とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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15話

「ゲホッ……」

 

 爆煙を吸い込んだのか、咳き込む御坂は涙目になりながら辺りを見渡した。

 

「ちょっと……え?」

「御坂……よかった、無事か」

「あ、あんた……なんで……?」

 

 さすがに至近距離の爆破には硬質化じゃ耐えられないか……色々と吹き飛んだな。上半身の服とか。

 

「……少々やりすぎてしまったようだな」

「いいや、そうでもない」

 

 内臓にダメージ、十数カ所の完全骨折、および不完全、亀裂骨折……粉砕骨折もか。

 まぁ、関係ない。

 

「俺は偽物だからな」

「……うぐぁっ!?」

 

 木山先生の首筋にスタンガンを当て、俺はスイッチを押す。

 

「本物はこっちですよ……先生」

 

 能力を解除して、ボロボロになった俺の姿の偽物を元の小石へと戻す。

 

「いつの間に……!」

「ここに不時着した後には、俺はすでに偽物でしたよ」

 

 能力で変換したスタンガンだからか、それともとっさに能力を使ったのか、気絶させるには至らなかったようだ。

 

「だが、君は本物だ」

「そうですね。でも、手遅れです」

 

 こちらに注意を向けた木山先生の腰に、何者かの手がまわされた。

 

「なっ……」

「学園都市最強の電撃、くらってください」

 

 手の正体は御坂で、俺の言葉と同時に青白い電撃が木山先生の体を迸った。大きな悲鳴をあげ、先生はぐったりとうなだれる。

 

「っ、なにこれ……」

「ん?」

 

 電撃を放ち終わった御坂は、唐突にそう言った。目を見開き、なにか想定していなかったことが起きたかのような顔をしている。

 

「見られた……のか……っぐぅ!」

「見られた? ……あれ」

 

 頭を抑えながら言った木山先生に首をかしげる。しかし、思案する時間もなく、俺はがくりと膝から崩れ落ちた。

 

「……能力使いすぎた?」

 

 人ひとり変換するのは負担がデカかったようで、そのまま俺は重力に従い、うつ伏せに倒れ、意識を手放した。

 

 

 

「……ん」

「譲さん!」

 

 目覚めた俺は、ベッドの上にいた。目の前には知らない天井を覆うように涙子がかぶさっている。

 

「あれ……涙子」

「大丈夫ですか!?」

「それこっちのセリフ……目、覚めたんだ」

 

 そう言いながら起き上がろうとすると、全身に激痛が走った。

 

「あ……あれ?」

「だ、大丈夫ですか!?」

「んー……少し情けないけど。大丈夫みたい」

「情けなくなんてないです! 誰が助けてくれたと思ってるんですか!」

「そんなセリフ、初めて聞いたよ」

 

 そう言うと、涙子は少し間を置いて吹き出すように笑った。それを見て、俺もつられて笑う。

 

「っいててて……」

「譲さん!?」

「大丈夫……あっはは、まさか能力の使いすぎでこうなってんのかな……」

「そういえば、譲さんも入院らしいですよ?」

 

 涙子の言葉に固まる。いや、入院費とかそう言う話じゃなくて。

 

「……も?」

「はい、実は私も検査入院とかで」

「……マジか」

 

 天を仰ぎ、そう呟く。俺の場合、おそらくは能力の使いすぎで脳に負担がかかったことと、高速道路から落ちた際のケガとかのせいだろう。メインの原因は前者だろうが。

 さすがに人ひとりを変換するのは負荷がかかりすぎたのかな。俺、原石だからか演算とかあまり必要ない能力だったんだけど……

 

「あの……御坂さんから聞いたんですけど」

「ん?」

 

 涙子は思いつめた表情で続けた。

 

「私が相談しなかったから負担をかけてたって……」

「あー……まぁ、ね」

「私、譲さんに元気のないところ見られたくなくて……」

 

 涙子の言ったことに、俺は言葉が出てこなかった。またネガティブな涙子を見たくないので、俺は右手を動かそうとするがピクリとも動かなかった。

 

「肝心な時に動かないんだよなぁ」

「……え?」

「いや、なんでもない」

 

 笑ってごまかしながら、俺は右手を呪った。

 ……呪うついでに、言うか。右腕呪われてるやつが言いそうなこと。

 

「俺も涙子が元気じゃないところを見たくないよ」

「……譲さん」

「だから、困ったことがあったら俺に言ってくれ。どんな悩みも、どんな困りごとも……俺が全部笑顔に変換してやる」

「…………クサイですね」

「やっぱり?」

 

 困ったような笑顔を浮かべそう言った涙子に、俺は聞き返した。やはり、こう言うセリフは上条にしか似合わないのか。

 

「俺が言うと締まらないな……まぁ、いっか」

「ありがとうございます……おかげで、元気出ました」

 

 そう言った涙子の顔は、一点の曇りのない笑顔だった。

 

***

 

「んー!」

「ようやく退院できたなぁ」

 

 病院の外に出れなかった俺たちは、そう言いながらノビをした。御坂とか初春が見舞いに来てくれてはいたのだが、やはり外に出れないというのはそれだけで退屈なのだ。

 まぁ、涙子と同時に退院ていう不幸中の幸いのおかげで、退屈はしなかったが。

 

「あ、御坂さんたちがファミレスで待ってるそうですよ。退院祝いだとかで」

「おぉ……奢りかな?」

「ですかね?」

 

 そう言って俺たちは顔を見合わせて笑い、ファミレスへと向かう。学園都市でファミレスといったら、まぁあそこしかないだろう。

 

「あ、涙子」

「なんですか?」

「倒れる前……俺になんて言おうとしたの?」

 

 俺の言葉に、涙子は少し顔を赤くし、少し考えた。

 

「秘密ですっ!」

 

 そう言って、涙子はあっけにとられる俺を置いて歩き始めた。

 

「あ、涙子!」

 

 涙子の後を追いかけ、俺は小走り気味でついていく。

 あの時、なんて言おうとしたのか、俺にわかる日が来るのだろうか。

 




なんか最終回っぽい終わりかたですけど、続きます。はい。
もしかしたら、明日は投稿できないかもしれません。結構予定がかつかつなので。

次は水着のモデル編を挟んでレベル6のやつかなぁ。となると、次の戦闘描写は一方通行ですかね。かなーり先ですね。

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