なぜか数日前から動かない家電製品に囲まれた部屋で、俺は目を覚ます。動かない家電製品、当然エアコンも例外ではなく、部屋はうだるような熱気に包まれている。
夏休みに入って数日。俺の生活習慣は、午前9時に起きる程度には崩れている。
「んん……御坂?」
寝ぼけ眼で携帯を確認する。画面に表示された、5分前のメール通知。涙子からかとも思ったが、差出人は御坂美琴だった。
***
「珍しい……というか、2人でってのは初だな」
「んー……まぁ、相談できそうな相手があんたぐらいしかいなかったからね」
そう言って御坂はメロンソーダを飲んだ。常盤台の規則かなんかで制服の彼女に合わせ、ひとりだけ私服というのも変なので、俺の服装も制服だ。
「相談?」
「えっと……その……友達、そう、友達! 友達から恋愛相談を受けたのよ」
「お、おう」
友達、というワードをやけに強調しながら、御坂は話し始めた。相談というから何事かと思えば、恋バナか。
「友達が、あのバカ……じゃなくて、すっごーく鈍感なやつのことが好きらしくて」
「おう」
「それで、えっと……その……いざ目の前にすると電撃……じゃなくて、意地悪しちゃうらしいの」
「……おう」
「それで……その、一言謝りたくても、プライドが前に出ちゃうっていうか……あっ、友達の話ね!」
「……」
相談だと思えば恋バナで、誰の恋バナかと思えば……
まぁ、口に出したら電撃やられるだろうしな。黙って聞いとくか。
「どうすればいいとおもう?」
「……まず、その友達はツンデレってやつなんだな?」
「ツ、ツ、ツツツ……ツンデレ!? あ、ありえないから! ……あ、いや……そうねー」
「……で、本人を目の前にしたら素直になれないと」
「そう! ……あ、そうなんじゃないかなー」
こいつ……隠す気があるのかないのか……まぁ、御坂がこうやって相談するってだけでも進歩というか……普通なら相談もしないだろうしなぁ。
上条、今度俺のこといじったら殺すかぁ。
「じゃあ……プレゼントでも買うか、メールで一言謝ればいいんじゃん? その友達のこと、鈍感野郎は嫌いじゃないんだろうから」
「……あんた、意外とまともにアドバイスするのね」
「あのなぁ……俺だって付き合ったこと少しはあんの。そりゃまともなアドバイスくらいするわ」
俺の言葉に、心底意外そうに「ふぅん」と、御坂が言った。こいつ、俺のことどういう目で見てやがったのだろうか。
「じゃあ、あんたは佐天さんとどうすんのよ」
「はぁ!? なんで涙子が出てくんだよ!」
御坂の言葉に、思わず声がでかくなる。そのせいで周りの視線を集めてしまい、俺はその視線から逃れるように身を縮ませる。
「そういうのいいから。で、どうすんの?」
「こいつ……」
自分の相談を友達の相談とか言ってやがったくせに……よくもまぁいけしゃあしゃあと言えますねぇ……
「はぁ……どうするもなにも、なにを?」
「はぁ!? あんた、佐天さんのこと好きなんじゃないの!?」
「うん、まぁ」
「そうよねー、そう簡単に認めな……え?」
「あのさ、俺は『俺、あいつのこと好きなのかな……』なんていうセリフがテンプレのティーンズラブコメディ漫画の主人公じゃねぇんだよ。自分が誰が好きで誰が嫌いかなんて分かるわ」
早口でまくしたてる。俺は上条ほど鈍感じゃないし、自分の気持ちに気づけないほど馬鹿じゃない。
「じゃあ……なんで?」
「涙子が迷惑かもしれねぇだろうが」
「あんた……本気で言ってる?」
「本気で言ってる。涙子が俺に対して少し行動が違うとかも分かってる。でも、人の好きって感情は多岐にわたる。もしかしたら涙子は俺のことを兄として見ているかもしれないし、それに近い存在で見てるかもしれない」
「……あんた、めんどくさいのね」
「御坂が猪突猛進すぎるだけ」
まぁ、少しチキンだなって思ったりはするけどな。そう簡単に一直線に進めるほど、恋愛は甘くないと思ってる。
……まぁ、経験豊富じゃない俺が言うのもなんだが。
「それじゃ、相談終わりなら俺は帰るけど」
携帯を取り出し、現在時刻を確認する。時刻は昼過ぎ。ファミレスでご飯という気分でもないので、どこで食べるかを思案する。
「あれ、そのストラップ……」
「ん? ……あぁ、ゲコ太な。持ってるだけってのはもったいないと思ってな」
「私もつけてるんだけど……」
そう言って御坂はカバンを見せびらかした。以前見たゲコ太の他にもうひとつ、ゲコ太が増えていた。
「お揃いかよ。外してくんね?」
「あんたが外しなさいよ!」
そんなやりとりをしていると、どんどんと声が大きくなり、再び視線を集めてしまった。俺と御坂は揃って身を縮ませる。
「……あ」
「ん?」
唐突に声をあげた御坂を見る。御坂の視線は窓の外へと向けられていた。
「……あ、涙子」
「っ!」
俺たちを見た涙子は、なぜか悲しそうな表情を浮かべ、走り去った。
「えっと……?」
「……今の、佐天さんよね」
「うん。あ、とりあえず行ってくる」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
あっけにとられた様子の御坂をおいて、俺はファミレスを出た。
曲がり角を曲がった涙子の後ろ姿が見えたので、とりあえず全力ダッシュで後を追う。
……あ、代金置いてくるの忘れてた。
佐天ってこんなキャラだっけ、なんて思っちゃったりしてます。やっぱり既存のキャラを動かすのって難しいですね……