配役は脇役で 作:t、
待ちに待った夏休みがやって来た。
学生なら望んでやまない長期休暇である。もちろん宿題なんてものもあるが、大した量ではない。夏休みに入る前に全て終わらせてしまった程だ。
が、毎日毎日飯食って映画見て寝る、なんて生活は送れない。……送れなかった。
響や未来、高校の友人たちと遊びに出掛けたり、宿題を手伝ってあげたりしている中、唐突に携帯の着信音が鳴り響くのだ。
用件は言うまでもない。
『律、ノイズが現れた!』
「……了解」
これである。
歓迎会が行われてから約二週間。俺の出撃回数は、既に七回目となっていた。
二日に一回って……おかしくね? 何これ俺のせい? 発生率上がりすぎじゃね?
ぼやきつつ、立花の家を出る。
本来なら、午後からは響と未来と三人で遊びに行くつもりだったのだが、これでは約束が果たせるかも分からない。
「しゃあない……さっさと終わらせるか」
宝具を展開。
周囲の人間に気付かれないようにして、街を駆ける。
唯一の救いは、ノイズが現れた地点はここから近いこと。これなら、すぐに行ってすぐに帰ってこれるだろう。
戦闘をこなす度、投影の精度が上がっているのはどんな皮肉か。
「投影、開始」
弦十郎さんから連絡が来て数分。
視界に入ったノイズへ長剣を射出し、襲われそうになっていた人を助け出す。
おそらく、俺の到着がもう少し遅れていたら、被害者を出していただろう。
「シェルターはあっちです。慌てず、落ち着いて避難してください」
「か、仮面の騎士様……? あ、ありがとうございます……!」
誰だよ、仮面の騎士様……
礼を言って立ち去った男性を見送りつつ、背後から迫ってきていたノイズへ向け、剣を同時に七本飛ばす。
戦闘経験が増えてきたからか、随分慣れてきたな。
七本同時なんて、以前までなら考えられなかっただろう。
「っと……大丈夫ですか?」
転んでいる女の子を助け起こし、脳裏に双剣を思い描く。
「あ、ありがとう、ございます!」
「ケガとか無ければ、あっちの方にシェルターがあるから、このまま真っ直ぐ進んで。大丈夫?」
「は、はい!」
頷き、笑みを見せた姿に安堵すると同時、準備に入っていた双剣を手元に手繰り寄せる。
きっと、もう一課も二課も避難誘導なんかは始めているだろう。
なら俺の役割は、少しでも早くノイズ共を殲滅させることだ。
干将・莫耶を構えながら、敵の群れへと突っ込んでいく。
敵の数……およそ五十。決して少なくはないが、大型も居ないなら俺の敵ではない。
すれ違い様に短剣を振るい、人型のノイズを消し飛ばす。
地上のノイズを一掃しながらも、当然上空の警戒は怠らない。
何せ、この近くにはまだ住民が残されているのだ。不用意に放っておけば人命に関わってしまう。
再び投影。
魔力量を絞った長剣を同時に展開、射出する。
地味に疲れる厄介な戦い方だが、人が近くに居る以上は時間との戦いだ。
しかし、近接戦を繰り広げながら、空へも警戒を巡らせ続けるのはかなり骨が折れる。
「ふ……ッ!」
せめて鳥型か人型、どちらか片方だけ来てくれればやり易いんだが……いや、大型ノイズが現れないだけマシか。
アレが来てしまったら、正直、奏か翼に任せてしまいたくなるからなぁ。
「チッ、外した……!」
飛ばした剣の内、一本が目標とは違うノイズに当たり、形状をドリルへと変えた敵の接近を許してしまう。
もちろん、死ぬのもケガをするのも怖いので、さらっと莫耶を振るって撃退。
一度止めた足を再び進め、徹底的にムダを排除して敵を倒していく。
これなら、奏と翼の出番はないな。
な~んてフラグを立ててしまったからか、耳に付けていた小型のインカムから、オペレーターの声が届いた。
増援って、俺まだ第一波すら片付けてないんですけど……
