「あれ、譲さん?」
「ん? ああ、涙子と初春さんか」
とある建物の中で、待ち人が来るのを待っていると見知った顔に声をかけられた。
「今日は女なんですね」
「メンバーは女が多いって聞いたからね」
そう聞いたのは、御坂からだったか。突然用があると言われ、ここで待っているのだが……そろそろ約束の時間だというのに、姿を現さない。
「でも、俺がモデルっていいのかな」
「今は赤城嬢ですし、いいんじゃないですか?」
「ねえ初春さん、涙子のイントネーションが違うんだけど、いつからこんなこと言う子になっちゃったの?」
「さぁ、割といつもこうですけど」
「初春!?」
涙子が初春さんの肩を掴み、前後に揺らした。仲がいいなぁなんて思いながら、俺は唯一まともな友人を頭に思い浮かべる。
そういえば、上条にしばらく会ってないな。今度どっか誘うか。
「あ、御坂さんたち来ましたよ」
「え? あ、ホントだ。御坂さーん!」
その言葉に、涙子は初春さんの視線の先を見て、手を振った。そこには御坂と白井、そして常盤台中学の制服を着たふたりの少女がいた。
「あれ、男でもよかったのに」
「やだよ。それより、そちらは?」
御坂の言葉を否定して、見慣れない2人に視線を移す。
「初めまして、白井さんのクラスメイトの
「同じく、
ふたりの少女はそれぞれ名乗り、丁寧に頭を下げた。
なんというか、生粋のお嬢様というか……こういうのが常盤台中学の標準的生徒なんだろうな。こいつらと違って。
「ご丁寧にどうも、赤城譲です」
頭を下げ、そう言うとふたりはお互いに顔を見合わせた。
変なことでも言ったかと思い、俺は2人を見つめる。
「あ、いえ。譲って殿方のような名前でしたから」
「まぁ、俺男だし」
俺の言葉に、ふたりはまた顔を見合わせた。
「えっと……え?」
「……あぁ、俺の能力。簡単にいえば変身できるんだよね」
そう言うと、再び顔を見合わせる。こうなってくると、なんかリアクションが楽しい。
「お待たせしました」
凛とした声で、スーツ姿の女性が姿を現した。その姿はまさに仕事のできる女性、と言った感じで、背筋もピンと伸びている。
「あの人は?」
「メーカーの担当さんですよ」
涙子の言葉に、湾内さんが答えた。それを聞いた涙子は「ふーん」と、軽く頷く。
「今日はよろしくお願いしますね……あら、後のふたりは?」
「……ふたり?」
白井がそう聞き返すと、キャリーケースを転がす音がだんだんと近づいてくることに気がついた。
「まぁ、白井さん?」
「げっ、この声は……」
錆びた鉄のような、ギギギという音を鳴らし、白井が振り向いた。視線の先には、ジャージ姿の固法さんと、和服の少女がいた。
「大勢ぞろぞろと……社会科見学かなにかかしら?」
よく通る声で和服少女は言った。その言葉に、白井は少し顔を歪ませる。どうやらこの少女が苦手なようだ。
「
「固法先輩も」
初春さんが、一緒にいた固法さんを見てそう言った。
しかし、固法さんって美人なのに……ジャージって、なんか残念だ。胸も大きそうなのに。
「……譲さん、なにか変なこと考えました?」
「いえ別に!」
突然の涙子の言葉に、俺は声が裏返りそうになりながらそう答える。
いかんいかん。俺が好きなのは涙子だけ。
「あなた、その格好はなんなんですの?」
「あら、今日は常盤台の生徒ではなく、ひとりのモデルとして参上したのですわ」
センスを開き、そう言った少女は婚后さんというらしい。なんというか、いいとこのお嬢様といった少女だ。さっきのふたりのは、すこし雰囲気が違う。
「モデル……あなたも?」
「え? ということは……?」
驚いたように、センスを開いたまま目を見開く婚后さん。どうやらこの子もモデルらしい。
「固法先輩もですか?」
「通ってるジムで
なるほど。これで……7人の女子か。女に変身してきてよかった。
「あなたたちは?」
「私たちは水泳部の子たちに頼まれて」
固法さんの質問にそう答えた御坂は、視線を湾内さんと泡浮さんに移した。その視線に答えるように、ふたりは頭を下げる。
