とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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なんとか、書き上げて投稿。字数は二千字弱と少し少ないです。


13話

「……そう、佐天さんがそんなことを」

「あぁ」

「私が……無神経なことを言ったから」

 

 病院の屋上で、白井、俺、御坂は幻想御手(レベルアッパー)について話をしていた。

 涙子は命に別状はなく、原因不明の意識不明、昏倒状態。どうやら、幻想御手の副作用らしい。

 

「黒子、そういえば初春さんは?」

「佐天さんが倒れたと聞いて、いち早く解決したいと、木山先生の元に向かいましたの」

「……1番涙子思いなのは、あいつだな」

 

 金網フェンスに寄りかかり、体育座りのような姿勢で、俺は自嘲気味に呟く。

 廃ビルの時のこと、御坂と話をしていたこと、そして今回のこと。悩みのはけ口になれなかった自分が情けない。

 

「ねぇ、黒子。今回のこと、私たちも協力させてくれない?」

「……分かりましたわ……え、たち?」

「あんたも、もちろんするわよね?」

「……」

 

 御坂の言葉に、俺は無言で立ち上がる。

 

「あぁ、もちろん」

「仕方ありませんわね……今回だけですのよ?」

「白井……今度なんか奢るよ」

 

 前回に引き続き、今回のことまでも。白井には世話になりっぱなしだ。

 

「なら今度、また5人でクレープでも」

「……白井、さすがだよ」

 

 そんな返しができるのは、風紀委員(ジャッジメント)として修羅場をくぐった経験か、それとも素か。どちらにせよ、白井は俺より男前なようだ。

 

***

 

「君たち、ちょっといいかい?」

 

 屋上から戻ってきた俺たちに、ゲコ太先生は声をかけた。

 

「ん? ……リアルゲコ太!?」

「やっぱり似てるよな」

 

 そんな会話をする俺たちに、違いますの、と白井がツッコミをいれる。

 

「見てもらいたいものがあるんだよね」

 

 そんなやりとりをする俺たちを、ゲコ太先生は何やら薄暗い、パソコン関係かと思われる機会の並んだ部屋へ案内した。

 

「実は、幻想御手使用者の脳波には共通のパターンがあることに気がついたんだよ」

 

 そう言ってゲコ太先生は、心電図のようなものを開き、画面に表示した。

 

「脳波は個人個人で違うから本来ありえないことなんだよね?」

「……どういうことですの?」

 

 首をかしげる白井。御坂も同じく首をかしげている。俺も、医学の知識があるわけではないので、俺も首をかしげる。

 

「誰か他人の脳波パターンによって無理やり脳が動かされているとしたら……人体に多大な影響がでるだろうね」

「幻想御手によって無理やり脳をいじられて植物状態になった……?」

「いったい誰が……」

「僕は医師だ。それを調べるのは君たちの仕事だろう?」

 

 ゲコ太先生の言葉に、御坂と白井は真剣な表情で頷き、部屋を出た。それに続き、俺も出口へ向かう。

 

「頑張ってね。何もできないけど、応援してるよ」

「ゲコ太先生……ありがとうございます」

 

 軽く会釈をし、お礼を言って部屋を出る。

 脳波パターンがはっきりしているなら、書庫(バンク)で検索をかければ脳波の主がわかるとのことなので、風紀委員の支部へと向かうらしい。

 

***

 

「……そういえば、初春がいないんですの」

「そうだった……」

 

 書庫の検索をしようと、パソコンを立ち上げた瞬間、2人は頭を抱えた。

 

「2人ともパソコンに弱いの?」

「私は弱いってわけじゃないんだけどね……ハッキングしようと思えばできるし」

「ダメですわよ」

 

 御坂の言葉に、白井がすかさず釘を刺した。御坂は分かってるわよと一言。白井は疑いの目を向けている。

 

「何騒いでるの?」

「あ、固法先輩」

「そちらの方は?」

「あ、どうも初めまして。赤城譲と申します」

「これはどうもご丁寧に、固法美偉です」

 

 メガネの女性はそう名乗った。どうやら、初春さんと白井の、風紀委員での先輩らしい。頼もしいというか、しっかりとした雰囲気のある人だ。

 

「書庫がなんとかって言ってたけど」

「ああ、そうですの。実は脳波パターンで書庫に検索をかけたいんですけれど」

 

 そう言って白井は事細かに理由を説明した。

 

「それなら、アクセスは認められるでしょうね」

 

 席につき、手慣れた様子でパソコンをいじり始めた。俺も機械に弱いというわけではないが……なるほど、これは難しそうだ。

 ……白井とか御坂が頼るってことは、こんな難しそうなことを、初春さんは片手間でできるのか?

 

「あった、脳波パターン一致率、99パーセント」

 

 カーソルを合わせ、カチカチと2回クリックする。

 

「……っ!」

「……こりゃまた、意外な人物だな」

 

 勤務地、水穂機構病院。大脳生理学の専門チーム、能力レベル一般研究員、見覚えのある、目の下の濃いクマ。

 

「木山春生……」

 

 パソコンに映し出されていたのは、木山先生だった。


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