とある少年の物質変換   作:まうんてんうちうち

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10話

 なぜか数日前から動かない家電製品に囲まれた部屋で、俺は目を覚ます。動かない家電製品、当然エアコンも例外ではなく、部屋はうだるような熱気に包まれている。

 

 夏休みに入って数日。俺の生活習慣は、午前9時に起きる程度には崩れている。

 

「んん……御坂?」

 

 寝ぼけ眼で携帯を確認する。画面に表示された、5分前のメール通知。涙子からかとも思ったが、差出人は御坂美琴だった。

 

***

 

「珍しい……というか、2人でってのは初だな」

「んー……まぁ、相談できそうな相手があんたぐらいしかいなかったからね」

 

 そう言って御坂はメロンソーダを飲んだ。常盤台の規則かなんかで制服の彼女に合わせ、ひとりだけ私服というのも変なので、俺の服装も制服だ。

 

「相談?」

「えっと……その……友達、そう、友達! 友達から恋愛相談を受けたのよ」

「お、おう」

 

 友達、というワードをやけに強調しながら、御坂は話し始めた。相談というから何事かと思えば、恋バナか。

 

「友達が、あのバカ……じゃなくて、すっごーく鈍感なやつのことが好きらしくて」

「おう」

「それで、えっと……その……いざ目の前にすると電撃……じゃなくて、意地悪しちゃうらしいの」

「……おう」

「それで……その、一言謝りたくても、プライドが前に出ちゃうっていうか……あっ、友達の話ね!」

「……」

 

 相談だと思えば恋バナで、誰の恋バナかと思えば……

 まぁ、口に出したら電撃やられるだろうしな。黙って聞いとくか。

 

「どうすればいいとおもう?」

「……まず、その友達はツンデレってやつなんだな?」

「ツ、ツ、ツツツ……ツンデレ!? あ、ありえないから! ……あ、いや……そうねー」

「……で、本人を目の前にしたら素直になれないと」

「そう! ……あ、そうなんじゃないかなー」

 

 こいつ……隠す気があるのかないのか……まぁ、御坂がこうやって相談するってだけでも進歩というか……普通なら相談もしないだろうしなぁ。

 上条、今度俺のこといじったら殺すかぁ。

 

「じゃあ……プレゼントでも買うか、メールで一言謝ればいいんじゃん? その友達のこと、鈍感野郎は嫌いじゃないんだろうから」

「……あんた、意外とまともにアドバイスするのね」

「あのなぁ……俺だって付き合ったこと少しはあんの。そりゃまともなアドバイスくらいするわ」

 

 俺の言葉に、心底意外そうに「ふぅん」と、御坂が言った。こいつ、俺のことどういう目で見てやがったのだろうか。

 

「じゃあ、あんたは佐天さんとどうすんのよ」

「はぁ!? なんで涙子が出てくんだよ!」

 

 御坂の言葉に、思わず声がでかくなる。そのせいで周りの視線を集めてしまい、俺はその視線から逃れるように身を縮ませる。

 

「そういうのいいから。で、どうすんの?」

「こいつ……」

 

 自分の相談を友達の相談とか言ってやがったくせに……よくもまぁいけしゃあしゃあと言えますねぇ……

 

「はぁ……どうするもなにも、なにを?」

「はぁ!? あんた、佐天さんのこと好きなんじゃないの!?」

「うん、まぁ」

「そうよねー、そう簡単に認めな……え?」

「あのさ、俺は『俺、あいつのこと好きなのかな……』なんていうセリフがテンプレのティーンズラブコメディ漫画の主人公じゃねぇんだよ。自分が誰が好きで誰が嫌いかなんて分かるわ」

 

 早口でまくしたてる。俺は上条ほど鈍感じゃないし、自分の気持ちに気づけないほど馬鹿じゃない。

 

「じゃあ……なんで?」

「涙子が迷惑かもしれねぇだろうが」

「あんた……本気で言ってる?」

「本気で言ってる。涙子が俺に対して少し行動が違うとかも分かってる。でも、人の好きって感情は多岐にわたる。もしかしたら涙子は俺のことを兄として見ているかもしれないし、それに近い存在で見てるかもしれない」

「……あんた、めんどくさいのね」

「御坂が猪突猛進すぎるだけ」

 

 まぁ、少しチキンだなって思ったりはするけどな。そう簡単に一直線に進めるほど、恋愛は甘くないと思ってる。

 ……まぁ、経験豊富じゃない俺が言うのもなんだが。

 

「それじゃ、相談終わりなら俺は帰るけど」

 

 携帯を取り出し、現在時刻を確認する。時刻は昼過ぎ。ファミレスでご飯という気分でもないので、どこで食べるかを思案する。

 

「あれ、そのストラップ……」

「ん? ……あぁ、ゲコ太な。持ってるだけってのはもったいないと思ってな」

「私もつけてるんだけど……」

 

 そう言って御坂はカバンを見せびらかした。以前見たゲコ太の他にもうひとつ、ゲコ太が増えていた。

 

「お揃いかよ。外してくんね?」

「あんたが外しなさいよ!」

 

 そんなやりとりをしていると、どんどんと声が大きくなり、再び視線を集めてしまった。俺と御坂は揃って身を縮ませる。

 

「……あ」

「ん?」

 

 唐突に声をあげた御坂を見る。御坂の視線は窓の外へと向けられていた。

 

「……あ、涙子」

「っ!」

 

 俺たちを見た涙子は、なぜか悲しそうな表情を浮かべ、走り去った。

 

「えっと……?」

「……今の、佐天さんよね」

「うん。あ、とりあえず行ってくる」

「あ、うん。行ってらっしゃい」

 

 あっけにとられた様子の御坂をおいて、俺はファミレスを出た。

 曲がり角を曲がった涙子の後ろ姿が見えたので、とりあえず全力ダッシュで後を追う。

 

 ……あ、代金置いてくるの忘れてた。




佐天ってこんなキャラだっけ、なんて思っちゃったりしてます。やっぱり既存のキャラを動かすのって難しいですね……

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