だが、続く言葉に笑みを浮かべ、改めて目の前のノイズに視線をやる。
──遠くから、装者たちの歌声が聞こえてきた。
「ッ!」
だからオレは、ただ目の前の敵にのみ集中する。
翼の心地いいとすら思える歌に聞き入りながら、双剣を振って剣を飛ばす。
今ので全ての鳥型は倒した。残りは、僅かに残された人型のみ。
それらも、干将と莫耶によって切り伏せられていく。
そうしてこちら側のノイズを片付けると、取り残された人が居ないか確認し、歌が聞こえる方へと向かう。
「そりゃ終わってるか」
俺より強いしな、二人とも。
ぼそりと言って、丁度一曲歌い終えた奏と翼に合流する。
「奏、翼、お疲れ様」
「なんだ、早かったな。今から助けに行ってやろうと思ったのにさ」
「助けに行く気とか無かったクセに……
翼はケガとかないか?」
「ええ、平気よ。私も奏も、どこも異常は無いから安心して」
「律はイチイチそういうこと聞いてくるからなぁ。
"大丈夫か?"、"ケガとかしてないか?"、"何かあったらすぐに下がって休んでろよ"。
そんなん、もう聞き飽きたって」
うーむ、そんなに言った覚えは無いんだが……言ったっけ?
いや、何はともあれノイズは全て倒したんだ。そろそろ戻らせてもらおう。
「じゃあ悪いけど、俺はもう行かせてもらうわ」
「行くってどこに? せっかくだし、私たちとご飯でも」
「あ~、悪い! 先約があるから、また今度で頼む!」
「先約って何だよ?」
「んー、女の子とのデート、かな」
それだけ言うと、二人を残して待ち合わせ場所の公園へと向かう。
途中、人気のないところで纏っていた外套と、俺を"仮面の騎士様"と呼ばせる原因の仮面を破棄した。
当然ながら周囲に人は居ない。もしこんな姿を見られてしまえば面倒だ。
まあ、もう既に「ノイズを倒す謎の男」だのと言われているが、それもあまり広まっている訳ではない。
「弦十郎さん、処理とか大変だろうな……俺の存在、他の国に知られたらヤバそうだし」
今までノイズと戦う手段がロクに見付けられなかった中、突如として世界の敵とも呼べる存在を倒す男が現れたのだ。
控え目に言ってヤバイだろう。
シンフォギア装者たちは、歌を歌うために顔を覆ったりすることは出来ない。
しかし、俺は単に投影を使って剣を振るうだけだから、基本的に顔を隠すことに問題はなかった。
だからこそ、住民の避難が終わっていない中でも突っ込めた訳だが……流石に正体が知られるのはマズイな。
日本どうなってんすか? とか諸外国に聞かれたら、どうするんでしょ。知らない&関係ないの一点張りか?
……考えても仕方ない。今は待ち合わせに遅れないことだけを考えよう。
このあと、普通に遅れて響と未来にアイスを奢りました。
意外にも、未来がアイスを口に付けてて可愛かったです、はい。
小日向未来という少女は、立花兄妹のことをよく見ている。
だからだろう。
一緒に遊びに出掛けた律が、どこか疲れているように見えたのは。
「りっくん、もしかして疲れてる?」
「ん? いや、全然だけど? まあ夏休みだし、遊び回って疲れたってならあるかもな」
「……ウソ、吐いてない?」
「はは、まさか────ごめん。ウソ吐きたくないから、ノーコメントにさせて」
心配そうな表情で、律を見上げる。
最近の彼の様子は、どこかおかしかった。いつもは遅刻しない待ち合わせに遅れたり、響や自分を優先させず、どこか別の場所へ行ってしまったり。
もちろん、用事があるなら構わないのだ。常に自分たちに構って欲しい、なんて思ってしまうのも我がままだと分かっているから。
けれど、ときどき不安で堪らなくなるときがある。
律が疲れたような顔を覗かせるとき、問い掛けに生返事をしたとき──突然鳴り響いた通話に出たとき。
どこか、遠くへ行ってしまう。そんな気がして。
