり、ヤシの木の群れの代わりに白い、大きな建物がそびえ立っていた。見た目はハワイとか、グアムにありそうなリゾートホテルだ。
「あそこに飲み物ありますよ」
初春さんがプールサイドに置かれた丸机を指差し、そう言った。確かに、机の上には4人分の飲み物が置かれている。
「少し休憩すっか」
「ですね」
席について、飲み物を手に取る。少しすると、固法さんも席についた。
「私もいいかしら……えっと」
「赤城譲ですよ、固法さん」
「え、うそ……赤城くんなの?」
そういえば、固法さんはこの姿で会うのは初めてだったか。身が固まった。
「どこから見てもお嬢さんだけど」
「それはもう流行ってるんだね、初春さんといい涙子といい」
俺の言葉に、初春さんと涙子は苦笑いした。そんな間も、固法さんは俺の全身を上から下まで見ている。
「赤城くんって、本当は男なの? 女なの?」
「男です」
そう言って飲み物をひと口含む。セットの飲み物なのか、本物の飲み物なのか、まるで分からない。
「へぇ……能力かなにか? それとも女装?」
「能力です」
さすがに、女装でこんな格好なんてしたくない。
「ふーん……あ、景色変わっちゃった」
質問責めにあっていると、景色が変わった。
今度はクルーザーのようだった。プールサイドとかによくある白い、名前のわからない寝転べる椅子などがデッキにあった。
「譲さん、操舵室行きましょうよ!」
「お、いいね」
涙子が手を引きながら言った提案に、俺は同意して操舵室へと向かう。
「おぉ……面舵イッパーイ!」
「本当にやんなよ?」
操舵室につき、涙子は舵を握ってそう言った。釘をさす俺の言葉に、涙子は「分かってますって!」とひと言。そんなことされたら、船酔いしてしまう。
「操舵室ってこうなってるんだぁ……次、行きましょう!」
「はーいはい」
楽しそうに言った涙子の後を、少し駆け足気味でついていく。やはり、元気な涙子を見ると少し心が安らぐ。
***
「……疲れた」
途中、雪山のようなセットに変わって凍えたり、灼熱の砂漠に変わってうだったり、荒れ狂う海に浮かぶ船で婚后さんが大きな魚を釣ったりなど、いろんなハプニングがあった。
中でも極め付きのふたつは、月面に変わったことと、キャンプ地でカレーを作るときに、婚后さんが色々とやらかしたことだろう。
「ですねぇ……まぁ、美味しいカレーを食べれましたし、よしとしましょう」
「たまには庶民の味もいいものですわね」
「おかわりしていらしたくせに」
「……あれ、御坂さんは?」
固法さんの言葉に、俺たちは辺りを見る。たしかに、そこに御坂の姿はなかった。
「まだ中かな……忘れ物でもしたんじゃない?」
「多分そうね。じゃあ待ちましょうか」
「いえ、待っておきますので大丈夫ですわ。じきに日が暮れますし」
「そう? じゃあ白井さんお願いね」
御坂は白井が待つことになり、俺たちは帰路につく。
方面が一緒なのは、俺と涙子と初春さんだった。いつものように、俺は見送ってから帰るとしよう。
「今日、楽しかったですね。こんなモデルならまたやりたいです!」
「俺はもういいかな……女の姿で水着はもういい」
涙子の言葉に答える。もうしばらく、水着はいい。なんというか、精神的に疲れた。
「じゃあ、今度初春とか御坂さんたちとプール行きましょうよ。今度は男で」
「あ、それいいですね。行きたいです」
「んー……まぁいいけど」
「……なんか歯切れ悪いですね」
「いや、プールで女4人と男ひとりって……アンバランスじゃん」
そう答えると、涙子は「そうですかね」と首をかしげた。
「そうだって……っと!?」
何かを踏んづけ、バランスを崩し危うく転びかける。
「だ、大丈夫ですか?」
「ん、なんとか……なにこれ?」
踏んづけたのは、どうやら茶封筒のようだった。中に何か入っている。
「マネーカード?」
「へぇ……5万円分!?」
中身はマネーカードで、金額を見た涙子は驚きの声をあげた。
「落し物ですかね?」
「かもなぁ……
「はい、そうします」
「えぇー、どっか遊びに行きましょうよー」
「どんだけ体力ありあまってんの……」
涙子の体力は底なしなのか、そんなことを言いだした。もしこれから遊びに行くと言っても、体力満タンの時となんら遜色のないテンションで遊ぶのだろう。
その後、雑談をしながら歩いて見送った俺は帰路に着いた。
久しぶりに顔を変えたので、上条に触ってもらわないと、なんて考えて俺は上条にメールを送る。
まぁ返信は遅いんだろうなぁなんて思い、その日は幕を閉じた。
次回、アクセラレータ編に入る前に番外編をやろうと思います。
本編とは関係なく、パラレルワールド的な世界での出来事と思ってください。