とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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16話

「あれ、譲さん?」

「ん? ああ、涙子と初春さんか」

 

 とある建物の中で、待ち人が来るのを待っていると見知った顔に声をかけられた。

 

「今日は女なんですね」

「メンバーは女が多いって聞いたからね」

 

 そう聞いたのは、御坂からだったか。突然用があると言われ、ここで待っているのだが……そろそろ約束の時間だというのに、姿を現さない。

 

「でも、俺がモデルっていいのかな」

「今は赤城嬢ですし、いいんじゃないですか?」

「ねえ初春さん、涙子のイントネーションが違うんだけど、いつからこんなこと言う子になっちゃったの?」

「さぁ、割といつもこうですけど」

「初春!?」

 

 涙子が初春さんの肩を掴み、前後に揺らした。仲がいいなぁなんて思いながら、俺は唯一まともな友人を頭に思い浮かべる。

 そういえば、上条にしばらく会ってないな。今度どっか誘うか。

 

「あ、御坂さんたち来ましたよ」

「え? あ、ホントだ。御坂さーん!」

 

 その言葉に、涙子は初春さんの視線の先を見て、手を振った。そこには御坂と白井、そして常盤台中学の制服を着たふたりの少女がいた。

 

「あれ、男でもよかったのに」

「やだよ。それより、そちらは?」

 

 御坂の言葉を否定して、見慣れない2人に視線を移す。

 

「初めまして、白井さんのクラスメイトの湾内絹保(わんないきぬほ)です」

「同じく、泡浮万彬(あわつきまあや)です」

 

 ふたりの少女はそれぞれ名乗り、丁寧に頭を下げた。

 なんというか、生粋のお嬢様というか……こういうのが常盤台中学の標準的生徒なんだろうな。こいつらと違って。

 

「ご丁寧にどうも、赤城譲です」

 

 頭を下げ、そう言うとふたりはお互いに顔を見合わせた。

 変なことでも言ったかと思い、俺は2人を見つめる。

 

「あ、いえ。譲って殿方のような名前でしたから」

「まぁ、俺男だし」

 

 俺の言葉に、ふたりはまた顔を見合わせた。

 

「えっと……え?」

「……あぁ、俺の能力。簡単にいえば変身できるんだよね」

 

 そう言うと、再び顔を見合わせる。こうなってくると、なんかリアクションが楽しい。

 

「お待たせしました」

 

 凛とした声で、スーツ姿の女性が姿を現した。その姿はまさに仕事のできる女性、と言った感じで、背筋もピンと伸びている。

 

「あの人は?」

「メーカーの担当さんですよ」

 

 涙子の言葉に、湾内さんが答えた。それを聞いた涙子は「ふーん」と、軽く頷く。

 

「今日はよろしくお願いしますね……あら、後のふたりは?」

「……ふたり?」

 

 白井がそう聞き返すと、キャリーケースを転がす音がだんだんと近づいてくることに気がついた。

 

「まぁ、白井さん?」

「げっ、この声は……」

 

 錆びた鉄のような、ギギギという音を鳴らし、白井が振り向いた。視線の先には、ジャージ姿の固法さんと、和服の少女がいた。

 

「大勢ぞろぞろと……社会科見学かなにかかしら?」

 

 よく通る声で和服少女は言った。その言葉に、白井は少し顔を歪ませる。どうやらこの少女が苦手なようだ。

 

婚后光子(こんごうみつこ)……」

「固法先輩も」

 

 初春さんが、一緒にいた固法さんを見てそう言った。

 しかし、固法さんって美人なのに……ジャージって、なんか残念だ。胸も大きそうなのに。

 

「……譲さん、なにか変なこと考えました?」

「いえ別に!」

 

 突然の涙子の言葉に、俺は声が裏返りそうになりながらそう答える。

 いかんいかん。俺が好きなのは涙子だけ。

 

「あなた、その格好はなんなんですの?」

「あら、今日は常盤台の生徒ではなく、ひとりのモデルとして参上したのですわ」

 

 センスを開き、そう言った少女は婚后さんというらしい。なんというか、いいとこのお嬢様といった少女だ。さっきのふたりのは、すこし雰囲気が違う。

 

「モデル……あなたも?」

「え? ということは……?」

 

 驚いたように、センスを開いたまま目を見開く婚后さん。どうやらこの子もモデルらしい。

 

「固法先輩もですか?」

「通ってるジムで風紀委員(ジャッジメント)の先輩に頼まれちゃってね」

 

 なるほど。これで……7人の女子か。女に変身してきてよかった。

 