「その"ウソ"は、私にも話してくれないの?」
「……ああ。けど、それは未来だから話さない、話せないって訳じゃないんだ。
ちょっと色々あってさ……ごめん、話せるようになったら話すよ」
「そっか……話してはくれるんだ。なら許してあげる。
でも、響も心配しちゃうから、ちゃんとお兄ちゃんしててよ?」
それはもちろん、と律は笑う。
ようやく、いつもの彼の表情が見れた。
未来はきっと、そうして明るく、誰かのために笑みを浮かべる立花律のことが────
「じゃじゃーん! どうかな、この服?」
試着室の前で待っていた律と未来の前に、響がカーテンを勿体ぶって開けて登場した。
「おっ、良いんじゃないか? 未来もそう思うだろ?」
「うんうん。似合ってるよ、響。
……あれ? りっくん、普段ならこの辺で"ダメだ、スカートが短い"とか言い出さない?」
「いやいや、これ部屋着でしょ? これで出掛けないでしょ? いくらなんでもスカート短すぎるでしょう」
「りっくん、過保護すぎ……」
「もっと言ってもっと言って。お兄ちゃん、私が言わなきゃずっとこんな感じだし」
俺が間違ってるのか……?
そう疑問の言葉を漏らした律に、二人の少女が突っ込んだ。
実際、律は割と過保護なのだ。それは、響に対しても未来に対しても。
まあ、何だかんだ言っても、二人は全く嫌がってなどいないのだが。
むしろ、少し嬉しいとすら思っている。
「で、その服買うの? もし買うならメチャクチャ似合ってて可愛いし、上下プラス靴とアクセサリまで買うけど?」
「さ、流石に一式揃えてもらうのは、ちょっと……」
「シスコンだ。りっくん、とんでもないシスコンだ」
「いや、シスコンじゃないから。その証拠に、未来にも買ってあげるつもりだったぞ?
さっき、店頭に出てるワンピース見てただろ?」
「……見て、たんだ」
「? 違ったか? 未来の好みの感じだと思ったんだが……」
「ううん。ちょっと気になったから見てたのは本当だよ、ありがとね」
未来は、この雰囲気が嫌いじゃない。
昔からずっと続くこんなやり取りが、彼女は大好きなのだ。
隣には幼なじみの響が居て、自分たちを優しく見守ってくれる律が居て。
幸せだな、と思う。
いつか大人になっても、ずっと変わらず一緒に居たい。本当に、そう思う。
ノイズの発生率が異常だ、という話は当然ながら二課でも議題に上がった。
それもそうだろう。一週間に一回とかその程度だったノイズの出現が、ここ最近では二日に一回という頻度に変わっているのだから。
間隔が短くなった時期は、俺が二課に所属し始めた頃。
……いや、関係ないよね? 俺のせいじゃないよね? と会議の場で中々にびびっていたのが、どうしてか誰も俺に言及することはなかった。
まあ、自分で呼び出したノイズを自分から倒すなんて面倒なこと、普通はするはずもないか──そう思われることを見越していなければ。
なんて言われるんじゃないかと考えていたんだが、杞憂だったらしい。てっきり何かしら言われると思ってたんだけどなぁ。
「たしかにノイズは近年増えつつある。
だが俺たちが出来ることは、全力をもってノイズから人類を守り抜くことだけだ。
これからも、俺に力を貸してほしい」
弦十郎さん、流石組織のトップだけあるな。この場に集まった、技術者からオペレーターから装者まで、全員が弦十郎さんの話に聞き入っている。
訂正。奏だけは話半分、といった感じか。
「以上だ。翼と奏、律はこちらへ来てくれ」
実りの少なかった会議が終わると、俺たち三人だけが呼び出された。
いや、弦十郎さんの隣には了子さんも居るから、五人だな。
「なんだよ、旦那。今から三人で訓練場に行くんだけど?」
あの、その話ぼく聞いてないです。
これ終わったら帰るつもりだったんだけど……え? 帰れない?