「見たところ、みなさん初めてのようですから、色々と教えてさしあげますわ。私、子供の頃からモデルをやってたましたのよ」
そう言って婚后さんは自慢話しのような話を始めた。まぁ、内容としては家の人がもてはやしてくれたというものなので、まぁとくに語ることはない。
強いていうなら、白井が呆れていた、ということぐらいだろうか。
「さ、早く行きましょ。試着室に案内してくださる?」
「あ、はい。こちらです」
ガラガラと音を立て、キャリーケースを転がして歩く婚后さん。どうやら、マイペースな性格のようだ。なるほど、白井が苦手そうなタイプだ。
「それじゃあ、どれでも好きな水着を選んでくださいね」
試着室に移り、メーカーの人の説明を受け、全員が元気よく返事をした。とくに、涙子なんかは楽しそうだ。説明を受けている最中も、水着にチラチラ目がいってたし。
「……しっかし、水着の量すごいな。水着屋さん開けるぞ、これ」
「たしかに……あ、赤城さんはどんな水着にするんですか?」
「……忘れてるかもしれないけど、俺男だからな? ふつうそんなこと聞くか?」
「あ……あはは、そうでした」
俺の言葉に、初春さんは苦笑いを浮かべてそういった。なんだかんだで、初春さんも要注意人物だな。
「譲さん、これ似合いますか?」
「んー……うん」
「じゃあ、これは?」
「うん」
「……見てます?」
「うん」
涙子の言葉に、俺はすこし視線を逸らして答える。まぁ、まともに見れるわけがない。
「……じゃあ、これは?」
「うん」
「これ」
「うん」
「今度ふたりで遊びましょ」
「うん……え?」
「約束ですよ」
してやったり、といった顔の涙子に、俺は負けた気分になる。いや、遊びに行くのが嫌なわけじゃないんだけど。
「……涙子には敵わないな」
頭をかきながら、俺は小さく呟いた。
「……そういえば譲さんって、スリーサイズ幾つなんですか?」
「俺? ……測ったことないな」
「水着を選ぶんですから、測らないと! ほら、服の上からでもいいですから!」
そう言って涙子は近くの収納箱のようなところからメジャーを取り出した。なぜこんなものがここに。
「服の上からでいいの?」
「あくまで参考程度に……え?」
メジャーを俺の胸に巻いた涙子の言葉が止まった。
「……93? 服の上からとはいえ93?」
「ん、それってでかいの? いつも適当にやってるからわかんないけど」
いつも女になるときはスリーサイズとか気にしてないからなぁ。シルエットが整えばいいから適当にやってるし。
「デカすぎですよ! なにを食べたらこうなるんですか!」
「えっと……なにも?」
「あ、そっか」
納得した様子の涙子は、ズルいなぁとかなんとか言いながら、打ちのめされた様子で水着選びに戻っていった。
そんな涙子を心配しながら、俺も水着を選ぶ。服に気を使うといっても、水着にまでは知識は及ばないので、黒のシンプルなビキニを選び、試着室に入る。すこし装飾で胸の部分に紐のようなものがついているが、まぁシンプルなので大丈夫だろう。
「よし、こんなもんか?」
なんとなく自分の体とはいえ着替えるのははばかるので、下着を変換して、同じデザインの水着にする。サイズもぴったりだし、水着と同じ素材……だと思うけど、
「んー……よし、大丈夫だ」
姿見を前にクルリと回って最終確認をして、外に出る。
そこにはすでに、俺以外の全員が集まっていた。
「あれ、早いね」
「やっぱ、あれ反則ですよね」
涙子の言葉に、全員の視線が俺に突き刺さる。
「えっと……?」
刃物のような視線を感じながら、俺はひとまず合流する。
部屋を出るまで、視線が離れることはなかった。
ってなわけで婚后光子登場しました。
こんな感じで、アニメと原作を色々と混ぜることがあるかもしれません。
アニメオリジナルのポルターガイスト編は多分やりません。その代わり、といってはなんですが番外編でも投稿しようかなって思ってます。