「あなたたちは?」

「私たちは水泳部の子たちに頼まれて」

 

 固法さんの質問にそう答えた御坂は、視線を湾内さんと泡浮さんに移した。その視線に答えるように、ふたりは頭を下げる。

 

「見たところ、みなさん初めてのようですから、色々と教えてさしあげますわ。私、子供の頃からモデルをやってたましたのよ」

 

 そう言って婚后さんは自慢話しのような話を始めた。まぁ、内容としては家の人がもてはやしてくれたというものなので、まぁとくに語ることはない。

 強いていうなら、白井が呆れていた、ということぐらいだろうか。

 

「さ、早く行きましょ。試着室に案内してくださる?」

「あ、はい。こちらです」

 

 ガラガラと音を立て、キャリーケースを転がして歩く婚后さん。どうやら、マイペースな性格のようだ。なるほど、白井が苦手そうなタイプだ。

 

 

 

 

「それじゃあ、どれでも好きな水着を選んでくださいね」

 

 試着室に移り、メーカーの人の説明を受け、全員が元気よく返事をした。とくに、涙子なんかは楽しそうだ。説明を受けている最中も、水着にチラチラ目がいってたし。

 

「……しっかし、水着の量すごいな。水着屋さん開けるぞ、これ」

「たしかに……あ、赤城さんはどんな水着にするんですか?」

「……忘れてるかもしれないけど、俺男だからな? ふつうそんなこと聞くか?」

「あ……あはは、そうでした」

 

 俺の言葉に、初春さんは苦笑いを浮かべてそういった。なんだかんだで、初春さんも要注意人物だな。

 

「譲さん、これ似合いますか?」

「んー……うん」

「じゃあ、これは?」

「うん」

「……見てます?」

「うん」

 

 涙子の言葉に、俺はすこし視線を逸らして答える。まぁ、まともに見れるわけがない。

 

「……じゃあ、これは?」

「うん」

「これ」

「うん」

「今度ふたりで遊びましょ」

「うん……え?」

「約束ですよ」

 

 してやったり、といった顔の涙子に、俺は負けた気分になる。いや、遊びに行くのが嫌なわけじゃないんだけど。

 

「……涙子には敵わないな」

 

 頭をかきながら、俺は小さく呟いた。

 

「……そういえば譲さんって、スリーサイズ幾つなんですか?」

「俺? ……測ったことないな」

「水着を選ぶんですから、測らないと! ほら、服の上からでもいいですから!」

 

 そう言って涙子は近くの収納箱のようなところからメジャーを取り出した。なぜこんなものがここに。

 

「服の上からでいいの?」

「あくまで参考程度に……え?」

 

 メジャーを俺の胸に巻いた涙子の言葉が止まった。

 

「……93? 服の上からとはいえ93?」

「ん、それってでかいの? いつも適当にやってるからわかんないけど」

 

 いつも女になるときはスリーサイズとか気にしてないからなぁ。シルエットが整えばいいから適当にやってるし。

 

「デカすぎですよ! なにを食べたらこうなるんですか!」

「えっと……なにも?」

「あ、そっか」

 

 納得した様子の涙子は、ズルいなぁとかなんとか言いながら、打ちのめされた様子で水着選びに戻っていった。

 そんな涙子を心配しながら、俺も水着を選ぶ。服に気を使うといっても、水着にまでは知識は及ばないので、黒のシンプルなビキニを選び、試着室に入る。すこし装飾で胸の部分に紐のようなものがついているが、まぁシンプルなので大丈夫だろう。

 

「よし、こんなもんか?」

 

 なんとなく自分の体とはいえ着替えるのははばかるので、下着を変換して、同じデザインの水着にする。サイズもぴったりだし、水着と同じ素材……だと思うけど、変換(トランスフォーム)したし、大丈夫だろう。

 

「んー……よし、大丈夫だ」

 

 姿見を前にクルリと回って最終確認をして、外に出る。

 そこにはすでに、俺以外の全員が集まっていた。

 

「あれ、早いね」

「やっぱ、あれ反則ですよね」

 

 涙子の言葉に、全員の視線が俺に突き刺さる。

 

「えっと……?」

 

 刃物のような視線を感じながら、俺はひとまず合流する。

 部屋を出るまで、視線が離れることはなかった。

 




ってなわけで婚后光子登場しました。
こんな感じで、アニメと原作を色々と混ぜることがあるかもしれません。
アニメオリジナルのポルターガイスト編は多分やりません。その代わり、といってはなんですが番外編でも投稿しようかなって思ってます。

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