「うむ。その前に少し大事な話があってな。
直接ノイズと戦っているお前たちに聞きたいんだが……何か、おかしな点はないか?」
「おかしな点?」
「ああ。例えば、背後から人間の意思を感じる、とか」
そう聞かれても、奏と翼に思い当たるところは無いらしい。
もちろん、最近の発生数がおかしいとは思っているんだろうが、そこから直接"誰かがノイズを操っている"とはいかないんだろう。
俺だって、ノイズを自在に操れる完全聖遺物──ソロモンの杖や、ノイズを出現させることのできる存在を知らなければ、思考はそこで止まっていたはずだ。
「律くんはどう? 思い当たること、何かないかしら?」
おまいう。
了子さんに笑って問い掛けられ、どう返したものか迷ってしまう。
この問の意味が分からない。まさか、試されてるのだろうか。
「そう、ですね……最近のノイズは、もしかしたら誰かに操られて動いてるのかもしれない、とは思ってます」
俺がそう口を開いた瞬間、了子さんの瞳が僅かに細められた。
いや怖いんですけど。
了子さんがどんな反応をしても、その真意が掴めないせいで酷く警戒してしまう。
「やはりそう感じるか……」
「律、どういうこと?」
「ああ、えっと……ノイズの発生頻度もおかしいし、最近俺の周辺にばっかり現れる、って思わないか?」
「……あ~」
そこで奏と翼も理解したらしい。
何より変なのはそこなのだ。以前までなら、ある程度不規則に発生していたノイズが、最近は俺の近くに現れ続けている。
……いや、誰がやってるかなんて分かってんだけどな。
「律の言葉通りだ。もしかしたらノイズを操っている者は、お前を狙っているかもしれん」
隣に黒幕が居るんだから、隣の人に聞いてくだせえよ。
「一応、常に警戒はしていてくれ」
「安心しなって、弦十郎の旦那。そもそも律ならノイズごときに負けやしないし、あたしらがちゃんと守ってやるからさ」
「ええ。もう律は私たちの大事な仲間ですから」
「……ありがとな、二人とも」
ちょっと泣きそうな気分だ。"ノイズごときに負けやしない"ってのだけ否定させてもらうけど。
油断したら死ぬっての。
「そうか……だが、くれぐれも慢心はするなよ」
そう言って、一先ずこの場は解散となった。
これから訓練が待ってるんだけどな。憂鬱でしょうがない。
「よし、今日はシミュレーターでも使うか。ノイズ無限発生モードにしようぜ」
……ちょっと泣きそうな気分だ。
何そのモード。せめて百とか二百にしてくれよ。そんな数、今まで出たことないだろうに。
が、シミュレーターの難易度には更なる上──EXモードがあったりする。大人が勢揃いかつ、翼と奏のシンフォギアがありえないレベルで改良されている、地獄の難易度だ。
一番どうにかしやすいのが緒川さんである。あの、素の身体能力で弦十郎さんに次ぎ、短刀一本で動きを止める影縫いなんて技が使える緒川さんである。普通に詰んでるわ。
「スコア競おうぜ。な、仮面の騎士様」
「あああああああ! 俺をその名前で呼ぶなっ!」
「? 仮面の騎士様、格好いいと思うけど?」
「格好いい訳ないだろ……その名前付けたやつ、絶対俺を殺す気だわ」
「ううん、絶対格好いいよ。律にピッタリだと思う」
防人の感性が謎過ぎる……
翼のことだから、きっと本気で言ってくれているんだろうが、全く何の慰めにもならない。それどころか、彼女の隣では奏が腹を抱えて笑っていた。
そもそも、仮面の方は良いとして、騎士様要素が無いんですけど……剣を使ってれば全員騎士なのか?
