「……そう、佐天さんがそんなことを」
「あぁ」
「私が……無神経なことを言ったから」
病院の屋上で、白井、俺、御坂は
涙子は命に別状はなく、原因不明の意識不明、昏倒状態。どうやら、幻想御手の副作用らしい。
「黒子、そういえば初春さんは?」
「佐天さんが倒れたと聞いて、いち早く解決したいと、木山先生の元に向かいましたの」
「……1番涙子思いなのは、あいつだな」
金網フェンスに寄りかかり、体育座りのような姿勢で、俺は自嘲気味に呟く。
廃ビルの時のこと、御坂と話をしていたこと、そして今回のこと。悩みのはけ口になれなかった自分が情けない。
「ねぇ、黒子。今回のこと、私たちも協力させてくれない?」
「……分かりましたわ……え、たち?」
「あんたも、もちろんするわよね?」
「……」
御坂の言葉に、俺は無言で立ち上がる。
「あぁ、もちろん」
「仕方ありませんわね……今回だけですのよ?」
「白井……今度なんか奢るよ」
前回に引き続き、今回のことまでも。白井には世話になりっぱなしだ。
「なら今度、また5人でクレープでも」
「……白井、さすがだよ」
そんな返しができるのは、
***
「君たち、ちょっといいかい?」
屋上から戻ってきた俺たちに、ゲコ太先生は声をかけた。
「ん? ……リアルゲコ太!?」
「やっぱり似てるよな」
そんな会話をする俺たちに、違いますの、と白井がツッコミをいれる。
「見てもらいたいものがあるんだよね」
そんなやりとりをする俺たちを、ゲコ太先生は何やら薄暗い、パソコン関係かと思われる機会の並んだ部屋へ案内した。
「実は、幻想御手使用者の脳波には共通のパターンがあることに気がついたんだよ」
そう言ってゲコ太先生は、心電図のようなものを開き、画面に表示した。
「脳波は個人個人で違うから本来ありえないことなんだよね?」
「……どういうことですの?」
首をかしげる白井。御坂も同じく首をかしげている。俺も、医学の知識があるわけではないので、俺も首をかしげる。
「誰か他人の脳波パターンによって無理やり脳が動かされているとしたら……人体に多大な影響がでるだろうね」
「幻想御手によって無理やり脳をいじられて植物状態になった……?」
「いったい誰が……」
「僕は医師だ。それを調べるのは君たちの仕事だろう?」
ゲコ太先生の言葉に、御坂と白井は真剣な表情で頷き、部屋を出た。それに続き、俺も出口へ向かう。
「頑張ってね。何もできないけど、応援してるよ」
「ゲコ太先生……ありがとうございます」
軽く会釈をし、お礼を言って部屋を出る。
脳波パターンがはっきりしているなら、
***
「……そういえば、初春がいないんですの」
「そうだった……」
書庫の検索をしようと、パソコンを立ち上げた瞬間、2人は頭を抱えた。
「2人ともパソコンに弱いの?」
「私は弱いってわけじゃないんだけどね……ハッキングしようと思えばできるし」
「ダメですわよ」
御坂の言葉に、白井がすかさず釘を刺した。御坂は分かってるわよと一言。白井は疑いの目を向けている。
「何騒いでるの?」
「あ、固法先輩」
「そちらの方は?」
「あ、どうも初めまして。赤城譲と申します」
「これはどうもご丁寧に、固法美偉です」
メガネの女性はそう名乗った。どうやら、初春さんと白井の、風紀委員での先輩らしい。頼もしいというか、しっかりとした雰囲気のある人だ。
「書庫がなんとかって言ってたけど」
「ああ、そうですの。実は脳波パターンで書庫に検索をかけたいんですけれど」
そう言って白井は事細かに理由を説明した。
「それなら、アクセスは認められるでしょうね」
席につき、手慣れた様子でパソコンをいじり始めた。俺も機械に弱いというわけではないが……なるほど、これは難しそうだ。
……白井とか御坂が頼るってことは、こんな難しそうなことを、初春さんは片手間でできるのか?
「あった、脳波パターン一致率、99パーセント」
カーソルを合わせ、カチカチと2回クリックする。
「……っ!」
「……こりゃまた、意外な人物だな」
勤務地、水穂機構病院。大脳生理学の専門チーム、能力レベル一般研究員、見覚えのある、目の下の濃いクマ。
「木山春生……」
パソコンに映し出されていたのは、木山先生だった。