「槍持ってれば騎士認定なら、全員騎士様か……奏、騎士になる?」
「あたしは遠慮しとく。やっぱ律にこそ相応しいよ、うん」
そりゃ、奏も翼も素顔は晒せないし、顔は覆えないんだから名前なんていらないよな。付ける必要もない。もちろん俺もだけど。
というか、二人に付けるとしたら、○○の歌姫~とかって感じがする。
ありえない仮定だけど、案外面白そうだ。
未だに迷子になりかける程広い二課本部を歩きつつ、生産性が皆無な話題を続けていくと、唐突に警報が鳴り響いた。
同時に、緊急事態を知らせるオペレーターの声も。
『ノイズが現れた』、と。
「おいおい、二日連続かよ……行くぞ! 翼、律!」
「うん! 早くノイズを……!」
「了解! 俺が先に行く!」
返答し、走り出す。
素性が知られるとマズイ二人とは違い、俺は仮面さえあればすぐに出撃することは可能なのだ。
だから基本的に、どんな場所、どんな敵が相手だとしても、一番に戦闘を始めるのは俺で、装者二人は遅れることになる。
しかし、今回はそれすらも叶わないらしい。
二課本部を走っている中、弦十郎さんの声が耳につけたインカムへ届いた。
『律、聞こえているか?』
「聞こえてますけど……どうしました? もしかして敵に増援でも来ましたか?」
『いや、逆だ。味方が減った。
奏だが、今回の戦闘には参加させられない。連日の戦闘でLiNKERを使いすぎている。今回は、律と翼だけが頼りだ。
……いけるか?』
「当然です。
奏はゆっくり休ませてやってください。たぶん、今頃暴れてるでしょうけど」
侵入者を惑わせるための作りをしている二課本部から抜け出し、いつもの仮面と外套を投影する。
奏が来れないのは痛いが……最悪俺一人でも何とかなるだろう。
なるほど。連戦のデメリットは疲労の蓄積以上に、とんでもないものがあったワケダ。
シンフォギア自体、改良されているとは言っても、まだまだロックが大量に掛けられている状態だ。よく分からない不具合なんかも、もしかしたらあるかもしれない。
何はともあれ、奏にはゆっくり休んでもらおう。最もノイズを倒しているのも彼女なのだから。
高速で跳躍を繰り返していくと、ようやくノイズの群れと遭遇できた。
が、やはりノロノロと戦っている余裕はない。
既に街には悲鳴が響き、犠牲者が何人か出ている状況だ。
多少避難活動が始まって、住宅地から離れているとは言え、これでは翼の出撃は厳しいな。
「……ッ!」
ノイズの眼前に飛び降りつつ、投影した干将・莫耶で切り伏せ、逃げ遅れた人を一課の居る方へと誘導する。
"ありがとう"、か……もう何人か被害は出てるんだけどな……
嫌な考えだ。一度頭を振って、悲鳴が聞こえた方向へ走る。
道中、一体も逃さずノイズを殲滅。地上も空中もスッキリさせたところで、助けを求めた少女の元へ────ッ!? うそ、だろ……
一瞬だけ、動きが鈍ってしまう。
しかし、その躊躇した僅かな時間で俺の大切な人が死んでしまったら、本当に取り返しが付かなくなってしまう。
緒川さんに腕を引かれたときより早く、俺が出せる全開の速度で駆け抜ける。
限界を越えて、さらに加速。
小さな女の子を庇っている少女──小日向未来の前に降りたって、迫り来る鳥型に剣を振るう。
「の、ノイズが……」
チラリと背後を確認するも、未来に目立ったケガはない。
深く安堵すると同時、周囲のノイズが一斉にこちらへ向かってくるのを確認。
その数、およそ二十。
本来なら一度下がり、体勢を整える場面だ。が、いま俺の後ろには未来が居る。
どうしてこんな場所に居るのかは知らないが、巻き込んでしまったなら絶対に守り抜くだけだ。
「はあああッ!」
動けないハンデはあるものの、突っ込むノイズの動きはどれも単調。ただ真正面からバカ正直に飛び、形状を変えてやって来る。
それらを一体ずつ剣を振って倒し、一切未来と女の子に被害は出させない。
が。
「ッッ!」
背後から聞こえた悲鳴に意識を取られ、投影品に粗が出来てしまう。
絶対に壊れない、ノイズ相手なら砕けはしない、というイメージが揺らぐ。
双剣に、僅かながらヒビが入る。それはノイズを一体倒す度に広がり、大きくなっていく。
「ぐ、が……っ!」
敵を半分ほど撃ち落としたところで、干将と莫耶が音を立てて砕け散った。
当然だ。ロクに集中できず、剣技すら鈍っていたのだから。
けれど、絶対に未来は守り通す。もし守れないなら、俺が手に入れた力に意味なんてない。
「投影開始ッ」
「え……?」
もう一度、干将・莫耶を投影。
残った敵が再び突っ込んでくるのに合わせ、短剣をムダなく振るっていく。
精度は落ちている。
動きにも冴えがない。
だが、大切な人を守ろうとしている俺が、ノイズごときに負けるはずがない。
最後のノイズに双剣を重ねて当て、俺たちへ突っ込んできた敵を全て倒しきると、未来と小さな女の子へ向き直る。
頭には、もうその武器の設計図が出来上がっている。
不安そうな顔を覗かせる未来に、何の言葉も掛けられないのが気掛かりだが、これで諦めるしかない。
「投影完了」
この剣の能力は、持ち主の意思に沿って現れる炎。俺が望めば自在に形を変え、敵を呑み込むことも可能な剣だ。
が、今回の意図は攻撃のためのものではない。
鞘から抜かれた聖剣より、炎が未来と女の子を囲むように走って、二人に決して近付かせない結界を作り上げる。
「これで、もう大丈夫。
あと少し、自衛隊の人たちが来るまで我慢して。ノイズは君たちに触れさせないから」
仮面の奥からくぐもった声を上げ、ロクに未来の顔も見ずに反転し、飛び上がろうとして──
「り、りっくん……?」
──足を、止めてしまった。
きっと、今の僅かな躊躇いで気付かれてしまっただろう。
だが、それでも振り向かずに走り出し、弦十郎さんへ連絡を飛ばす。
「弦十郎さん、聞こえてますか?」
『ああ、どうかしたか?』
「さっきまで俺が留まって戦っていた場所に、女の子が二人取り残されています。
ノイズ対策はしておきましたが、小さい女の子の方は足をケガしているようなので、早めに救助をお願いします」
『当然、もう既に向かわせてあるさ。律はこちらを気にせず、ノイズとの戦闘に集中してくれ。
お前の友達は、俺たちが守ってやる』
「……すみません。部隊が着いたら連絡をください。こちらで結界を解除しますから」
『気を付けろよ。翼もすぐに向かわせる』
通信はすぐに切れた。
あまり追及してこなかったのは素直にありがたい。もしかしたら、俺の声から何かしら気付いたのかもしれない。
しっかし、最悪だ……
巻き込みたくなかったんだけどなぁ……こんな危ないことしてるなんて、知られたくなかった。知られるくらいならウソ吐きでも良かったのに。
双剣を構えながら、全く集中できないままにノイズへと突っ込んでいく。
背後に居る未来の姿はもう見えない。
見えなくても良い。むしろ、見ないで欲しいとも思う。
未来を助けるための時間で、街の人間を何人か……何十人か見捨ててしまったのだ。
それを、知られたくなかった。
────「り、りっくん……?」
あのとき、不安そうに俺の名を呼んだ彼女は、俺のことをどう思っているだろうか。
響が関わっていないのが救い、だな……
その後、ノイズを倒す俺の動きに、いつもの切れはまったく無かった。
弦十郎さんにも注意を受け、それと……了子さんにも、"戦闘中は他のことに気を取られず、ちゃんと集中すること"、なんて言われてしまった。
でないと死ぬわよ、とも。
シンフォギアのソシャゲで、風鳴弦十郎が好む映画によって得意分野が変わってるらしく、ワクワクしてます。
司令を育てる育成ゲームとか出ませんかねぇ。
一緒にアクション映画見まくった脳筋な風鳴弦十郎、ミステリー映画を好んでより知恵をつけた風鳴弦十郎etc.
たぶん、どうぶつの森とか牧場物語みたいな、ほのぼの系だと思うんですよ。